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隣に座れなかった理由(わけ)#36第三章⑨最後の音のない世界#37⑩手紙で答え合わせ

    #創作大賞2026#恋愛小説部門 応募作品
    前後のお話は本文下のURL からどうぞ。

    第三章
    ⑨最後の音のない世界


    六年間、
    子どもは本当によく水筒を学校へ忘れてきた。

    きっと学年でトップスリー以内。

    いや、もしかしたらダントツ一位だったかもしれない。

    一度、水筒が返ってこないことがあり、

    新しく買い替えたこともある。

    ――今時の水筒は高いから、これ以上無くさないでくれ。

    そう思いながら、いつも気にかけていた。


    冬のある日。

    迎えに行くと、

    子どもが水筒を持っていない。


    「壮介、水筒は?」


    ――嫌な予感。


    「俺の水筒ないんだよ」


    ――えっ……無くした……?

    女性担任に聞いてみた。


    「知らないですね」


    それだけだった。

    私は子どもと二人で教室に行き、水筒を探した。


    「無いね」


    「ねっ、俺が言った通りでしょ」


    ――マジか……

    ――卒業式まで後二ヶ月もないのに……

    げんなりした気持ちのまま下駄箱に向かい、靴を履いた。

    その時だった。

    どこからともなく声が聞こえてきた。


    「これですか?」


    ふと声のする方を見ると――

    神崎先生が水筒を手にして立っていた。

    先生のそばには、二人の子どもたちがいた。


    「あー!あったー!!」


    興奮のあまり、

    水筒を指差して大声で言ってしまった。

    何かに当選したかのような嬉しさだった。

    私は先生のところへ行き、水筒を受け取った。


    「ありがとうございます」


    安堵の気持ちでいっぱいだった。

    水筒が見つかったことも嬉しかった。

    でも、それ以上に。

    先生が持っていてくれたことが、

    一番嬉しかった。

    先生は穏やかな微笑みを浮かべ、

    静かな声で言った。


    「同じクラスの子が持ってきてくれたんですよ」


    ゆったりとした、とても落ち着いた声だった。


    「そうなんだ〜。ありがとう〜」


    私は満面の笑みで、

    どこか遠くに向かってお礼を言っていた。

    なぜか頭がぼんやりしていた。

    ――なぜ神崎先生が持っているのかな。

    ――遠くで女性担任に見られているのかな。

    でも、

    あまりにも静かな平和なひと時の中で、


    ――どうでもいいやぁ……


    そんなふうに思っていた。

    気づくと、壮介が隣に立っていた。

    先生は、子どもたちと少し離れた場所を、歩き出していた。

    これが、先生との最後の

    「音のない世界」

    だった。


    第三章
    ⑩手紙で答え合わせ


    卒業式を三日後に控えた、

    ある日の下校時間だった。

    私は三年間の思いを込めた手紙と、

    小さなチョコを持って校庭へ向かった。

    女子生徒たちに囲まれた先生の輪に近づき、声をかける。


    「こんにちは。はい、これ」


    「ありがとうございます」


    紙袋を受け取る先生を見ながら、ふと思った。

    ――去年みたいに、スーパーの袋でそのまま渡したわけじゃないし。

    ――今回は、気づいたよね。

    不思議なほど、落ち着いていた。


    「今回は手紙入ってるから、
    卒業式終わった後にでも読んで下さい」


    「ありがとうございます。読ませてもらいます」


    ――卒業式、きっと渡す暇ないしな……

    ――こっちもいろいろあるし……

    考えていたら、つい言葉に出てしまった。


    「諸事情で当日渡せないから……」


    「えっ?来ないんですか?」


    先生が驚いた顔で聞く。


    「いや、来る、来る」


    慌てて訂正して、

    思わず笑ってしまった。

    先生も静かに頷いた。

    その瞬間だった。

    胸の奥に、急に寂しさが押し寄せてきた。

    ――もう、会えなくなるんだ……

    気づかないまま、先生を見ていた。

    先生が、少し目を見開いて、

    「ん?」という顔をした。

    私ははっとして目を逸らした。


    「さようなら」


    それだけ言って、その場を離れた。

    それが、最後の言葉だった。

            *

    手紙には、

    ありったけの答え合わせを書いた。

    あの握手の体温が私を救ったこと。

    八つ当たりしてしまった日の後悔。

    二人きりのように感じた、

    あの静かな世界のこと。


    そして――

    一度でいいから、

    タメ口で話してみたかったという、

    叶わなかった願い。


    三年間の出来事を、

    一つ一つ、

    答え合わせするように、書いていった。


    そして最後に――


    あなたのますますの成長を願いながら。

    私は先生の存在が大好きです。

    宮田景子


    それは――

    私なりの、


    満点の解答用紙だった。



    プロローグはこちら↓
    始まりの話です
    https://note.com/amaimomo123/n/n192c6ae58a53

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    第一章①②はこちら↓
    ペットのうさぎが活躍します
    https://note.com/amaimomo123/n/n819147f638e7

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    第一章③④⑤はこちら↓
    始まりの合図は虫なんです
    https://note.com/amaimomo123/n/n4babb887f533

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    第一章⑥⑦⑧はこちら↓
    父が夢で語ったのはこの言葉です
    https://note.com/amaimomo123/n/n4a18c660c50e

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    第一章⑨⑩⑪はこちら↓
    母が運ばれました
    https://note.com/amaimomo123/n/nf72c9ebb3140

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    第一章⑫⑬はこちら↓
    保護者会の空気は最悪でした
    https://note.com/amaimomo123/n/nfb53944439c7

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    第一章⑭⑮⑯はこちら↓
    とうとうツインレイ告白
    https://note.com/amaimomo123/n/n83564e1fed71
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    第二章①②③はこちら↓
    神崎先生の身に……?
    https://note.com/amaimomo123/n/na68b5fc131e4

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    第二章④⑤⑥はこちら↓
    心が通い出し始めます
    https://note.com/amaimomo123/n/n52139df54b8e

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    第二章⑦⑧⑨はこちら↓
    あなたを救いたい、それだけ
    https://note.com/amaimomo123/n/na2d605788203

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    第二章⑩⑪はこちら↓
    決着つけましょう
    https://note.com/amaimomo123/n/nbf0ea09d45c2

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    第三章①②はこちら↓
    ずっと前から見られてた……?
    https://note.com/amaimomo123/n/n741247e05a18

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    第三章③④はこちら↓
    「ぷっ」の破壊力
    https://note.com/amaimomo123/n/n9d71dbcb9e2d

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    第三章⑤はこちら↓
    そんな目で見るの……?
    https://note.com/amaimomo123/n/n819a75d49776

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    第三章⑥⑦はこちら↓
    私だけ違う……
    https://note.com/amaimomo123/n/n5ced005533df

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    第三章⑧はこちら↓
    だいたいハリネズミのせい
    https://note.com/amaimomo123/n/n90c0a1e1651d

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    第三章⑪はこちら↓
    最後の最後に……
    https://note.com/amaimomo123/n/n850177083500

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    第三章⑫エピローグはこちら↓
    思い出し笑い
    https://note.com/amaimomo123/n/n3e0625cbf3aa

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    #創作大賞2026 #恋愛小説部門
    #完結済 #連載小説 #先生と保護者 #年の差

     
     
    ※DM・メールは受け付けていません。1日の終わりに人の心をぽっと照らす電球のような、小さな物語やエッセイを書いています。 少し切なくて、少し愛おしくて。 なぜか笑われることもあります。 良かったら、手を止めて読んでいって下さい☺️