はじめに【理学療法とはなにか#000】
はじめに
理学療法とは何か
理学療法という言葉は、世の中ではまだ十分に知られているとは言えません。多くの人にとっては、「リハビリ」という言葉の方が先に浮かぶはずです。病気やけがのあとに体を動かすこと、歩く練習をすること、筋力をつけること。そうしたイメージは、もちろん間違いではありません。ただ、それだけでは理学療法の輪郭は見えてきません。
この連載で書きたいのは、理学療法概論の教科書をそのまま一般向けに言い換えた説明ではありません。そうではなく、理学療法とはいったい何を見て、何を変えようとしている仕事なのかを、できるだけ平易な言葉で、しかし浅くならないように順番に考えていくことです。
理学療法は、単に体を動かす仕事ではありません。運動を用いて基本動作を治療し、その結果として生活の広がりを取り戻していく仕事です。寝返ること、起き上がること、座ること、立つこと、歩くこと。そうした基本動作は、あまりに当たり前すぎて、普段は意識されません。しかし、それが崩れると、人の生活は急に狭くなります。ベッドの上だけの世界になり、部屋の中だけの世界になり、やがて外へ出ることも難しくなります。逆に言えば、基本動作が変われば、人の生活空間は広がっていきます。
この連載では、まず理学療法を外側から見ます。次に、理学療法士が何を見て、どう考えているのかを見ます。そのうえで、実際にどのような治療が行われ、理学療法がどのように生活や社会とつながっているのかを考えていきます。病院の中だけでなく、地域、高齢社会、予防、仕事、メンタルヘルス、教育、そして世界との比較にも少しずつ広げていく予定です。
ただし、最初からすべてを一度に説明するつもりはありません。広い話を一気にやると、たいてい失敗します。この連載は、6本で1シーズンという単位で進めます。ひとつのシーズンでひとつのまとまりを作り、それを積み重ねていきます。大きな話を、小さく分けて、しかし全体のつながりは失わない。そのやり方で進めたいと思います。
理学療法士の人には、自分たちの仕事を外から見直すきっかけとして読んでもらえたらと思います。一般の人には、「理学療法士は何をしているのか」が少しでも具体的に見える入口になればうれしいです。
予定としては週に3回(2週間で1シーズン)、記事をアップしていきます。
以下は目次の構想です。多少変更する可能性はありますが、以下のような内容を通して、理学療法について深めていこうと考えています。
総目次
理学療法とは何か 総目次
Set 1 入口としての理学療法
Season 1 誤解をほどく
理学療法を外側から見ながら、世間の誤解をほどき、仕事の輪郭を描く。
#001 理学療法は何をする仕事か
#002 リハビリと理学療法は同じではない
#003 なぜ理学療法士は動き方を見るのか
#004 基本動作とは何か
#005 治療としての運動とは何か
#006 理学療法は生活をどう変えるのか
Season 2 見立てを知る
理学療法士が患者を前にして何を見て、どう考えているのかをたどる。
#007 理学療法士は最初に何を見ているのか
#008 歩きにくさには理由がある
#009 関節、筋、呼吸、循環をどう読むか
#010 痛みがあるとき、何が起きているのか
#011 なぜ同じ運動でも人によって違うのか
#012 評価とは、測ることではなく見立てること
Season 3 作戦を立てる
見立てから治療へ、理学療法がどう組み立てられていくかを見る。
#013 理学療法の目標はどう決まるのか
#014 除去、刺激、誘導、補助、情報という治療原則
#015 なぜ反復だけでは足りないのか
#016 家でできることまで含めて治療である
#017 治療がうまくいく人、いかない人
#018 理学療法はどこまで変えられるのか
Set 2 高齢社会と地域生活
Season 4 フレイルと転倒
#019 年をとると何が失われるのか
#020 転ばないことは、なぜそんなに大事なのか
#021 筋力低下だけでは説明できない衰え
#022 歩けることと暮らせることの違い
#023 フレイル予防は理学療法の仕事か
#024 高齢社会の中で理学療法は何を支えるのか
Season 5 在宅・家族・地域
#025 在宅で理学療法は何をするのか
#026 家族を見ることも治療の一部である
#027 住宅環境はなぜ重要なのか
#028 地域で暮らし続けるための理学療法
#029 通院できない人に何が起きるのか
#030 病院の外に広がる理学療法
Season 6 多疾患併存・認知症・終末期
#031 病気が一つではない時代の理学療法
#032 認知症の人に理学療法は必要か
#033 終末期に理学療法は何をするのか
#034 治すことと穏やかに過ごすこと
#035 動くことの意味が変わるとき
#036 長寿社会における理学療法の責任
ここまで36回で何を述べてきたのか【理学療法とは何か・特別編】
Set 3 痛みと運動器
Season 7 腰・肩・膝
#037 腰痛はなぜこんなに多いのか
#038 肩が上がらないと何が困るのか
#039 膝が悪いと生活はどう狭くなるのか
#040 画像だけではわからないこと
#041 痛みと動きの関係をどう考えるか
#042 運動器理学療法の基本発想
Season 8 手術前後と再建
#043 手術の前から理学療法は始まっている
#044 術後の理学療法は何を見て進めるのか
#045 痛み、腫れ、可動域、筋力をどう整理するか
#046 再建とは何を取り戻すことなのか
#047 順調な回復とそうでない回復
#048 整形外科と理学療法の関係
Season 9 再発予防と自己管理
#049 治った後に戻らないために
#050 自己管理は根性論ではない
#051 習慣が身体を変える
#052 フォームの問題なのか生活の問題なのか
#053 再発を防ぐ理学療法
#054 痛みと付き合うとはどういうことか
Set 4 脳・神経・内部障害
Season 10 脳卒中と生活再建
#055 脳卒中の後、身体に何が起きるのか
#056 麻痺だけでは説明できない困難
#057 立つ、座る、歩くをどう取り戻すか
#058 生活再建としての理学療法
#059 家に帰るまでと帰ってから
#060 脳卒中理学療法の要点
Season 11 心臓・呼吸・がん
#061 息切れをみる理学療法士
#062 心臓の病気と運動は矛盾しない
#063 呼吸リハビリは何を変えるのか
#064 がんと理学療法
#065 体力低下をどう防ぐか
#066 内部障害理学療法の社会的意味
Season 12 神経難病・バランス・持久性
#067 進行する病気と理学療法
#068 バランスが崩れるとはどういうことか
#069 疲れやすさと持久性の問題
#070 良くならないときの治療
#071 失われる機能と残せる生活
#072 神経系理学療法の難しさと価値
Set 5 予防・働く・育つ
Season 13 身体活動と健康づくり
#073 理学療法は病気の後だけのものではない
#074 身体活動が不足すると何が起きるのか
#075 運動習慣はどう作るのか
#076 予防のための理学療法
#077 健康づくりと専門職の違い
#078 理学療法は社会の何を守っているのか
Season 14 仕事・復職・産業保健
#079 働く身体をどう守るか
#080 腰痛と仕事の関係
#081 復職に理学療法はどう関わるか
#082 産業理学療法という視点
#083 長く働ける身体とは何か
#084 仕事と生活のあいだの理学療法
Season 15 子ども・発達・学校
#085 子どもの理学療法とは何か
#086 発達をどう見るのか
#087 学校生活と身体の問題
#088 親への働きかけも治療の一部か
#089 育つ身体に関わる仕事
#090 小児理学療法の社会的意味
Set 6 心・教育・世界
Season 16 メンタルヘルスと身体
#091 心の問題に理学療法は関係するのか
#092 身体から心に近づくとはどういうことか
#093 不安、抑うつ、痛み、活動低下の連関
#094 精神科と理学療法
#095 こころとからだを分けすぎた社会
#096 メンタルヘルス理学療法の可能性
Season 17 理学療法教育と専門職形成
#097 理学療法士は何を学んでいるのか
#098 養成校で教えるべきことは何か
#099 技術だけでは専門職になれない
#100 推論する理学療法士をどう育てるか
#101 教育の質が臨床を変える
#102 理学療法教育のこれから
Season 18 世界比較・制度・未来
#103 世界の理学療法は何が違うのか
#104 日本の理学療法の特徴とは何か
#105 職域はどこまで広がるのか
#106 流派は何を生み、何を縛るのか
#107 AIとデジタルは理学療法をどう変えるか
#108 理学療法とは何だったのか
