除去、刺激、誘導、補助、情報という治療原則【理学療法とは何か #014】
この連載は、6本を1シーズンとして進めています。
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理学療法の治療・介入は、外から見ると似たようなことをしているように見えることがあります。
理学療法士は患者の体を動かしているように見えます。歩く練習をしているように見えます。マッサージをしているように見えます。筋力トレーニングをしているようにも見えます。
しかし、同じように見える行為でも、目的が違えば、意味は大きく変わります。さらに、目的が違えば、手段の選び方も、その順序も変わります。理学療法士の専門性は、何か一つの技術を持っていることだけではありません。臨床推論によって見立てを作り、その見立てにもとづいて、細かな技術を組み合わせることにあります。
前回は、理学療法の目標がどのように決まるのかを考えました。目標は願望だけで決まるものではありません。評価と予後予測を基準線として、どこを変えるのかを決めるものでした。今回は、その目標に向かって、理学療法士がどのように治療・介入を組み立てるのかを考えます。
ここで一つの整理として、除去、刺激、誘導、補助、情報という治療原則を考えてみます。
ただし、最初に確認しておきたいことがあります。除去という原則は、本来は手術などに強く関係する考え方です。病変やを腫瘍や骨棘などを取り除くという意味では、医師の治療が主体です。したがって、理学療法では、除去そのものを主役として扱うことは多くありません。吸引器で痰を除去する際には使う技術ですが、除去は医師の仕事として理解してください。
理学療法で中心になりやすいのは、刺激、誘導、補助、情報です。そして、その中でも理学療法士らしさが最も出やすいのは誘導です。
刺激とは、身体に何らかの入力を与えることです。理学療法では、物理療法がここに位置づきます。温熱、電気刺激、場合によってはマッサージも、刺激として考えることができます。これらは、それだけで全てを解決するものではありません。しかし、痛みを緩和したり、筋の緊張を変えたり、動きやすい状態を作ったりすることがあります。つまり、刺激は、その後の運動を行いやすくするための準備にもなります。
誘導とは、動きを望ましい方向へ導くことです。私は、ここに理学療法の中心があると考えています。誘導には、自動運動、自動介助運動、他動運動の使い分けが含まれます。本人が自分で動かす場合もあります。理学療法士が少し助けながら動かす場合もあります。理学療法士が他動的に関節や身体を動かす場合もあります。重要なのは、どの方法が良いかを最初から決めつけることではありません。その人の状態に応じて、自動、自動介助、他動を使い分けることです。
近年は、自動運動が重視される傾向が強くなっています。これは、運動学習やセルフマネジメント、エビデンスに基づく実践の影響とも関係しています。自分で動くことはもちろん重要です。しかし、だからといって他動運動や自動介助運動の意味がなくなったわけではありません。痛みが強いとき、麻痺があるとき、動き方がわからないときには、理学療法士が導きながら動きを作ることが必要になります。誘導とは、患者さん任せにすることでも、専門職が一方的に動かすことでもありません。状態に応じて、動きが生まれる条件を整えることです。
補助とは、足りないものを補うことです。理学療法では、補装具療法がここに含まれます。脳卒中後の短下肢装具、切断後の義肢、杖、手すりなどが代表的です。これらは、単に便利な道具ではありません。適切に使えば、動作を安全にし、運動学習を助け、活動範囲を広げる治療手段になります。補助には、支援工学的な意味で考えるとわかりやすいです。身体の機能だけで全てを解決しようとするのではなく、道具や環境を使いながら、より良い動きを作ることも理学療法の一部です。
情報とは、説明や助言だけを意味するものではありません。理学療法における情報は、リスクマネジメントと深く関係しています。何が危険なのか、どこまでなら安全なのか、どの負荷なら効果があり、どこから先は危険なのかを見極めることです。運動は、弱すぎれば効果が出にくく、強すぎれば悪化や事故につながります。したがって、理学療法士はボーダーラインを理解し、ぎりぎり有効な負荷を選ぼうとします。そのためには、何が危険なのかを十分に理解しておく必要があります。
この情報の役割は、近年の理学療法を大きく変えてきたと思います。患者さんに、なぜこの運動が必要なのか、どの程度なら安全なのか、何を避けるべきなのかを伝えることは、単なる説明ではありません。それは、患者さん自身が安全に動ける範囲を広げるための治療・介入です。情報によって、人は動き方を変えることができます。恐怖が減ることもあります。自分で判断できる範囲が広がることもあります。
ここで、脳卒中後の片麻痺を例に考えてみます。
脳卒中後に麻痺があり、歩行レベルを高め、家庭復帰を目指す人がいるとします。このとき、理学療法士はただ歩かせるわけではありません。必要に応じて電気刺激を用い、筋活動を促しやすくすることがあります。自動運動や自動介助運動を使いながら、関節の動きや筋の働きを引き出すことがあります。動きにくい部分には、他動的な介助を加えながら歩行練習を行うこともあります。短下肢装具を使い、足部や膝の安定性を補うこともあります。さらに、血圧、疲労、転倒リスク、過負荷の危険を見ながら、どこまで運動負荷をかけるかを判断します。
ここには、刺激、誘導、補助、情報が重なっています。電気刺激だけで治療が完結するわけではありません。装具をつければ終わりでもありません。歩行練習を繰り返せばよいわけでもありません。複数の治療原則を組み合わせながら、今この人にとっての最善手を探すことが必要です。
この「最善手」という考え方は、理学療法にとって非常に大切です。マッサージだけをすればよいわけではありません。痛みを緩和することで歩きやすくなることがあります。歩きやすさを経験することで、自分の歩行の問題に気づくことがあります。その認知を通して、筋力トレーニングや運動練習の意味を理解できることもあります。つまり、治療は一つの技術ではなく、流れとして組み立てられます。
理学療法士は、この流れを作る専門職です。何を先にするのか、何を後にするのか、どの方法を組み合わせるのかを考えます。行為としては同じように見えても、その背後にある目的と順序が違えば、治療としての意味は全く違います。
だから、理学療法は「歩く練習」、「筋トレ」、「マッサージ」といった単語だけでは説明できません。理学療法士は、目標に向かって、刺激し、誘導し、補助し、情報を与えながら、最善手を探しています。
原則の絡み合いを理解し、最善手を探すことです。
それが、理学療法における治療・介入の基本です。
次回は、この流れを受けて、「なぜ反復だけでは足りないのか」を考えます。運動は反復によって変わります。しかし、ただ繰り返せばよいわけではありません。何を、どの条件で、どの順序で、どの質で繰り返すのかが問われます。治療原則を理解したうえで、反復の意味をもう一度考えていきます。
