
#0 「苦難の会社員」 あらすじ・プロローグ
あらすじ
ある朝、都内のオフィスに出社した九人の社員を、異変が襲う。赤黒く染まった空、動かない時計、出口を塞ぐ謎の黒い壁。そして、会議室のモニターに浮かび上がった無機質な文字——『九人の中に、存在しないはずの社員が紛れている』。
どういうわけか、閉じ込められた九人の記憶には、揃って同じ靄がかかっていた。自分たちが犯してしまった罪。ある社員に関する記憶。それらを思い出すことだけが、脱出への唯一の道だと告げられる。思い出した者から順に、一人、また一人と姿を消していき……。
傲慢、保身、忖度、そして裏切り。理不尽に呑まれ、記憶の底に沈められてしまった「あの日」の真実とは。閉鎖空間ミステリーの果てに、あまりに哀しい真実が待つ。
プロローグ
空模様が、おかしくなった。
真っ赤に濁った積乱雲が、地を這うような重低音を引き連れて、突如、頭上に立ち込めた。その巨躯は腹の底で不気味な明滅を繰り返しながら、豪雪の帳を下ろし続けている。
空の色を映して燃えるように赤い雪の結晶が、広大な天を埋め尽くし、うぞうぞと蠢く。窓の外には、この世のものとは思えないほど悍ましい光景が広がっていた。
都内の一等地に建つオフィスビルの、十九階と二十階。その二フロアを占める某アパレル企業のオフィスは、今や外の世界から完全に切り離され、逃げ場のない二階建ての閉鎖空間と化していた。
雑然としたデスクが並ぶ二十階には、執務室と大小の会議室。内階段を下りた先の十九階には、来客用のショールームがある。両フロアにそれぞれ設けられた給湯室や喫煙所、化粧室にいたるまで、設備そのものは、どこにでもあるような真新しいオフィスだ。
しかし、決定的な異常が、私たちを囲い込んでいた。
エレベーターは沈黙し、行き来できるのは二つのフロアと、それらを繋ぐ内階段だけ。その先は、どういうわけか階上にも階下にも、一歩たりとも進むことができない。さらには電波さえも遮断されたこの空間は、私たちの声を外へ届ける術を、ことごとく奪い去っていた。
文字通り、私たちはこの高層階に、完全に閉じ込められている。
これが一時的な設備トラブルの類であれば、これほど重苦しい焦燥に苛まれることもなかったはずだ。
しかし、やはり異常で、狂っているのである。
どれだけ待っても朝が過ぎず、夜が訪れない。時間そのものが、ここでは一向に進まなかった。時計の針はぴたりとも動かず、午前九時きっかりを指し続けている。
私たちは、思い出さなければならない。この中に紛れ込んだ『存在しないはずの社員』のことを。
それが私たちに課された、この閉鎖空間からの唯一の脱出手段だった。
<次の話>
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#0 「苦難の会社員」あらすじ・プロローグ
#1 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#2 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#3 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#4 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#5 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#6 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#7 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#8 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#9 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#10 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#11 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#12 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
#13 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#14 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#15 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#16 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#17 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#18 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#19 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#20 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#21 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#22 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#23 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#24 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#25 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#26 「苦難の会社員」第二章罪の記憶
#27 「苦難の会社員」第三章苦難のしもべ
#28 「苦難の会社員」第三章苦難のしもべ
#29 「苦難の会社員」第三章苦難のしもべ
#30 「苦難の会社員」第三章苦難のしもべ
#31 「苦難の会社員」第三章苦難のしもべ
#32 「苦難の会社員」第三章苦難のしもべ
#33 「苦難の会社員」第三章苦難のしもべ
#34 「苦難の会社員」第三章苦難のしもべ
#35 「苦難の会社員」第三章苦難のしもべ
#36 「苦難の会社員」エピローグ