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家でできることまで含めて治療である【理学療法とは何か #016】

この連載は、6本を1シーズンとして進めています。
全体の流れを確認したい方は、以下の目次をご覧ください。

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理学療法は、病院や施設で受ける時間だけのものだと思われがちです。

たしかに、理学療法士は病院、クリニック、介護施設、訪問リハビリテーションなどで働いています。患者さんはそこで理学療法士と会い、身体を動かし、治療を受けます。外から見れば、理学療法はその場で完結しているように見えるかもしれません。

しかし、本当はそうではありません。理学療法は、治療室の中だけで終わるものではありません。むしろ、自宅に帰ってから何をするのか、日常生活の中でどう身体を使うのかまで含めて、治療は続いています。

これは薬を考えるとわかりやすいです。病院で薬を処方されても、その薬を飲むのは多くの場合、自宅です。医師が診察し、薬剤師が説明し、患者さんが自宅で内服を続けます。薬は病院で受け取って終わりではありません。飲み続けることで効果を発揮します。

理学療法も、それに近いところがあります。病院やクリニックで行う理学療法は重要です。しかし、身体の変化を作るには、そこで得た気づきや運動を自宅で続けることが必要です。理学療法士と一緒に動く時間だけでなく、自宅でどう動くか、どう続けるか、どう生活に埋め込むかが重要になります。

この考えは、まだ十分に一般化されていないように思います。手術は病院で行われます。薬は自宅で飲みます。それに対して理学療法は、病院で受けるものという認識が強いのかもしれません。しかし、理学療法が本当に変えようとしているのは、患者さんの身体と生活です。身体と生活は、病院の中だけにあるわけではありません。むしろ、多くの時間は自宅と日常生活の中にあります。

ここで大切になるのが、「即時変化」、と「経時変化」の違いです。

理学療法では、その場で変化が出ることがあります。徒手療法によって痛みが軽くなることがあります。関節の動きが少し広がることがあります。歩き方がその場で変わることもあります。こうした即時変化は、理学療法の大きな魅力です。患者さん自身も、「動きやすくなった」、「痛みが減った」と感じやすいです。

一方で、身体の本質的な変化には時間がかかります。筋力がつくこと、持久力が上がること、動作の癖が変わること、歩行の安定性が高まることは、一回の治療だけでは完成しません。これはダイエットにも似ています。今日運動したからといって、明日すぐに身体が大きく変わるわけではありません。中長期的に続けることで、少しずつ変化が積み上がります。

だから、自宅で行う運動は単なる宿題ではありません。治療の一部です。

ただし、ここで問題があります。自宅でやってくださいと言われても、たくさんの運動を出されると、多くの人は続けられません。運動の種類が多すぎると、最初は頑張っても、次第にやらなくなります。したがって、理学療法士は、最もクリティカルな運動を選ぶ必要があります。

たとえば、椅子から立ち上がる練習を考えてみます。わざわざ特別な時間を作って運動するのが難しい人でも、食後に椅子から立ち上がる回数を少し増やすことはできるかもしれません。テレビを見る前に数回立ち上がることもできるかもしれません。このように、生活の中に運動を埋め込むことが重要です。最初から複雑なメニューを組むのではなく、その人の生活の中で自然に続けられる運動を設計することが大切です。

もちろん、慣れてきたら強度や回数を変えていく必要があります。同じ運動を同じ負荷で続けているだけでは、身体は次第に慣れてしまいます。椅子の高さを変えること、回数を増やすこと、支えを減らすこと、速度を調整することによって、少しずつ負荷を変える必要があります。自宅での運動も、ただ続ければよいのではなく、変化に応じて調整する必要があります。

前回は、意味のある反復には気づきが必要だと書きました。この気づきは、自宅での運動でも重要です。むしろ、自宅での運動では、気づきが起きにくいことが問題になります。

治療室では、理学療法士が見ています。動きの癖を伝えることができます。重心のかけ方を修正できます。痛みが出る動きを確認できます。しかし、自宅ではそれを自分で見なければなりません。階段を上るとき、立ち上がるとき、台所で向きを変えるとき、自分がどのように動いているのかに気づけるかどうかが大切になります。

ただし、経時変化はわかりにくいです。昨日より少し立ち上がりやすくなったことや、先週より階段が楽になったことは、本人には意外とわかりにくいです。だからこそ、定期的な理学療法の中で、どの部分の変化を狙っていたのかを問診し、確認することが重要です。痛みはどう変わったのか、回数は増えたのか、疲れ方はどうか、外出の量はどうかを確認します。自宅での運動は、出して終わりではありません。確認し、修正し、続けられる形に整えていく必要があります。

リスクマネジメントも重要です。私が特に大切にしている指標の一つは、痛みが出ないことです。痛みは運動の継続を止めることがあります。少し動いて痛みが強くなると、人はその運動を避けるようになります。避けるようになると、運動は続きません。継続することを目的にするなら、痛みは重要な判断材料になります。

呼吸や循環に問題がある場合は、息切れや疲労感も重要です。ボルグスケールのように、主観的なきつさを確認しながら運動量を調整することがあります。自宅での運動は安全でなければなりません。強すぎる運動は続きませんし、危険もあります。弱すぎる運動は効果が出にくいです。その間にある、続けられて、かつ意味のある負荷を見つけることが理学療法士の仕事です。

今シーズンでは、脳卒中のケースを一つの基準として考えています。脳卒中後の人にとって、自宅で自主的に身体を動かすことは非常に重要です。麻痺がある場合、どうしても代償運動は出ます。動かしやすい方に頼ることもあります。麻痺側を使うことを避けることもあります。だからこそ、脳卒中では気づきが重要になります。

麻痺側の足にどの程度体重が乗っているのか、手を使いすぎていないか、立ち上がるときに身体がどちらへ逃げているのかを感じ取る必要があります。自宅での動きの中で、それを完全に修正することは簡単ではありません。それでも、意識するかどうかで、日々の動作の意味は変わります。そして外来や定期的な受診の場で、それを理学療法士が確認します。自宅で続け、外来で確認し、必要に応じて修正する流れが重要です。

ここで、理学療法士の仕事には支援的な要素が強く出てきます。もちろん、徒手療法などによって即時変化を狙うこともあります。いわゆるゴッドハンド的な事象があることも否定しません。私自身も、若いころはそのような即時変化を強く求めていた時期があります。

しかし、今は少し違う見方をしています。即時変化は、経時変化を支えるための手段です。その場で痛みが軽くなることや、動きが変わることは重要です。しかし目的は、その場の変化だけではありません。目的は、時間をかけて生活が変わっていくことです。患者さんが自分で動けるようになり、自分で続けられるようになり、自分の生活の中で身体を使えるようになることです。

患者さんが自分でできるようになることは、理学療法士の仕事が減ることではありません。それは治療の成果です。理学療法士がいない場面でも、自分の身体に気づき、安全に動き、必要な運動を続けられるようになることです。そこまで含めて、理学療法は治療になります。

理学療法は、治療室の中だけで完結しません。
薬を飲むように、運動を継続することを目指します。
そして、その継続が生活の中で身体を変えていきます。

次回は、「治療がうまくいく人、いかない人」を考えます。即時変化と経時変化の違いを理解しているかどうか、自宅での実践を続けられるかどうか、自分の身体に気づけるかどうかによって、理学療法の結果には差が出ます。その差は、単なるやる気の問題ではありません。治療がうまく進む条件と、進みにくい条件を見ていきます。

この連載の全体像と過去記事は、以下の目次から確認できます。

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