メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo bytakayuki365

「×」むチずニィ、圌らの蚘憶㉑【第䞃章蚘憶-Ⅰ】創䜜倧賞2025ミステリヌ小説郚門


    脱出たであず䞀日
    前  䞀芧  次
    ナツ×ヒナの蚘憶


     光が薄れおゆく。
     茪郭を倱った颚景が闇に芆われおゆく。

     いったい、今は䜕時なのか。
     今日は䜕月䜕日なのか。
     途方もない時間の長さが、ひたすら虚しい。

     このたた死んでしたったっお、死埌の䞖界ず今の䞖界は、そう倧差ない気がする。
     僕は廃人同様だ。

    「ヒナ、調子はどうだ」

     ナツがやっおくる。
     毎日、同じ時間にきっちり来おしたう。
     着替えやタオルや食料を運んでくる。
     そしお今日も、僕ず同じ顔をしおいる。
     䜕歳になっおも同じ顔をしお、僕ず同じ歳なのに僕の兄貎ずしお、ナツは僕の隣りに存圚しおいる。
     䜕幎経っおも倉わらない。

    「平気だよ」

     僕は嘘を吐く。
     本音を蚀葉にするのなんお、はおしなく面倒だからだ。

    「我慢の限界が来たら、俺にむかっお叫べばいい」

     ナツはい぀も、僕の嘘を芋抜く。

    「ほんずうに今日は、調子がいいから平気なんだ」

     僕はなおも嘘を吐く。芋透かされたず認めたくない。

    「そうか、俺は調子が悪いけど」

     だからお前もすっきりしないだろう ず蚀いたげな瞳で僕を憐れむ。その䞡県が嫌いなんだ。

     鮮明に芋える、圌の衚情。

     光すら探知できない圹立たずの右県が、ナツがそばにいる時だけは正垞に戻っおいる。

    「林檎、食うか」

     ベッドの䞊で起き䞊がっお、圌の剥いた林檎をかじる。
     シャリシャリず噛み砕く音をずっず聞いおいたくお、僕は䜕床も咀嚌する。
     二人きりの病宀に、林檎の甘い匂いが挂う。

     集䞭治療宀や粟神病棟に入院しおいた時はナむフの持ち蟌みを犁止されおいたけど、䞀般病棟に移っおからは持ち物怜査をされるわけでもないから、時々こうしおナツに林檎を剥いおもらう。長期で入院しおいるず、看護垫が蚪れおこない時間垯がわかるのだ。その隙をねらう。

     林檎は、僕たちの奜物だ。母さんが昔、よく剥いおくれた。

     窓から芋䞋ろせる冬の颚景には倕焌けが䌞びおいる。
     倧小いろんな圢の建造物が、赀みを垯びおいる。
     空の向こうで、橙色ず矀青色が真っ二぀に分かれおいる。
     日没の颚景。
     䞭孊校のチャむムが、かすかに耳に届く。

     ナツは林檎を剥き終えるず、立ちあがっお氎道でタオルを絞った。
     氎滎が掗面台を现かく匟く。
     透明の雫。

     ナツがそばにいる時、僕には䞖界が䞞ごず芋える。すべおが枅柄な空気をたずっお呌吞しおいるのが、芋える。䞡県が正垞だった頃には気付かなかった物事の端っこたで、芋える。

     圌は、濡れたタオルで僕の指を䞀本ず぀䞁寧に拭いた。
     僕もお返しに、圌の手を拭いおやる。

     それから勉匷時間が始たる。
     数孊のノヌトが開けられる。
     パラパラ、パラ。玙の擊れ合う音。
     光に透けお裏のペヌゞも写り蟌む。
     芏則正しく配列された文字ず図圢。
     その䞊をなぞる、圌の指先。

     僕はふたたび、林檎をかじる。シャリシャリを聎く。
     圌はたた僕の指を拭く。かいがいしく、䞖話を焌く。
     たるで母芪のように。
     母芪を挔じおいるかのように。

    「母さんは 最近、䌚いに行っおる」
     僕の問いかけに、勉匷が䞀旊䞭止される。
     ナツは嫌な顔ひず぀せず、僕の顔をきちんず芋お答える。

    「行ったよ。こないだの日曜日」
    「䜕か蚀っおた」
    「うん。なんか穏やかだった。笑っおた」
    「ぞぇ」
    「斜蚭の人も、この頃は発䜜もなくお萜ち着いおるっお。でも、俺のこず忘れおた。はじめたしお、っお握手された」

     淡々ず話す圌から、僕は目を逞らした。
     数孊のノヌトにびっしりず茉っおいる数匏が、小さな虫の倧矀のよう。
     頭のなかでうごめく矜音に、息が぀たりそう。

     数孊のノヌトの䞊、䞍自然なほど綺麗に敎列した文字列は、ナツのこころのなかを衚しおいるず思う。
     はみでたもの、壊れたもの、ぜんぶを数匏にあおはめお、無理やり答えを割りだす。それは、ナツが倧人になろうずしおいる蚌拠だ。

     の倀がどうこう蚀う圌の講釈を聞き流しながら、僕は、母さんが母さんを棄おた日のこずを思っおいた。

    


     僕たちが十二歳の冬、母さんが発病した。
     日曜日の朝。
     アナログ時蚈は十時十分を指しおいた。よく芚えおいる、その時間で時蚈が止たったからだ。

     戞棚や本棚は倒れ、食噚の砎片が飛び散り、テヌブルの脚は折れ曲がり、冷蔵庫の䞭身は散乱しお生卵やミンチ肉がそこらじゅうを汚しおいた。

     ずんだ襲来だった。

     仕掛け人は、母さんだった。玄関で䞀人ぜ぀んず、野次銬のように腕を組み、ごった返した家のなかを傍芳しおいた。

    「私は母芪倱栌なの」

     そしお瓊瀫のなかに入り、ガラスの砎片で足の裏を切り、流れる血を舐め、そのガラスを銖に抌し圓おお、刺した。

     血飛沫が飛んだ。

     僕はがんやりず眺めおいた。
     この人はほんずうの母さんではなくお、きっず挔技の䞊手い圹者が、特殊メむクで母さんに成りすたしおいるんだろうず思った。

     ナツが慌おお救急車を呌び、母さんは血だらけになりながら担架に乗せられた。

     萜ちおいた時蚈の長針ず短針が、芋た目に矎しいバランスずされる十時十分だった。矎しく発狂したくお時間を狙ったのかずいう、緊急事態にどうでもいい考えがよぎっおは消えた。

     救急車のサむレンも、救急隊員の背䞭も、䜕もかも非珟実的だった。
     知らせを聞いお、唯䞀連絡先のわかった遠瞁の芪戚の女性が、病院に駆け぀けた。
     お母さんの傷は急所をはずれおいたので䞀呜を取り留めたした、ずいう医垫の告知すら倢のようで、涙も出なかった。

     奇劙な珟実が始たった。




    ▌㉒に続く



    🌻お読みいただき、ありがずうございたす。
     最埌たでむチずニィの、そしおナツずヒナの物語にお付きあいいただけたしたら幞いです☺

    【各ペヌゞURL】
    ペヌゞ䞊郚の「䞀芧」マガゞンからもご芧いただけたす。
    〈プロロヌグ〉①
    〈第䞀章芚醒〉②
    〈第䞀章芚醒〉③
    〈第䞀章芚醒〉④
    〈第二章認知〉⑀
    〈第二章認知〉⑥
    〈第二章認知〉⑊
    〈第䞉章慕情〉⑧
    〈第䞉章慕情〉⑚
    〈第䞉章慕情〉⑩
    〈第䞉章慕情〉⑪
    〈第四章蜜月〉⑫
    〈第四章蜜月〉⑬
    〈第四章蜜月〉⑭
    〈第五章自我〉⑮
    〈第五章自我〉⑯
    〈第五章自我〉⑰
    〈第六章砎綻〉⑱
    〈第六章砎綻〉⑲
    〈第六章砎綻〉⑳
    〈第䞃章蚘憶Ⅰ〉㉑←珟圚こちらのペヌゞです
    〈第䞃章蚘憶Ⅰ〉㉒
    〈第䞃章蚘憶Ⅰ〉㉓
    〈第䞃章蚘憶Ⅰ〉㉔
    〈第䞃章蚘憶Ⅰ〉㉕
    〈第八章蚘憶Ⅱ〉㉖
    〈第八章蚘憶Ⅱ〉㉗
    〈第八章蚘憶Ⅱ〉㉘
    〈第八章蚘憶Ⅱ〉㉙
    〈第八章蚘憶Ⅱ〉㉚
    〈第八章蚘憶Ⅱ〉㉛
    〈第九章分断〉㉜
    〈第九章分断〉㉝
    〈第十章回顧〉㉞
    〈第十章回顧〉㉟
    〈゚ピロヌグ〉㊱


    各章の芋出し画像クリ゚むタヌ様






    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
     
    小説の話などをしたす。 ◇略歎さばえ近束文孊賞2018䜳䜜受賞月刊「たる」2016幎5月号「今宵の䞀話」掲茉゚ブリスタ超劄想コンテスト「3時」優秀䜜品◇同人誌アン゜ロゞヌ倚数参加◇個人本出したい◇2026幎挢怜準1玚取埗◇BLずラブサスペンス系が奜き◇倧阪垂圚䜏

    あなたぞのおすすめ