
隣に座れなかった理由(わけ)#3第一章③距離が縮まった夏#4④ジャーって流したら#5⑤始まりの合図
#創作大賞2026 #恋愛小説部門 応募作品
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第一章
③距離が縮まった夏
夏が近づく頃、私は週に何度か学校へ子どもを迎えに行くようになった。
塾の時間に間に合わせるためだ。
下駄箱や教室の前で神崎先生と顔を合わせることが増えた。
ある日、先生と並んで下駄箱に向かって歩いていると、
後ろから女子生徒三人の声がした。
「神崎先生、助けて〜!」
「助けて〜!」
先生を呼ぶ声だった。
先生は後ろを向いて、茶目っ気たっぷりに言った。
「いやだ〜」
――えっ、この人こんな言い方するんだ。
「えー!先生〜!」
女子生徒たちが少し色気づいた声で、
身体をくねらせながら駆け寄ってくる。
私は笑いながら先を歩いた。
先生は三人のところへ行った。
――子どもたち、先生が大好きなんだな。
その様子を、少し離れたところから見ていた。
第一章
④ジャーって流したら
保護者会の日、
私は保健委員の仕事でトイレ掃除をしていた。
時間ぎりぎりまで掃除をして、
息を切らせながら教室へ駆け込んだ。
椅子に座り、話し始めた途端、
窓の外で何かが変わったようだった。
さっきまで小降りだった雨が、
ふっと静まりかえった。
次の瞬間、
分厚い雲が空一面を覆い、横殴りの土砂降りへと変わった。
私は、思わず言った。
「先生、窓……」
私が言葉を発すると、
先生は顔をこちらに向けたまま、
笑顔で窓をゆっくりと閉めた。
横殴りの激しい雨と、それに動じないカタツムリのような先生。
その対比を目の前でくり広げられて、思わず笑いそうになった。
――面白い。雨、めちゃ降り込んでる……
「何か聞きたいことはありますか?」
先生の声が、雨音に混じって優しく響いた。
私は少し考えた。
でも、何も浮かんでこなかった。
あれほど重かった不安が、いつの間にか消えていた。
父が亡くなってから、胸の奥に沈んでいた名前のない不安が。
まだ、私はその変化に気づいていなかった。
「うーん……あったかもしれないですけど」
私は笑って答えた。
「さっき、トイレ掃除してジャーって流したら、
みんな流れて忘れちゃいました」
先生も、笑っていた。
その笑顔が、雨に煙る窓の向こうの光のように、柔らかかった。
第一章
⑤始まりの合図
夏休みの登校日。子どもが学校に水筒を忘れた。
翌日から長い休みに入る。
お茶が腐ったら困る。
子どもと一緒に自転車で学校へ向かった。
職員室の外側の扉を開けて、先生を呼ぶと、先生は笑顔で出てきてくれた。
身体をこちらに向けて扉を閉める。
間を置かず、子どもがけろりと言い放った。
「ママね、なんでマスクしてると思う?」
私は思わず、マスクの端を指でぐいと引き上げた。
「あのね、顔にニキビできたから恥ずかしいからしてるんだよー!」
先生が笑っている。
ただ、ニキビ――いや、吹き出物が恥ずかしかっただけだ。
二人は教室へ水筒を取りに行った。
取り残された私の目の前を、
一匹のトンボが横切る。
気づけば、麦わら帽子を手にしていた。
はっ!
もう少しで届きそうで、思わず空を仰ぐ。
「何してるんですか?」
振り向くと、先生と子どもが立っていた。
――いかん。変な人だと思われる。
「あっ、トンボが取れそうだったので、つい……」
慌てて言い訳を重ねる。
「休み中、よく子どもと虫取りに行ってて。
この前もカラスアゲハ、取れそうだったんです!」
少し自慢げに言うと、
先生は一瞬ぽかんとしたあと、
私を見て、
首を傾げながらゆっくり聞いた。
「……アゲハ蝶?」
その瞬間、
周りの蝉の声が、ふっと消えた。
真っ白な光の中にいた。
私は、先生と目を合わせたまま言った。
「うん!アゲハ蝶!」
その後の会話は、あまり覚えていない。
この場面だけが、鮮明に残っている。
後になって思う。
あれが、始まりだったのかもしれない。
プロローグはこちら↓
始まりの話です
https://note.com/amaimomo123/n/n192c6ae58a53
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第一章①②はこちら↓
ペットのうさぎが活躍します
https://note.com/amaimomo123/n/n819147f638e7
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第一章⑥⑦⑧はこちら↓
父が夢で語ったのはこの言葉です
https://note.com/amaimomo123/n/n4a18c660c50e
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第一章⑨⑩⑪はこちら↓
このあと、母が運ばれました
https://note.com/amaimomo123/n/nf72c9ebb3140
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第一章⑫⑬はこちら↓
保護者会の空気は、最悪でした
https://note.com/amaimomo123/n/nfb53944439c7
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第一章⑭⑮⑯はこちら↓
ついに、ツインレイ告白!
https://note.com/amaimomo123/n/n83564e1fed71
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第二章①②③はこちら↓
神崎先生の身に……?
https://note.com/amaimomo123/n/na68b5fc131e4
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第二章④⑤⑥はこちら↓
心が通い出すように
https://note.com/amaimomo123/n/n52139df54b8e
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第二章⑦⑧⑨はこちら↓
あなたを救いたい、それだけ
https://note.com/amaimomo123/n/na2d605788203
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第二章⑩⑪はこちら↓
決着つけましょう
https://note.com/amaimomo123/n/nbf0ea09d45c2
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第三章①②はこちら↓
ずっと前から見られてた……?
https://note.com/amaimomo123/n/n741247e05a18
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第三章③④はこちら↓
「ぷっ」の破壊力
https://note.com/amaimomo123/n/n9d71dbcb9e2d
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第三章⑤はこちら↓
そんな目で見るの……?
https://note.com/amaimomo123/n/n819a75d49776
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第三章⑥⑦はこちら↓
私だけ違う……
https://note.com/amaimomo123/n/n5ced005533df
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第三章⑧はこちら↓
だいたいハリネズミのせい
https://note.com/amaimomo123/n/n90c0a1e1651d
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第三章⑨⑩はこちら↓
答え合わせしよう
https://note.com/amaimomo123/n/nf37388f77232
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第三章⑪はこちら↓
最後の最後に……
https://note.com/amaimomo123/n/n850177083500
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第三章⑫エピローグはこちら↓
思い出し笑い
https://note.com/amaimomo123/n/n3e0625cbf3aa
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