
愛と呼ぶには、まだ遠い三人【2】|2章 もう一人との接触|#創作大賞2026
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第2章:もう一人との接触
「それでは皆さん、お手を拝借! よ~~」
パン!
「ありがとうございましたー!」
陽気な締めの声を背に、玲奈は店を出る。
今は、誰にも触れられたくなかった。
「……変な感覚」
自分に向けた言葉は、うまく意味にならないまま、夜に溶ける。
俯いていた顔を上げ、気持ちを切り替えようとした時だった。
後ろから、地面を蹴る音が連続して響く。
「清水!」
突然の声に身体が大きく跳ねる。
振り返ると、肩で息をする黒瀬がいた。
鋭い錫色の瞳が、まっすぐこちらを捉える。
「さっきは、ありがとな。湊のこと」
息を整えながら、黒瀬が言う。
「……べつに」
考えるより先に言葉が出た。
「いや、あいつ、目離した隙に絡まれてて」
その先は聞く前に、整理できている。
自分で助け舟を出そうとしたが、教授に捕まっていて動けなかった。
そんなことは、もう分かっていた。
(説明しなくてもいいのに)
黒瀬の言葉の続きを待つより先に、玲奈の声が落ちる。
「全部、知ってる」
黒瀬が一瞬、言葉を止めた。
「……見てたのか」
「まあ、見えてた」
「そこまで、分かるんだな」
目を細めて笑う黒瀬の視線から、玲奈は顔をそらす。
「それより月城君のこと、また一人にして大丈夫なの?」
無骨な手がズボンのポケットに入る。
そのまま黒瀬は宙を見上げた。
「あー、すぐ戻る」
玲奈は少し身体を傾け、黒瀬の背後に視線をずらす。
月城は研究室のメンバーに囲まれて笑っていた。
「大丈夫ならいいけど」
「おう」
「まあ、何かあれば……」
"手伝うから"
そう言いかけて、口を噤んだ。
関わるのはやめようと、先ほど決めたはずだ。
黒瀬の声が上から落ちる。
「おまえ、あいつのこと、放っとけなかったんだろ」
玲奈はわずかに逡巡したあと、小さく頷いた。
胸の奥に、わずかな引っかかりだけが残る。
(……これ以上は、触れられたくないかも)
うまく言葉にできない感覚が身体を巡る。
思考が溢れそうになる前に、短く声が出た。
「じゃあ」
「ああ、またな」
切ったはずの言葉に、続きが残る。
久しぶりの“またな”に、玲奈は一瞬だけ頬を緩めた。
湿った夜風が吹き抜ける。
帰路を進む足取りは、自然と軽かった。