理学療法の目標はどう決まるのか【理学療法とは何か #013】
理学療法の目標は、どのように決まるのでしょうか。
一般には、「歩けるようになること」、「痛みをなくすこと」、「退院すること」といった言葉で理解されることが多いです。もちろん、それらは大切な目標です。しかし、理学療法士の立場から見ると、それだけではまだ粗い理解です。
理学療法の目標は、願望だけで決まるものではありません。また、専門職が一方的に決めるものでもありません。患者さんの主訴やニードを受け止めながら、評価と予後予測にもとづいて、どこまで変えられるのかを見定め、そのうえで治療・介入の方向を決めるものです。
私は、理学療法の目標とは、機能向上による活動能力の向上、参加の達成だと考えています。
ここで重要なのは、「機能向上」という言葉です。理学療法士は、基本動作を中心に見ます。歩けるようになるという目標があるとき、それは単に移動手段を確保するという意味だけではありません。歩行という動作を支えている運動機能をどう高めるのかという問題でもあります。代替的に歩ければよいという発想だけでは、理学療法の治療性は弱くなります。理想論に見えるかもしれませんが、機能向上を目指すという考えはぶらしてはいけません。
もちろん、すべての人が完全に元通りになるわけではありません。麻痺が残ることもありますし、痛みや変形が残ることもあります。年齢や病期、合併症、生活環境によって限界もあります。それでも理学療法士は、どの機能をどこまで変えられる可能性があるのかを見ます。そして、その機能の変化が、立つ、歩く、移るといった基本動作にどうつながるのかを考えます。さらに、その基本動作の変化が、活動能力や家庭復帰にどうつながるのかを見通します。
目標を決めるときに、最初に大切になるのは主訴とニードです。患者さんが何に困っているのか、何をできるようになりたいのかを確認することです。歩けるようになりたい、家に帰りたい、トイレに一人で行きたい、仕事に戻りたいという言葉には、その人の生活の方向が含まれています。理学療法士は、それを軽く扱ってはいけません。
しかし、主訴やニードだけで目標を決めることもできません。専門家として、予後予測にもとづいた現実可能性を提示する必要があります。今の身体機能、病気の状態、回復の時期、リスク、安全性を見たときに、どの目標は短期的に可能で、どの目標は時間がかかるのかを判断します。必要であれば、医師へ情報提供し、医学的な治療方針や予後とすり合わせることも重要です。
ここで、理学療法士の役割を整理しておく必要があります。医師は、病態診断を行い、病気の状況と医学的予後を踏まえて治療方針を決めます。理学療法士は、その医学的情報を前提に、基本動作やADLの状態を見て、生活機能の予後を見立てます。対立するのではなく、医学的予後と生活機能予後をつなぐことが必要です。そのために、理学療法士は自分が見た動作や機能の情報を、医師やチームへ正しく提供する必要があります。
目標には、短期目標と長期目標があります。短期目標は、今週、数日後、あるいは次の段階で達成したい目標です。たとえば、介助量を減らして立ち上がれるようにすることや、平行棒内で安全に歩けるようにすることです。長期目標は、その延長にある生活上の目標です。自宅内を歩けるようにすることや、家庭復帰後にトイレへ行けるようにすることです。
多くの場合、長期目標は短期目標の積み重ねとして考えます。いわば積み重ねの理論です。ただし、理学療法の目標設定は、単純に目の前の課題を一つずつ片づけるだけではありません。将棋の駒組みのように、数手先を見ながら今の一手を選ぶ必要があります。今日の立ち上がり練習が、数日後の歩行練習につながり、その先の家庭復帰につながるように組み立てる必要があります。
このシーズンでは、脳卒中を一つの基準として考えていきます。たとえば、脳卒中後に麻痺がある人が、歩行レベルを高め、家庭復帰を目指す場面です。このとき、目標は「歩けるようになること」だけでは不十分です。どの程度の介助で歩けるのか、どの場所を歩けるのか、家の中で必要な距離を歩けるのか、転倒リスクはどうか、家族の支援はあるのかを考えなければなりません。さらに、歩行の中でどの機能を改善すべきかを見なければなりません。
ここで、理学療法士は決めなければなりません。どの問題を優先するのか、どの目標を先に狙うのか、どの治療方法を選ぶのかを決めます。この「決める」という行為は、とても重要です。決め方が甘ければ、患者さんの未来を変えてしまう可能性があります。ある意味では賭けの要素もあります。しかし、だからこそ批判的に吟味したうえで決める必要があります。そして、間違っているとわかったら、すぐに変更する勇気も必要です。
理学療法の目標は、一度決めたら固定されるものではありません。評価をもとに決め、実行し、反応を見て、再評価し、必要であれば修正します。これが治療・介入の基本です。目標とは、ただの願いではなく、治療を進めるための基準線です。
評価と予後予測を基準線として、治療・介入を提供することです。
これが、理学療法の目標設定です。
次回は、その目標に向かうための治療原則を考えます。理学療法士は、一つの方法だけで治療しているわけではありません。除去、刺激、誘導、補助、情報という複数の方法を組み合わせながら、目標に向けて治療・介入を組み立てています。目標が決まるからこそ、次にどの手段を選ぶのかが問われます。
