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#36 「苦難の会社員」 エピローグ

    #36 エピローグ


     規則正しい電子音が、聞こえる。

     瞼の裏に感じるのは、赤い空の禍々しい光ではなく、白く柔らかな、本物の朝の光。

     青葉が重い瞼を持ち上げると、そこにあったのは、病室の白い天井だった。腕に繋がれた点滴の管。包帯の巻かれた両手が、鈍く痛んでいる。あの夜、燃える瓦礫を掴んだ、火傷の痛みだった。

     夢ではなかった。

     窓の外では、雲ひとつない秋の空がどこまでも澄み渡っていた。雪は降っていない。ベッドサイドの時計の秒針が、かち、かち、と確かな音を立てて進んでいく。

     時間が、動いている。その当たり前の事実に、青葉の目から涙が一筋零れ落ちた。

     静香はもういない。山﨑さんも、もうこの世界にはいない。生きていることが、罰よりもずっと重い何かとして、青葉の上にのしかかってくる。いくら謝っても、謝りきれない。青葉の謝罪を受け止めてくれる人は、もう、どこにも存在しなかった。

     それでも。

     ──私と山﨑さんの分まで。ちゃんと、生きて

     頬に残る温もりの感触が、まだ消えていなかった。あの世界の、静香の手のひらの感触。それが幻だったとしても、静香は、言葉を届けに来てくれた。

     青葉は、包帯の巻かれた手をゆっくりと持ち上げ、朝の光に翳す。

     全力で生きよう、と思った。生きなければいけない。償いとして。罰として。二人がその命で守り抜いてくれた、この続きを。

     午前九時〇〇分。

     窓の外の空は、ただ、底抜けに青かった。


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    #0 「苦難の会社員」あらすじ・プロローグ
    #1 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
    #2 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
    #3 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
    #4 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
    #5 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
    #6 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
    #7 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
    #8 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
    #9 「苦難の会社員」第一章午前九時の空
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    #36 「苦難の会社員」エピローグ

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