在宅で理学療法は何をするのか【理学療法とは何か #025】
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在宅で理学療法士は何をするのでしょうか。
この問いに対して、「家で体操を教えることです」、あるいは「訪問して歩く練習をすることです」と答えることはできます。実際に、在宅では運動指導も行います。歩行練習も行います。立ち上がりや移乗の練習も行います。
しかし、それだけでは在宅での理学療法は説明できません。
病院で行う理学療法と、在宅で行う理学療法は、同じ理学療法でありながら、かなり意味が変わります。病院では、病気やけがの診断名があり、医師の処方があり、治療計画があり、退院という一つの区切りがあります。理学療法士は、その限られた期間の中で、身体機能や基本動作をできるだけ改善し、自宅復帰や社会復帰へ向けて関わります。
一方で、在宅では、医療よりも生活に近づきます。多くの場合、介護保険や訪問看護、訪問リハビリテーションの枠組みの中で関わります。そこでは、診断名だけでなく、介護度、生活状況、家族の支援力、住環境、本人の希望が大きく関係します。病院での「歩く」は治療としての意味が強くなりますが、在宅での「歩く」は生活のための意味が強くなります。
ここに、在宅理学療法の難しさがあります。
在宅で理学療法を行うということは、医療と福祉の境界線の上に立つことです。そして、相手の住処に上がり、その人の生活を受け取ることです。病院では、患者さんが医療の場に来ます。しかし在宅では、理学療法士が利用者の生活の場に入ります。この違いは非常に大きいです。
病院では、ベッドの高さも調整できます。歩く場所も整っています。平坦な廊下があります。手すりがあります。人が近くにいます。何かあれば、すぐに看護師や医師に相談できます。転倒しそうになっても、近くで支えられることがあります。
在宅ではそうはいきません。家の廊下は狭いことがあります。段差があります。手すりがないことがあります。家具の配置も家によって違います。トイレの位置も違います。浴室の広さも違います。夜の暗さも違います。何かあったときに、その場で対処しなければならないこともあります。理学療法士が一人で訪問している場面では、病院のようにすぐに多職種が集まるわけではありません。
つまり、在宅では、設備も環境も毎回違います。行く家によって、理学療法の条件がすべて変わります。そこでは、よりオーダーメードの意識が必要になります。
在宅でまず見るべきことは、生活においてその人が最も必要としている動作は何かです。
トイレへ行くことかもしれません。ベッドから起き上がることかもしれません。玄関まで移動することかもしれません。食卓まで歩くことかもしれません。浴室に入ることかもしれません。家の中で転ばずに移動することかもしれません。病院では、「退院までにどこまで改善するか」という視点が中心になります。しかし在宅では、「この家で、これからどう暮らし続けるか」という視点が中心になります。
その期間も違います。病院の理学療法では、長くても数か月という時間感覚で考えることが多いです。しかし在宅では、人によっては数年、場合によっては十年単位で関わることがあります。身体機能が改善していく人もいれば、維持が中心になる人もいます。少しずつ悪くなっていく病気の人もいます。在宅では、短期的な改善だけではなく、長期的な生活の変化を見なければなりません。
たとえば、小脳性の難病によって、少しずつ身体機能が奪われていく人がいます。立つことが不安定になります。歩くとふらつきます。転倒の危険が高くなります。手の動きも不器用になります。病気そのものを理学療法で取り除くことはできません。それでも、理学療法士にできることはあります。
いま安全に歩ける距離を確認します。どこでふらつくのかを見ます。杖や歩行器が必要かを考えます。トイレまでの動線を見ます。ベッドの高さを調整します。転倒しやすい場所を確認します。家族に見守り方を伝えます。できる動作を保ち、危ない動作を減らし、生活が崩れないように支えます。
私自身も、長く在宅で関わった人がいます。小脳性の難病で、少しずつ身体機能が奪われていく人でした。私はその方を十一年間、亡くなるまで支援しました。在宅で関わるということは、こういう時間を引き受けることでもあります。数週間で良くなったかどうかだけではなく、その人がどのように暮らし続け、どのように身体の変化と付き合っていくのかを見続けることです。
在宅では、「できる動作」、と「実際にしている動作」がずれることがあります。
病院では、理学療法士が横についていれば歩けるかもしれません。リハビリ室では立ち上がれるかもしれません。平坦な廊下なら歩けるかもしれません。しかし、自宅ではしないことがあります。怖いからしないことがあります。転んだときに誰も助けてくれないから避けることがあります。家族が心配して手伝いすぎるために、自分ではしなくなることもあります。環境が合わないために、能力としてはできても生活では使えないこともあります。
一人暮らしの場合、この問題はさらに大きくなります。在宅で転倒すると、すぐには誰も助けてくれないことがあります。ヘルパーや家族の来訪を待つしかないこともあります。そのため、「できそうだからやってみましょう」という考え方を、簡単には進められない場合があります。病院の治療場面では、少し挑戦することが重要になることがあります。しかし在宅では、その挑戦が生活上の重大なリスクになることがあります。
ここが、病院理学療法と在宅理学療法の大きな違いです。
在宅では、安全と自立のバランスをとる必要があります。何でも介助すればよいわけではありません。しかし、何でも自分でやってもらえばよいわけでもありません。本人ができること、していること、してよいこと、今は避けるべきことを見分ける必要があります。
在宅での理学療法では、運動療法だけでなく環境調整も重要になります。手すりの位置を考えることがあります。ベッドの高さを確認することがあります。椅子の高さを変えることがあります。トイレの動作を見直すことがあります。浴室の危険を確認することがあります。杖や歩行器の使い方を調整することがあります。家具の配置を少し変えるだけで、安全性が上がることもあります。
ただし、在宅では「理学療法」という名前が、少し見えにくくなることもあります。訪問看護ステーションから理学療法士が訪問する場合もあります。訪問リハビリテーションとして関わる場合もあります。介護保険サービスの一部として関わる場合もあります。そのため、病院のように「理学療法」という専門性が前面に出るというより、利用者の生活ニーズに合わせたリハビリテーション支援として見られることがあります。
ここで大切なのは、専門性を捨てることではありません。専門性を生活の中に埋め込むことです。膝関節の伸展筋力を評価することも重要です。バランスを評価することも重要です。歩行能力を評価することも重要です。しかし、それをそのまま専門用語として押し出すのではなく、「この家で安全にトイレへ行けるか」、「食卓まで歩けるか」、「転ばずに玄関を出られるか」という生活の形に変換する必要があります。
家族との関係も非常に重要です。
在宅では、本人だけを見ていればよいわけではありません。家族ぐるみで支援を考える必要があります。家族は最も身近な支援者です。しかし同時に、家族も疲れます。不安になります。過剰に手伝いすぎることがあります。逆に、どこまで手伝えばよいかわからず困っていることもあります。
老老介護の状態では、家族もまた支援を必要としています。利用者本人だけでなく、介護している家族の話を聞くことが重要です。無理をしていないか、夜に眠れているか、介助で腰を痛めていないか、不安を抱え込みすぎていないかを見ます。理学療法士は、本人の身体だけではなく、家族が支え続けられるかどうかにも目を向ける必要があります。
在宅での理学療法士は、家族に対して、どこまで本人に任せてよいのかを伝えます。どこからは手伝った方がよいのかを伝えます。転倒しやすい場面を伝えます。介助の仕方を伝えます。本人ができることを奪わないようにしながら、危険な場面では支える方法を一緒に考えます。
在宅の理学療法は、病院のように心身機能の改善から生活機能を向上させるという単純な流れだけでは説明できません。もちろん、身体機能の改善は大切です。しかし在宅では、それ以上に、長く自宅で暮らしてもらうための支援が中心になります。
長く自宅で暮らすということは、ただ家にいるということではありません。自分の布団で眠ることです。自分のトイレへ行くことです。慣れた台所や食卓の近くで過ごすことです。家族や近所との関係の中で生きることです。病院では見えにくい生活の細部が、在宅ではそのまま理学療法の対象になります。
在宅で理学療法士がしていることは、家で運動を教えることだけではありません。
その人の生活空間の中で、動ける可能性を作ることです。
そして、長く自宅で暮らしてもらうための支援を、身体の視点から行うことです。
次回は、「家族を見ることも治療の一部である」を考えます。在宅では、本人の身体だけでは生活を支えきれません。家族の不安、介助量、見守り方、生活リズムが、本人の動きに大きく影響します。理学療法士は、本人だけでなく、家族と共に支援します。ときには、その家族の仲間になることも必要になります。
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