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リハビリと理学療法は同じではない【理学療法とは何か #002】

「リハビリをしています」

病院でも日常会話でも、これはごく自然に使われる言葉です。実際、理学療法士も患者さんも、ご家族も、ついこの言い方をします。けれども、この言葉があまりに便利すぎるせいで、かえって見えなくなっていることがあります。個人的にも今言葉を好みません。

それは、「リハビリ」と「理学療法」は同じではない、ということです。

多くの人は、病院で体を動かすこと、歩く練習をすること、筋力をつけることをまとめて「リハビリ」と呼んでいます。もちろん、その使い方が完全に間違っているわけではありません。ただ、その言い方だけで済ませてしまうと、理学療法という専門職が何を担っているのか、その輪郭がぼやけます。

まず、リハビリテーションという言葉は、本来かなり広い意味を持っています。人が病気やけが、障害や加齢などによって失ったものを、できる限り取り戻し、もう一度その人らしく生活し、社会の中で生きていけるようにすること。これが大きな意味でのリハビリテーションです。つまり、単に体を動かす訓練の名前ではなく、もっと広い目的を含んだ考え方です。

この広い意味で考えるなら、リハビリテーションには医学的な側面だけでなく、社会的、職業的、教育的、工学的な側面もあります。病院の中で身体機能や動作の回復を目指すことは医学的リハビリテーションですし、仕事に戻ることを考えるのは職業的リハビリテーションです。学びの場に戻ることは教育的リハビリテーションに関わりますし、福祉機器や環境調整はリハビリテーション工学的な視点を含みます。社会とのつながりを取り戻すことは社会的リハビリテーションの問題でもあります。

つまり、リハビリテーションとは、もう一度生き直すための全体の営みです。

それに対して、理学療法は何か。理学療法は、その大きなリハビリテーションという目的の中で、運動を用いて基本動作を治療する手段です。寝返る、起き上がる、座る、立つ、歩く。そうした基本動作を変えるために、関節、筋、呼吸、循環、姿勢、バランスなどの身体の働きを見ながら治療していく。そこに理学療法の専門性があります。

だから、私は「リハビリは目的、理学療法は手段」だと考えています。

たとえば、家に帰ることを考えてみてください。家に帰ることが目的です。けれども、そのためには電車に乗るかもしれないし、車を使うかもしれないし、歩くかもしれません。場合によっては、道を調べることも、荷物を減らすことも必要です。目的は「家に帰ること」であって、「電車」が目的ではありません。理学療法は、このたとえで言えば電車や車にあたります。つまり、目的地へ向かうための方法です。しかも、方法は一つではありません。作業療法もあれば、言語聴覚療法もあり、環境調整や福祉機器、家族支援、就労支援などもあります。リハビリテーションとは、その全体を指す言葉です。

この区別をしておかないと、病院で理学療法士がやっていることの意味が狭く理解されてしまいます。

たとえば、歩く練習をしている場面を見て、「ああ、リハビリですね」と言うことはできます。けれども、その歩行練習の前には、理学療法士はかなり多くのことを考えています。そもそも、なぜ歩きにくいのか。立位は安定しているのか。関節の動きは足りているのか。痛みはあるのか。呼吸や脈拍はどのくらい乱れるのか。麻痺や感覚の問題はあるのか。どこまで負荷をかけて安全か。何を先に整えれば歩行が変わるのか。

外から見れば「歩く練習」に見えても、その中身は単純ではありません。歩くことだけが目的ではなく、歩けるようになるための下準備が何層もあります。関節の動きを整えることもあれば、体幹の安定性を高めることもある。呼吸や循環に耐えられるようにすることもある。痛みの影響を減らすこともある。時には、いきなり歩かせないこと自体が重要な治療判断になることもあります。

ここに、理学療法が単なる「歩く練習の人」ではない理由があります。

一方で、リハビリという言葉を広く使った方が自然な場面もあります。たとえば、退院して家に戻り、仕事や学校、地域の生活へ少しずつ戻っていく過程は、理学療法だけでは言い表せません。そこには作業療法や言語聴覚療法が関わるかもしれませんし、家族や職場、学校、制度、環境調整も関わります。つまり、社会復帰や生活再建という意味で語るときには、理学療法よりもリハビリテーションの方が広くて適切な言葉です。

この意味で、理学療法はリハビリテーションの一部です。しかし、一部であるから小さいということではありません。むしろ、医学的リハビリテーションの中核として、身体と動作を変える役割を強く担っていると言った方が正確でしょう。理学療法、作業療法、言語聴覚療法は、いずれもリハビリテーションの中で重要な専門領域ですが、その中で理学療法は、とくに運動と基本動作を治療する専門性を持っています。

だから、「リハビリをしている人」という理解だけでは足りません。理学療法士は、リハビリテーションという大きな目的の中で、身体と動きを変えるための手段を担っている専門職です。その専門性が見えなくなると、理学療法はただの体操指導や歩行練習に誤解されやすくなります。

ここで改めて整理すると、こうなります。

リハビリテーションは、人が生活や社会とのつながりを取り戻していくための大きな目的である。
理学療法は、その目的に向かって、運動を用いて基本動作を治療する専門的な手段である。

この違いが見えてくると、「リハビリ」という一言でまとめていた世界の中に、少し輪郭が生まれてきます。理学療法士が何をしているのかも、前回より一段はっきりしてくるはずです。

では、その理学療法士は、実際に患者さんの何を見ているのでしょうか。歩けない人を前にしたとき、どこを見て、何を考え、何を変えようとしているのでしょうか。

次回は、その「見る」という仕事に入っていきます。理学療法士は、なぜ動き方を見るのか。そのことをもう少し丁寧に考えます。

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