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基本動作とは何か【理学療法とは何か #004】

「理学療法士はADLをみる仕事ですか」

こう聞かれたら、私は少し言い直したくなります。もちろん、理学療法士は日常生活の問題に関わります。食事、更衣、入浴、トイレ、家事、仕事、外出がそれです。そうした生活の営みと無関係ではありません。ただ、理学療法士が最も専門としているのは、ADLそのものというより、その土台にある基本動作です。

この二つは、近いようで同じではありません。

ADLとは、日常生活活動のことです。食べる、着替える、入浴する、トイレに行くといった、生活のまとまりのある行為を指します。一方で基本動作とは、寝返る、起き上がる、座る、立ち上がる、立つ、歩く、移るといった、もっと土台の側にある動きです。理学療法士は、この基本動作を専門としていると考える方が自然です。

なぜなら、基本動作は、生活のもっとも下の層にあるからです。

毎日の生活の中で、食事を抜くことはあるかもしれません。入浴しない日もあるかもしれません。着替えないまま過ごす日もあるでしょう。けれども、基本動作をまったく行わずに生きることはできません。少なくとも身体の位置を変え、重心を移し、どこかへ移動しなければ、生活は成り立ちません。基本動作とは、生活の選択肢の一つではなく、生きている限りほとんど確実に使う動きなのです。

ここに、理学療法が基本動作を重視する理由があります。

理学療法は、運動という生体力学的な単位から人間の身体をみる仕事です。関節がどう動くのか、筋がどう力を出すのか、姿勢がどう保たれるのか、重心がどこへ移るのか。そうした運動の連なりとして、動作が成り立っています。運動が一つ下の層にあり、その次の段階に動作があり、その先にADLや社会参加がある。理学療法士は、この連続の中で、とくに運動と動作のつながりを専門にみています。

だから、生活全体をいきなりつかもうとはしません。まず、生活を支えている足場としての基本動作をみます。

たとえば、理学療法士がよくみるのは、座位から立ち上がり、そして歩行へとつながる流れです。この連続は、ただの動きの並びではありません。重心を安定させ、前に移し、上に持ち上げ、さらに前方へ運び続けるという、一連の身体操作です。座っていられること、立ち上がれること、歩けること。この三つがつながることで、人はベッドから離れ、部屋の中を動き、外へ出ることができます。

以前、「ベッドから部屋へ、部屋から外へ」と書きました。基本動作とは、まさにこの世界の広がりを支える入口です。手の届く範囲だけで生きるのか、部屋の中まで行けるのか、家の外まで行けるのか。その差を生むのは、壮大な理想ではなく、まずは寝返り、起き上がり、立ち上がり、歩行といった基本動作です。

だから、基本動作が崩れるということは、単に少し不便になるという話ではありません。移動が妨げられ、生活が狭くなります。外に出る機会が減り、人に会うことが減り、自分でできることが減ります。その結果、意欲が落ちることもあります。筋力や体力だけでなく、心まで弱っていくことがあります。これは高齢者だけの問題ではありません。若い人でも、病気やけがのあとに基本動作が崩れれば、生活は急に不自由になります。

理学療法士は、その崩れをどうみているのでしょうか。

ここでも、見るのは単なる結果ではありません。立ち上がれない、歩けないという事実だけで終わらせず、どの関節運動がうまくいっていないのか、どこで重心移動が止まっているのかをまず観察します。これは目の前に現れている現象です。そして、その背景にある機序を考えます。筋力の問題なのか、神経の制御の問題なのか、痛みなのか、感覚なのか、呼吸循環の余裕のなさなのか。理学療法士は、生体力学的に見える動きと、生理学的に推測される仕組みの両方を行き来しながら、基本動作の問題を理解しようとします。

ここで大事なのは、理学療法士が基本動作を単独で切り取っているわけではないということです。基本動作は、それ自体が目的であると同時に、その先の生活につながる土台でもあります。たとえば、立ち上がれない人は、トイレにも行きにくくなります。歩けない人は、食卓にも行きにくくなります。移乗が難しい人は、ベッドから車椅子へ移ることも難しくなります。つまり、ADLの困難の多くは、その下にある基本動作の問題として読み直すことができます。

この意味で、ADLと基本動作は切り離されていません。ただ、階層が違います。ADLは生活のまとまりとしての行為であり、基本動作はその足場です。理学療法士は、その足場にもっとも強く関わる専門職です。

少し極端に言えば、基本動作とは、毎日の生活の中で確実に行う動きです。だからこそ、それができないことの大変さは大きい。食べることや入浴することの大切さは多くの人が想像できますが、寝返れない、起き上がれない、立ち上がれない、歩けないということがどれほど生活を縮めるかは、実際にはあまり想像されていません。理学療法士は、その縮小した世界をもう一度広げるために、基本動作を扱っています。

では、その基本動作を変えるために、理学療法士は何をしているのでしょうか。立ち上がれるようにする、歩けるようにするとは、具体的にはどういうことなのでしょうか。

次回は、「治療としての運動とは何か」を考えます。理学療法士は、基本動作ができるようになるために、どのように身体を誘導し、変化を引き出しているのか。その手段の側に入っていきます。

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