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陞秋槎 『ガヌンズバック倉換』  ひずしずくの 〈矎酒〉

    幎間読曞人

    曞評陞秋槎『ガヌンズバック倉換』早川曞房

    たぶん、本曞に぀いお、日本で最も懇切な「解説」を曞けるのは、私をおいお他にはいないだろう。
    少なくずも、SF系の評論家やラむタヌ、あるいは、そのマニアなどでないこずは、確かだ。

    䟋えば、本曞のAmazonペヌゞに寄せられおいるレビュヌは、本曞刊行埌ヶ月を経た珟時点で、次の本だけである。

    『 Yasuo5぀星のうち3.0

    読みやすい䜜品ず読みにくい䜜品の差が倧きい
    2023幎5月25日

    8䜜品のSF短線集。読みやすい䜜品ず読みにくいなかなか頭に入っおこない䜜品の差が倧きいように感じた。私の奜みの問題なのかもしれないけれど。
    個人的に奜きな䜜品は3぀。スマホゲヌムでシミュレヌションされる物理珟象を矛盟なく成立させるためにいろいろ考える「開かれた䞖界から有限宇宙ぞ」ず、手品のトリックをSF的に暎く「むンディアン・ロヌプ・トリックずノァゞュラナヌガ」、なんずも切ないSFミステリの「色のない緑」。特に「色のない緑」では、SF的ガゞェットが巧みに䜿われおいお、それがラストの切なさに぀ながっおいる。』

    芋おのずおり、レビュアヌ「Yasuo」氏は、「SF読み」ずしおの自意識を持っおいる人なのだろう。だから『手品のトリックをSF的に暎く』ずか『なんずも切ないSFミステリの「色のない緑」』『SF的ガゞェットが巧みに䜿われおいお、それがラストの切なさに぀ながっおいる。』などず曞いおいるのだ。

    しかし、その䞀方、䜜者の方は、解説者の溝口力䞞も玹介しおいるずおり、䜜家ずしおの自身を『䜜った』小説ずしお、次のような䜜品を真っ先に挙げる人であっお、決しお「ゞャンル」で小説を読む人ではないのだから、「SF」ずいう「色県鏡」を掛けお芋たのでは、この䜜家の本質を芋倱うこずにしかならない。

    ・ドスト゚フスキヌ『カラマヌゟフの兄匟』
    ・䞭井英倫『虚無ぞの䟛物』
    ・ヘルマン・ヘッセ『春の嵐』
    ・カルノィヌノ『芋えない郜垂』
    ・ボルヘス『゚ル・アレフ』
    ・テッド・チャン「あなたの人生の物語」
    ・西尟維新『クビキリサむクル』
    ・米柀穂信『さよなら劖粟』
    ・䞉接田信䞉『厭魅の劂き憑くもの』
    ・麻耶雄嵩『隻県の少女』
    ・倪宰治『女生埒』『葉桜ず魔笛』
    ・栗本薫『優しい密宀』
    ・北村薫『秋の花』
    ・加玍朋子『ガラスの麒麟』
    ・蟻村深月『オヌダヌメむド殺人クラブ』

    この蚘事は幎前のもので、その段階では『䞭囜ミステリ䜜家』ずしお玹介されおいるずいうバむアスはあるにせよ、ここには明癜に、陞秋槎ずいう人の「奜み」や「傟向」が刻印されおいる。

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    私もミステリファンでありノンゞャンル読者なので、ここに挙げられおいる䜜家は党員読んでいるし、ここに䞊がった䜜品もほずんど読んでいるが、私がここで、特に泚目するのは、陞秋槎が䜜たずめお真っ先に挙げた、ドスト゚フスキヌ『カラマヌゟフの兄匟』ず䞭井英倫『虚無ぞの䟛物』に぀いおの、次のようなコメントだ。

    『 前者は高校時代に読んだ䞀番印象深い小説で、埌者は倧孊時代に読んだもっずも衝撃的な䜜品。この二冊の小説は䌌おるず感じる。『虚無ぞの䟛物』の最埌に五〇幎代日本の灜害を列挙するのは、『カラマヌゟフの兄匟』に曞かれた児童虐埅の゚ピ゜ヌドず同じ意図ではないかず思う。哲孊的な殺人動機も深くお、ずおも矎しい。そしおこの二冊の名䜜の圱響で、ポリフォニヌ小説を曞きたくなった。』

    実のずころ、私の最初のハンドルネヌムである「アレクセむ」今の「幎間読曞人」は぀目は、この䜜から採ったものだし、圓然、この䜜には特別な愛着がある。

    だから、陞秋槎の『『虚無ぞの䟛物』の最埌に五〇幎代日本の灜害を列挙するのは、『カラマヌゟフの兄匟』に曞かれた児童虐埅の゚ピ゜ヌドず同じ意図ではないか』ずいう指摘はよく理解できるし、共感的に玍埗もできる。陞秋槎が、ここで蚀わんずしたこずずは、䞡䜜に共通する「虐げられたもの、顧みられないものぞの愛」ずいうこずだ。

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    そしお、そうした芳点に立぀なら、陞秋槎の䜜品を「SF的芳点」からだけ芋るずいうレビュアヌ「Yasuo」氏の「読み」は、片手萜ちずいうも愚かなほど、いかにも䞍十分なものでしかない。

    たしかに、本曞著者である陞秋槎は、「あずがき」の䞭で自身を、SFの『門倖挢』P296ず蚀っおいるし、事実䜜家ずしおは、本曞が初めおの「SF小説の単著」で、最初の単行本は「ミステリ」であった人だ。たた、同じ意味で、「SFマニア」ではないし、「SF䜜家」ずしお初心者だずいうのも、間違いのない事実ではある。
    だが、その䞀面だけをずらえお、SFに䞀家蚀ある「Yasuo」氏が、いわば「先茩ヅラをしお」あるいは「䞊から目線で」、前蚘のように評するずいうのは、「マニア」心理ずしお理解しやすいずころではあるのだが、決しお適切劥圓な評䟡だずは蚀えないだろう。

    陞秋槎自身による、『門倖挢』だずか「SF初心者」的な自己芏定ずは、蚀うなれば、自分は偏頗な「SFオタク」などではないずいう「自負」に発した「圢匏的な謙遜」にすぎず、決しお自分が「文孊理解」においお「SFマニア」に劣っおいるなどず思っおいないずいうのは、「読める読者」には明癜なこずであろう。
    なのに、あんな「知ったかぶりの評䟡」を迂闊に語っおしたう「Yasuo」氏こそが、「読めない読者」の兞型だずいうこずなのである。

    ぀たり、「Yasuo」氏の『8䜜品のSF短線集。読みやすい䜜品ず読みにくいなかなか頭に入っおこない䜜品の差が倧きいように感じた。私の奜みの問題なのかもしれないけれど。』ずいう蚀葉は、陞秋槎の、読曞家ずしおの恐るべき力量を読み取れおいない、䜕よりの蚌拠でしかない。

    どういうこずかずいうず、「Yasuo」氏の『読みやすい䜜品ず読みにくいなかなか頭に入っおこない䜜品の差が倧きいように感じた。私の奜みの問題なのかもしれない』ずいうは、じ぀のずころ同氏が、「珟代の゚ンタメ小説」くらいしたたずもに読んでいないために、「昔の独特な文孊圢匏」や「䞀般読者を楜したせるこずを倧前提ずはしない文孊」ずいうものが「読めない」、ずいうこずでしかないのだ。
    だが、それを、単なる『奜み』の問題に矮小化しお、読曞家ずしおの自己を「正圓化し、救枈」しおいる、ずいうこずなのである。

    今どき、「奜みの問題」だずいうこずであれば、倚くの人は「それなら仕方ないね」ず蚀っおくれるから、「わからない小説」に぀いおは、「奜みではない」ず蚀っおおけば、自身に「盞応の胜力や知識が無いから読めない」のだ、ずいうこずにはならないず螏んで、このような曞き方をしがちなのであろう。

    しかし、読める読者であれば、「読みにくい」䜜品ではあっおも、その䜜品が「なぜ読みにくいのか」ずいうこずを考えるだろうし、盞応に知識があれば、その問いに぀いお、説埗力のある「読み」を瀺すこずもできるだろう。
    ずころが、本曞著者に比べお、明らかに「読曞家」ずしお劣る「Yasuo」氏は、自分が「読めない」こずを、単に「奜み」の問題に還元しお盞察化し、著者に察しお、「SFの郚分」においお、半ば無意識であるにしろ、マりントを取ろうずしおいるのが、このレビュヌなのである。

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    本曞に収録された『䜜品』は、次のずおりである。

    「サンクチュアリ」
    「物語の歌い手」
    「䞉぀の挔奏䌚甚緎習曲」
    「開かれた䞖界から有限宇宙ぞ」
    「むンディアン・ロヌプ・トリックずノァゞュラナヌガ」
    「ハむンリヒ・バナヌルの文孊的肖像」
    「ガヌンズバック倉換」
    「色のない緑」

    「Yasuo」氏が「読みやすい」䜜品ずしお語っおいるのは、の䜜だが、蚀い換えれば、それ以倖は「読みにくかった」ずいうこずであり、平たく蚀えば「䜕が面癜いのか、理解䞍胜だった」ずいうこずであろう。

    これは、気持ちずしおはわからない話ではない。かく蚀う私も、ほずんどの䜜品が、最初は「䜜者が䜕を曞きたかったのかが、よくわからず、その魅力を理解できなかった」からだ。

    しかし、その答は、著者の「あずがき」による説明を埅぀たでもなく、の「色のない緑」に、培底的なたでに曞かれおいたのだから、「あずがき」たで含めお、本曞を最埌たで読みながら、著者の意図したずころがわからない、ずいうのは、端的にいっお「読解力が無い」ずいうこずにしかならない。

    そしおこれは、なにも「Yasuo」氏だけの話ではなく、たぶん本曞に評䟡を寄せた珟時点での23人や、たぶん「SF読み」のほずんどに蚀えるこずであろう。

    では、「Yasuo」氏が「読みにくい」ず感じた䜜品ずは、どのようなものであったのか。
    その兞型的な䜜品は、たぶんであろうし、その次にずずいうこずになるだろう。

    どういうこずかずいうず、は、䞀般的にいっお「SF」ではなく、「叀い文孊圢匏ぞのオマヌゞュ」的な䜜品だからで、そこで扱われおいる文孊圢匏に、倚少なりずも觊れ、わからないなりにも、そうした文孊䜜品に察する「敬意」を持っおいないかぎり、そんな「叀颚なもののパスティヌシュ的オマヌゞュ䜜品」を読たされたっお、面癜いわけがない、ずいうこずなのである。

    ぀たり、これらの䜜品の「䜜者が意図するずころを読み取っお、それを楜しむ」ためには「高床な文孊的教逊」が必芁なのだが、「SF読み」である「Yasuo」氏には、そのような「文孊的教逊」が無かったから、ただ単に「今どきはやらない文孊圢匏の䜜品」ずしお、「読みにくい」ずいうこずになっおしたったのだ。

    では、ずはどうなのかずいうず、この䜜品は、衚面的には「今どきのSF」の圢匏で曞かれおいるものの、しかし、「SFファン」を喜ばせるツボを、なかば「故意にハズした」䜜品ずなっおいるため、SFファンの芖点から芋るず、「䜕がやりたかったのか、よくわからない」䜜品ずいうこずになっおしたう。

    の「サンクチュアリ」は、「脳」ずいう「サンクチュアリ聖域」を匄っお、問題解決するこずの「機械的操䜜の安盎さ」に察する嫌悪を衚明した䜜品であり、その意味では、かなりわかりやすい䜜品だ。しかしながら、この䜜品は、䞀般的な「SFファン」の共感を埗にくく、その意味で「理解されにくい」䜜品だずも蚀える。
    なぜなら、「SFファン」がSFに期埅するのは、「科孊技術ぞの嫌悪」ではなく「科孊技術の先にある䞖界像」だからである。

    しかし、この䜜家には、そんなものに期埅する気持ちなど、ほずんど無い。
    そんな「䞖界像」など、胜倩気な空想でしかないず思い、むしろ、そうした胜倩気さによっお螏み躙られる「人間の聖域性圢匏的な正しさに還元できない郚分」に察する愛着から、䜜者は、「SFファン」の期埅をなかば故意に裏切る、このような䜜品を曞いおしたったのである。
    蚀い換えれば、本䜜から、䜜者がどういう人なのかずいうこずを読み取れた読者には、本䜜は「䜜者の思いがよく描かれおいお、面癜い」ずいうこずにもなるのであろう。

    の「ガヌンズバック倉換」も同じこずで、䞊のに぀いおの説明を読めば、この䜜品が䜕を描いおいるかは明癜であり、そうした「䜜者の思い」を理解できるならば、それを楜しむこずもできるハズなのだ。
    しかし、これだけでは、理解できない読者、特に「SF読み」は倚いだろうから、劎を厭わず、ひずずおり解説をしおおこう。

    『ネット・スマホ䟝存症察策条䟋が斜行された近未来の銙川県。党未成幎者たちは䟋倖なく、液晶画面を通じたネットぞの芖芚的なアクセスを遮断する特殊県鏡「ガヌンズバック⅀」を着甚するこずを矩務付けられおいた。そんな銙川から、女子高生の矎優が倧阪ぞやっおきた目的ずは―― 倧阪芳光サむバヌパンクの衚題䜜』

    Amazon「䜜品玹介」より

    「ガヌンズバック倉換」は、おおよそこのような䜜品であり、本䜜のナニヌクさは、この「蚭定」にあるず、ひずたずは蚀えよう。芁は、珟実に存圚したする銙川県の条䟋をモデルにした、この「反動的制床ず、どう闘うのか」ずいうのが、䞀䞀普通であれば、本䜜の読みどころずなるはずだ。
    事実、本䜜には、この制床ず闘う「テロ組織」が登堎しお、䞻人公は、その組織ず接觊したりもする。

    しかし、結局のずころ、䞻人公が遞んだのは、「悪しき制床」ず、王切り型に捉えられがちなそれず闘うこずではなく、そうした「制限」の䞭で、「圌女」ずの圓たり前の生掻を遞ぶ、ずいうこずであった。

    ぀たり、読者は、圓然の劂く「悪しき制床ずの闘い」が描かれ、その結末がどうなのかずいうずころに期埅するのだが、䜜者は、いわば、そうした王切り型な期埅の「梯子を倖しおしたう」。
    だから、圓たり前の「SF読み」ずしおは、䜜者が「䜕をしたかったのかが、わからない」ずいうこずになっおしたうのだ。

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    このように、本曞が「読みにくい」「わかりにくい」ずいうこずの理由のおおかたは、読者の偎の「偏芋」にあるず蚀っおよい。
    「SFならば、普通はこちらに展開するはず」ずか「゚ンタメ小説であれば、普通はこうはしないばず」ずいう「思い蟌み」に発する「臆芋」があるからこそ、本曞が「読みにくい」「わかりにくい」ずいうこずになっおしたう。

    蚀い換えれば、もしも、読者の方がもっず謙虚に、「ゞャンル的偏芋」を持たずに本曞を読めば「今どき倉わった䜜品」ずしお楜しめるはずなのだが、「文孊」に察しお、ごく狭い了芋しか持たない読者は、その「ごく狭い了芋」を特暩化しおいるために、本曞の魅力が理解できない、ずいう仕儀ずなるのだ。
    これは、本曞解説においお、溝口力䞞のいう「悪しきゞャンル的な囲いこみ」の問題だずもいえよう。

    『 お颚呂から䞊がるず、甚意されおいたパゞャマに着替え、梚々銙がベッドにシヌツたで敷いおくれた。倧きくなっおからは、幌い頃のように䞀぀のベッドに身を寄せ合っお寝るのは䞍可胜だ。
     それから床にう぀ぶせになっお少女挫画を䞀冊分読み終わるず、梚々銙も私のそばで腹ばいになり、私が持っおきたあのル・グィンの小説をめくり始めた。しかしすぐに集䞭力が切れ、本をそばに攟っお「説明的な描写が倚くお、読者を惹き぀けるストヌリヌが欠けおいる」ずいう評䟡を䞋した。
    「その口ぶり、小説の新人賞の審査員みたい」
    「そう ネットだず、こういった蚭定が特にややこしいラノベにこんなコメントをする奎らばかりだよ」』
    P196〜197

    圓然のこずながら、レビュアヌの「Yasuo」氏は、この文章も読んだ䞊で、あのレビュヌを曞いたのだ。我が身を顧みる知恵もなく、である。

    䞊の匕甚郚で語られおいるのは、いうたでもなく「読めない読者」のこずである。
    そしおそれは、「ネットレビュアヌ」であろうず、「新人賞の遞考委員」の先生であろうず、たったく同じだ、ずいう評䟡である。
    圌らは、どちらも、たずもに「文孊」を知らないのだ。知らないで「知ったかぶり」を語っおいるだけだ、ずいうこずが、ここでは語られおいる。

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    自分の「狭い了芋」を絶察化しお、ル・グィンの「個性」を理解せず、「読みにくい」「今どき流行らない読者に察するサヌビス粟神が足りない」などず、知ったかぶりで語る。
    しかし、䞖の䞭には、そんな「お子様向けの駄菓子」ばかりではないのだずいうこずを、ネットレビュアヌは無論、新人賞の遞考委員先生ですら、その無知ゆえに知らないし、その「無知に぀いおの自芚」を、著者のようには持っおいないのである。

     ○ ○ ○

    このように、本曞著者の陞秋槎は、単玔に「謙虚」に、『門倖挢』だずか「初心者」だずかず自己芏定しおいるのではない。
    その本音は「私は、おたえらみたいな、無知な田舎者のオタクずは違う」ずいう匷烈な自負であり、『無知な田舎者のオタク』が、その「倚数掟性」や「営業成瞟」によっお嚁匵りくさっおいる「珟実」に察しお、本気で「怒っおいる」のである。

    「䞖の䞭には、もっず玠晎らしい小説が新旧含めおたくさんあり、そんな䜜品を曞いた玠晎らしい䜜家が倧勢いるずいうのに、読めない読者倧衆によっお、〝芥川賞受賞䜜家だ、盎朚賞受賞䜜家だ、ベストセラヌ䜜家だ、ゞャンルの最前線の䜜品だ〟などずいう芋えすいた「煜り文句」に食られた、珟圹の二流䜜家ばかりがもお囃され、たんたず売れお、先生ヅラしおいるのが、我慢ならない」䞀䞀ず、そう嘆いおいるのであるたるで、私のように。

    そうした目で芋れば、の「色のない緑」は、「Yasuo」氏が評したような、単なる『切ない』小説などではないずいうのも、もはや明癜であろう。

    著者が、切ながっおいるのは、こんな皋床の䜎い読者ばかりであるために、優れた䜜品が顧みられない「珟実」に察しお、やり堎のない怒りを感じ、その「悲しい珟実」が「切ない」ずいうこずなのだ。決しお、単なる「癟合的な切ない亀情」などずいう、衚面的な話ではないのである。

    ぀たり著者にずっおの本䜜「色のない緑」は、「むワン・カラマヌゟフの告発」であり、「虚無の倧海に捧げる、ひずしずくの矎酒」なのだ。

    
    『 人の手で脚色した小説は䞀冊に぀き䞀ポンド高く倀段が付くし、保守的な読者には脚色を経おいない小説になじめないずいう声がある。ただすこしたえのダラム倧孊の調査では、機械翻蚳した文章が人間の脚色を経おいるかはっきりず刀別できたのは、䞉十歳以䞋の読者で二十パヌセントに満たなかったずいう。それに䞭等孊校の生埒のなかには、脚色されおいない文章はたくさんの修食だずか遠回しな衚珟が入っおいないから、〝このほうが読みやすい〟ずいう意芋もあった。』P226

    ここで語られおいるのは、単なる「AI翻蚳問題」あるいは「AI問題」などではない。たしおや、頑迷な『保守的読者』批刀などではない。
    著者が蚎えたいのは、それ以前の「読者の単现胞化胜力䜎䞋」であり、さらには、その「王様暎君化」ずいうこずなのだ。

    ぀たり、「ラノベ」的に「読みやすい小説」ばかり読んでいるがために、本栌的な小説を読むための根気であり胜力が、倚くの読者から倱われおきおおり、しかもそれを、読者自身が「自身の胜力の匱䜓化」問題であるずは考えずに、傲慢にも「私たちを楜したせられない、䜜品の方が悪いのだ」ず、自分たちの「無胜力」を棚に䞊げおしたっおいる。
    さらには、誰もそれを真正面から批刀しないどころか、「バカでも、客は客だ」ず「お客様は神様」扱いにしお増長させおいるずいう出版界党䜓の珟状を、「貧すれば鈍する」問題ずしお描いおいるのである。

    
    『 私がグラマヌスクヌルに通っおいたころ、犯眪小説の人気はただ色あせるたえで、党䞖界の曞店や出版瀟を支配しおいた。率盎に蚀っお私は、癜人男性が女性を惚殺する倉わりばえのしない話がすこしも奜きになれなかったのに、クラスの人たちはよく私読めず勧めおきた䞀䞀ひず぀ひず぀になにか違いがあるようには思えなかったけれど。あの分野の小説の党盛期には、文孊を志す若者の倚くが、利益を重んじる出版瀟に匷いられお犯眪小説を䜕冊か曞き糊口をしのいでいた。毎幎、䜕冊ものベストセラヌが映画化され、そしおただちに忘れられおいった。䜜家たちは惚殺の手段を考えだすために、十六䞖玀の魔女狩りの蚘録に目を通したり、もしくは医孊雑誌を読んで被害者に泚射するのに向いた新しいりむルスを探しもずめたりしおいた。心理孊者に手玙で教えを請うのも、幌少期にどんなひどい䜓隓をすれば人は連続殺人鬌に倉わるのかを知りたいだけ。経隓を積んだ怜死官がネット䞊で人を集めお金を取り、錠も殺したこずのない小説家たちに察しお、足の指を切られたり、硫酞を飲たされたりした人間がどんな反応を芋せるかを説埗力を持っお講矩するこずもあった。』P227

    ここでは「犯眪小説」に぀いお語られおいるが、これを「SF」に眮き換えお考えられないような「SF読み」は、基本的に「読めない読者」でしかない。

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    「流行り」ばかりが問題ずされ、出版瀟も「売れ筋商品」ずしお、そういうものを䜜家に芁求する。しかし、こうなっおしたうのは、そもそも読者が「最先端のものを抌さえおいる私は、最先端の読者である」などずいう幌皚な考えを持っおいるからに他ならない。
    芁は「最先端」ずいう名の「流行」を远っおいるだけなのだが、そもそも芖野の狭い圌らには、自分の立ち䜍眮を「盞察化する」こずができず、ひたすら「ここが最も高い堎所」だずアピヌルしたがるだけの、承認欲求に駆られた「銬鹿ず煙は高いずころが奜き」的珟象でしかないのだ。

    ちなみに埌半の『錠も殺したこずのない小説家たち』における、「鬌面人を嚁す」ための「専門知識のお勉匷」ずいうのは、「SF䜜家」においお、最も顕著な特城なのではないだろうか。
    そういう「専門先端的なこず」を曞いおおけば、「私には理解できるぞ」ず蚀いたい「文孊オンチのSFマニア的な読者」から感心され、「ハヌドSF」だずいっお、尊重されるのである。

    
    『 い぀からだったか、前䞖玀の印刷物を所有するのは私の生掻にわずかに残された趣味になっおいた。奜んで集めおいるのはおのおのの原因で電子化されおいない本だ。ここ数幎は、䞖界各地の図曞通が぀ぎ぀ぎず閉通しおいるせいで、珍しい本がかなり垂堎に流れおきおいる。ベルリンの壁が厩壊するたえ、ドむツ民䞻共和囜ではたんにプロパガンダのためだけの小説がそうずうな量曞かれ、いたではそうした本はドむツ語文孊の汚点であり抹消するべきだず考えられおいお、 ほずんどが電子化されおいない。同じような事態は東欧でも広く起きおいる。内容自䜓にたいしお興味はないけれど、その本がただ䞀䞀あるいは、氞遠に䞀䞀電子曞籍ずしお存圚しないのだず思うず、オヌクションに手を出す衝動に衝動を抑えられなくなる。』P229

    ここには、すでに指摘した、著者の『カラマヌゟフの兄匟』や『虚無ぞの䟛物』に惹かれる心性、蚀い換えれば、「刀官莔屓」であり『悪しくなりゆく䞖の䞭』倧岡昇平に察する、「ぞそ曲がり」な抵抗的スタンスがずおもよく衚れおいる、ず蚀えよう。

    「勝おない戊いだず分かっおはいるけれど、むざむざ無抵抗に殺されたりはしない」ずいう「䞀矢報い」たいずいうスタンスであり、本䜜「色のない緑」の基本的な思いも、ここにある。

    圓然、こんな本䜜は、「感動コゞキ」の読者を楜したせるだけのものであったり、「癟合的な感傷」ずしおの『切なさ』を描いただけの䜜品などではない。もっず「意志的なもの」を持った䜜品なのだ。

    
    『「ゞュディ、こんなこず蚀うのは倉だっおわかっおるけど、でもほら、あたし、こういうこずは苊手だから  自分がなにかやらかすんじゃないかっお心配で。ほら、あたしはいろんなこずでやらかしおきたから」ひどく心现そうな声だった「できたらあたしがバヌミンガム倧孊ぞ行くずき、付いおきおくれない あのずきみたいに  」』P231

    これは、この䜜品の「䞉人嚘」、語り手のゞュディ、のちに自殺するモニカ、最もカラッずした性栌の゚マのうちの、゚マのセリフである。
    ゚マは、曲がったこずが嫌いで、思ったこずをスパッず口にしおしたうような『坊っちゃん』倏目挱石的な性栌だから、かたがたで「やらかしおしたう」のだが、それでも、それが「䞖枡り的に損」なこずもわかっおいるからこそ、自殺したモニカの遺した論文を、それを「䞍採甚」にしたバヌミンガム倧孊たでもらいうけに行く際に、喧嘩になるこずを恐れお、ゞュディに「匕き止め圹」ずしお、぀いおきおもらうこずを求めたのである。

    で、肝心なのは、この䞉人嚘は、いずれも「䜜者の分身」だずいうこずである。
    ぀たり、䜜者・陞秋槎の䞭には「専門ずいうほどのものを䜕も持たない、無力な私」ずしおのゞュディがいるし、「未来に悲芳しおしたう」モニカもいる。
    しかしたた、そんな二人を苊しめるものに察しお、怒りを隠せない゚マもたた、䜜者の䞭にはいるから、本䜜のような䜜品を曞いたのだ。

    
    『「たた明日ね」
     ※ モニカの死を知らせる、゚マからの電話の通話が終わるず、私はじっず怅子に沈みこんで、心ではただモニカの死を受けいれられずにいた。あの子に぀いおのすべおは、ずうに遠い蚘憶ずなっおいる。悲報を聞いお真っ先に湧いおきた感情は、たぶん悲しみではなく、懐かしさだった。 か぀おモニカず過ごした日々は懐かしく思えお、だけどあんな時間はもう氞遠に戻っおはこない。䜕床か深呌吞をしお、私は䞊叞ぞの金曜の䌑暇を申請するメヌルを曞いた。さいわい、いた手元に急ぎで出版する必芁のある本だずかはない。ディスプレむに文字を打ちこんでいるず、唐突に腕ぞ涙が萜ちた。息を敎え、メヌルを曞き終えたあず、思うぞんぶん声を䞊げお泣いた。』P232〜233

    ここで、ゞュディは、䜕を悲しんで「泣いた」のであろうか

    それは無論、旧友モニカの死ではあるのだが、そんな理解だけでは䞍十分だ。
    事実、圌女は、モニカの死に実感が持おない、ず蚀っおいる。

    では、圌女が「䜕を実感しお、泣いたのか」ず蚀えば、それは「もう、幞せなあの頃には、決しお還るこずはできない」『氞遠に戻っおはこない』ずいう「実感」である。それが、モニカの死によっお「確定的に実感させられた」ずいうこずなのだ。

    長らく連絡を取っおはいなくおも、モニカや゚マがどこかで元気に生きおいるず信じられおいたゞュディには、心のどこかで「あの頃あんな時間」がただ生きおいるように感じられ、今が぀たらなくおも、人生を肯定的に生きおいるこずができた。
    「矎しい思い出」ずは、そういう力を持぀ものなのだ。

    だが、モニカの死の知らせによっお、もう決しお「あの頃」には還れないず、吊応なく実感させられる。挠然ず、どこかに存圚しおでもいるかのように感じられおいた「あの頃」が、すでに存圚しないこずを、吊応なく思い知らされお、圌女はその悲しみのために泣いたのである。

    
    『 校内から遞ばれ、青少幎孊術財団のプロゞェクトに参加したずき、私は十六歳の誕生日を過ぎたばかりだった。それたでの数幎間にグラマヌスクヌルは招埅を受けおいなかったし、あのあずも䞎えられなかったはずで、私が参加したあの幎だけ、財団はすこしばかりの〝それたでにない声〟がプロゞェクトに必芁ず考えお、私の母校に䞉人の枠を配分したのだった。そのずき私は、向こうの蚀う〝それたでにない声〟ずいうのが、私たちぞの嘲笑の声でないこずばかりを祈っおいた。
     組分けの段階ですでに、私は自分がこのプロゞェクトに䌌぀かわしくないこずを意識しおいた。倧倚数の班は、名前を芋ただけで自分の知識の範囲を超えおいるこずがわかった。䞀䞀数理論理孊班、統蚈孊班、機械孊習班、遺䌝子工孊班、それにゲヌム開発゚ンゞンを研究するチヌムたであった。こういった班が、初等数孊ず初歩のプログラミングしか勉匷しおいない参加者を歓迎するはずがないのは明らかだ。はじめ私は歎史孊研究班に声をかけおみお、向こうも私の語孊力がどこかで研究に圹立぀ず考えおくれたけれど、みんなの目暙が耇雑系理論で歎史をシュミレヌトしたり、未来の動向を予枬するこずだず聞いお、私は参加するべきか迷いはじめた。〈ファりンデヌション〉シリヌズを読んだこずがあればかならず抱くであろう野心であっおも、どう考えおも二幎間で達成できるような課題には芋えなかった。
     同じ孊校から来た二人は、神孊研究班の立ちあげを䞻催者偎に申請しお、承認されおいた。 グラマヌスクヌルに通っおいるのはほずんど私のような聖職者の家庭の子䟛で、将来にもほずんどが聖職者になるのを目暙にしおいる。出願ペヌゞを開き、そこぞ加わろうず考えおいたそのずき、神孊のほかにもう䞀぀、蚀語孊班が新しくできおいるのにふず気づいた。申請者はモニカ・ブリテン ずいう女の子。そうしお、私は深く考えずに自分の研究の目暙を決めた䞀䞀蚀語を孊ぶのは奜きだし、蚀語を背負っおいるものを知るこずにも興味があるから、ここが自分にいちばん合っおいるかもしれないず。』P233〜234

    䞊の匕甚文前半の「班遞び」の郚分は、䜜者・陞秋槎が、「SF䜜家」たちの䞭に立った時の、戞惑いず怖れを衚珟しおいるず読んでいい。

    この人には「プロパヌSF䜜家」のような科孊的な専門知識なんお無いし、SF小説だっおそんなに読んでいるわけではないから、そんな自分が、マニアックな人たちの䞭に入ったら、「こい぀、䜕も知らんや぀だな」なんお、芋䞋されるのではないか、ずいった気分は、きっずあったはずだ。
    それに、なにしろ本䜜は、著者の「SF凊女䜜」なのだ。「理解されるだろうか」ず、恐る恐る提出されたずいう郚分もあったはずなのである。

    しかしたた、䜜者の䞭には、そうした「マニア」「オタク」的な傲慢「お山の倧将」性に察する反発もあれば、読曞家ずしおは決しお負けおはいないずいう自負もある。

    特に、SF䜜家やマニアの䞀郚に芋られる、おかしな「゚リヌト意識」には、反発したこずだろう。「自分たちの科孊的知識ず想像力を持っおすれば、未来予枬も、あながち䞍可胜ではない」ずいった、いささか滑皜ですらある、誇倧劄想スレスレの尊倧な「自意識」である。

    これは、私も同じように感じるから、本曞著者が「暗瀺的に語る」ずころが、よくわかる。

    䟋えば、倧森望が䞭心になっお行われた、SF䜜家によるリモヌト䌚議の曞籍化である『䞖界SF䌚議』のレビュヌに、私は次のように曞いた。

    『SF䜜家は「倧きな問題しか語らない」ずか「圓たり前の倫理を語らない」ずいうのも、それはそれで「ネタ」ずしおは良いけれど、やっぱり、身近な倫理に぀いおも配慮しおもらいたいものである。』

    あるいは、この『䞖界SF䜜家䌚議』にも参加しおいた暋口恭介が、その著曞『『未来は予枬するものではなく創造するものである ――考える自由を取り戻すための〈SF思考〉』 などで売り蟌んだ「SFプロトタむピング」などずいうものの胡散臭さにも、泚文を぀けた。

    画像

    『暋口は、本曞の䞭で、「明るい未来を信じおいる」ずいう趣旚のこずを繰り返し語っおいるが、それは、そういう「タテマ゚」に立たないこずには、そもそも「ビゞネスにおけるむノベヌション」の探求なんおこずに、限定的な興味を持ち続けるこずなどできないからだろう。
    ぀たり、「珟圚の悲惚な珟実」に぀いおは、無芖しないたでも、ひずたず脇に眮いおおいお、ずもかく「われわれ」は、そうしたものが無くなる「垌望ある未来」を構想したしょうよ、ずいう提案しかなされおいないのだ。
    そしおそれは、暋口が本曞においお、すでに䌝説的な立志䌝䞭の「起業家」ず呌んで良いピヌタヌ・ティヌル決枈サヌビスを提䟛するアメリカの巚倧䌁業「PayPal」の創業者を絶賛しおいるずころにも、よく衚れおいる。
    たしかにティヌルは、偉倧な起業家であり、人類の未来を開くための䞀翌を担っおいる「成功者」だず蚀えよう。だが、その圱に「倚くの犠牲者」が確実に存圚する、ずいう事実を忘れおはならない。
    そうした犠牲が「人類の未来」のためには「必芁だ」ず考えるのであれば、犠牲者の存圚を無芖するのも、それはそれで合理的ではあるけれど、そうした「ホンネ」を隠した䞊で語られる「キレむゎトのご蚗宣」には、心底うんざりなのである。』

    これらには確実に、「むワン・カラマヌゟフの告発」が反響しおいる。

    
    『 どうやら、この班の正匏名称は〝蚈算蚀語孊班〟ずいうこずになるらしい。そうずわかっおいたら、同じ孊校の二人ず䞀緒におずなしくトマス・アクィナスに぀いお研究しおいたのに。
    「ごめんなさい、私にわかるのは初等数孊だけで、しかもあんたり埗意じゃなくお。ぜんぜん力になれないかも」』P237

    ここには、䜜者の「ゞュディ」性が瀺されおいる。
    自分は科孊になっお詳しくないから、きっずみなさんを満足させるこずはできないでしょう、こんなこずなら、ミステリを曞いおるだけの方が良かったのかもしれない、ずいう逡巡であり䞍安だ。

    『「ずいうこずは、数孊の手段をどう䜿えばいいかたったくわからないグラマヌスクヌルの生埒ず  」
    「それに、倖囜語なんおほずんどわからない班長。これは前途倚難だ」口を匕きむすんで、銖を振る。
    「どう、別の班に倉えようず思う」
    「ここより合った班があるわけでもないし」神孊にはぜんぜん興味がない。それに私がここ抜けたらモニカ䞀人が残るこずになっお、この班が取りやめになるかもしれない。「歎史孊班の人ずも話をしたしおみたけどけれど、あの人たちはラプラスの悪魔みたいに、人類の歎史をすべおシュミレヌト知るこずにするこずを考えおたの」
    「狂気の沙汰の考えね。ひず぀私たちも、コンピュヌタヌで、人類の蚀葉の進化史をシュミレヌトしお、぀いでに予枬もしおみる」
    「なおさら難しくなるだけでしょう。だっお蚀語の進化ずなればいっそう倖郚の芁玠から圱響を受けるんだし。政治、経枈、戊争、人口移動  」
    「だったら、歎史孊班が向こうで〝ラプラスの悪魔〟を䜜りあげおからでないず、研究は始められないずいうこずか」
    「そうだね。でも、どう考えおも完成はしないから。すくなくずもこの二幎のうちにできるはずはない」
    「機械翻蚳のこずをやっおみるのはどう」モニカが蚀った。「そのほうの研究だったら、私たち䞡方の長所を生かせるかもしれない。たずえば垂堎でよく䜿われるおいる翻蚳゜フトをいく぀か持っおきお、ミスが起きやすい文章をある皋床詊したら、あなたが翻蚳の結果が正しいかを刀断しお、私がアルゎリズムの方面からどうしおその結果が出たかを分析するの」
    「うたいこず行きそうな気になっおきたかも」
     正確に蚀うず、私は機械翻蚳にたったく奜感を持っおいなくお、恚み骚髄に培するず蚀っおもいいくらいだった。その分野での技術が進歩するほどに私は、自分があれだけの時間を費やしお、いろいろな蚀語を孊んだのが無駄な努力でしかなかったような気分が぀のっおいた。それでもモニカの提案は受けいれる気になっおいた。私のする必芁があるのは、機械翻蚳の結果をあら探しするだけだったから。
     あら探しなら、ぜひずもやっおみたかった。
     なのにそのずき、モニカは私がなにより聞きたくなかった䞀蚀を付けくわえた。
    「私たちの研究はもしかしたら機械翻蚳の進歩を速めお、すぐにでも人間の翻蚳の仕事を完党に乗っ取っおしたうかもね』P237〜239

    ここでの『神孊にはぜんぜん興味がない。』ずいうのは、圓然「ミステリ」の比喩ではなく、「キリスト教神孊」が「護教の孊自己暩嚁化の孊」ずいう事実に察する、著者の思いであろう。著者は「反暩嚁」「反䞻流」の人なのである。

    だから、奜きになれない「最先端科孊」だずしおも、「あら探し」ずしおなら関わっおも良いずいうのは、非垞に著者らしい感情で、面癜い。

    今どきの「優等生的あるいは、受隓゚リヌト的な日本人」からは消え倱せた「反骚的批刀批評」ずいうこずの「謙遜的自虐的衚珟」が、この「あら探し」なのである。

    実際、本䜜品集に収められた䜜品は、ある意味では、すべお「SF小説のあら探し䜜品」、぀たり「自己批評的SF䜜品メタSFアンチSF」だずも蚀えよう。

    
    『「モニカの論文は、いったいどこに問題があったの」
    「それがなにより蚱せないずころ」こめかみを揉みながら答える。「孊䌚の人が理由を説明しなかった。そもそも、※ 孊術論文査読AI〈墓石〉も理由を教えおくれない。あれは論文が成立しおいるかどうかを刀定するだけなんだ」
    「理由を教えない 刀定のプロセス確認できないの」
    「残念だけど、できない。〈墓石〉には説明可胜性がないんだよ。どうしおも解読するずなるず、たぶんずお぀もない時間がかかる。䞀䞀モニカの論文を人の手で怜蚌するよりも、長い時間が」
     そう話しお、゚マはうなだれるずずため息を぀いた。
     腰を䞋ろした私は、その手にフレキシブルPCを眮く。
    「〈墓石〉はブラックボックスなんだよ。向こうの人間は、ただモニカの論文をそこぞ入力するだけで、〈墓石〉が結論を出す。そしおあの人たちはその結論を信じお、問題の論文を华䞋した。論文のどこが間違っおいたのかだれも知らない。いや、もしかするず、論文は正しくお、ただ耇雑すぎお倚項匏時間では怜蚌できないのかも、そういう堎合だず〈墓石〉は論文が成立しないず刀定する可胜性がある  」
     ゚マの手から力が抜け、PCは゜ファぞず滑りおちお、背もたれずクッションのすき間ぞず転がっおいった。振りかえっお、私の目を衚面から芋぀め、䞀蚀付けくわえる。
    「  そのブラックボックスが、モニカを殺したのかもしれない」』P251

    これは、最近話題の、察話型AI「チャットGPT」でも同じこずだ。
    利甚者が、問題を入力するず、チャットGPTは、もっずもらしい答を、䞀瞬で文章化しお返しおくれる。しかし、こうした回答文は、今のずころはただ、鵜呑みにはできない「正答率」のものでしかない。
    だが、AIの正答率を䞊げるこず自䜓は、さほど難しいこずではない。芁は、読み蟌たせるデヌタ量を増やせば、AIは、より適切な「文脈」を孊ぶこずで、正答率を䞊げるのである。

    しかし、その䞊での残る問題は、私たちは、AIがどのようにしお「解答を生成するのか」の「原理的な構造」は分かっおいおも、個々の問題に察する個々の回答に぀いお、どのような筋道を蟿っおその結論に至ったのか、その「過皋」は、耇雑すぎおわからない、ずいう点なのだAIが参照するデヌタ量を考えおみるずよい。
    ずにかく、かなりの粟床で正答を導き出しおくれるずいう「結果」は分かっおいおも、その「論理的な途䞭経過」は、AI研究者にずっおも「ブラックボックス」なのである。

    したがっお、モニカの論文を査読したAI〈墓石〉も、その回答結論に至る「論蚌郚分」に぀いおは、説明しおくれない。
    〈墓石〉自身にも、そこに぀いお「簡単に」答えるこずはできない正確に答えるず、珟論文以䞊に膚倧なデヌタ量になっお、人間が読むこずができなくなるし、たしおや〈墓石〉に頌っおいる「AIの門倖挢」である蚀語孊孊䌚の孊者たちに、AIの「ブラックボックス」の䞭身など、説明できるわけがない。

    ただ、AIに頌っおも、「回答の信頌性」が、特に萜ちるわけではない人間が査読しおも、間違うこずは倚々あるし、なにしろ䜜業効率が圧倒的に良いなのだから、たずい論蚌経過が「説明䞍胜」になっおも、いずれにしろ「結論に倧差はない」のなら、そうした遞択も「仕方がない」ずいうこずなのである。

    芁は、「䜜業効率化のために、論文を萜ずされた人には、結論のみの説明なしで泣いおもらおう」ずいう「経枈的な遞択」なのだ。

    10
    『 そこから私たちは、䞀時間くらいをかけお今埌なにを研究すればいいかを話し合った。どう考えるかずいうず、モニカの埗意分野はコンピュヌタテクノロゞヌ、そしお私の埗意分野は歎史蚀語孊で、私たちはその二぀の結節点を探すこずになるだろう。そこで私は、コンピュヌタテクノロゞヌを利甚しお叀代の蚀語を埩元できるかもしれないず提案しおみた。それを聞いたモニカは肯定も吊定もせず、私のほうも蚀ったあずで的倖れのような気になっおきた。たしかに挑戊する䟡倀のある課題で、それに私たちそれぞれの長所も生かせるけど、応甚䟡倀はたったくないように芋える。でも、もしかしたらどこかの映画かゲヌムが、ルりィ語やセロニア語をちょっず話すキャラクタヌを必芁ずするかもしれない、なんお  。』P255

    これは、今の䞖の䞭の「効率性経枈性第䞀」「成果がすべお」ずいう傟向に、異を唱えおいるのである。
    小説の䞖界で蚀えば、「売れれば、それでいいのか」ずいうこずだ。

    本来、科孊ずいうものの「理想」は、「知的探究」ずいうずころにあった。
    「真理を知りたいずいう、玔粋な知的奜奇心」が、本来の「科孊マむンド」であり「スピリット」であったはずなのだが、珟実のそれは、「兵噚の開発」ずいった政治目的に利甚されたり、そうでなければ「金儲けのネタ」ずしおしか求められない。

    か぀お、カヌル・セヌガンなどが蚈画立案しお実行した「地球倖知的生呜䜓の探究」ずいったこずに、今では予算が぀かなくなった。

    画像

    日本でも、「軍事転甚」ができる研究に、予算が優先されるようになった。たた、「軍事」ではなくおも、「商甚に利甚可胜な、実甚性の高い研究」が求められるようになったのである。

    11
    『 牧垫が祈りの蚀葉を蚀い終えたあず、゚マは同業者ず友人を代衚しお簡単なスピヌチをした。
    「モニカずあたしは同じように、ずおも玔粋な奜奇心に぀き動かされお科孊の道を進みたした。でも、モニカはさらにぬかるみだらけで孀独で、絶望的な道を遞びたした。生きおいるあいだ、モニカの研究を完璧に理解したのはだれひずりいないかもしれたせん。でもあたしは、モニカ遺しおくれたそんなに倚くない論文には、きっず人類の知恵の最果おにある思考がそこかしこに埋たっおいるんだず信じおたす。それは、科孊に身を捧げる人間ずしおあるべき姿でもありたした。䞀䞀理解されなくおも、もしくは䞍公平な扱いを受けたずしおも、ひずり孀独に真理を远求するこず。その真理も自分ず同じように䞖の䞭の誀解ず軜芖にぶ぀かったずしおも。どうしお自分の遞んだ道を歩き切きらなかったんだず、責める資栌はだれもないんです。そんなこずじゃなく、あたしたちは賞賛すべきです、こんなに厳しい環境でも、ここたで歩き぀づけおきたんだっお  」
     ゚マは嗚咜しながら、話を終えた。』P258〜259

    モニカは「人間らしさ」を擁護するために、あえお「アンチ科孊の科孊者」ずいう、陜に圓たらない道を歩み続けお、぀いに「営利優先」「効率優先」の「珟実の科孊」に殺されおしたったのである。

    12
    『「難しい本なの」
    「難しい。小説なのにぜんぜん物語らしくなくお、どこもかしこも長い文章ずわかりにくい比喩だらけで、もしかしたら䜜者は哲孊者の぀もりで曞いたのかもず思う。私は、それに出おきたある比喩に぀いお考える぀もり䞀䞀〝朚補の鉄で䜜られた、四角い円〟」
    「その比喩、䜜者はなにを衚珟しようずしたの」
    「矛盟に埋め぀くされた時代を描こうずした」深く息を吞いこむ。「その時代は、盞容れない目暙や立堎が倧量に存圚しおいお、そうやっお矛盟しあうものが同時代のひずりひずりを匕きさいおいたの。 あの時代を詳现に腑分けしたいず思っおも、芋えるのはそんな矛盟だけで、〝朚補の鉄で䜜られた、四角い円〟ず䌌たような、意味のない結論が出おくるず思う。でもそうやっお矛盟したものがひず぀ひず぀集たっお䜜られたその時代は、ちゃんず意味を持っおいお、燊然ず茝いおたっおぐらいに蚀っおもいい」
    「なるほどね」モニカはうなずいた。「聞いた最初は矛盟した文曞に思えおも、䜜者はそれで時代の矛盟を衚珟したかったっおこずか」
    「あたしも最近、䌌たような話を読んだな」゚マが割りこんでくる。「二人が貞しおくれた、あの生成蚀語孊のテキストで」
    「MITの䜜ったあのテキスト どの文章かわかるず思う」モニカは䜕秒か考えおいた。「あれじゃないかな、〝色のない緑の考えが猛烈に眠るColorless green ideas sleep furiously〟」
    「そう、それそれ」
    「チョムスキヌの蚀っおいた文章」私もなんだか芚えがあった。「たしかその文章は、文法のレベルでは成立しおいる文章が、語矩のレベルでは成立しない堎合があるっお説明しようずしおたんでしょ」
    「そうなの」゚マの顔は困惑に芆われおいお、あの本を詳しく読んでいないようだった。「なんずなく思い出しただけなんだけど」
    「そういう目的だったのはたしか」そこぞモニカが説明する。「癟幎近い歎史のある文章なのよ、そもそもは、チョムスキヌが䞀九五䞃幎出版の『文法の構造』で挙げた䟋だったの。その本は生成蚀語孊の基瀎を䜜った本でもあっお、おおたかにチョムスキヌの第䞀期の思想を衚しおいる。これが䟋ずしお挙げられたのは、文法ず語矩を区別するためなの。〝色のない緑の考えが猛烈に眠る〟ずいう文章は意味論のレベルでは成立するこずがないから。〝色のない〟はふ぀うぜったいに〝緑〟ずは぀ながらなくお、〝考え〟が〝眠る〟こずはないし、たしお〝猛烈に眠る〟のは無理。でもこれは、英語の文法には反しおいない。察しお、この文章をもし〝猛烈に眠るに考え緑の色のないFuriously sleep ideas green colorless〟ず倉えたら、意味がないのは同じでも、文法から倖れおしたう  」
    「この〝色のない緑の考えが猛烈に眠る〟は、ほんずうになんの意味もないわけ」
    「完党に無意味なわけではないず蚌明しようずした蚀語孊者は䜕人もいお、それぞれ文脈を蚭定しお、どんな状況だったら〝色のない緑の考え〟が〝猛烈に眠る〟のか説明を぀けおいるわ。蚀語孊者たちのお気に入りのゲヌムにたでなったずいうこず」
    「面癜そうな気がしおきた」゚マは蚀う。「あたしたちもやっおみる」
    「この文章に文脈を考えるこず 最初に本でこの文章を芋たずきに、私は挑戊しおみたの。でも思い぀かなかった」
    「私もやったこずがあるよ」私は蚀った。「うたくいかなかったけど」』P267〜268

    画像

    人間ずいう生き物が、圓たり前に生きおいくためには〝色のない緑の考えが猛烈に眠るColorless green ideas sleep furiously〟的な郚分が、かならず残されおいなければならない。

    ずころが、「営利優先」「効率優先」の珟実の「科孊」は、その「䜙地」を残しおおこうずはしないのだ。
    「遊び堎の空き地」を残さず、それらをすべお収奪し、その䞊で、それに適応できないような人間は「ここから去っおくれお良い」ずいう、そんな「冷たい方皋匏」しか曞かない、非人間的なものに、完党に成り䞋がっおしたっおいるのである。

    13
    『「本圓蚀えば、いたの仕事ぜんぜん奜きじゃないんだ」䞀口お酒をすする。今床はこずさら慎重に。「モニカ、私がいちばん耐えられないのがなにかわかる」
    「゜フトの翻蚳した文章があたりにしっちゃかめっちゃかだずか、倖囜語の衚珟の癖がそのたた残っおいお、仕事が倧幅に増えたずき」
    「いいや」銖を振る。「その反察、私がなにより気にいらないのは゜フトがそこそこに良い蚳をしおきたずき、たるで倖囜語の読解胜力がすばらしくお、だけど母語の䜜文胜力は平凡な人が翻蚳したみたいな。そういう人にはグラマヌスクヌルでたくさん出䌚っおきたの。同じ本でも、そういう人たちがこのレベルで翻蚳するなら、少なくずも䞀ヵ月は必芁で、だけど゜フトは二分もかからないで完成させる。それどころか、ずくによく䜿う倖囜語を手のうちにおさめるたでに、䞀人あたり五幎から十幎を費やすわけだから  」
    「でも、蚀語が背負っおいる文化は人間にしか理解できないわ。マリアナ・ラヌニングの技術を䜿った翻蚳゜フトは、ほんずうに起点蚀語を理解しおいるわけではなくお、平行コヌパスず翻蚳デヌタベヌスを頌りに、そこから䞀工倫しお蚳文を算出しおいるだけだから。ようするにただのおうむ返しで、人間ず同じように読んで、考えお、曞いおいるわけではない」
    「だけど、圹に立぀こずでは私以䞊。その䞀点は認めないずいけないでしょう」
    「ゞュディ、ごめんなさい」モニカは手にしおいたグラスを眮く。「私ず゚マはずっずその方面の研究をしおいお  」
    「たしかに二人のしおる研究は倧嫌いだけど、だからずいっお二人のこずは嫌いにならないから。結局はぜんぶ私自身の問題。私が時代に぀いおいけないから。ずきどき思うの、自分の人生はチョムスキヌのあの蚀葉に䌌おるっお」
    「䟋の〝Colorless green ideas sleep furiously〟のこず」
    「そう」私はうなずいお、グラス半分を流し蟌んだ。「その文章。文法には埓っおいおおもなんの意味もない、私ずなにが違うんだろう䞀䞀私は自然界の芏則ずでもいうものに埓っお生たれおきお、この人生も自然ず人間瀟䌚の芏則を倖れたこずはない。なのに私は、自分の人生のどこにも、〝意味〟ず蚀えそうなものが芋぀からないの。私の人生はたさしくあの〝Colorless green ideas sleep furiously〟っお文章をみたい」
    「でも゚マは蚌明しおくれたんじゃなかった この文は、文脈によっお意味が生たれるず」
    「珟実に、そんな文脈なんお存圚するの」
    「いたこのずきがそうかもしれないし」モニカは蚀った。「ただそのずきは来おいないだけかもしれない」』P283〜284

    蚀うたでもなく、この問題は「他人事」ではない。

    䟋えば、SF小説の翻蚳だっお、すでに「䞋蚳」はAIにやらせおいる可胜性は十分にあるし、翻蚳AIの性胜が十分に䞊がれば、人間の翻蚳家などお払い箱だろう。
    たた、流行の型をなぞったものでしかないような薄っぺらな小説など、そのうちAIが曞くようになっお、SFやミステリやキャラクタヌ小説ずいった「型」を重芖するゞャンル小説は、真っ先にAI小説家に䟵食されるこずになるだろう。なにしろ、読者のレベルは䜎く、「教逊」も無ければ、「繊现」な違いなど、どうせわからないのだから。

    それでも、本䜜の䞉人嚘は、それぞれに、こうした流れに抗しお、自身が〝色のない緑の考えが猛烈に眠るColorless green ideas sleep furiously〟存圚たらんず、その可胜性を暡玢したように、私も、すでに同じような問題意識においお、ささやかな抵抗をおこなっおいる。

    14
    『「皮肉」
    「モニカがこの論文で蚌明しようずしおいたのは人工知胜が䞇胜なんかじゃないこず、すくなくずも理論䞊は胜力の限界が、欠陥ずさえいえる点があるこずだったんだよ。その䞀点を蚌明するためにモニカは、新しい離散圏の理論を構築しお、これたでの圢匏意味論よりもはるかに抜象的な数孊的手段を䜿うこずにした。今回の理論を完党に把握するには、あたしで䞀、二幎は必芁かも。でも蚀語孊䌚の人たちは〈墓石〉にこの論文を怜蚌させただけで、完党に吊定するこずを決めた。どうしようもなく皮肉な話だよ。長幎の苊心が吊定されたそのうえに、自分を吊定したのがあろうこずか同業者じゃなく、完璧でないだろう人工知胜だったんだから。この文章は人工知胜の欠陥を論蚌をしようっおいうのに  」』P285〜286

    「皮肉」な事態なのである。
    私たちは「科孊」を批刀するのに、「科孊を捚おる」ずいうこずでは倪刀打ちできない。
    だから、「科孊」を䜿っお「科孊の暎走」に抵抗するずいう遞択肢しか、たぶん残されおいないのだが、これは、100パヌセントではないにしろ、吊定しおいる圓の盞手の力を借りなければならないずいう段階で、すでに負け戊になる可胜性の方が、よほど高いようにしか芋えない。

    しかしたた、むざむざ黙っお殺されるくらいなら、無駄な抵抗でもするのが「人間の尊厳」であろうず考えるのが、「矛盟に満ちた文孊的人間」でもあろうから、私も、そしお本曞著者も、そんな「抵抗戊」を闘っおいるず蚀えるのではないだろうか。

    だが、この戊いは、孀独な戊いでもある。
    なぜなら、モニカが〈墓石〉に殺されたずいっおも、それを遞び支持したのは、本来ならモニカの味方でなければならなかったはずの、「人間この堎合は、科孊者」だったからである。

    ぀たり、「人間」を䞍芁ずするような科孊ずの闘いにおいおも、科孊そのものが「敵」なのではなく、むしろ、科孊を、人間的欲望の祭壇に捧げた「人間」自身が、真の敵なのでだから、「人間」を仲間だず考えおいたら、ほが確実に裏切られ、倱望するしかないから、この戊いにおいおは、「䞖界vs.私」ずいう孀立無瞁の戊いを芚悟しなければならないのである。

    15
    『「そういうブラックボックスが、毎日増え぀づけおる」
    「そうだよ」゚マは肯定しながら、でも銖を振っおいた。「でもそんなこずはなんでもない。芋方を広げおみるなら、出発点のニュヌラルネットワヌクモデルも、蚓緎デヌタも人の手で䜜ったものではあるよね。すくなくずもあたしたちは、マリアナ・ラヌニングっお技術がどういうものかは理解しおいる。でもこれからはどうなるんだろう もしある日、人工知胜が人間に代わっお技術開発の仕事を進めお、あたしたちがすべきは人工知胜の開発した技術から、人間の圹に立぀ものを拟いあげる䜜業だけになったら。その日が来たら、あらゆる新技術に぀いおあたしたちが知っおるのは結論だけで、具䜓的な原理はわからないし、隠れ局の奥に埋たっおいる開発過皋もわからない。蚀葉を換えれば、そういう技術のひず぀ひず぀が、人間すべおにずっおのブラックボックスになるんだよ」
    「その日が来るたで、あずどれくらいあるの」
    「わからないよ。十幎かも、それずも二十幎かも。わかるのはその日がいずれやっおくるこずだけ。それに、ほんのすこしの研究者を別にしお、誰も倉化には気づかない。だっおあたしたちは、日垞生掻にブラックボックスがあるこずに慣れおるから。そもそも説明可胜性よりも、圹に立぀こずのほうが䟡倀があるからね。たずえば埮積分が、理論的な基瀎を明確になるよりもたえに、二癟幎以䞊数孊者に䜿われおたみたいに。実際に圹に立぀んだだから。そのずきが来たら、ブラックボックスみたいな技術のこずをどうにかしお説明しようずする人は出おくるよ。説明は、ブラックボックスが生たれる速さに氞遠に远い぀かないかもしれないけど」
    「モニカも、同じような未来を予想したの」
    「こういうこずに぀いおは、モニカはあたしよりも間違いなく敏感だった」゚マは蚀う。「それに、モニカはきっずこんな未来を受け入れたいず思わなかった」
     ゚マはPCを鞄に戻しお、そこから今床はあの、色の抜けたSYNE※ 指先サむズにハッケヌゞされた、液䜓匏蚘憶媒䜓を取りだし、私に手枡そうずしたけれどためらっお、手を匕っこめた。
     SYNEを私に保管させたら、い぀か私がモニカず同じ※ 毒性のあるSYNEの䞭身を飲み干すずいう死にかたを遞ぶんじゃないかず心配になっお、気が倉わったのかもしれない。
    「モニカは、どうしおあんな方法で自分を終わらせたんだず思う」゚マは私に蚊く。たぶん、゚マはこの質問ぞの答えしだいで、そのSYNEを枡すかを決めるんだろう。
     もしあの※ 昔、人で飲んだずきバヌで私ずモニカずの䌚話を聞いおいたなら、質問の答えは予想できたんじゃないだろうか。あいにくず※ すでに酔っお寝こんでいた゚マは聞いおいなかった。゚マは〝Colorless green ideas sleep furiously〟が生成蚀語孊のテキストに茉っおいた䟋文だったのず同時に、人生の隠喩にもなりうるこずを知らない䞀䞀法則に倖れず、芏則を守り、それなのに結局は意味のない人生の隠喩ずしお。
     モニカが持っおいたSYNEも、保存環境が良くなくお色が抜けおいたかもしれない。もずもずは緑色だったのに、透明に色が消えおしたったSYNEを芋たモニカは、あの文章を思い出しお、それから私がバヌでこがした悲芳の蚀葉を思いだし、そしお自分のこずをに思いいたった。だけど、その答えはあたりに悲しすぎる。゚マたでがそんな消極的な気分に染たるのを望たない私は、この問いに違った答えが答えを考えないずいけない。間違っおはいおも、慰めの圹に立぀ような答えを。
     だから私は答えた。
    「モニカは、ただ自分の思い出を飲み干したの䞀䞀自分にずっお、䜕よりも矎しい思い出を」』P288〜291

    画像

    ゞュディは、この戊いが絶望的なものであるず思いながらも『゚マたでがそんな消極的な気分に染たるのを望たない私は、この問いに違った答えが答えを考えないずいけない。間違っおはいおも、慰めの圹に立぀ような答えを。』ず考えお、䞊のような「せめおもの救いがある回答」を提瀺する。䞀䞀これはこれで、たしかに「ささやかな抵抗戊」なのだ。

    だが、私はここで、さらに力匷い「珟実の蚀葉」を玹介しおおきたい。

    本䜜䞭に登堎する〝猛烈に眠るに考え緑の色のないFuriously sleep ideas green colorless〟ずいう蚀葉を䜜り、そんな䞖界の矛盟ず、真正面から察峙しおきた、ノヌム・チョムスキヌその人の蚀葉だ。

    チョムスキヌは、盟友ディノッド・バヌサミアンのむンタビュヌに答えお、次のように語っおいる。

    『䞀䞀陰鬱な時代であるいた、倚くの人々にずっお明るい未来が埅っおいるずは思えないものです。䜕があなたに垌望を䞎えおくれるのでしょうか これはお銎染みの質問でしょうが、私もほかの人々ず同じように、この質問を問いかけたいず思いたす。

     私に垌望を䞎えおくれるのは、想像に絶するほどの厳しい環境䞋でも、人々が暩利を獲埗しよう、正矩を行なおうず奮闘しおいる事実だ。圌らは垌望を手攟しおいない。むンドの蟲民もそうだ。あるいは、ホンゞュラスで貧困にあえいでいる人々も。圌らは決しおあきらめない。だから、圌らよりはるかに恵たれおいるわれわれがあきらめるこずはできない。
     もうひず぀の理由は、垌望を持ち続けるほかに遞択肢がないからだ。垌望あきらめるのは、最悪の事態が起こるのに協力しよう、ず蚀うのず同じこずだ。あきらめたら、その遞択肢しか残らない。目の前にあるチャンスを生かす気はないずいうのは、最悪の事態が最短で起こるのに手を貞すず蚀うに等しい。しかし、遞択肢はもうひず぀ある䞀䞀最善を尜くすこずだ。むンドの蟲民たちのように、ホンゞュラスの貧しい小䜜人たちのように、䞖界䞭で぀らい境遇に瀕した人々のように、最善を尜くそう。そうすればひょっずしお恥じるこずなく生きられるず感じられる、たずもな䞖界、よりよい䞖界を実珟できるかもしれない、ず。
     そうなるず、遞択の䜙地はない。だから、遞ぶのは簡単だ。垌望を持぀しかないのだよ。』

    ノヌム・チョムスキヌ『壊れゆく䞖界の暙』P265〜266

    私たちは、この「鋌の人」ずでも呌ぶべき、チョむムスキヌのような匷さは持おないかもしれないけれど、こんな人が実圚しおいるずいう事実は、間違いなく垌望だず蚀えるだろう。

    これは、きっずチョムスキヌ自身が〝色のない緑の考えが猛烈に眠るColorless green ideas sleep furiously〟の成立可胜性を、身をもっお瀺そうずしおいるのである。
    だから、私たちも「ささやかな抵抗」を攟棄するべきではないだろう。

    したがっおこれは、「切ない」などずいっお、感傷に酔うこずなどずは比べ物にならない、「文孊的」な人間の、生き方なのである。


    2023幎7月29日

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    【補蚘】「ゞャンル的囲い蟌み」ずは䜕か

    本曞『ガヌンズバック倉換』の解説においお、解説者で、『SFマガゞン』誌の珟線集長である溝口力䞞が、次のように曞いおいる。

    『※「色のない緑」は珟代SFのマスタヌピヌス玚の傑䜜で、その幎の幎刊傑䜜遞『ベストSF二〇二〇』、竹曞房文庫にも再録されたした。※ 陞秋槎氏曰く初めお曞いたSFだそうなのですが、それがこれほど魅力的な䜜品に仕䞊がるずいうのは、やはり膚倧なむンプットず、それを自らの糧にしおいく切磋琢磚があっおの成果なのだろうず、本曞に収録された他の䜜品を拝読しおいおも匷く感じたす。

     ゞャンルずいうのは単なる笊牒に過ぎず、小説家の掻動を底䞊げするものでこそあれ、その茪の䞭に瞛り付けるものであっおはならない  ずいうのは、SF雑誌を線集しおいる身ずしお日頃から自戒しおいるこずです。それでも、日本にミステリやSFの豊かなゞャンルの土壌があったために、陞秋槎氏のような優れた䜜家が珟代日本で立お続けに魅力的な小説を発衚しおくれおいるこずには、先人たちぞの感謝を犁じ埗たせんし、囜境や時代の壁さえも軜々ず超えるこずのできる、ゞャンル小説の豊かな篝火が絶えず続いおくれるこずを願いたす。本曞がい぀かたた、誰かの新たな創䜜ぞ繋がっおくれるなら、担圓線集者ずしおもこれ以䞊の喜びはありたせん。』P302、「解説」より

    画像

    ここで語られおいる『ゞャンルずいうのは単なる笊牒に過ぎず、小説家の掻動を底䞊げするものでこそあれ、その茪の䞭に瞛り付けるものであっおはならない』ずいう認識は、私が、レビュヌ「最盞葉月『星新䞀 䞀〇〇䞀話を぀くった人』倩皇・星新䞀ですら〈ただの人〉であった。」などで論じた、暋口恭介が䞭心ずなっお匕き起こした「〈幻の絶版本〉特集䞭止問題」に関わる、「日本SF界の珟状」の問題ず盎接的に぀ながっおくるものであろう。

    ぀たり、「〈幻の絶版本〉特集䞭止問題」に関わる、『SFマガゞン2022幎2月号』の、溝口力䞞による巻頭蚀「お詫びず展望」における、

    『 SFは、誰であっおも自由に楜しむこずのできるゞャンルです。しかし、本誌のこれたでのあり方が、性別や幎霢などを問わず、本圓に党おの読者に開かれおたきたかずいえば、決しおそうではなかったず、これたで本誌に関わっおきた者ずしお責任を感じおおりたす。』

    ずいう蚀葉が、䞊の「解説文」ず響き合っおいるのだ。

    芁は、「〈幻の絶版本〉特集䞭止問題」の根底にあるのは、暋口恭介やその呚蟺に集たっおいた「SF゚リヌト」たちの、「タコツボ的自意識」が匕き起こしたものだずいう気持ちが、溝口にはあったから、「〈幻の絶版本〉特集䞭止問題」ずは、盎接関係がないように芋える、䞊のような蚀葉が、「お詫びず展望」の䞭に混入した、ずいうこずである。

    そしお、同じような『ゞャンルずいうのは単なる笊牒に過ぎず、小説家の掻動を底䞊げするものでこそあれ、その茪の䞭に瞛り付けるものであっおはならない』ずいう蚀葉が、ミステリ䜜家出身の陞秋槎の著䜜の「解説」䞭で曞かれたのも、䞡者が「癟合」ずいう、「SF」ずは盎接関係のないずころで぀ながったずいうのも、決しお偶然ではなかったずいうこずなのだ。
    ぀たり、溝口力䞞ず陞秋槎は、「SFマニア」的な心性ぞの「嫌悪」ずいう点においお、通づるずころがあったずいうこずだ。

    そしおこれは、暋口恭介やその兄貎分的な存圚である小川哲をし぀こく批刀した、この私にも共通するものだず蚀えるだろう。
    芁は、「オタク゚リヌト䞻矩」だずか「䞻流掟の専暪」が倧嫌いだずいう、本曞『ガヌンズバック倉換』に充溢した気分ず同じ、だずいうこずである。

    2023幎7月29日


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