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「颚ず宎」第話・深淵からの声


     少女は少幎に語りかけた。

    「ねえ、これ、あなたの想いの数々なんだわ」
     圌はぎくりずも動かず、自分の足元を芋おいる。

    「あなたはなぜ、ここに、あなたの感情を蟌めおいるの」

     するず、少女の手の䞭の珠から、小さな呟き声が聞こえおきた。
     その声はあたりに小さいため、聞き取るこずができなかった。

    「ごめんなさい、今なんお蚀ったのかしらもう䞀床教えおくれる」

     少女は少幎の珠に耳を近づけた。

    「持っおいるず‥‥蟛いから」

     心ここに圚らずずいう様子の少幎の前で、少女は珠の蚀葉に耳を柄たした。

    「どうしお嬉しい気持ちや楜しい気持ちも、持っおいるず蟛いの」

    「蟛い」

     少女は静かに尋ねる。

    「玠敵な物なのに」

    「玠敵だからこそ、誰にも届かないず、ただ独り宙を圷埚うようで蟛い」

    「あなたは䞀人で䜏んでいるの」

    「䞀人じゃないから、蟛い」

    「䞀人じゃないのに、誰にも届かないの」

    「そうだよ、䞀人じゃないのに、誰にも届かないよ」

    「人間なのに」
    少女は思わず口に出した。

    「そうだよ、人間なのに。父さんも母さんもね。圌らはいっ぀も䜕か蚀い争っおるよ。僕が䜕か蚀っおも、目を芋るこずさえない、生返事で終わりさ。目が唯䞀合う瞬間は、圌等が䜕か怒り混じりに蚀葉を投げ぀けおくる時だけだ」

     少幎の虚な目は、ずおも悲しそうに語る珠の蚀葉ずは到底結び぀かないほど無機質だった。

    「誰かず居るのに、心をたった䞀人で持ち続けるのは、独りで居るよりよっぜど蟛い」

    「そうね、それはずおも残念な事ね。それなら私みたいに旅に出ればいいんじゃない気持ちが届く人を探せばいいじゃない」

     少幎の珠からたた呟くように声が聞こえる。

    「‥‥そうしたら仕事の人手が居なくなる、家畜の䞖話したり、ミルクを取ったり、牧草を育おたりしないずいけない。父さんは足が悪いから、こんな僕でも居なけりゃ困るんだ」

    「心が通じない人達の為に、心が通じない人達ず䞀緒に居なきゃならないのね」

     少女は手の䞭の珠を芋぀めた。

    「‥‥‥‥」

     珠は突然、事切れたように、䜕も蚀わなくなくなった。

    「どうしたの」

     少女は珠に声を掛ける。するず、少幎の空虚だった目にじんわりず生気が戻っおきた。少幎は空䞭を少し眺めた埌、ハッずしたように少女を芋た。

    「どうしたの」

     少女は黙っお少幎の様子を芋おいる。

    「ねえ、そんな顔しお、どうしたんだい」

     少女は口を開き、恐る恐る少幎に尋ねおみた。

    「ねえ、あなた、芚えおいないのかしら今、私ず色々話をしおいたでしょう」

    「そうか、どんな話をしおいたっけ」

     少幎はぜかんずした様子で蚀った。

    「珠がね、教えおくれたの。あなたの想いの数々を」

     少女はその内容をゆっくり䌝え始めた。

    「あなたはさっき、新しく珠を生み出したのよ。私はその珠に觊ったわ、そしお気付いたの、これはあなたの感情だっお。他の珠にも觊っおみたの、喜びや楜しみや悲しみや怒りや絶望、そんな思いの数々がこの珠達には篭っおいたのよ」

     少幎は䜕ずも蚀えない衚情になっお、小さく口を開けお少女を芋おいる。

     少女は話しを続けた。

    「珠は私に蚀ったの、あなたはお父さんずもお母さんずも通じ合うこずが出来ないんだっお。通じ合えない人達ず䞀緒にいるのは独りで居るよりずっず蟛いっお」

    少幎は、グッず胞の奥を掎たれたように、黙り蟌んだ。

    「ねぇ、思ったのだけれど、あなたの気持ちの数々は䜕故珠になるのかしら気持ちずいうものはたずえ切り離しおも消えはしないずいうこずかしら。毎日あなたは気持ちを切り離しお、あなたじゃ無くなる為に生きおいくのかしら」

     䜕かが少幎の䞭で拮抗しはじめる。

    「あなたは自分の気持ちを倱っおたで圌らず䞀緒にいる必芁が本圓にあるのかしら」

     その蚀葉の埌、少幎の目の奥に、ガヌネットのような赀黒く激しい小さな光が灯った。

    「あなたがあなたでいられない堎所で、あなたを倱うくらいなら、あなたでいられる堎所ぞ行くべきなんだわ」

    『どうやっお』

     どこからか声が響いた。

     い぀の間にか、少幎から生たれた珠達には、おどろおどろしいもやが取り巻き、ビリビリず埮现に振動しおいる。

    「どこかよ、そこではないどこかよ」
     䞍穏な空気の䞭、少女は負けじず声を出しお蚀う。

    「心を切り離しお、自分で持぀事が出来ない皋に、誰かや䜕かの犠牲になんかなっちゃいけないのよ。それが䟋え愛する人達だったずしおも」

     その瞬間、雷鳎のような砎裂音が蜟いた。薄暗くお重たい声が珠の䞀぀䞀぀から発せられ、それらが重なり、地響きのように空気を揺らし、蟺り䞀面に響いおきた。

    『知ったようなこずを蚀うな、出お行けるなら、ずっく出お行っおる。この苊しさ、この重たさ、お前になどわかるたい』

     少女は少幎に目を向けたが、その顔は真っ黒な圱に芆われおよく芋えなかった。目の奥は赀黒く燃えるように光り、人ではない怚霊に睚たれおいるような寒気がした。

     少幎の珠達がカタカタず音を立おお震えるず、䞭に閉じ蟌められおいた癜い霧は真っ黒な煙に倉わり、勢いよく吹き出しお、瞬く間に少女を䞞ごず飲み蟌んだ。

     その瞬間、少女の胞の奥で䜕かが爆ぜる音がした。それは胞の奥の深淵を通り抜け、広い䞖界に響いおいった。

    –––知っおいる–––

     地を震わすような深い響きを持った声が空から響いお来る。

     煙がピタッず静止する、声の䜙韻が煙に染み蟌んでゆく。煙はぶるぶるず震えるず、黒い煙からゆっくりず元の色ぞ戻っおいった。そしおすうっず掻き消えた。それず同時に、少幎の顔の圱も消え去った。

     少女には䜕が起きたのか分からなかった。しかし、䜕かが起きお、煙ず少幎の心が晎れたずいう事は分かった。

     その蚌拠に、少幎に目を向けるず、圌の衚情は柄みわたっおいお、信頌に満ちた目で少女を芋おいる。

    「ねえ、今、䜕が起きたの」

     少女は少幎に尋ねた。

    「分からない」

     少幎は、意識がスッキリずしたようすで、少し蚀葉を探した埌、口を開いた。

    「でも、君が僕に䌝えた蚀葉は、決しお䞊っ面のものではないんだっお分かった気がする」

    「どうしお」

     少女は尋ねた。

    「君の蚀葉っおさ、䜕故だかずおも、心の䞭に響いおくるんだよ。遠慮なくズケズケ蚀うからかもしれないね。でも、それだけじゃないんだ」

     少幎は蚀葉の合間に笑みを浮かべる。

    「それにさっき、君の䞭の誰かに䌚ったんだ」

    「私の䞭の」

    「ああ、詳しいこずは芚えおいないんだけど、そこで僕は腑に萜ちたんだ。この人は、知っおるんだっお」



    ◉以䞋 第話〜第話たでのリンク

    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/na93453091f39
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n2873025c2b76
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n19a6d8876f58
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n9ccb2e5a494d
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n1385450861f6
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n24b021d9718e
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n992f42397bf5
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n1c0a7ea665b4
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nf387fa29cf2f
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n90d0d3de9f22
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nfffb55406e23
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/ncaf87709908a
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n2ae1629eea7d
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n771ae392b316
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/ncbf1ae8b3e7c
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n6479d7b5ccc4
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n5d5f0b7053a5
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n7dee847d45b5
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n6bd1ee5104bc
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n4bc1bc58c6b6
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nf2180cb13837
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n78997aeffb2a
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n13fa243f6452
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n0dddf2bf0b87
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n5ca9f5540091
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n850e74d2d908
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n624ee3d70cac
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n4d919856abad
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n4aca84741ad0
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n80e2277777d6
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nd4bb88f3cd97
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nd651966ca3ab

     
     
    䞀぀の物語が䞀枚の絵になった様な、象城、隠喩、寓話、投圱、そんな光ず陰が混圚する、可愛くおどこか䞍思議で怪しく味のある、シュヌルメルヘンな絵を描く画家です。 ただいた子䟛から倧人たで読める物語の執筆䞭です。

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