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烙印  第3話 「始まった」

    関口直子


     「スゲー!」無邪気に喜ぶマサは、全く遅刻したことを悪びれていない。
    「全く。」俺は溜め息が出る。本当に呆れたバカだな。まあ、せっかく来たからには楽しむしかない。
    結局のところ、そういう事だ。

     雷のような音圧のドラムやら、会場の熱気やら、コンクリートの地面にも関わらず地響きの伝わる人々のジャンプやら、何やらに当てられて、やがて俺の不愉快さもすっ飛んでしまった。

     「何してんだ、行くぜ!」

     「どこにだよ!」

     「最前列に決まってんだろ!」

     「今は無理だぞ、ああ、ホントに行きやがった!」

     このバカは、どこまでも人を振り回す。俺は結局のところ、荷物がデカすぎるので行けなかったが、何とヤツはあちこちで肘打ちを食らったり足を踏まれたりしながらも最前列にまで到達したらしい。

     メンバーの入れ替え時に、戻って来たときには、足を踏まれて軽い怪我までしていた。

     「ホントに、バカだな!ほら、消毒薬とデカい絆創膏あるから自分でやれ!」

     「へへへ。お前の分も目玉に焼き付けてやったぜ!」

     全くどうしようもないヤツだ。
     
     「済まねえ、興奮してタオルぶん投げたら、どっか行っちまったわ。もう一枚くれよ。」

     「最悪だなお前。」

     全く、最悪なんだが、かえって笑えてきてしまう。

     「全く、どうしようもねえわ、こいつ。」

     なんか、怒るのも馬鹿らしくなってきた。ていうか、ルイは、どこだ?ああ、はぐれたな。まあ、後で連絡するか。

     「ありがとな。おかげでなんか、痛いけど、まだ行けそうだ!」

     よろめいて立つマサは、次のステージまで行くつもりらしい。
    「まだまだ聴き足りねー!」

     「お、おい、埼玉スタジアムは広いんだ!あんまり歩くと帰りがヤベーぞ!その足腫れちまうかもだし、おい、ああ、ホントに行きやがった。」

     全く昔からあいつは後先考えないバカだった。

     水沢優秀。(通称マサ)俺と同い年の29歳。今年で30になる。奴は俺のバンドのボーカルをしている。声質はいいし、声もデカい。音程もあってる。ただ、奴は、どう頑張っても、ダサくてひどい歌詞しか作れないという欠点があり、更に致命的なのは、そんな自分に根拠のない自信があり過ぎて、自分のセンスの無さにすら気が付かないというおめでたい脳みそをしている事だった。

     そして、自己肯定感も高すぎて、この野外フェスティバルに、次に舞台上に立って参加するのは、誰あろう自分だという謎の自信まである始末だった。しかし、若手のバンドはいくらでも出て来るし、技術的にはるかに上の連中だってうじゃうじゃしているというのに、マサの自信はそれらを問題視することは全くなかった。

     俺は、そんな自分を客観的に見られないマサを、たびたび諫めようとしてきたが、奴はいつも言っていた。

     「全ての事はな!やってみなきゃあわからねえんだよ!」
    本当に馬鹿野郎だな、やる前から見えている勝負じゃねえか。俺は、この幼なじみが、しこたま愛されて育ってきたことを知っているが、いよいよ、奴のご両親は奴を甘やかしすぎていたようだと、当時は呆れていた。

     しかし、奴の言うことも一理あった。バンド結成から今まで、市内のお祭り会場特設コーナーや、デパートの催事場や、小さなライブハウスでの演奏、地方巡業をぼちぼちこなすうちに、ボルケーノは少しづつだが、成長をしつつあったのだ。

     初めから諦めていたら何も始まらなかった。

    次回 エイジ、致命的なミスをしでかす!!
    まとめ読みは上記リンクより!!一話づづは下のリンクでも!

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n101d092de82e 第1話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nffe878333923 第2話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n70230ea1ca35 第3話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n8673917ba9cf 第4話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n20c6e4724ed6 第5話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n60fd4e2ba418 第6話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/na9525663d4d5 第7話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nb430df89623b 第8話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nc3f782ad1e33 第9話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nb6db7055e9b6 第10話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nc29e78a3f484 第11話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nf682707fe11d 第12話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/ncefa75cbe910 第13話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n2c42d27c8d20 第14話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nb3035166132a 第15話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/nf9b14b543f14 第16話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n3e7f02c6c809 第17話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n7d297e091bcb 第18話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n8ddbe81c4b03 第19話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/ne039696f85e4 第20話

    https://note.com/prime_lemur1632/n/n156481928991 第21話

     
     
     
    静けさの中に沈む物語と、心の奥で揺れる小さな灯火を描いています。 闇に触れ、魂の輪郭を確かめながら、人が再び歩き出す瞬間を記録しています。 あなたの内にある光を、そっと思い出せる場所でありたい。

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