
愛と呼ぶには、まだ遠い三人【10】|8章【挿話】星降る夜に 月城編|#創作大賞2026
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第8章【挿話】星降る夜に |月城編
薄暗い部屋の中で、橙色の間接照明だけをそっと灯す。
プラネタリウムから帰ってきたはずなのに、まだどこかに置いてきたものがある気がした。
「ふぅ」
椅子に腰を下ろし、目を閉じる。
瞼の裏にドームに広がる星が浮かぶ。
そして、すぐ隣にあったはずの気配も。
「……遠かったな」
手を伸ばせば触れられる距離だったのに、
どこかだけが、届かなかった。
それでも、指先にはあのわずかな温度が残っている。
「手、小さくて温かかったな」
机の上に置いたパンフレットに、視線を落とす。
紙の端が、少しだけ折れていた。
月城は折れたパンフレットの端に指を添え、そっと整える。
「二人で、行ったんだ」
重ねた瞬間も、言葉が出てこなかったことも思い出す。
あの場所で、何かを言えば、たぶん形は変わった。
でも、言えなかった。
言わなかった、のかもしれない。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
あの時間は、どこかが違っていた。
触れた瞬間に、ほどけてしまいそうで──
だから、何も足さなかった。
「あれは……」
何だったのか。
考えかけて、やめる。
名前をつけた途端、違うものになる気がした。
「簡単じゃないな……」
指先を、軽く握る。
まだここに"確かだった"という感覚だけが残っているような気がする。
「急がなくていい」
ぽつりと、部屋に声が落ちる。
確かめるように、握った拳に少しだけ力を籠めると、なぜか震えが止まらない。
「でも──」
視線を上げると、暗い天井の中にあの時の星が重なる。
「このままじゃ、いられない」
静かに、思う。
何かを壊したいわけじゃない。
ただ、少しだけ、近づいてみたいと思った。
「初めてだな……」
つぶやいた声が部屋に溶ける。
夜の空気が、わずかに軽く感じて、月城はそのまま布団についた。
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