(初めに)ここでは、分かりにくいと思った本シリーズ (11) の内容をもう一度解説していきます。
なお、本シリーズ (11) では便宜的に「係数の置き換え」を行っていますが、ここでは行っていません。置き換えるか置き換えないかの違いだけで、本質的には同じです。
(本文スタート)
2次方程式の解の公式について、「解の差積 α−β を添加する」ことの重要性を本シリーズ (21) で解説しました。この差積を添加する意味を別の角度で解説していきます。キーワードは「α+β=◯ と α−β=□ の連立方程式
{α+β=◯α−β=□
を解いて、2次方程式の解の公式を導出する」ということです。
α+β を係数で表す
第1式 α+β=◯ の方は、<解と係数の関係>の最初の式から容易に分かります(本シリーズ (4))。
<解と係数の関係>(復習)
2次方程式 ax2+bx+c=0 の解 α, β について
α+βαβ=−ab=ac
***
つまり
⎩⎨⎧α+β=−abα−β=□
と、第1式が決定します。問題は第2式
α−β=□
の方です。これは解の差積とよばれるものです。
解の差積 α-β を係数で表す
2次方程式 ax2+bx+c=0 の解を α, β とすると、その解の差積 X2 は次のようなものでした。
X2=α−β
この差積を、2次方程式の係数と有理数の加減乗除で構成できるすべての式の集合 Q2 に添加することにより、その添加された集合 Q2(X2) 内で、2次方程式の解の公式を構成することができました(本シリーズ (21))。

この差積
X2=α−β
を、2次方程式 ax2+bx+c=0 の係数 a, b, c を用いて表すことを考えましょう。
X2=α−β=(a, b, c で表す)
そのためには、まず差積の2乗 (X2)2
(X2)2=(α−β)2
を考えます。変数を入れ替えても変化しない式を対称式といいました。α と β を入れ替えると、α−β は式が変化するので対称式ではありませんが、(α−β)2 は式が変化しないので対称式です(本シリーズ (4))。
α−β (α−β)2 α と β を入れ替えると β−α=−(α−β) 変化するので対称式ではないα と β を入れ替えると (β−α)2=(α−β)2 変化しないので対称式である
すると、
<対称式の基本定理>
「すべての対称式は、基本対称式 α+β, αβ の加減乗除で表すことができる」
より、対称式である (α−β)2 は、基本対称式の加減乗除で表すことが可能です。実際計算すると
(α−β)2=α2−2αβ+β2=α2+β2−2αβ=(α+β)2−2αβ−2αβ=(基本対称式α+β)2−4基本対称式αβ
と、基本対称式の加減乗除で表すことができます。下線部のところは
α2+β2=(α+β)2−2αβ
の等式を用いています。証明は、以下のような因数分解公式(中3で習う)
α2+2αβ+β2=(α+β)2
について、2αβ を移項して
α2+β2=(α+β)2−2αβ
より証明されます。
ここで、ax2+bx+c=0 の解を α, β としたときの<解と係数の関係>
α+βαβ=−ab ⋯①=ac
を基本対称式の部分に代入して
(α−β)2=(α+β)2−4αβ=(−ab)2−4⋅ac=(ab)2−4⋅ac
より
(α−β)2=(ab)2−4⋅ac
ここで「x2=3 を解くと x=±3」と同じ形式の計算より
(α−β)2α−β=(ab)2−4⋅ac↓ 2乗をはずすとプラスマイナスルート=±(ab)2−4⋅ac
(詳説)
(α−β)2=(ab)2−4⋅ac
α−β=X2 であり、かつ (ab)2−4⋅ac=A と置くと
(X2)2=A
「x2=3 を解くと x=±3」と同じ形式の計算より
X2=±A
X2, A を置き換える前に戻して
α−β=±(ab)2−4⋅ac ⋯②
これで、差積 α−β を係数 a, b, c を用いて表すことができました。 α−β は対称式ではないので、a, b, c の加減乗除だけで表すことはできませんが、平方根を用いることによって ② のように表すことができました(本シリーズ (11))。
すると、解と係数の関係から得られる ① 式
α+β=−ac ⋯①
と、先ほど求めた ② との連立方程式
⎩⎨⎧α+β=−ab ⋯①α−β=±(ab)2−4⋅ac ⋯ ②
を解くことによって α, β が決定できます。冒頭で述べた、「α+β=◯ と α−β=□ の連立方程式を解く」というキーワードです。
では、実際に計算していきます。
解の和 α+β と差 α-β の連立方程式を解く
② にプラスとマイナスの2通りがあるので、プラスとマイナスで次のように場合分けをします。
(case1) プラスのとき
⎩⎨⎧α+β=−ab ⋯①α−β=(ab)2−4⋅ac ⋯ ②
(case2) マイナスのとき
⎩⎨⎧α+β=−ab ⋯①α−β=−(ab)2−4⋅ac ⋯ ②
(case1)、(case2) と順に解いていきます。このためには、次のような解に関する恒等式(恒に成り立つ等式)を用います。
αβ=2(α+β)+(α−β)=2(α+β)−(α−β)
① と ② を足して 2 で割ったのが α、① から ② を引いて 2 で割ったのが β という意味です。① と ② の加減乗除のみの計算で、α. β を決定することができます。
αβ=2①+②=2①−②
証明は、右辺を計算すれば左辺になることで簡単に証明できます(注1)。
(case1)
⎩⎨⎧α+β=−ab ⋯①α−β=(ab)2−4⋅ac ⋯ ②
のとき
αβ=2(α+β)+(α−β)=2−ab+(ab)2−4⋅ac=2(α+β)−(α−β)=2−ab−(ab)2−4⋅ac
よって
⎩⎨⎧α=2−ab+(ab)2−4⋅acβ=2−ab−(ab)2−4⋅ac
(case2)
⎩⎨⎧α+β=−ab ⋯①α−β=−(ab)2+4⋅ac ⋯ ②
のとき
αβ=2(α+β)+(α−β)=2−ab+−(ab)2−4⋅ac=2−ab−(ab)2−4⋅ac=2(α+β)−(α−β)=2−ab−−(ab)2−4⋅ac=2−ab+(ab)2−4⋅ac
よって
⎩⎨⎧α=2−ab−(ab)2−4⋅acβ=2−ab+(ab)2−4⋅ac
以上の結果をまとめると
(case1) のとき
⎩⎨⎧α=2−ab+(ab)2−4⋅acβ=2−ab−(ab)2−4⋅ac
(case2) のとき
⎩⎨⎧α=2−ab−(ab)2−4⋅acβ=2−ab+(ab)2−4⋅ac
この結果をみると、(case1) と (case2) ではプラスとマイナスが入れ替わっているだけです。α と β は2次方程式 ax2+bx+c=0 の解なので、α と β を x とおいて、以下のように1つにまとめることが可能です。
x=2−ab±(ab)2−4⋅ac
これで、2次方程式の解の公式が得られたことになります。さらに、以下のように計算していくと 、教科書で馴染みのある形での解の公式が証明されます。
x=2−ab±(ab)2−4⋅ac=2−ab±a2b2−4⋅ac=2−ab±a2b2−4⋅a2ac=2−ab±a2b2−a24ac=2−ab±a2b2−4ac=2−ab±ab2−4ac=2a−b±b2−4ac
より
x=2a−b±b2−4ac
つまり、解の公式を得るためには
α+β と α−β
を2次方程式の係数 a, b, c を用いて決定し、それらを連立すればよいということです。
α+β は<解と係数の関係>から
α+β=−ab ⋯①
と決まります。α+β は(基本)対称式なので、原理的に2次方程式の係数 a, b, c の加減乗除で表すことができます(すべての対称式の集合は、a, b, c と有理数の加減乗除で表せるすべての式の集合と同じになることは本シリーズ (19) でやりました)。


しかし、α−β は対称式ではないので、a, b, c の加減乗除だけで表すことはできない、つまり集合 Q2 内で構成することはできません。
そこで、 α−β の2乗
(α−β)2
を先に求めます。これは対称式なので、 a, b, c の加減乗除で表すことができる、つまり、集合 Q2 内で構成することができます。

実際、これは
(α−β)2=(ab)2−4⋅ac
となりました。あとはこの両辺に平方根を取れば
α−β=±(ab)2−4⋅ac ⋯②
となるので、これで ① と ② の連立方程式
⎩⎨⎧α+β=−ab ⋯①α−β=±(ab)2−4⋅ac ⋯ ②
を解くことによって、α と β を求めることが可能となるのです。
平方根という新しい演算の添加
① と ② の連立方程式を解くのに必要な演算は加減乗除のみです。
⎩⎨⎧α+β=−ab ⋯①α−β=±(ab)2−4⋅ac ⋯ ②↓加減乗除のみによって α, β は決定可能↓解の公式 x=2a−b±b2−4ac が決定可能
対称式ではない差積 ② を、平方根を取るという操作によって決定することができたので、そこから先は、連立方程式という加減乗除のみによって解ける形式によって、2次方程式の解の公式を求めることができました。しかし、平方根を取るという操作は、加減乗除を超えた「新しい演算」です。つまり、平方根を取るという「新しい演算」を可能とするために「差積 α−β の添加(平方根の添加)」という考えが重要になってきます(本シリーズ (21))。
ちなみに、シリーズ (1)、(18)、(21) で説明した2次方程式の解の公式の導出方法(これを平方完成といいます)では、平方根を取るという操作は、下記の (∗1) から (∗2) の計算過程に現れました。
(再掲)
(x+2ab)2=41(ab)2−ac ⋯(∗1)
ここで、両辺の平方恨をとって
x+2ab=±41(ab)2−ac ⋯(∗2)
(再掲終わり)
これは
◯2=□
という形から、両辺に平方根を取って
◯=±□
と、平方根を作るような計算形式です。
2次方程式の解の公式には、本質的に平方根を取る操作が必要です。その操作を可能にするのが、「差積 α−β の添加(平方根の添加)」というわけです。

(注1)恒等式の証明
次の等式を証明します。これらは恒に成り立つ式なので恒等式となります。
αβ=2(α+β)+(α−β)=2(α+β)−(α−β)
証明は、(右辺)を変形して(左辺)が導かれることを証明します。
(前者の証明)
α=2(α+β)+(α−β)
は
(右辺)=2(α+β)+(α−β)=2α+β+α−β=2α+α=22α=α=(左辺)
(後者の証明)
β=2(α+β)−(α−β)
は
(右辺)=2(α+β)−(α−β)=2α+β−α+β=2β+β=22β=β=(左辺)
より証明された。
(参考)各章の内容
(1)「2次方程式の解の公式」を式変形で導出
・平方完成
(2)「3次方程式の解の公式」を導出するための準備
・1 の3乗根 ω
(3)「3次方程式の解の公式」を式変形で導出
・チルンハウス変換
(4)「解と係数の関係」と「対称式」の解説
(5)「対称式」を用いた「2次方程式の解の公式」の導出
(6)「解の置換」と「ラグランジュ・リゾルベント」の解説
(7)「ラグランジュ・リゾルベント」による「3次方程式の解の公式」の導出
(8)「偶置換」と「奇置換」の解説(ここから「アーベルの証明」の準備)
(9)「差積の2乗」が対称式となることを解説
(10)「平方根」「3乗根」と次々と累乗根を加えていくアイデア
(11)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「2次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(添加する式について加筆予定)
(12)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(前編)。「差積の2乗の平方根」を用いて対称性を保つ置換を「偶置換」にまで絞り込む(対称性の破壊)。
(13)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(後編)。「ラグランジュ・リゾルベント」を用いて対称性を保つ置換を「恒等置換」にまで絞り込む(対称性の破壊)。⟶ 3次方程式の解の公式の完成
(14)「アーベルの証明」の解説①。5次方程式の解の差積(または差積の2乗の平方根)を添加して、加減乗除ができる式の範囲を拡大。その結果、構成可能な式の対称性が5次置換(対称式)から偶置換シンメトリーへと破壊されることを解説。
(15)「アーベルの証明」の解説②。すべての置換は互換で表せることから、5次置換をすべて互換の積で表して、偶置換と奇置換に分類する。
(16)「アーベルの証明」の解説➂。「すべての偶置換は3次巡回置換の積で表される」ことの解説。
(17)「アーベルの証明」の解説➃(最後)。「任意の3次巡回置換が5次巡回置換の積で表せる」ことによって、5次方程式には解の公式が存在しないことが証明されることの解説。
(18)もっと分かりやすくシリーズ①「累乗根の添加」について重点解説。
(19)もっと分かりやすくシリーズ②「対称性の破壊」について重点解説。
(20)もっと分かりやすくシリーズ③「対称性を恒等置換まで破壊」することについて重点解説。
(21)もっと分かりやすくシリーズ➃ 何次方程式でも「最初に解の差積を添加して対称性を破壊すること」は常套手段。
(22)もっと分かりやすくシリーズ➄「解の和と差の連立」による2次方程式の解の公式の導出について。