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隣に座れなかった理由(わけ)#20第二章④夜七時のコール音#21⑤カッコよかったよ#22⑥母の言葉

    #創作大賞2026 #恋愛小説部門 応募作品
    前後のお話は下のURLからどうぞ。


    第二章
    ④夜七時のコール音


    五年生の春キャンプの時だった。

    キャンプ前の大事な連絡があるというのに、明日の持ち物が分からない。

    子どもに聞いても曖昧な答えしか返ってこない。
    同級生のママ友もいない。

    ――ああ、どうしよう……

    時計は、もう七時近かった。

    学校に電話しても、きっと誰も出ないだろう。

    ――分かってる。分かってるけど……

    それでも受話器を握った。見えない蜘蛛の糸にしがみつくような気持ちで。

    ――誰か出て!

    祈るような気持ちだった。
    コール音だけが、静かな部屋に響く。

    ――お願い!誰でもいいから出て!

    プルルルル……

    回数が増えるたびに、諦めの気持ちも大きくなっていった。

    ――ダメか。遅いもんね。諦めるか……

    もう切ろうとした。

    その瞬間だった。


    「はい。桜川小学校、神崎です」


    えっ?

    ――先生が……出た……


    「あっ、あの、宮田です。遅くにすみません……」

    「ああ、こんばんは」


    落ち着く声が響いた。


    「あの、担任の先生は、さすがにみえないですよね……」


    「そうですね。さすがにこの時間だと……」


    「ですよね。明日の予定が分からなくて。先生、学年違うから無理ですよね……」


    「明日のキャンプの持ち物ですよね。分かりますよ」


    先生は迷いなく答えた。

    そして、一つずつ丁寧に教えてくれた。

    どんな質問にも答えてくれる。

    まるで去年の担任と保護者に戻ったかのようだった。


    ひと通り聞き終わった後、こんなに遅くまで残っていたことへの驚きを伝えた。

    先生はちょうど最後で、帰ろうとしていたところだったが、


    「電話が鳴って……なぜか出なくちゃいけない気がしたので……」


    そう言って、少し笑った。


    「私も、誰でもいいから出て〜!と思っていたら、先生が出てびっくりしました」


    笑いながら話した。

    電話の最後に、先生が言った。


    「この状況、不思議ですね」


    私も、そう思っていた。

    あの夜のコール音を、私は今でも覚えている。


    第二章
    ⑤カッコよかったよ


    五年生の運動会。

    春の光の中で、子どもたちが一斉に動き出した。

    司令台の神崎先生の笛に合わせて、次々と体勢が変わる。

    そこに、壮大な音楽が重なっていた。

    ――えっ。

    組み立て体操に音楽なんて、今まで見たことがない。

    でも、不思議なくらい合っていた。


    音楽に合わせて、動きが切り替わる。
    そのたびに、場所も変わる。

    気づけば、私も走っていた。

    ――えー!今年、めちゃくちゃ走っとるわ、私!

    撮って、走って、また構える。

    まるで自分もその中にいるみたいだった。


    そして、クライマックス。

    歓声の中で、私は――


    子どもじゃない。

    先生と同じ場所に立っていた。

    ――やり切った。

    気づけば、涙が頬を伝っていた。

    思わず、叫びたくなった。


    「ありがとうございました!」

    でも、声には出せなかった。


    その時だった。


    「ありがとうございました!」


    司令台の先生が、深く一礼した。

    ――あっ……

    胸の奥が、満たされていった。


    後日、私は伝えた。


    「あの時、私も『ありがとうございました』って言いたかったんです。
    でも言えなかった。
    そしたら先生、あの時言いましたよね」


    「はい」



    微笑みながら、言った。



    「カッコよかったよ!」



    その瞬間、世界が静かになった。

    白い空間の中で、先生の目だけが見えた。



    「ママ、もう帰るよ!」


    突然の子どもの声に、我に返る。

    慌てて頭を下げると、

    先生は少し目を見開いたまま、立ち尽くしていた。


    第二章
    ⑥母の言葉


    いつからだったのかは、分からない。

    私は神崎先生と目を合わせて話す時、
    真っ白な世界の中で会話をするようになった。

    今までにも、人を好きになったことは何度もあった。

    でも、どれほど好きになった相手でも、真っ白な世界になることなど、一度もなかった。

    だから、この現象が怖かった。

    その話をしたのは、母が退院してしばらく経った頃だった。


    ある時、思い切って母にこの話をしてみた。

    すると、なんと母も似たような体験をしたことがあると言うので、私は驚いた。


    母が通っていた、近所の接骨院の先生の話だった。

    母にとって、その先生は、特別ときめくような相手ではなかったらしい。

    しかし、治療が終わり、精算して帰ろうとする母のところへ、毎回その先生がやって来て、少し話をしていくのだという。


    その時だ。


    母も先生と目を合わせると、何も聞こえず、何も見えなくなる。

    毎回その世界に浸りながら、不思議だなと思っていたらしい。

    すると、最後にスタッフが声を掛けてきて、母は我に返る。

    帰り道、先生と話していた内容を思い出そうとしても、何を話したのか全く思い出せなかった。

    そんな、不思議な話だった。

    母の話を聞いた時、私は少しほっとした。

    あの真っ白な世界は、私だけのものではなかった。

    ただ、それが何なのかは、分からなかった。


    そしてその頃、神崎先生の身に、ある出来事が起きる。


    プロローグはこちら↓
    始まりのお話
    https://note.com/amaimomo123/n/n192c6ae58a53

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    第一章①②はこちら↓
    ペットのうさぎが活躍します。
    https://note.com/amaimomo123/n/n819147f638e7

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    第一章③④⑤はこちら↓
    始まりの合図は虫なんです。
    https://note.com/amaimomo123/n/n4babb887f533

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    第一章⑥⑦⑧はこちら↓
    父が夢で語ったのはこの言葉です。
    https://note.com/amaimomo123/n/n4a18c660c50e

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    第一章⑨⑩⑪はこちら↓
    突然、母が運ばれました。
    https://note.com/amaimomo123/n/nf72c9ebb3140

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    第一章⑫⑬はこちら↓
    保護者会の空気は最悪でした。
    https://note.com/amaimomo123/n/nfb53944439c7

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    第一章⑭⑮⑯はこちら↓
    とうとうツインレイ告白
    https://note.com/amaimomo123/n/n83564e1fed71

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    第二章①②③はこちら↓
    神崎先生の身に……?
    https://note.com/amaimomo123/n/na68b5fc131e4

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    第二章⑦⑧⑨はこちら↓
    あなたを救いたい、それだけ
    https://note.com/amaimomo123/n/na2d605788203

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    第二章⑩⑪はこちら↓
    決着つけましょう
    https://note.com/amaimomo123/n/nbf0ea09d45c2

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    第三章①②はこちら↓
    ずっと前から見られてた……?
    https://note.com/amaimomo123/n/n741247e05a18

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    第三章③④はこちら↓
    「ぷっ」の破壊力
    https://note.com/amaimomo123/n/n9d71dbcb9e2d

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    第三章⑤はこちら↓
    そんな目で見るの……?
    https://note.com/amaimomo123/n/n819a75d49776

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    第三章⑥⑦はこちら↓
    私だけ違う……
    https://note.com/amaimomo123/n/n5ced005533df

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    第三章⑧はこちら↓
    だいたいハリネズミのせい
    https://note.com/amaimomo123/n/n90c0a1e1651d

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    第三章⑨⑩はこちら↓
    答え合わせしよう
    https://note.com/amaimomo123/n/nf37388f77232

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    第三章⑪はこちら↓
    最後の最後に……
    https://note.com/amaimomo123/n/n850177083500

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    #創作大賞2026 #恋愛小説部門 #完結済
    #連載小説 #年の差 #先生と保護者

     
     
    ※DM・メールは受け付けていません。1日の終わりに人の心をぽっと照らす電球のような、小さな物語やエッセイを書いています。 少し切なくて、少し愛おしくて。 なぜか笑われることもあります。 良かったら、手を止めて読んでいって下さい☺️