
烙印 第21話 「異変」
https://note.com/prime_lemur1632/n/ne039696f85e4 第20話
ゴールデンウィークの休みが、
昨日までだったルイの会社では、
昼休みのコーヒーを飲むほんの
わずかな時間が、ちょっとした雑談の場に
なっていた。例外なくルイも多少の遅刻はしたが、何とか午前の仕事を終わらせて、
ユニマットのコーヒーにありついていた。
紙コップから熱い湯気が立ち昇ってくる。
「ルイさん。これ見ましたか。
なんか今ヤバいっすよ。」
会社の後輩の松田が、
スマホの画面を見せる。
「なんだこれは。」
そこには、はっきりと名指しではないが、明らかに誰かを呼ぶ文字が、ストーリーズに投稿されていた。時間を示す上部のバーが異様に間隔が短い。異常な頻度で、次々に投稿したのだとすぐわかる。
「どこなんだ」一枚目はこうだった。黒い画面に白い文字が躍る。そして二枚目も、そして、三枚目も。「いない」「どこだよ なあ」「 どこだって聞いてるんだ」「 なあ おい 」「 おまえの」「 ことだよ」「わかるよな」「なあ おい 」こんな調子で延々と意味不明な呼びかけが続いているのだった。
アカウント名を確認する。
水沢優秀。本名、つまりこれはマサだ。
俺はぎょっとする。
こんな投稿、普通じゃねえ。
画面越しに、奴の呼吸の荒さが
伝わってくるみてえだ。
「マサは、とってもいい奴なんだ、ルイ。」
かつて俺と奴が初対面だった時に
エイジはそう、マサを紹介した。
「明るくて、元気で、太陽みたいで。
俺の最高の友達なんだよ。
ルイも話してみて、
すごく楽しい奴だからさ。」
その時、俺は多少の違和感を感じたのだ。
俺を見る目が、笑っていなかった。
顔の筋肉だけが笑っていた。
目の奥に浮かんでいたのは
明らかに嫉妬の念だった。
マサは普段はいいやつだとは
思っていたが、エイジがコーヒーを
ひっくり返して、奴の服にかかった時、
ハンドタオルで拭いてやったことがあるが、その時の、人殺しを見るかのような、
笑わない目の奥の暗さに、
こいつはヤバい奴なんじゃないかという
嫌な予感はあったのだ。
とにかくエイジが俺の名前を呼ぶ時も、
機材についての説明をする時も
マサは同じように人殺しを見るような目で
俺を見た。俺は奴の恋情に
気が付かないふりをして煙草を吸った。
しかし、奴は、自分でも気が付いていない感情をどうやら俺が見抜いているらしいことを肌で感じ取ったのか、俺に対して、見下しているとでも思ったのか、すり寄ったかと思えば、それが通用しないとみると、攻撃的になって突っかかるときも相当あった。
俺が自分の話をしていると、
わざわざ、マサしか知らない話を
かぶせて来る。
俺がエイジに褒められていると、
バカ丁寧な口調で「存じておりますとも!」とへらへら笑って口にする。
とにかく、強烈に「お前なんかに負けるはずがないんだからな。」という意識がほの見える。俺はそれにも反応せず煙草を吸う。反応してやる義理はねえからな。
そうするとあいつは、息を呑んで
待っていた俺の反応が得られない事に
目を泳がせて焦りだし、
何とか勝とうと思って俺に敵わねえ
部分は徹底的に無視して、勝てそうなところだけを誇張しだす。
それでも俺が反応しねえでいると、
俺が、独身であることをいじり始めて、
笑いで攻撃し出す。
てめえも独身だろうがと返した後の、奴の狼狽ぶりは見ていられねえ。
自分が攻撃されることに関しては
死ぬほど脆いくせに、他人に対しては、
距離の取り方も満足に解らねえと来ている。
敬意もねえ。礼儀もねえ。
時折、こうやって他人の心に
土足で踏み入るような真似をするくせに、
同じことをされると途端に被害者面して
わめき散らす。未だ、謝ることも知らねえ。
……いい年しやがって。
一言で言えば、退屈な野郎だ。
あいつの頭をのぞき見すると、
劣等生の書いたつまらねえ作文を
読まされてるような気分になる。
大体わかったからもういい…。
何とか勝とうと思うのは別に構わねぇが、
いちいち、威嚇のつもりらしい顔して、
必死になって、
てめえの足りなさごまかしてよ。
情けねえ話だ、そんなことで勝ったような
気になって自己満してるくれえなら
現実で、少しぐらいは、俺を脅かせ。
どうせ出来やしねえし
何も変わらねえんだろうが、
そうやって逃げながら
虚勢を張ってるところが
最高にだせえ。
全く、こっちが、同じ土俵に
立つ気にも ならねえようじゃ、
正直、 話にもなりゃあしねぇ。
馬鹿にするわけではないがそう思う。
水沢優秀。
マサと呼ばれるそいつは、
エイジ。
お前が思っているような
明るいだけの男じゃねぇぜ。
お前の前でだけは、
太陽かもしれねぇが、
なんか、ただ明るいだけじゃ、
済まねえぞ。
闇抱えてねぇか。
底が見えねぇ暗さがある。
気付いているのかな。あいつ。
電話してみるか。いや。
電話じゃあ、
イマイチ間に合わねえような気もするしな。
めんどくせえことになってきやがったが、
仕方ねえ。あのままにはしておけねぇ。
俺は会社を早退し、
車をエイジの住む川口市へと走らせた。
ついでに、車の中に朝積み込みしておいた
奴の持ち物である昨日の洗濯物と、
デカいリュックを
あるな。と思って確認する。
俺は荷物を届けるだけでいい。
余計なことは言うつもりもない。
あんな感情のもつれなんぞに
巻き込まれたくねぇからな。
面倒くせえことに関わる気はねえ。
胸騒ぎが起きる。心拍数が上がる。
ちっ。
全く、下らねえぜ。
間に合えと祈る。
本当に、下らねえ!
俺の焦りは、革のハンドルを握る
両手の汗に現れ始めていた。
あいつの泣き顔が、
すがるような声が。
俺を呼んでいる。
いや、あいつが俺を
呼ぶわけがねえんだが
万が一にでもそうだとしたら、
…行かねえ理由は無い。
というか、引き返す選択肢も
始めからありゃしなかった。
ムカつくことにな。
理由なんか知るか。…くそったれが。
苛々するんだ。俺は、ああいう
甘ったれは大嫌いだ。
だが、奴を放って
置けねえ自分自身に対しては
更に、
腹立たしく思う。
行きたくねえ。
俺は無言でアクセルを踏む。
行きたくねえ。ハンドルを
爪が白くなるほど握り締める。
信号待ちで、息が震えてきやがる。
俺の心拍数が上がる。
行きたくねえ。それでも
…行くしかねえ…!!
ふざけやがって。
本当にクソみてえな
休み明けだぜ。
ついにルイが動く!エイジの危機に間に合うのか?!
まとめ読みは上記マガジンで!
https://note.com/prime_lemur1632/n/n101d092de82e 第1話
https://note.com/prime_lemur1632/n/nffe878333923 第2話
https://note.com/prime_lemur1632/n/n70230ea1ca35 第3話
https://note.com/prime_lemur1632/n/n8673917ba9cf 第4話
https://note.com/prime_lemur1632/n/n20c6e4724ed6 第5話
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https://note.com/prime_lemur1632/n/nc29e78a3f484 第11話
https://note.com/prime_lemur1632/n/nf682707fe11d 第12話
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