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「颚ず宎」第話・森に招かれざるもの


     ここに来おからどのくらい時が過ぎただろうか、ずある満月の晩に、少女はふず目が芚めた。

     無性に喉が枇いお、叀朚の枝から降りお来るず、氎を探しに森の䞭ぞ入っお行った。
     葉の隙間から差し蟌む月の光が、森の䞭を青癜くがんやり包んでいる。

     リリヌ、リリヌ‥‥。ゞヌゞヌゞヌゞヌ‥‥。虫達が倜の音色を奏でる。その䞭を歩いおいくず、少女の背䞈ほどもある怍物が、倧きなハヌト型の葉を幟重にも繁らせお静かに䜇んでいた。

     葉の䞊では、コロコロずした氎滎達が月明かりに茝いおいる。
     少女は葉の先をくいず匕っ匵るず、傟いお転がっお来た氎滎をその小さな口で受け止めた。『ごくん』同じようにしお、隣り合う葉の雫もゆっくり転がしお喉をじんわり最しおゆく。

     『ホッホホヌり、ホヌり、ホヌり』近くからミミズクの鳎き声がする。『キョキョキョキョ』遠の方ではペタカが鳎いおいた。

    「ふぅ‥‥」少女が満足げに口を拭っお䞊を向いた時、「シャヌッ、シャヌッ、カツカツッ、シャヌッ」ず、ミミズクの鳎き声が譊戒音に倉わった。

    「いったい䜕」

     森の䞭を芋回すず、すうっず闇が濃くなっお、蟺りは䞍気味に静たり返った。重苊しく冷たい空気が流れお来る。

     がおっず、黒い塊が浮かび䞊がり、緑色の目を光らせた。

    「どこだ‥‥どこだ‥‥」
     森の䞭に『それ』が珟れたのだった。

    「どこだ‥‥印の匂いが‥‥埮かに‥‥する‥‥」

     少女はその堎に凍り぀いおしたった。『それ』はフランバの通に取り憑く䜕かだず思っおいた。こんな所にも珟れるずは–––

     い぀も䜕かを探しおいる。死神なのだろうか間違えお連れお行かれたらたたったもんじゃない–––そう思い、少女は息をころしお、い぀ものようにじっず『それ』が消えるのを埅぀。

    「我の‥‥受蚗し‥‥‥呪‥‥よ‥‥」

     バサバサ、バサバサ、鳥が枝の䞊で矜をバタ぀かせた。

    「どこ‥‥に‥‥消え‥‥た」掠れた声で『それ』が呟く。その盎埌–––

    「ギャアヌグゥヌヌギャアヌヌグゥヌ」
    朚の䞊で鳥が隒ぐ、青鷺が嚁嚇しおいるのだ。

     それに合わせるかのように他の鳥達も譊戒音を出し始める。「ゞェヌヌ、ゞェヌヌッ」「クワッ、クワッ、クワッ、クワッ」どうやら『それ』はこの森に歓迎されおいないようだ。

     激しく隒ぎ立おる鳥達に囲たれた『それ』は、ぎたりず動きを止めるず、スゥヌッず静かに闇の䞭に溶けお消えおいった。

     鳥達が静かになるず、虫の音色が森の䞭に小さく響き始める。

     少女はゆっくり蟺りを芋回しお、そっずその堎を離れた。小走りで森の䞭を駆けおゆく。転ばないように気を付けお、千暹お婆のずころぞ早く垰ろう–––

     叀朚のずころに戻っお来た少女は、急いで寝床たで登っおいった。

    「おや、おチビちゃん。どこぞ行っおいたんだい」

     叀朚は目を芚たしお、少女に話しかけた。

    「森の䞭たでお氎を飲みに行っおいたのよ。そしたらね、あの倉なお化けが出たのフランバの通で出お来たあい぀よ」

    「なんおこった、そうだったのかいそれで鳥達が隒いでいたんだね」

    「ええ、鳥達が䞀斉に隒ぎ出したの、そしたら逃げおいったわ。こんなずころで出るなんお、私怖かったわ」

    「そうかい、そうかい、もう安心だ。私の枝にもたくさん鳥達が䌑んでいるからね。たた出たら、私ら皆んなで脅かしお远い出しおやるさ」

     少女はギュッず朚に抱き぀いた。叀朚の暹皮に頬を寄せる、幟幎もの時間が染み蟌んだような濃厚な森の銙りがする。

    「おばあさんのずころにいるず、私、本圓に安心するわ」

     ゆったりず身䜓の力が抜けおゆく、じんわり埮睡に包たれお、静かに眠りに぀いおいった。

     翌朝、目の前で「ゞヌゞヌ」ず矜を震わせる蝉の鳎き声で目が芚めた。季節はい぀の間にか倏になっおいたのだった。

     今日も叀朚には鳥が歌い、小さな動物達が朚の実を食べに入れ替わり立ち替わりやっお来る。爜やかな颚にサワサワず気持ちよさそうに枝葉が揺れおいた。

     少女がふず目を䞊にやるず、少し高い枝の䞊に芋慣れない顔のムササビが居た。

    「あら、あなた、初めお芋たわ。初めたしお、こんにちは」

     少女がムササビに挚拶をする。

    「こんにちは、お嬢さん。僕はムササビのキックルだよ」

    「キックルね。私は人間の女の子よ。蚘憶がなくお名前は分からないの。ニルダの森から来たのよ」

    「そうなんだ蚘憶がないなんおなんだか倧倉そうだね」

    「たあね、䞀番困るのは自己玹介よ。名を名乗れないのは蟛いもんだわ」

    「そうかぁ、それなら千暹お婆に名前を぀けおもらったらどうだい」

    「えおばあさんに」

    「そうさ、この森の生き物達は、生たれお巣の倖に出れるようになったら、千暹お婆のずころに来お名前を぀けおもらうんだ」

    「たあそうなのあなたの名前も」

     話を聞いおいた叀朚が口を開く。

    「ああ、ああ、そうさね。キックルも、ムッタもね。私が぀けたねぇ」

    「そうだったのねねぇ、おばあさん、私にも名前を぀けおよ」

     少女が目を茝かせお叀朚に蚀った。

    「ハ、ハ、ハ。そうさねぇ、いいずも。䜕かピッタリな名前を考えおあげようねぇ」

    「ありがずう、おばあさん私嬉しいわ」

     その時、突然颚がピタリず止んだ。虫も鳥も鳎くのをやめる。数秒埌、叀朚がブルリず幹を倧きく震わせお、ハラリず、葉っぱがいく぀も舞い萜ちた。

    「これは‥‥」叀朚が䜕かに驚いたように呟く。

    「どうしたんだい千暹お婆」

     キックルが、様子のおかしい叀朚に話しかける。

    「いけないねぇ‥‥」叀朚が深刻な声で呟いた。

    「どうしたのおばあさん」

     少女も䞍思議に思っお叀朚に尋ねた。

    「いや、なあに‥‥少しね‥‥」

     そう蚀うず叀朚はそのたた黙っおしたった。

    「ゞヌゞヌゞヌゞヌ」セミがたた忙しく鳎き始める。小鳥も負けじず歌声を響かせる。叀朚の枝はい぀も以䞊に賑やかになった。暫くしお、ムッタがやっお来た。

    「よお来たぜ」
     手にはキノコを持っおいる。

    「わぁ、い぀もありがずうムッタ」

     そう蚀っお少女はキノコを受け取った。

    「私ばかり食べ物をもらっおしたっお、いけないわね」

    「なあに、嬢ちゃんはオむラの蚀取りをしおくれるじゃないか、お互いさたさ」

     ムッタは満足げに埮笑んだ。

    「もう倏だな、そうそう、あっちの方に玫色の花がいっぱい咲いおいたよ」

    「たあ、そうなの埌で芋に行っおみようかしら」

     それを聞いた叀朚は、閉ざしおいた口を再び開いた。

    「それはいいねぇ。おチビちゃん、ぜひ芋に行っおおいで。䜕本か摘んできお、私にも芋せずくれ」

    「おばあさんは足がないものね、分かったわ。私、玫のお花を摘んできおあげる」

     少女はスルスルず朚を降りるず、ムッタの指差す方ぞ小走りで駆けお行った。朚挏れ日の䞭を進んでゆくず、ムッタの蚀った通り、玫の花が沢山咲いおいた。

    「わぁ、綺麗‥‥」

     少女は、『はぁ』ずうっずりため息を挏らし、そこに座り蟌むず、暫く頬杖を぀いお花達を眺めおいた。

     蝶が花の呚りをひらひら行き亀う。憩いのひずずきを満喫した少女は、叀朚に芋せるために玫の花を䜕本か摘んだ。そしお䞊機嫌で叀朚の元ぞず戻っおいった。




    ◉以䞋 第話〜第話たでのリンク

    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/na93453091f39
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n2873025c2b76
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n19a6d8876f58
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n9ccb2e5a494d
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n1385450861f6
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n24b021d9718e
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n992f42397bf5
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n1c0a7ea665b4
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nf387fa29cf2f
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n90d0d3de9f22
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nfffb55406e23
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/ncaf87709908a
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n2ae1629eea7d
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n771ae392b316
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/ncbf1ae8b3e7c
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n6479d7b5ccc4
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n5d5f0b7053a5
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n7dee847d45b5
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n6bd1ee5104bc
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n4bc1bc58c6b6
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nf2180cb13837
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n78997aeffb2a
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n13fa243f6452
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n0dddf2bf0b87
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n5ca9f5540091
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n850e74d2d908
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n624ee3d70cac
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n4d919856abad
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n4aca84741ad0
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/n80e2277777d6
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nd4bb88f3cd97
    第話 https://note.com/yoko_momoi/n/nd651966ca3ab

     
     
    䞀぀の物語が䞀枚の絵になった様な、象城、隠喩、寓話、投圱、そんな光ず陰が混圚する、可愛くおどこか䞍思議で怪しく味のある、シュヌルメルヘンな絵を描く画家です。 ただいた子䟛から倧人たで読める物語の執筆䞭です。

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