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治療としての運動とは何か【理学療法とは何か #005】


理学療法の話をすると、「結局、運動することですよね」と言われることがあります。半分は正しいのですが、半分は足りません。なぜなら、理学療法における運動は、ただ体を動かすことではなく、治療として設計された運動だからです。

一般の人が「運動」と聞くと、多くは健康づくりを思い浮かべます。散歩、体操、筋トレ、ストレッチ。どれも大切です。しかし、理学療法で扱う運動は、それだけではありません。理学療法では、本人が自分で動かす自動運動だけでなく、少し助けながら動かす自動介助運動、他者が動かす他動運動、そして必要に応じて抵抗を加えた運動まで含めて考えます。つまり、「運動する」とは、本人が頑張って動くことだけを意味しません。どう動かすか、どこまで動かすか、誰がどの程度助けるかまで含めて、運動は治療として組み立てられます。

ここが、理学療法を単なる体操や筋トレと分ける大きな点です。

前回までに、理学療法士は基本動作を専門としていると書きました。寝返る、起き上がる、座る、立つ、歩く、移る。こうした動作が生活の土台にあります。そして、その動作を成り立たせているもっと小さな単位が運動です。関節がどう動くのか、筋がどう働くのか、どの方向へ重心が移るのか。理学療法士は、この運動という最小単位に働きかけることで、最終的に動作を変えようとします。つまり、運動は動作の材料であり、理学療法はその材料に手を入れる仕事です。

たとえば、肩関節周囲炎で肩が上がらない人がいるとします。このとき、「動かした方がいい」とだけ言うのは雑すぎます。どこまで動かせるのか、どの方向で痛みが強いのか、炎症が強い時期なのか、関節包の硬さが中心なのか、筋の緊張が中心なのかを見ないまま動かすと、かえって悪化することがあります。逆に、他動的に可動域を少しずつ広げることが有効な場面もあります。痛みが強ければ、いきなり強い自動運動より、まずは他動運動や軽い介助から始める方がよいこともあります。ここでは、運動は根性論ではなく、状態に応じた治療手段です。

脳卒中後の歩行でも同じです。歩けないから歩行練習をしましょう、というだけでは治療になりません。どの関節運動が出にくいのか、どの局面で支えが足りないのか、麻痺や感覚障害はどう影響しているのか、どの程度の介助なら安全か。場合によっては、最初から完全な自動運動を求めるのではなく、自動介助によって動きの方向を教えたり、補助具を用いて支えながら反復したりします。つまり、歩くという動作を変えるために、その中を構成する運動を細かく扱っているのです。

ACL術後の人にランジを行う場合も同じです。見た目には単なるトレーニングに見えても、実際には負荷の方向、深さ、速度、痛みの許容、支持性、左右差などを調整しながら行います。角度が違えば意味が変わり、強度が違えば逆効果になることもあります。ここでも理学療法士は、ただ運動をさせているのではなく、治療として用法と用量を決めています。

このように考えると、理学療法における運動は、単なる自発的な頑張りではありません。むしろ、理学療法の核心には「誘導」があります。どう動けばよいかを身体に教えること、必要な方向へ動きを導くこと、出にくい運動を少し助けて出せるようにすること。理学療法士は、運動を放っておくのではなく、誘導しながら治療しています。

ここで以前から出している治療原則を使うと、理学療法は運動だけで閉じません。誘導は、理学療法の中心的な方法です。しかし、誘導だけでは足りないこともあります。刺激として温熱や電気などの物理療法を使うことがある。補助として装具や杖を使うことがある。情報として、どのように動くと安全か、何に気をつけるべきかを伝えることがある。つまり、理学療法とは単純に歩行練習や筋トレをすることではなく、原則に従って運動しやすい条件を整え、そのうえで必要な運動を治療として用いることです。

ここで重要なのは、理学療法士がいつも「何の運動が妨げられているのか」を見ているという点です。立ち上がれない人なら、股関節や膝関節の動きなのか、体幹の前傾なのか、筋出力なのか、痛みなのか、麻痺なのか、心不全や呼吸器疾患による全身的な制限なのかを見ます。見ているのは、ただ弱いか強いかではありません。どの運動が、何によって阻害されているかです。

だからこそ、同じ運動でも、ある人には治療になり、別の人には逆効果になります。肩が痛いなら動かせばよい、歩けないなら歩かせればよい、という発想は危うい。関節方向が違えば悪化することがあり、負荷が強すぎれば炎症や痛みを増やすこともある。逆に、適切な方向、適切な強度、適切な補助で行えば、運動は確かに治療になります。ここで必要なのが、検査と評価です。理学療法士は、その人の身体に何が起きているかを見たうえで、運動を処方しています。

ここまでをまとめると、理学療法における運動とは、動作を変えるために設計された治療手段です。自動、自動介助、他動、必要に応じて抵抗を伴う運動まで含めて、その人に合った方法を選びます。そして、ただ動かすのではなく、誘導し、支え、調整しながら、基本動作へつなげていきます。

理学療法士は、運動を知っている人ではなく、運動を治療として使う人です。

次回は、その治療としての運動が、実際に生活をどう変えていくのかを考えます。理学療法は、生活そのものを直接操作しているわけではありません。運動を通して動作を変え、その結果として生活の広がりに届いていきます。その流れを、最後にもう一度生活の側から見ていきます。

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