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烙印  第5話 「フェス飯」

    関口直子

     「大丈夫か?」

     心配するルイに肩を支えられながら階段を登ると、まだ足元がふらつく。さっき飲んだ酒のせいだな。

     「でも、なるべく目立たない方がいい。スタンド席だったら外よりはいい。それに、ルイ、お前のその服じゃ外は暑すぎる。」

     ルイの体には、無数の傷跡があり、人目にさらさないようにするにはこんな暑い日でも厚手の生地の服を着ざるを得ない。昔死んだ、ルイの父親が付けたその傷は、どれもが醜いケロイド状になっていて、特にお腹の部分のそれはひどくグロテスクで、何年経とうと勝手に治ることはなかったし、ルイは心からそれを恥じていた。    
     
     そして、その傷跡が間違っても透けたり、人目に触れることのないように黒い衣装にしているせいで俺の何倍も暑そうに見えた。

     「そうだな。もう気温は30度とまではいかないが、夏日だ。日陰に入るだけでも助かる。それと、もう昼だな。先に食うか。エイジ、唐揚げ弁当は胃に重いか?フェス飯は結構ヘビーなもんばっかりだからな、お前がいつも食うようなサラダなんかまず無いぜ。」

     俺はとりあえず弁当を受け取った。

     「ありがとう、助かった。それにここは、いい風だし、座れるだけで気分がましになる。多分、これも食えるよ。」

     「そうか。じゃ、俺も頂くぜ。」

     並んで椅子に座っているとマサから電話があった。何やら俺たちが先にスタンド入りして飯を食い始めようとしていることについてぐだぐだ言っている気配がしたが、あと一曲終わったらこっちに来るらしい。どうあっても聴き逃しできないんだとか。俺が行くまで待っててくれと言って電話が切れる。全く相変わらずだ。

     「待たないのか?」

     「いいよ。早く食おう。」唐揚げにレモンを絞る。そしてごはんと共に食う。うまい。酔っぱらっていなければもっとうまかっただろう。

     「うまい。」
    思わず口に出る。どうやら俺は思ったより腹ペコだったらしい。あっという間に二人で唐揚げ弁当を食べ終えてしまった。

     「良かった。多分唐揚げ嫌いな奴はいないから大丈夫だと思ったんだ。」

     ルイの笑顔が眩しい。

     「もし。俺が…。」その先は言えなかった。酔いが回ったせいだ。余計な事を考えた。目の前の通路をカップルが通り過ぎる。手をつないで、階段を降りている。あんな真似は、俺には出来ない。そしてルイに頼むことは、更に出来ない。

     「どうした?」

     「何でもない。それより、食べた後のごみ、こっちにくれ。分別して捨てておくから。」

     ゴミを入れた袋を持って、俺はスタンド席下の廊下を一人歩いて行った。

     もし俺が。もしも、俺じゃなかったら、叶う夢はあったかな。今より才能があって、素質にも恵まれて、いや、そんなもの何もなかったとしても。

     バカで何一つとりえのない俺であることがばれたら全てがおしまいな気がして、役に立って、気が利いて、優しい人間であろうとしていた。

     もし、もしも、そうじゃなかったとしても。そうなれなかったとしても。

     ルイ、お前は俺に笑いかけてくれるんだろうか。

     そう思ってしまった。

     「…気持ち悪い。本当に無様で、吐き気がするぜ…。」

     こんな自分がたまらなく嫌いだ。

    次回の一句!『酒に酔ひ、ふらつくエイジは大ピンチ!!』(季語なし) 楽しいフェスがまさかの惨事!!まとめ読みは上記リンクより!

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n101d092de82e 第1話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nffe878333923 第2話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n70230ea1ca35 第3話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n8673917ba9cf 第4話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n20c6e4724ed6 第5話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n60fd4e2ba418 第6話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/na9525663d4d5 第7話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nb430df89623b 第8話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nc3f782ad1e33 第9話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nb6db7055e9b6 第10話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nc29e78a3f484 第11話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nf682707fe11d 第12話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/ncefa75cbe910 第13話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n2c42d27c8d20 第14話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nb3035166132a 第15話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nf9b14b543f14 第16話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n3e7f02c6c809 第17話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n7d297e091bcb 第18話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n8ddbe81c4b03 第19話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/ne039696f85e4 第20話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n156481928991 第21話

     
     
     
    静けさの中に沈む物語と、心の奥で揺れる小さな灯火を描いています。 闇に触れ、魂の輪郭を確かめながら、人が再び歩き出す瞬間を記録しています。 あなたの内にある光を、そっと思い出せる場所でありたい。

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