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烙印 第6話 「歌声」

    関口直子

     比較的このフェスの場内にはゴミ捨て場も数多く整備されていて、助かる。俺は、弁当のゴミを捨て、ルイのいるスタンド席に戻ろうとしたが、途中でバカ笑いをする若者達の集団に出くわし、避けようと左に寄ったが、相手は完全によそ見をしていて、俺の肩にぶつかる。謝ってはくれたが、その時、顔を見られた。

     「あっ、すいません!もしかして、あんた…、どこかで?…ていうか、酔ってます?」

     「おい、カズヒロ~?知り合いかよ。」

     逃げたい。しかし、足早に過ぎ去りたくても、他の男に捕まる。

     「無視かよ。なあ。おっさん。」

     マズい。掴まれた手は、容易に引き剥がせそうにない。

     「何だ?」ついに他の男達全員に囲まれた。

     「ああ?何だじゃねー。こいつぶつかってきておいて詫びもねぇんだよ。」

     俺が悪者にされている。 
     
     「ていうか、似てるよな。こいつ」
    ニヤついたカズヒロと言われた男が、俺を指さす。

    「ボルケーノのギタリストによ。おっさん。俺らに真似してなんか、歌ってくれよ。さもなきゃあ、エアギターだな!そしたら許してやるぜ。」

     ふざけるな。俺が、何でそんな事を。
     カッと頭に血が上り、心臓が冷えていく。
    エアギター‼エアギター‼と、手拍子までしてゲラゲラ笑う連中の眼差しには俺に対する敬意の欠片もない。
    (何、掴んでやがるんだ…てめえ…!)口には出ない。顔が青ざめて行く。
     
     そしてそのまま、無言で怒りにまかせて、俺を拘束しているその手を振りほどこうとしたときだ。
    マサの、デカい歌声が廊下中に響いた。

     

    「海は広くて、ばかでけえ!波が起これば皆沈む!」


     マサの作詞のひでぇ歌が、そいつらの耳をつんざく。その声量は、余りにもデカすぎて、マイクなしでも容赦なく鼓膜を突き刺してくる。

     「何だ、こいつ!うるせぇ…!」

     「ていうか、マジでボルケーノかよ!来てたの!?ヤベえ!俺この前ライブ行ったぜ!」

     「へへ!ありがとーな!なんかリクエストあったら、歌ってやるぜ!今日はお祭りだかんな、特別だっ!行くぜ!イカの漁船が、大漁で~、ご一緒に!」

     なんてこった。あれほどの険悪なムードが、嘘みたいにコイツの歌で晴れやがった。

     あっけにとられた俺の前で、妙に温かい交流が生まれた。

     「すげぇ。生歌至近距離で聴いたぜ!見ろ!サインまでくれた!」男達は上機嫌でその場を去る。

     「大丈夫か、エイジ。」

     駆け寄るマサの、サンダルには血がにじんでいた。

    「お前こそ、その足…。」

     痛いだろうに、おくびにも出さないで、歌いきりやがった。こんな俺を助けるために、あんな事までしやがって。何でだ。クソが。俺なんか放っておけばよかったんだ。

    「あー、歌ったら、よけい腹減った。弁当は?え…先に食ったー!?」

    抗議するマサだったが、俺達はとりあえず、スタンド席に戻ることにした。

    次回 素直になれぬエイジの、非常に面倒くさい性格が火を噴く展開なれば、マサはどう返答し、ルイはそれにどう応じ賜ふ?不穏なる展開に目が離せぬ!まとめ読みは上記リンクにて!!

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n101d092de82e 第1話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nffe878333923 第2話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n70230ea1ca35 第3話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n8673917ba9cf 第4話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n20c6e4724ed6 第5話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n60fd4e2ba418 第6話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/na9525663d4d5 第7話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nb430df89623b 第8話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nc3f782ad1e33 第9話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nb6db7055e9b6 第10話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nc29e78a3f484 第11話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nf682707fe11d 第12話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/ncefa75cbe910 第13話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n2c42d27c8d20 第14話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nb3035166132a 第15話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nf9b14b543f14 第16話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n3e7f02c6c809 第17話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n7d297e091bcb 第18話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n8ddbe81c4b03 第19話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/ne039696f85e4 第20話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n156481928991 第21話

     
     
     
    静けさの中に沈む物語と、心の奥で揺れる小さな灯火を描いています。 闇に触れ、魂の輪郭を確かめながら、人が再び歩き出す瞬間を記録しています。 あなたの内にある光を、そっと思い出せる場所でありたい。

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