(コメント)
このテーマについて、本シリーズ (22) でより分かりやすく解説しています。
(本文スタート)
竹村の家庭教師が始まった。
「前回まで『2次と3次方程式の解の公式』、『解と係数の関係』、そして”対称式は基本対称式の加減乗除、つまり足し算・引き算・掛け算・割り算で表せる”という『対称式の基本定理』をやったね。今日の授業は2次方程式の解の公式について、”対称式”という観点でその成り立ちを見てみよう。
解の和と差である α+β と α−β の連立で、2次方程式の解の公式を求めることが今日の目標だよ」
「お願いします!」
「元気いいね、ではいくよ。まずは2次方程式の解の公式を復習しよう。森田君、復習として導出してみようか」
「はい」というとすぐに小学5年生の森田君はノートに向かった。
<2次方程式の解の公式の導出(復習)>
「まずは、2次方程式 ax2+bx+c=0 について、x2 の係数を 1 にするために両辺を a(=0) で割って
ax2+bx+c=0x2+abx+ac=0
ここで平方完成をします。x の係数 ab の半分、つまり 2 で割った 2ab の 2 乗 (2ab)2 を左辺に足して引きます。同じものを足して引いたので、式の等号は成り立ちます。
x2+abx足して引いた+(2ab)2−(2ab)2+acx2+2⋅2abx+(2ab)2−(2ab)2+ac=0=0
すると x2+2Ax+A2=(x+A)2 の因数分解公式を利用すれば、A を 2ab と見立てることによって下線部は
x2+2Ax+A2=(x+A)2x2+2⋅2abx+(2ab)2=(x+2ab)2
と因数分解できるので、下線部を (x+2ab)2 に書き換えて
(x+2ab)2−(2ab)2+ac=0
−(2ab)2+ac を右辺に移項して
(x+2ab)2=(2ab)2−ac=(21⋅ab)2−ac=(21)2(ab)2−ac=41(ab)2−ac
より
(x+2ab)2=41(ab)2−ac
ここで、両辺の平方恨をとって
x+2ab=±41(ab)2−ac
となります」
「そうだね。確認だけど平方根をとると ± と、プラスマイナスの符号が現れることに注意しよう。
x2=4 の解は x=±4=±2、x2=5 の解は x=±5 と、プラスマイナスがつくのと同じ考えだね」
「そうです。(□)2=A は □=±A となる形式です。ここで 2ab を移項して
x=−2ab±41(ab)2−ac
あとはこの式を整理して
x=−2ab±41{(ab)2−4⋅ac}=−2ab±21(ab)2−4⋅ac=−2ab±21a2b2−a4c=−2ab±21a2b2−a24ac=−2ab±21a2b2−4ac=−2ab±21⋅a2b2−4ac=−2ab±21⋅ab2−4ac=−2ab±2ab2−4ac=2a−b±b2−4ac
「これで解の公式が得られました」
「よくできました。続いて『2次方程式の解と係数の関係』と『対称式』も復習しておこう。
<2次方程式の解と係数の関係(復習)>
2次方程式 ax2+bx+c=0 の2つの解を α,β とすると
α+β=−ab
αβ=ac
これは2つの解が具体的に分からなくても、その解の和と積は係数を使って求めることができる、ということだね。
<対称式(復習)>
対称式とは、「文字を入れ替えても同じになる式」のこと。
例えば、α+β、αβ、α2+β2 は対称式になるね。α と β を入れ替えても同じ式になるから。しかし、α−β や α2β は対称式ではない。α と β を入れ替えたら違う式になるよ。特に α+β、αβ を『基本対称式』という。『解と係数の関係』は、解の『基本対称式』を、その方程式の係数で表せるということなんだ。
基本対称式α+β 基本対称式αβ=−ab=ac
さて、対称式について次の重要な定理があったね。
<対称式の基本定理(復習)>
全ての対称式は『基本対称式』の加減乗除で表すことができる。
例えば対称式 α2+β2 は、(α+β)2 の展開公式
(α+β)2=α2+2αβ+β2
について、左右入れ替えて
α2+2αβ+β2=(α+β)2
2αβ を移項して
α2+β2=(基本対称式α+β)2−2基本対称式αβ
とすることによって、基本対称式で表すことができるね。そこで今日は、2次方程式の解の公式を先ほどやった平方完成ではなく、この『基本対称式を利用した方法』で導いてみようと思う。これは2次方程式 ax2+bx+c=0 を直接変形しないで解の公式を求める方法なんだ。
<ax2+bx+c=0 を直接変形しないで解の公式を求める>
2次方程式 ax2+bx+c=0 の2つの解を α,β とおく。そこで、その和 α+β とその差 α−β を考えよう。
では、この α+β と α−β を足して2で割るとどうなる?」
「α になります」
「そうだね。実際計算してみると
2(α+β)+(α−β)=2α+β+α−β=22α=α
と確かに α になるね。そこで、左右入れ替えれば
α=2(α+β)+(α−β)
となり、 α を α+β と α−β で表すことができた。それでは β はどうかな?」
「α+β から α−β を引いて2で割ります」
「そうそう今度は引いて2で割ればいいんだね」
2(α+β)−(α−β)=2α+β−α+β=22β=β
よって β は
β=2(α+β)−(α−β)
と表せる。まとめておこう。
αβ=2(α+β)+(α−β)=2(α+β)−(α−β)
これらの式は、”恒に成り立つ等式”ということで『恒等式』というよ。すると α+β は基本対称式なので、解と係数の関係から −ab と表せる。しかし問題は α−β の方だね。
αβ=2(α+β−ab)+(α−β?)=2(α+β−ab)−(α−β?)
そもそも解の公式というのは「解 α, β をその方程式の係数で表すこと」。よって、この式の「?」部分。α−β をどうするかが問題となる。α−β は、α, β を入れ替えると −1 倍となるので対称式ではない。
α−β⟶==β−α−α+β−(α−β) ⇐対称式ではない
すると『対称式の基本定理』より、対称式でなければ基本対称式 α+β, αβ の加減乗除で表すことはできない。
<対称式の基本定理(別表現)>
対称式である ⟷ 基本対称式の加減乗除で表すことができる。
対称式でない ⟷ 基本対称式の加減乗除で表すことができない。
つまり、『解と係数の関係』の左辺は基本対称式だったので
基本対称式α+β 基本対称式αβ=−ab=ac
基本対称式の加減乗除で表すことができなければ、解と係数の関係の右辺に置き換えることができず、2次方程式の係数 a, b, c の加減乗除で表現できない、というわけだね。
α−β⟶対称式ではない⟶基本対称式 α+β, αβ の加減乗除で表せない⟶解と係数の関係を用いて係数の加減乗除で表せない
では、対称式ではない α−β をどうするか?そこでアイデアが必要になる。そのアイデアというのが、α−β を 2 乗した (α−β)2 を求めることによって、その「平方根を取る」、ということなんだ。α−β は対称式ではないけど 、2 乗した (α−β)2 は対称式となる。
(α−β)2⟶===(β−α)2(−α+β)2{−(α−β)}2(α−β)2 ⇐対称式
−1 倍は 2 乗すると 1 倍になるからね。すると対称式 (α−β)2 は基本対称式の加減乗除で表すことができ、基本対称式で表すことができれば『解と係数の関係』を使って2次方程式の係数 a,b,c を使って表すことができる。そして最後に (α−β)2 のルート、つまり”平方根を取る”ことによって α−β も2次方程式の係数 a,b,c を用いて表すことができる、という発想なんだね。では森田君、具体的に計算してみようか」
「わかりました」と言うとすぐに森田君はノートに数式を書き始めた。
「初めに (α−β)2 を展開します」
(α−β)2=α2−2αβ+β2=α2+β2−2αβ
すると下線部は、先ほど習った (α+β)2 の展開公式
(α+β)2=α2+2αβ+β2
より両辺を入れ替えて
α2+2αβ+β2=(α+β)2
より 2αβ を移項して
α2+β2=(α+β)2−2αβ
これを下線部に代入すればいいので
(α−β)2=α2+β2−2αβ=(α+β)2−2αβ−2αβ=(α+β)2−4αβ
より
(α−β)2=(α+β)2−4αβ
となり (α−β)2 を基本対称式で表すことができます。これに2次方程式の解と係数の関係
α+β αβ=−ab=ac
を代入すると
(α−β)2=(−ab)2−4⋅ac=(ab)2−4⋅ac
ここで両辺の平方根をとると
α−β=±(ab)2−4⋅ac
となり、これで α+β と α−β を、2次方程式 ax2+bx+c=0 の係数 a, b, c を用いて次のよう定めることができます。
⎩⎨⎧α+β=−abα−β=±(ab)2−4⋅ac
α−β を求めるにあたって、四則演算の他に「平方根」という演算を利用したわけです。
次に α, β を具体的に求めていきます。そのためには上の連立方程式を解きます。この式は「α, β の連立方程式」になっているので、これを解けば原理的に α, β を求めることができます。α−β を求めたのは、この連立方程式を解くためだということもできます。
さて、α−β の平方根の前の符号は ”±” とプラスとマイナス2つあるので、場合分けをしましょう。まずは α−β の符号がプラスのとき、つまり
(case 1)
⎩⎨⎧α+β=−abα−β=(ab)2−4⋅ac
のとき。これを最初にやった α と β の式
αβ=2(α+β)+(α−β)=2(α+β)−(α−β)
に代入すると、α は
α=2−ab+(ab)2−4⋅ac
β は
β=2−ab−(ab)2−4⋅ac
次に α−β の符号がマイナスのとき、つまり
(case 2)
⎩⎨⎧α+β=−abα−β=−(ab)2−4⋅ac
のとき。これを α と β の式
αβ=2(α+β)+(α−β)=2(α+β)−(α−β)
に代入すると、α は
α=2−ab+⎩⎨⎧−(ab)2−4⋅ac⎭⎬⎫=2−ab−(ab)2−4⋅ac
β は
β=2−ab−⎩⎨⎧−(ab)2−4⋅ac⎭⎬⎫=2−ab+(ab)2−4⋅ac
以上をまとめると
αβ=2−ab+(ab)2−4⋅ac=2−ab−(ab)2−4⋅ac
または
αβ=2−ab−(ab)2−4⋅ac=2−ab+(ab)2−4⋅ac
となります」
「素晴らしい!大変よくできました。α と β にはこのように、プラスとマイナスの組み合わせで2組の解が存在するんだけど、α と β には区別が無いので、上の2組は全くの対等なんだ。それでこれを ”x=” として、プラスマイナス ”±” の記号を使って1つにまとめたのが『2次方程式の解の公式』になるんだね。
x=2−ab±(ab)2−4⋅ac
ただこの式は、さっき森田君が導出した教科書に出てくる解の公式
x=2a−b±b2−4ac
とは違っているけど、さらに計算していくと同じ形になるよ。森田君計算してみようか」
「わかりました」すぐさま森田君はペンを走らせた。
x=2−ab±(ab)2−4⋅ac=2−ab±a2b2−a4c=2−ab±a2b2−a24ac=2−ab±a2b2−4ac=2−ab±a2b2−4ac=2−ab±ab2−4ac=2a1⋅(−b±b2−4ac)=2a−b±b2−4ac
「これで教科書に載っている形になりました」
「そうだね。形は違うけど同じ式なんだね」
「では最後に今日の授業をまとめると」
「先生質問があります!」
「何かな?」
「α そのものは対称式でしょうか」
なにやら鋭い質問が飛んできた。
「α は、α と β の入れ替えで β に変化するの対称式ではないね。同じ理由で β も α に変化するので対称式ではないよ」
αβ⟶β ⇐対称式ではない⟶α ⇐対称式ではない
「やはりそうか・・・」
森田君は探偵のような表情で鉛筆を口元にあてた。そしてゆっくりとホワイトボードの前に立ち、赤いマーカーを手に取った。
「すると解の公式の導出は、対称式でない α と β を基本対称式で表すことによって実現できたんですが、基本対称式の”加減乗除”だけでは無理があります。なぜなら
αβ+α+βαβ(α+β)αβα+β
のように、基本対称式の加減乗除だけだと、必ずそれは対称式となるからです。つまり解の公式を得るためには、基本対称式を用いながら、その対称性をうまく崩して α と β のように対称ではない式をつくる必要があります。
α=(基本対称式で表しながらその対称性を崩す)β=(基本対称式で表しながらその対称性を崩す)
求められる解の公式は、対称ではない式なのです」
思いもよらぬ鋭角的な指摘に、竹村は少しぞわっとした。
「確かにそうだね。解の公式は、対称式でない α と β を対称式を使って表すという不思議な式なんだ」
と歩調を合わせると、赤いマーカーで板書にチェックを入れながら、森田君はさらに続ける。
「そうなんです。その対称性を崩す鍵となるのがルート、つまり平方根なのです。そこで α−β を考えます。この式の α と β を入れ替えると
α−β⟶==β−α−α+β−(α−β) ⇐対称式ではない
となり、α−β は対称式ではありません。−1 倍となってしまいます。しかし 2 乗すると −1 倍は 1 倍になるので、 2 乗した (α−β)2 は対称式になります。すると (α−β)2 は
(α−β)2=(α+β)2−4αβ
と基本対称式で表すことができるので、解と係数の関係を用いて
(α−β)2=(ab)2−4⋅ac
と2次方程式の係数 a, b, c で表すことができました。後はこの平方根を取ることによって
α−β=±(ab)2−4⋅ac
と対称式でない α−β を、2次方程式の係数 a, b, c で表すことができたのです。「平方根を用いる」というのが鍵となります。α−β は対称式ではないので加減乗除だけでは不可能でしたが、「平方根」という新しい演算を用いることによって係数表示が可能となったのです。これで α+β と α−β を
⎩⎨⎧α+β=−abα−β=±(ab)2−4⋅ac
と決定したので、これを用いることによって
x=2−ab±(ab)2−4⋅ac
と解の公式を導くことができました。繰り返しになりますが、大事なことは「平方根を取る」ということ。平方根を取ることによって必然的に ”±” という不定性、つまり「プラスかマイナスか」の定まらない性質が入ります。その定まらない性質を利用して、解を基本対称式で表しながらも、その対称性を崩すことができます。もう少し詳しく言うと、先ほどの式についてプラスの方を α
α=2−ab+(ab)2−4⋅ac
とすると、もう一つの解 β はマイナスの方
β=2−ab−(ab)2−4⋅ac
となります。 つまり α と β の解の入れ替えは、プラスとマイナスの入れ替えに相当します。
解の入れ替えα=2−ab+(ab)2−4⋅ac↕↕±の入れ替えβ=2−ab−(ab)2−4⋅ac
元をたどれば、最初の式
α=2(α+β)+(α−β)
について、 α と β を一斉に入れ替えると
αβ=2(α+β)+(α−β)↕↕↕↕↕=2(β+α)+(β−α)=2(α+β)+(−α+β)=2(α+β)−(α−β)
より、やはり α と β の解の入れ替えは、プラスとマイナスの入れ替えに相当します。
解の入れ替えα=2(α+β)+(α−β)↕↕±の入れ替えβ=2(α+β)−(α−β)
つまり、α と β の解の入れ替えを、平方根を取ることによって生じるプラスとマイナスの入れ替えによって実現できたのです。なお、この ± は平方完成のときににも現れます。
(x+2ab)2(x+2ab)2=(2ab)2−ac=41(ab)2−ac
から両辺の平方恨をとって
x+2ab=±41(ab)2−ac
と計算するところがその場面です。プラスの方を α、マイナスの方を β とすれば、やはり α と β の解の入れ替えはプラスとマイナスの入れ替えに相当します。
α+2ab=±41(ab)2−ac解の入れ替え↕↕±の入れ替えβ+2ab=±41(ab)2−ac
そしてこれを計算していけば
解の入れ替えα=2a−b+b2−4bc↕↕±の入れ替えβ=2a−b−b2−4bc
となり、これから解の公式
x=2a−b±b2−4ac
が生まれます。つまり、そもそも対称式ではない α と β を対称式で表すには、(α−β)2 の平方根を取ることによって生じる ± を利用することによって、対称式で表しつつもその対称性を α, β と同じレベルまで、すなわち α と β の交換がプラスとマイナスの交換と一対一に対応するレベルにまで対称性を崩します。それによって、本来基本対称式の加減乗除だけで表すことは不可能な α, β という対称性の無い式を、対称式で表すことが可能となったわけです」
「なるほど・・・」竹村は大きくうなづいた。
「先生、するとこの考えは3次方程式に解の公式にも応用できそうです」
「というのは?」
「対称式ではない α−β を、2 乗してから平方根をとることによって、2次方程式の解の公式を得ることができました。すると3次方程式だと・・・」
「3次方程式だと?」
「α−β は、α と β を入れ替えても 2 乗すれば対称式になる。すると3次方程式には α,β,γ と3つの解があるので・・・、そうか3つの文字の入れ替えか!先生、今日習った内容を3次方程式の解の公式にも応用できそうです!次の授業までに考えてみます!」
「そうだね、今日はもう時間なので次の授業にしようか。森田君も考えてみて、かなり難しいよ」
「分かりました!」
今日の授業は終わった。
「3つの文字の入れ替え・・・、もしや”置換”の概念に辿り着いてる?」
森田君の赤マーカのチェックを反芻しながら、「もう一度準備しないと」と、夜中までやっている図書館に竹村は向かった。
(了)
(コメント)応募期間に最後まで完成させることは出来ませんでしたが、応募期間終了後も可能な限り続けていきます。というか、どう解説したらいいのか竹村同様勉強中です。
一人でやっていて読んでくれる人がいないので、客観的にどこが分からないのか分からないというのが弱みです。小説の形態をとりながらも、数学的には市販されているどの書籍より分かりやすくしたいので、分からないところがあればコメント下さい。作品の方に反映させたいと思います。