メインコンテンツへスキップ
見出し画像

愛と呼ぶには、まだ遠い三人【11】|8章【挿話】星降る夜に|#創作大賞2026

    ⚫︎作品リンク
    << 【1】 【2】【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】【9】 【10】 【11】 【12】【13】【14】【15】【16】【17】【18】【19】【20】【21】【22】 >>


    第8章【挿話】星降る夜に |玲奈編


    夜の冷気をまとったまま、部屋に入る。
    ドアを閉める音が、やけに長く響いた。

    コートを脱ぎ、耳飾りを外す。
    その動きの中に、まだあの時の感覚が残っている。
    わずかな光の気配と、静かな空気が。

    「綺麗だったな」

    玲奈はベッドの端にストンと腰を下ろす。
    今日の断片が、順番もなく浮かんでくる。

    ドームの暗さ。
    流れる星。
    隣から落ちてきた、あの声。

    「……はぁ」

    呼吸が、少しだけ浅くなる。

    「やりにくい」

    ぽつりと、思う。

    月城は、まっすぐすぎる。
    何も隠さないあの感じが、計算の外にある。

    胸の奥に、小さな引っかかりが残る。
    痛みではない。けれど、無視もできない。

    「なんで……」

    放った声が、わずかに焦りのような色があり自分でも驚いた。
    息を細く吐き、思考を整理する。

    ・誘った理由
    ・選択の過程
    ・代替案

    どれも、整合性は取れる。

    でも──

    「それだけじゃない」

    結論だけが、先に残る。

    見に行くだけなら、一人でもよかったはずだ。
    むしろ、その方が楽だった。

    それでも、私はそうしなかった。

    「なんで……?」

    理由を探すが、うまく見つからない。
    玲奈は勢いに任せベッドに背中から倒れこんだ。

    柔らかな感触に体重を預け、天井を見上げると、あの時の星がまだ残っている気がした。

    「あの場所で……」

    言いかけて、そこで止める。
    形にした瞬間、何かがズレる気がした。

    「はぁ」

    小さく息を吐く。
    いつ、どうして、何がきっかけでと、取り留めのない疑問だけがループする。

    「なんでこんなに、分からないの?」

    もう一度整理する。
    まず今日の事実だけを、並べる。

    ・一緒に行った
    ・隣にいた
    ・触れた

    指先が、一瞬だけ跳ねた。
    そこに意味は足さない。
    だが、思考を終わらせようとしても、その一点だけが浮かぶ。

    "特別だった"

    玲奈は思わず腕で目を覆った。

    「……は」

    乾いた笑いが、わずかに漏れる。

    「単純じゃないな……」

    恋、ではない。
    既存の言葉では、収まらない。
    これは、もっと深い位置で起きている気がする。

    「なんなんだろう、これ」

    ベッドに預けた体を捩る。
    頬に触れた布の冷たさが、心地いい。
    視界の端で、カーテン越しの街灯の光が滲んだ。

    (……どうする)

    問いは立つ。
    でも、答えを急ぐ必要はない気がした。

    「私なりに定義し直すしかないか」

    自分の中で、自分の言葉で。
    あの感覚を、逃さないために。

    「……」

    目を閉じる。
    暗闇の奥に、星の残像が広がる。

    まだ、身体からわずかな熱が消えない。


    NEXT >


     
     
    ENTP 水希 & INTJ 瀬奈 社会人。 思考と論理をこよなく愛する、根っからの構造主義者。 16タイプは、違いを翻訳するツールとして使いたい派。 ギャグと哲学の二刀流。 記事が面白かった・役立ったと感じた方は、 『いいねやフォロー』を頂けると嬉しいです。

    あなたへのおすすめ