巡回群について
ここでは、重要な巡回群について解説します。巡回群とは「すべての要素が、あるひとつの要素だけを用いて表すことのできる群」です。具体的には、これまで何度も現れた、3次対称群
S3={id, ρ2, ρ3, τ1, τ2, τ3}
の正規部分群である3次交代群
N={id, ρ2, ρ3}
が巡回群になります。S3 の偶置換だけをすべて集めた群です(本シリーズ (30))。このことを今から解説します。
なお、一般に3次交代群は A3 と表しますが、ここでは S3 の正規部分群ということで、N という記号で表記しています。normal subgroup(正規部分群)の頭文字です。
3次交代群が巡回群になること
まず、N={id, ρ2, ρ3} の要素同士について、その置換の合成(積)の演算表
後先 idρ2ρ3ididρ2ρ3ρ2ρ2ρ3idρ3ρ3idρ2
より
ρ2ρ2=ρ3 ⋯(∗1)(下線部)
ρ3ρ2=id ⋯(∗2)(波線部)
ここで、同じものの置換の積を
ρ2ρ2=(ρ2)2 ⋯(∗3)
ρ2ρ2ρ2=(ρ2)3 ⋯(∗4)
⋮ 以下同様
と定義します。
なお、(∗4) に関して、N は群であるため、交換法則
(ρ2ρ2)ρ2=ρ2(ρ2ρ2)
が成り立ちます。交換法則よりどこから演算をしても結果は変わらないので、これを単に
(ρ2ρ2)ρ2=ρ2(ρ2ρ2)=ρ2ρ2ρ2
と表し、それを
ρ2ρ2ρ2=(ρ2)3
と表記しています。一般に、群の要素について、同じものの2つの積は2乗、同じものの3つの積は3乗、⋯、と累乗で表記します。
すると
idρ3=ρ3ρ2=(ρ2ρ2)ρ2=ρ2ρ2ρ2=(ρ2)3=ρ2ρ2=(ρ2)2 (∗2)より(∗1)より結合法則より(∗4)より(∗1)より(∗3)より
より
idρ3=(ρ2)3=(ρ2)2
よって
N={id, ρ2, ρ3}={(ρ2)3, ρ2, (ρ2)2}={ρ2, (ρ2)2, (ρ2)3}
これで、N の要素のすべてを、ひとつの要素 ρ2 だけを用いて表すことができました。この N のように「すべての要素が、あるひとつの要素だけを用いて表せる群」を巡回群といいます。このとき、この ρ2 を N の生成元といいます。
また、ρ2 が生成元となる巡回群を ⟨ρ2⟩ と表します。つまり
N={id, ρ2, ρ3}={ρ2, (ρ2)2, (ρ2)3}=⟨ρ2⟩
一般に、生成元を a とする巡回群を ⟨a⟩ と表します。
この N={id, ρ2, ρ3} は、ρ2 に次々と ρ2 を作用させていけば、その要素は巡回的にすべて現れます。
ρ2ρ2=ρ3ρ2=idρ2=ρ2ρ2=ρ3ρ2=idρ2=ρ2↓ ρ2 を作用ρ3↓ ρ2 を作用id↓ ρ2 を作用ρ2↓ ρ2 を作用ρ3↓ ρ2 を作用id↓ ρ2 を作用ρ2↓ 以下繰り返し⋮
つまり

円で描くと

ちなみに、N の要素同士の置換の合成(積)の演算表
後先 idρ2ρ3ididρ2ρ3ρ2ρ2ρ3idρ3ρ3idρ2
を、生成元 ρ2 だけで表すと次のようになります。
後先 idρ2ρ3id(ρ2)3ρ2(ρ2)2ρ2ρ2(ρ2)2(ρ2)3ρ3(ρ2)2(ρ2)3ρ2
3×3=9 通りのすべての結果は ρ2 のみで表されます。
巡回群を図形的にイメージ
ここで、巡回群を図形的にイメージしましょう。
3次対称群 N={id, ρ2, ρ3} の要素は、三角形の回転でイメージすることができます(本シリーズ (14), (28))。

id は何も回転しない、つまり 0° 回転とみなします(➀)。
ρ2 は 120° 回転とみなします(➁)。
ρ3 は 240° 回転とみなします(➂)。
すると、120° 回転 (ρ2) を3回繰り返すと 360°、つまり何も回転しない 0° 回転 (id) と同じなので
id=(ρ2)3
また、120° 回転 (ρ2) を2回繰り返すと 240° 回転 (ρ3) と同じなので
ρ3=(ρ2)2
つまり、0° 回転 (id) と 240° 回転 (ρ3) は、120° 回転 (ρ2) 1つだけで表すことができます。
3次対称群は巡回群ではないこと
なお、3次対称群 S3={id, ρ2, ρ3, τ1, τ2, τ3} は巡回群ではありません。先ほどみたように、S3 の要素のうち id と ρ3 は
id=(ρ2)3
ρ3=(ρ2)2
と、ひとつの要素 ρ2 だけを用いて表すことができますが、τ1, τ2, τ3 は ρ2 だけを用いて表すことはできません。
その理由を図形的に解説すると、τ1, τ2, τ3 は反転を意味することはすでにやりました(本シリーズ (28))。

この反転は、180° 回転ととらえることができます。

すると、これらの 180° 回転 (τ1, τ2, τ3) は、120° 回転 (ρ2) だけで表すことはできません。120° 単位で何度回しても、180° ちょうどにはならないからです。それが τ1, τ2, τ3 を ρ2 だけを用いて表すことのできない図形的イメージです。
N による左剰余類の集合が巡回群になること
ここで、S3 の正規部分群 N={id, ρ2, ρ3} による左剰余類の集合
{idN, τ1N}
を考えてみましょう。本シリーズ (32) でやった「正規部分群の縮小」の流れ図
S3縮小 N縮小 I={id, ρ2, ρ3, τ1, τ2, τ3} は群↓ 剰余群 {idN, τ1N} が構成可能正規部分群 N={id, ρ2, ρ3} による={id, ρ2, ρ3}↓ 剰余群 {idI, ρ2I, ρ3I} が構成可能正規部分群 I={id} による={id}
の下線部の集合です。
この集合が群(剰余群)になることは、本シリーズ (31)ですでに解説しましたが、実は巡回群にもなっています。

その理由は、{idN, τ1N} の要素同士について、その積の演算表(本シリーズ (31))
後先∘idNτ1NidNidNτ1Nτ1Nτ1NidN
より
τ1Nτ1N=idN(下線部)
つまり
(τ1N)2=idN
なので
{idN, τ1N}={(τ1N)2, τ1N}={τ1N, (τ1N)2}
これで、ひとつの要素 τ1N だけを用いて表すことができたので、この剰余群は巡回群です。生成元は τ1N なので、次のように表せます。
{idN, τ1N}={τ1N, (τ1N)2}=⟨τ1N⟩
この巡回群 {idN, τ1N} は、τ1N に次々と τ1N を作用させていけば、その要素は巡回的にすべて現れます。
τ1Nτ1N=idNτ1N=τ1Nτ1N=τ1N↓ τ1Nを作用idN↓ τ1Nを作用τ1N↓ τ1Nを作用idN↓ 以下繰り返し⋮
つまり

円で描くと

ちなみに、{idN, τ1N} の要素同士の積の演算表
後先∘idNτ1NidNidNτ1Nτ1Nτ1NidN
を、生成元 τ1N だけで表すと次のようになります。
後先∘idNτ1NidN(τ1N)2τ1Nτ1Nτ1N(τ1N)2
2×2=4 通りのすべての結果は τ1N のみで表されます。
なお、同様の議論によって、S3 の正規部分群 N による右剰余類の集合
{Nid, Nτ1}
も巡回群になります。
I による左剰余類の集合が巡回群になること
次に、3次交代群 N={id, ρ2, ρ3} の正規部分群
I={id}
による左剰余類の集合
{idI, ρ2I, ρ3I}
を考えてみましょう。本シリーズ (32) でやった「正規部分群の縮小」の流れ図
S3縮小 N縮小 I={id, ρ2, ρ3, τ1, τ2, τ3} は群↓ 剰余群 {idN, τ1N} が構成可能正規部分群 N={id, ρ2, ρ3} による={id, ρ2, ρ3}↓ 剰余群 {idI, ρ2I, ρ3I} が構成可能正規部分群 I={id} による={id}
の下線部の集合です。
この集合が群(剰余群)になることは、すでに本シリーズ (32) で解説しましたが、実は巡回群にもなっています。

その理由は、{idI, ρ2I, ρ3I} の要素同士について、その積の演算表
後先∘idIρ2Iρ3IidIidIρ2Iρ3Iρ2Iρ2Iρ3IidIρ3Iρ3IidIρ2I
より
ρ2Iρ2I=ρ3I ⋯(∗1)(下線部)
ρ3Iρ2I=idI ⋯(∗2)(斜線部)
同じものの置換の積を
ρ2Iρ2I=(ρ2I)2 ⋯(∗3)
ρ2Iρ2Iρ2I=(ρ2I)3 ⋯(∗4)
⋮
と表せるので
idIρ3I=ρ3Iρ2I=(ρ2Iρ2I)ρ2I=ρ2Iρ2Iρ2I=(ρ2I)3=ρ2Iρ2I=(ρ2I)2 (∗2)より(∗1)より結合法則より(∗4)より(∗1)より(∗3)より
より
idIρ3I=(ρ2I)3=(ρ2I)2
よって
{idI, ρ2I, ρ3I}={(ρ2I)3, ρ2I, (ρ2I)2}={ρ2I, (ρ2I)2, (ρ2I)3}
これで、ひとつの要素 ρ2I だけを用いて表すことができたので、この剰余群は巡回群です。生成元は ρ2I なので、次のように表せます。
{idI, ρ2I, ρ3I}={ρ2I, (ρ2I)2, (ρ2I)3}=⟨ρ2I⟩
この巡回群 {idI, ρ2I, ρ3I} は、ρ2I に次々と ρ2I を作用させていけば、その要素は巡回的にすべて現れます。
ρ2Iρ2I=ρ3Iρ2I=idρ2I=ρ2I↓ ρ2Iを作用ρ3I↓ ρ2Iを作用idI↓ ρ2Iを作用ρ2I↓ 以下繰り返し⋮
つまり

円で描くと

ちなみに、{idI, ρ2I, ρ3I} の要素同士の積の演算表
後先∘idIρ2Iρ3IidIidIρ2Iρ3Iρ2Iρ2Iρ3IidIρ3Iρ3IidIρ2I
を、生成元 ρ2I だけで表すと次のようになります。
後先∘idIρ2Iρ3IidI(ρ2I)3ρ2I(ρ2I)2ρ2Iρ2I(ρ2I)2(ρ2I)3ρ3I(ρ2I)2(ρ2I)3ρ2I
3×3=9 通りのすべての結果は ρ2I のみで表されます。
なお、同様の議論によって、N の正規部分群 I={id} による右剰余類の集合
{Iid, Iρ2, Iρ3}
も巡回群になります。
まとめ
➀ 巡回群とは「すべての要素が、あるひとつの要素だけを用いて表すことのできる群」です。
➁ 3次対称群 S3={id, ρ2, ρ3, τ1, τ2, τ3} は巡回群ではありません。
➂ 3次対称群 S3 の正規部分群である3次交代群 N={id, ρ2, ρ3} は巡回群です。つまり
N={id, ρ2, ρ3}={ρ2, (ρ2)2, (ρ2)3}=⟨ρ2⟩
➃ N による左剰余類の集合 {idN, τ1N} は巡回群です。つまり
{idN, τ1N}={τ1N, (τ1N)2}=⟨τ1N⟩

➄ 3次交代群 N={id, ρ2, ρ3} の正規部分群 I={id} について、I による左剰余類の集合 {idI, ρ2I, ρ3I} は巡回群です。つまり
{idI, ρ2I, ρ3I}={ρ2I, (ρ2I)2, (ρ2I)3}=⟨ρ2I⟩

復習として、本シリーズ (32) でやった「正規部分群の縮小」の流れ図
S3縮小 N縮小 I={id, ρ2, ρ3, τ1, τ2, τ3} は群↓ 剰余群 {idN, τ1N} が構成可能正規部分群 N={id, ρ2, ρ3} による={id, ρ2, ρ3}↓ 剰余群 {idI, ρ2I, ρ3I} が構成可能正規部分群 I={id} による={id}
を用いて整理すると、本記事で述べたことは次の黒字部分です。
S3縮小 N縮小 I={id, ρ2, ρ3, τ1, τ2, τ3} は巡回群ではない↓ 巡回群 {idN, τ1N}=⟨τ1N⟩ が構成可能正規部分群 N={id, ρ2, ρ3} による={id, ρ2, ρ3}=⟨ρ2⟩ は巡回群↓ 巡回群 {idI, ρ2I, ρ3I}=⟨ρ2I⟩ が構成可能正規部分群 I={id} による={id}
なお、N が巡回群であることは本質的ではなく、S3 の正規部分群であることが重要です。I も N の正規部分群であり、群の縮小の列は、「その前の群の正規部分群」になっていることが、解の公式が存在するかどうかを判定する上で重要になります。
S3⊃縮小S3の正規部分群N⊃縮小Nの正規部分群I
つまり、次の黒字部分が重要になります。
S3縮小 N縮小 I={id, ρ2, ρ3, τ1, τ2, τ3} は群↓ 巡回群 {idN, τ1N}=⟨τ1N⟩ が構成可能正規部分群 N={id, ρ2, ρ3} による={id, ρ2, ρ3} は S3 の正規部分群↓ 巡回群 {idI, ρ2I, ρ3I}=⟨ρ2I⟩ が構成可能正規部分群 I={id} による={id} は N の正規部分群
まとめると、
➀ 正規部分群を取りながら群が縮小すること
➁ その正規部分群による剰余類の集合が巡回群になること
の2つの関係を保持しながら、単位元のみからなる正規部分群 {id} にうまくたどり着くことができれば、その方程式には解の公式が存在する。逆に {id} にたどり着かなければ、解の公式は存在しない、というのがガロアのアイデアです。
(参考)各章の内容
(1)「2次方程式の解の公式」を式変形で導出
・平方完成
(2)「3次方程式の解の公式」を導出するための準備
・1 の3乗根 ω
(3)「3次方程式の解の公式」を式変形で導出
・チルンハウス変換
(4)「解と係数の関係」と「対称式」の解説
(5)「対称式」を用いた「2次方程式の解の公式」の導出
(6)「解の置換」と「ラグランジュ・リゾルベント」の解説
(7)「ラグランジュ・リゾルベント」による「3次方程式の解の公式」の導出
(8)「偶置換」と「奇置換」の解説(ここから「アーベルの証明」の準備)
(9)「差積の2乗」が対称式となること、及び「差積」と平方根を結ぶ等式の証明。
(10)「平方根」「3乗根」と次々と累乗根を加えていくアイデア
(11)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「2次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(添加する式について加筆予定)
(12)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(前編)。「差積の2乗の平方根」を用いて対称性を保つ置換を「偶置換」にまで絞り込む(対称性の破壊)。
(13)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(後編)。「ラグランジュ・リゾルベント」を用いて対称性を保つ置換を「恒等置換」にまで絞り込む(対称性の破壊)。⟶ 3次方程式の解の公式の完成
(14)「アーベルの証明」の解説①。5次方程式の解の差積(または差積の2乗の平方根)を添加して、加減乗除ができる式の範囲を拡大。その結果、構成可能な式の対称性が5次置換(対称式)から偶置換シンメトリーへと破壊されることを解説。
(15)「アーベルの証明」の解説②。すべての置換は互換で表せることから、5次置換をすべて互換の積で表して、偶置換と奇置換に分類する。
(16)「アーベルの証明」の解説➂。「すべての偶置換は3次巡回置換の積で表される」ことの解説。
(17)「アーベルの証明」の解説➃(最後)。「任意の3次巡回置換が5次巡回置換の積で表せる」ことによって、5次方程式には解の公式が存在しないことが証明されることの解説。
(18)もっと分かりやすくシリーズ①「累乗根の添加」について重点解説。
(19)もっと分かりやすくシリーズ②「対称性の破壊」について重点解説。
(20)もっと分かりやすくシリーズ③「対称性を恒等置換まで破壊」することについて重点解説。
(21)もっと分かりやすくシリーズ➃ 何次方程式でも「最初に解の差積を添加して対称性を破壊すること」は常套手段。
(22)もっと分かりやすくシリーズ➄「解の和と差の連立」による2次方程式の解の公式の導出について。
(23)もっと分かりやすくシリーズ➅「対称式ではない解の公式を基本対称式で表す」ことのついて。
(24)もっと分かりやすくシリーズ➆「定数 ω」について復習
(25)もっと分かりやすくシリーズ➇ 3次方程式の解の公式の導出方法「カルダノの方法」を復習
(26)もっと分かりやすくシリーズ➈「カルダノの方法」と「対称性の破壊」の関連について
(27)もっと分かりやすくシリーズ⑩ そもそもなぜ解の公式が存在しないかを『巡回置換』から紐解く
(28)中学でも分かるガロアの証明① ガロアの発見した「群」について
(29)中学でも分かるガロアの証明② ガロアの発見した「部分群」について
(30)中学でも分かるガロアの証明③ ガロアの発見した「正規部分群」について
(31)中学でも分かるガロアの証明④ 正規部分群による剰余類の集合が群(剰余群)になること
(32)中学でも分かるガロアの証明④ 単位元のみの正規部分群 {id} による剰余類の集合が群(剰余群)になること