フレイル予防は理学療法の仕事か【理学療法とは何か #023】
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フレイル予防は、理学療法士の仕事なのでしょうか。
この問いは、簡単そうに見えて、実はかなり難しい問いです。理学療法は、病気やけがの後に行うものだと思われがちです。骨折した後に歩く練習をすることです。脳卒中の後に立ち上がりや歩行を取り戻すことです。手術後に関節の動きや筋力を回復させることです。
その理解は間違いではありません。しかし、それだけでは現代の理学療法を十分には説明できません。長寿社会では、病気やけがが起きてから関わるだけでは遅い場面が増えています。病気になる前、転ぶ前、入院する前、生活が狭くなる前に、身体の予備力をどう守るのかが問われています。
ここで出てくるのが、フレイルという考え方です。
フレイルは、日本老年医学会が提唱した用語であり、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す言葉です。フレイルは要介護状態に至る前段階として位置づけられますが、身体的な弱さだけではなく、精神・心理的な弱さや社会的な弱さも含む多面的な状態として理解されています。(jssf.umin.jp)
一般向けに言えば、フレイルとは「生活の予備力が落ちている状態」です。元気なときには、少し疲れても戻れます。少し体調を崩しても戻れます。少し外出が減っても、また動けます。しかし、予備力が落ちてくると、ちょっとした病気、転倒、入院、食欲低下、孤立がきっかけになって、一気に生活機能が下がります。戻る力が弱くなるのです。
この意味で、フレイルは単なる「虚弱」ではありません。虚弱という言葉には、すでに弱くなってしまった印象があります。しかしフレイルには、まだ戻れる可能性が含まれています。健康と要介護のあいだで揺れている状態であり、早く気づいて働きかければ、悪化を防げる可能性がある状態です。健康長寿ネットも、フレイルは早期介入により健常な状態へ戻る可能性があると説明しています。(長寿科学振興財団)
では、フレイル予防は理学療法の仕事なのでしょうか。
私は、理学療法士が必ず関わるべき領域だと考えます。ただし、理学療法士だけで完結する仕事ではありません。ここを間違えると、専門性がぼやけます。
フレイルには、栄養の問題が深く関わります。低栄養になれば、体重が減り、筋肉量が落ち、運動の効果も出にくくなります。口腔機能や食事の問題も関わります。認知機能や社会参加も関わります。厚生労働省の後期高齢者の質問票でも、健康状態、心の健康状態、食習慣、口腔機能、体重変化、運動・転倒、認知機能、社会参加、ソーシャルサポートなどが整理されています。(厚生労働省)
つまり、フレイルは理学療法だけの問題ではありません。医師、看護師、管理栄養士、歯科医師、歯科衛生士、薬剤師、介護職、地域包括支援センター、行政、家族、地域住民が関わる問題です。
それでも、理学療法士の役割は明確にあります。フレイルの中で、運動能力、動作能力、転倒リスク、活動量、歩行速度、立ち上がり能力、筋力、バランスを評価し、必要な運動を設計することです。理学療法士は、フレイルを単なる状態として眺めるのではなく、その人がどのように動きにくくなっているのかを見ます。
ここで、サルコペニアとの関係も整理しておく必要があります。サルコペニアは、筋量、筋力、身体機能の低下に関わる概念です。AWGS 2019では、低筋力、低身体機能、低骨格筋量を組み合わせて評価する考え方が示されており、握力、歩行速度、5回椅子立ち上がりテスト、骨格筋量などが用いられます。(PubMed)
ここで重要なのは、筋肉量だけを見ればよいわけではないということです。筋肉量が少ないかどうかを見ます。筋力が落ちているかを見ます。歩行速度や立ち上がり能力が落ちているかを見ます。つまり、体組成と運動能力の両方を見る必要があります。これは、理学療法士が得意とすべき領域です。
理学療法士がフレイル予防に関わるなら、まず的確に運動能力を測る必要があります。歩行速度、片脚立位時間、TUG、5回椅子立ち上がりテスト、握力、活動量、転倒歴などを見ます。さらに、体組成や筋肉量、栄養状態にも目を向ける必要があります。理学療法士が栄養を単独で判断するわけではありませんが、運動効果が出にくい背景として低栄養やサルコペニアを疑う視点は必要です。
そのうえで、理学療法士が行うべき中心は運動指導です。筋力トレーニング、バランス練習、歩行練習、立ち上がり練習、活動量の改善が基本になります。ただし、単に体操を紹介するだけでは不十分です。動きにくさがあるなら、その原因を評価し、よりよく動けるように動きを作る必要があります。膝が痛くて立ち上がりを避けている人には、膝に負担がかかりにくい動き方を見つける必要があります。息切れで外出を避けている人には、呼吸循環の状態を見ながら負荷を調整する必要があります。転倒が怖い人には、バランスと環境を見直す必要があります。
ここに、理学療法の専門性があります。
一方で、フレイル予防には制度上の難しさもあります。フレイルは重要な状態ですが、病名や外傷名のように、保険診療での理学療法の出発点になりにくい場面があります。制度や場面によって扱いは異なりますが、少なくとも一般的には、フレイルそのものが医療保険リハビリテーションの中心的な開始理由になるというより、予防、介護予防、地域支援、または入院時・外来時の阻害因子として扱われることが多いと考えます。
その意味で、フレイルは理学療法の対象でありながら、理学療法だけで制度化されにくい領域です。これは大きな課題です。
厚生労働省の地域リハビリテーション活動支援事業では、通いの場、地域ケア会議、サービス担当者会議などにリハビリテーション専門職が関わり、介護予防の取組を支援することが示されています。(厚生労働省) また、日本理学療法士協会も、地域ケア会議や介護予防、フレイル対策に関わる人材育成を進めていることを示しています。(日本PT協会)
したがって、フレイルは本来的には予防分野で扱うのが妥当です。地域や行政が介護予防を行う中に、理学療法士が専門チームの一人として参加する必要があります。理学療法士が一人ですべてを引き受けるのではなく、運動と動作の専門家として参加することが重要です。
ただし、現実の臨床では、入院した時点ですでにフレイルな状態になっている人を多く見ます。骨折で入院した人、肺炎で入院した人、心不全で入院した人が、もともと低栄養で、筋力が落ち、歩行速度が遅く、外出頻度が少なくなっていたということがあります。この場合、フレイルは理学療法の主病名ではなくても、回復を遅らせる大きな阻害因子になります。
フレイルな状態で病気やけがに進むと、回復が遅くなります。運動耐容能が低くなります。疲労しやすくなります。転倒しやすくなります。入院による安静の影響も強く受けます。したがって、理学療法士は、病気やけがの治療に入る前提として、フレイルの視点を持っておく必要があります。
特に転倒との関係は重要です。フレイルな人は、筋力、バランス、歩行速度、反応性が低下しやすくなります。転倒すれば骨折につながり、入院し、さらに活動量が落ちます。前回までに書いてきたように、転倒は一度の事故ではなく、その後の生活を変える出来事になることがあります。フレイル予防は、転倒予防でもあります。
ここで、理学療法士が担うべき範囲を整理しておきます。栄養の詳細な管理は管理栄養士の専門性が大きいです。病態の診断と医学的管理は医師の役割です。口腔機能は歯科領域の役割が大きいです。生活支援や介護サービスは介護職やケアマネジャーの役割が大きいです。家族や地域が支える部分もあります。
理学療法士は、その中で、運動能力と動作能力の専門家として関わります。歩行速度が落ちているのかです。立ち上がりが遅くなっているのかです。片脚立位が短くなっているのかです。疲れやすくなっているのかです。外出頻度が落ちているのかです。それを評価し、運動と生活活動量をどう改善するかを考えます。
フレイルを病気として扱うのか、身体の状態として扱うのかで考え方は変わります。病気として扱えば、診断と治療の枠組みが前に出ます。身体の状態として扱えば、予防、生活、活動量、地域支援が前に出ます。どちらにしても、フレイルの状態は理学療法の進みを遅くしますし、理学療法士が十分に理解しておかなければならない知識です。
フレイルの視点を持つことは、理学療法士の必要条件です。
なぜなら、現代の高齢社会は、単一の疾患だけを見ていればよい時代ではなくなっているからです。複数の病気を持ち、低栄養やサルコペニアがあり、認知機能や社会参加にも問題があり、そのうえで骨折や心不全や肺炎を起こす人が増えています。マルチモビディティは、理学療法士の仕事をさらに難しくしていきます。
だからこそ、次回は「高齢社会の中で理学療法は何を支えるのか」を考えます。フレイル予防を考えることは、理学療法士が何をできるのかを根本的に考えるきっかけになります。高齢社会の中で、理学療法は身体だけを見ているのか、それとも生活の予備力を支えているのかを考えていきます。
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