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高齢社会の中で理学療法は何を支えるのか【理学療法とは何か #024】


この連載は、6本を1シーズンとして進めています。
全体の流れを確認したい方は、以下の目次をご覧ください。

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高齢社会の中で、理学療法は何を支えているのでしょうか。

この問いに対して、「筋トレです」、「転倒予防体操です」、「歩く練習です」と答えることはできます。実際、高齢者の理学療法では、筋力トレーニングも行います。転倒予防も重要です。歩行練習も欠かせません。

しかし、それだけでは理学療法の役割を十分には説明できません。理学療法士は、単に筋肉を鍛えているわけではありません。歩く練習だけをしているわけでもありません。高齢者が自宅へ戻り、日常生活を続け、できるだけ長く自分の身体を使って生きていくために、身体の自立と生活の可能性を支えています。

まず、理学療法士は、外来や入院患者の自宅復帰に向けて、基本動作を支援する代表的な職業です。寝返る、起き上がる、座る、立ち上がる、移る、歩くといった基本動作を見ます。その手段として、主に運動療法を担っています。

ただし、ここでいう運動療法は、単なる筋トレではありません。運動によって筋肉の働きを高めます。呼吸の効率を高めます。心臓や循環器の負荷に耐えられる身体を作ります。単純にスクワットをしているように見えても、その背景では、筋力、持久性、心肺機能、バランス、生活動作の改善を見ています。理学療法士は、運動の中に生理学的な変化を見ています。

高齢社会における理学療法の大きな役割は、健康寿命の延伸です。もう少し具体的に言えば、健康状態を取り戻し、日常生活での活動レベルを高めることです。単に長く生きるだけではなく、できるだけ長く動けること、暮らせること、自分で選べることを支えることです。

Season 4では、「年をとると何が失われるのか」、「転ばないことはなぜ大事なのか」、「筋力低下だけでは説明できない衰え」、「歩けることと暮らせることの違い」、「フレイル予防は理学療法の仕事か」を考えてきました。これらを一つに束ねるなら、中核にあるのは、身体の自立によって未来の選択肢を広げることです。

高齢者の身体では、さまざまな機能が少しずつ変化します。筋力が落ちます。疲れやすくなります。回復が遅くなります。バランスが不安定になります。転倒への恐怖が強くなります。フレイルやサルコペニアが関わることもあります。さらに、心不全、呼吸器疾患、糖尿病、認知症、変形性関節症などが重なります。こうしたマルチモビディティの中で、「治す」とは何かを考えることは、非常に複雑になります。

だからこそ、高齢者の理学療法では、「支援」という言葉が前に出やすくなります。これは自然なことです。高齢者には、完全に治る部分と、治りにくい部分があります。改善できる機能と、代償や環境調整で支えるべき機能があります。薬や手術だけでは変えられない生活の問題があります。そのため、包括的な理解として支援が選ばれます。

ただし、ここで「治療」を手放してはいけません。私は、高齢者の理学療法は、治療を内包した支援だと考えています。支援という大きな円の中に、治療という円があります。治すことを追求することで、支えることは強くなります。関節の動きが少し改善することで、立ち上がりが安定します。筋力が少し高まることで、トイレ動作が楽になります。呼吸や循環の耐性が少し上がることで、外出が可能になります。小さな身体機能の改善が、生活の支援を強くします。

理学療法は、身体から生活へ、そして社会へ流していく仕事です。

身体のレベルでは、運動機能を見ます。筋力、関節可動域、バランス、持久性、呼吸循環、痛み、疲労を見ます。生活のレベルでは、立ち上がり、移乗、歩行、トイレ、入浴、食事、外出を見ます。社会のレベルでは、自宅復帰、介護予防、地域生活、家族負担、社会参加を見ます。

ただし、理学療法士の第一目的は、あくまで身体を持つ個人としての機能向上にあります。ICFでいう環境因子は整えるに越したことはありません。住宅環境、家族支援、地域資源、介護サービスはとても重要です。しかし、理学療法士が最も代替可能性の低い役割を持つのは、身体機能と基本動作を評価し、そこから生活の可能性を見立てる部分です。

高齢者では、この機能向上が難しいことが多くなります。若い人のようには回復しないことがあります。病気が一つではないことがあります。痛み、疲労、認知機能、低栄養、フレイルが重なります。そのため、身体機能だけで押し切ることはできません。周辺の支援が必要になります。

だからこそ、理学療法士は、医療チームや介護チームの中で、自分の見立てを明確に伝える必要があります。どこまで身体機能が改善しそうなのかです。どこから支援が必要なのかです。どの動作は自立できそうなのかです。どの場面では見守りや介助が必要なのかです。どの環境を整えれば、自宅生活が成立しやすくなるのかです。これを予後予測の観点から伝えることが重要です。

特に重要な生活場面は、トイレです。

トイレに行けることは、自宅生活の大きな基準になります。ベッドから起き上がれることです。立ち上がれることです。トイレまで移動できることです。ズボンの上げ下ろしができることです。方向転換ができることです。夜間でも安全に移動できることです。これらの動作が成立するかどうかは、自宅復帰や介護量に大きく関わります。

トイレ動作は、身体の自立と生活の尊厳が交差する場所です。歩けるかどうかだけでは足りません。安全に移動できるかどうかです。転倒せずに動けるかどうかです。疲れすぎずに繰り返せるかどうかです。必要な支援をどこまで受け入れるかも関係します。理学療法士は、ここで身体的な自立と支援の境界を見ます。

高齢者の理学療法では、「できるだけ長く自立すること」と、「必要な支援を受け入れること」の両方が重要です。自立を美化しすぎると、本人も家族も無理をします。支援を依存として見すぎると、必要な助けを受け入れられなくなります。理学療法士は、この二つを同一視せずに考える必要があります。

理学療法は、身体的な自立にウェイトを置きます。できることを増やすことです。できる動作を安全にすることです。自分で行える範囲を広げることです。そのうえで、医療チームや介護チームと協議し、どこに支援が必要かを伝えます。ここで重要なのは、支援を増やすことでも、支援を減らすことでもありません。その人の身体の予後に合った支援を考えることです。

高齢者は治りにくいです。この現実は、きれいごとで隠すべきではありません。しかし、治りにくいからこそ、治る部分とそうでない部分を切り分ける必要があります。少しでも改善できる動作はどこかです。安全のために支援すべき部分はどこかです。維持を目指すべき部分はどこかです。環境で補うべき部分はどこかです。

この切り分けを、理学療法士は身体の視点から主導する必要があります。そこに理学療法士のイニシアチブがあります。高齢者を「支援が必要な人」としてだけ見るのではなく、身体のどの部分が変わり、どの動作が変わり、どの生活が変わるのかを見ます。身体の専門家として、治療と支援の境界を見定めます。

高齢社会の中で理学療法が支えているものは、単なる筋力ではありません。単なる歩行能力でもありません。身体の自立を通して、未来の選択肢を支えています。自宅でトイレへ行けることです。転ばずに移動できることです。家族と食卓につけることです。外へ出る可能性を残すことです。必要な支援を受けながらも、自分の身体で生活に関われることです。

高齢者は治りにくいです。
だからこそ、治る部分とそうでない部分を、理学療法士が身体の視点で切り分ける必要があります。
その切り分けが、治療と支援をつなぎます。

次回からは、Season 5「在宅・家族・地域」に入ります。ここからは、身体が暮らす場所へ視点を移します。身体は病院の中だけにあるわけではありません。自宅で暮らし、家族と関わり、地域の中で移動しながら生きています。次のシーズンでは、その地域でどのように暮らすのかを考えていきます。

この連載の全体像と過去記事は、以下の目次から確認できます。


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