森田君がホワイトボードの前に立ち、先ほどのゼミの続きが始まった。
1. 前回の復習
「それでは続きを始めます。先ほど3次方程式 y3+py+q=0 の係数 p, q の加減乗除で表される式の集合に、その3次方程式の解の差積 X3 の2乗の平方根
(X3)2={(α−β)(β−γ)(γ−α)}2
を添加することによって
(2q)2+(3p)3
という平方根が新たに計算対象に加わり、ラグランジュ・リゾルベント
A=α+ωβ+ω2γ
B=α+ω2β+ωγ
の3乗を、次のように p, q と (2q)2+(3p)3 の加減乗除で表すことができました。
A3B3=27{−2q+(2q)2+(3p)3}=27{−2q−(2q)2+(3p)3}
もちろん 2 や 3 のような、我々が普通に使っている数は加減乗除に用いても構いません。そして平方根を取ることによって生じるプラスとマイナスの不定性を利用して、プラスとマイナスの変換を A3 と B3 の変換へと1対1に対応させることができました(⇒ 詳しくは本シリーズ (12))。
(図解)

A3A3 と B3 の入れ替え↕B3=27{−2q+(2q)2+(3p)3}↕± の入れ替え=27{−2q−(2q)2+(3p)3}
2. 集合の記号 Q の導入
ここで上図について、係数 p, q の加減乗除で表される式の集合を Q とします。またその Q に
(X3)2={(α−β)(β−γ)(γ−α)}2
を添加し、拡大された式の集合を Q((X3)2) とします。集合 Q((X2)3) は、p, q と添加した (X2)3 の加減乗除で表される式を含みます。すると集合 Q 内ではラグランジュ・リゾルベントの3乗 A3, B3 を構成することはできませんが、拡大された集合 Q((X2)3) 内では、p, q と添加した (X2)3 の加減乗除で A3, B3 を構成することができます。

ここで、対称性という観点でこのことを眺めてみます。
3. 差積の2乗の平方根の添加を、対称性という観点でを眺める
集合 Q は、基本対称式 p, q の加減乗除で表される式の集合なので対称式の集合でした。またそれに
(X3)2={(α−β)(β−γ)(γ−α)}2
を添加した式の集合 Q((X3)2) 内では、
(X3)2={(α−β)(β−γ)(γ−α)}2=±(α−β)(β−γ)(γ−α)
つまり
(X3)2={(α−β)(β−γ)(γ−α)}2=(α−β)(β−γ)(γ−α), −(α−β)(β−γ)(γ−α)
という式変形からわかるように(注1)、(X3)2 の添加によって差積
X3=(α−β)(β−γ)(γ−α)(下線部)
も自動的に添加されます。その差積 X3 は対称式ではなく、偶置換でのみ対称性を保ちます。これについて復習してみます。
差積が偶置換でのみ対称性を保つこと(復習)
以下の ①~➅ の3次置換について、差積 X3=(α−β)(β−γ)(γ−α) は ①~③ の偶置換では変化しない、つまり偶置換で対称性を保つ。
➀(ααββγγ)②(αγβαγβ)③(αββγγα)⎭⎬⎫では(α−β)(β−γ)(γ−α)⟶(α−β)(β−γ)(γ−α)⇒変化しない
一方 ④~➅ の奇置換では −1 倍と変化する、つまり奇置換で対称性が壊れている。
④(ααβγγβ)➄(αγββγα)➅(αββαγγ)⎭⎬⎫では(α−β)(β−γ)(γ−α)⟶−(α−β)(β−γ)(γ−α)⇒−1 倍と変化する
差積 X3 が添加された集合 Q((X3)2) は、係数 p, q と差積 X3 の加減乗除で表せる式を含みます。 その差積 X3 は偶置換でのみ対称性を保つので、p, q と X3 の加減乗除で得られる式は偶置換でのみ対称性を保ちます。よって X3 の添加された Q((X3)2) 内では、X3 を用いることによって偶置換でのみ対称性を保つ A3, B3 を構成することが可能となるわけです(⇒ 詳しくは本シリーズ (9)、(12))。
すると、Q から Q((X3)2) と使える式が拡大するにつれて、集合全体で対称性を保つ置換が、3次置換から偶置換にまで絞り込まれていることがわかります。
(図解)
3次置換(①~③は偶置換、④~➅は奇置換)
①(α β γα β γ)②④(α γ βα β γ)⑤①(α β γα β γ)②(γ α βα β γ)➂(γ α βα β γ)(γ β αα β γ)➅(β α γα β γ)⇓ (X3)2 の添加(γ α βα β γ)➂(γ α βα β γ)
と偶置換まで絞り込んだ。
なお2次方程式は、2次置換のうち偶置換が恒等置換であったので、このステップだけで解の公式を導くことが可能でした。
(図解)
2次置換(①は偶置換、②は奇置換。①は恒等置換でもある)
①(α βα β)②(γ αα β)⇓ (a1)2−4a2 の添加①(α βα β)
ここで対称性を保つ置換を恒等置換にまで絞り込む、いわば対称性を恒等置換にまで崩せたことが、2次方程式の解の公式の存在する理由となります。ではなぜ、そのことが解の公式が存在理由となるのか、確認のため復習したいと思います(⇒ 詳しくは本シリーズ (11))。
4. 2次置換の対称性を恒等置換にまで崩せたことが、2次方程式の解の公式の存在理由となること(復習)
解の式 α と β は恒等置換 (α βα β) では変化しませんが、(β αα β) では α が β に、β が α に変化します。
(ααββ)では{α⟶αβ⟶β⇒変化しない(αββα)では{α⟶ββ⟶α⇒変化する(入れ替わる)
式 α と β を変化させないのは恒等置換のみです。すると解の公式とは、解をその方程式の係数で表すこと。つまり x2+a1x+a2=0 の解を α, β としたとき
α=(係数 a1 と a2 で表す)β=(係数 a1 と a2 で表す)
とすることですが、a1 と a2 は基本対称式で表されます(⇒ 詳しくは本シリーズ (11))。
a1a2=−(基本対称式α+β)=基本対称式αβ
すると、a1 と a2 の加減乗除で表された式は対称式なので、先ほどの
α=(係数 a1 と a2 で表す)β=(係数 a1 と a2 で表す)
について、加減乗除だけの計算では右辺は対称式です。しかし左辺 α, β は対称式ではありません。
対称式でないα=加減乗除では対称式(係数 a1 と a2 で表す)対称式でないβ=加減乗除では対称式(係数 a1 と a2 で表す)
解の公式を導くには、基本対称式である a1, a2 を用いて表しつつも、最後に対称性を保つ置換を2次置換から恒等置換にまで崩し、α, β と同等の対称性、つまり恒等置換でしか変化しない式を作り上げる必要があります。一見矛盾したようにも思える課題。それを克服するアイデアが「累乗根の添加」というアイデアでした。2次方程式の場合、a1, a2 の加減乗除で得られる従来の式 (a1)2−4a2 の、平方根 (a1)2−4a2 の添加でした(⇒ 詳しくは本シリーズ (11))。

平方根 (a1)2−4a2 の添加により、係数とその平方根との加減乗除によって、2次方程式の解の公式の導出が可能になります。
差積そのもの α-β を添加してもよいこと
さらには
α−β=±(a1)2−4a2
という関係式がありました(⇒ 証明は本シリーズ (11))。この関係式により、(a1)2−4a2 を添加することと α−β を添加することとは同じ意味を持ちます(注2)。(a1)2−4a2 の代わりに α−β を添加してもよく、(a1)2−4a2 の添加された集合と、差積 α−β の添加された集合は同じ範囲となります。

すると、添加された α−β は恒等置換でしか対称性を保つことができないので、(a1)2−4a2 の添加、ひいては α−β の添加された集合においては、恒等置換でしか対称性を保つことができない式を加減乗除で構成することができます。そしてその集合内では恒等置換でしか対称性を保つことができない解の式 α, β を構成することができ、2次方程式の解の公式を構成することができるというわけです。対称性を保つ置換を恒等置換にまで絞り込む、いわば対称性を恒等置換にまで崩す必要がある理由はそういう理由です。
5. 3次方程式に解の公式が存在する2つのポイント
さて3次方程式において、先ほど対称性を保つ置換を偶置換まで絞り込むことができました。しかしこのステップだけでは不十分です。3次方程式においても、解の公式の導出には恒等置換でのみ対称性を保つ α, β, γ という解の式を導出する必要があるので、恒等置換でのみ対称性を保つ何か都合のよい式を添加することによって、さらに偶置換を恒等置換にまで絞り込んでいく必要があります。
(図解)
対称性を保つ置換を、偶置換からさらに
①(α β γα β γ)②①(γ α βα β γ)➂(β γ αα β γ)⇓恒等置換でのみ対称性を保つ式を添加(α β γα β γ)
と、恒等置換にまで絞り込む必要がある。
以上のことを踏まえ、『なぜ3次方程式の解の公式が存在するのか』ですが、それにはポイントが2つあります」
と言った後、森田君はホワイトボードにそのポイントを書き始めた。「結論から述べていきます。1つ目のポイントは ⋯
(ポイント1)
ラグランジュ・リゾルベント
A=α+ωβ+ω2γ
B=α+ω2β+ωγ
は恒等置換でのみ対称性を保つ。よって、そのラグランジュ・リゾルベントを Q((X3)2) に添加してさらに集合を拡大することで、その集合全体で対称性を保つ置換を恒等置換にまで絞り込むことができる。
2つ目のポイントは
(ポイント2)
3次方程式の解の公式の導出方法を、そのラグランジュ・リゾルベントの連立方程式を解いて α, β, γ を求めることに帰着できる。その連立は、恒等置換でのみ対称性を保つラグランジュリゾルベント同士の加減乗除なので、その結果得られた α, β, γ も当然恒等置換でのみ対称性を保つ式となり、それが3次方程式の解の公式に他ならない。
それでは順次みていきます」
いきなりの森田君の指摘に竹村は身を乗り出した。森田君は続ける。
(ポイント1)ラグランジュ・リゾルベントの添加によって対称性を偶置換から恒等置換にまで崩す
「ここで、次の条件Ⅱを満たす『解の式 Y』を考えます。
条件Ⅱ
『Y はある偶置換で変化するが、Y3 はすべての偶置換で変化しない(ただし対称式ではない)』
言い換えると
『Y は偶置換で対称性が壊れているが、Y3 は偶置換で対称性が保たれている(ただし対称式ではない)』
結論から言うと、この「条件Ⅱ」を満たす解の式 Y は、これまで何度も出てきたラグランジュ・リゾルベント
A=α+ωβ+ω2γB=α+ω2β+ωγ
となります。ここで、ラグランジュ・リゾルベント A, B が「条件Ⅱ」を満たすことを証明していきます。復習として3次置換➀~➅において、A と B、及び A3 と B3 がどのように変化するのかをみていきます。また ω について、下記の性質を公式として利用します。 ω とは3乗して 1 になる数のうち、虚数であるものを表します。
ω3=1
具体的に ω は
2−1+3i または 2−1−3i
のどちらかを表す定数です。どちらも3乗すれば 1 になります(⇒ 詳しくは本シリーズ (2))。
3次置換によるラグランジュ・リゾルベントの変化(復習)
➀ (α β γα β γ) のとき
α を α に、β を β に、γ を γ に変換すると
A=α+ωβ+ω2γ↓↓↓α+ωβ+ω2γ=A
B=α+ω2β+ωγ↓↓↓α+ω2β+ωγ=B
➀は恒等置換なので A は A のまま、B は B のままで変わりません。
② (γ α βα β γ) のとき
α を γ に、γ を β に、β を α に置き換えると
A====α+ωβ+ω2γ↓↓↓γ+ωα+ω2β1ω3γ+ωα+ω2βω(ω2γ+α+ωβ)ω(α+ωβ+ω2γ)=ωA
B=====α+ω2β+ωγ↓↓↓γ+ω2α+ωβ1ω3γ+ω2α+1ω3⋅ωβω3γ+ω2α+ω4βω2(ωγ+α+ω2β)ω2(α+ω2β+ωγ)=ω2B
②の置換では A は ωA に、B は ω2B に変化します。
所々で ω3=1 をうまく使います。Aでは γ に ω3 をかけ、 Bでは γ と ωβ の2か所に ω3 をかけています。ω3 は 1 なので掛けても式の値は変わりません。また A では最後に ω でくくって ωA を導き、B では最後に ω2 でくくってω2B を導いています。くくったときに、α の係数が 1 なるようにしているのがポイントです。これは以前、先生から習いました。
③ (β γ αα β γ) のとき
α を β に、β を γ に、γ を α に置き換えると
A=====α+ωβ+ω2γ↓↓↓β+ωγ+ω2α1ω3β+1ω3⋅ωγ+ω2αω3β+ω4γ+ω2αω2(ωβ+ω2γ+α)ω2(α+ωβ+ω2γ)=ω2A
B====α+ω2β+ωγ↓↓↓β+ω2γ+ωα1ω3β+ω2γ+ωαω(ω2β+ωγ+α)ω(α+ω2β+ωγ)=ωB
③の置換では A は ω2A に、B は ωB に変化します。
ここでも所々で ω3=1 を使います。また A では最後に ω2 でくくって ω2A を導き、B では最後に ω でくくってωB を導いています。ここでもくくったときに、α の係数が 1 なるようにしています。
④ (α γ βα β γ) のとき
α はそのままで、β を γ に、γ を β に置き換えると
A==α+ωβ+ω2γ↓↓↓α+ωγ+ω2βα+ω2β+ωγ=B
B==α+ω2β+ωγ↓↓↓α+ω2γ+ωβα+ωβ+ω2γ=A
④の置換では A は B に、B は A に変化し、A と B が入れ替わります。
➄ (γ β αα β γ) のとき
α を γ に、β はそのままで、γ を α に置き換えると
A=====α+ωβ+ω2γ↓↓↓γ+ωβ+ω2α1ω3γ+1ω3⋅ωβ+ω2αω3γ+ω4β+ω2αω2(ωγ+ω2β+α)ω2(α+ω2β+ωγ)=ω2B
B====α+ω2β+ωγ↓↓↓γ+ω2β+ωα1ω3γ+ω2β+ωαω(ω2γ+ωβ+α)ω(α+ωβ+ω2γ)=ωA
➄の置換では A は ω2B に、B は ωA に変化します。
やはり所々で ω3=1 を使います。また A では最後に ω2 でくくって ω2B を導き、B では最後に ω でくくってωA を導いています。くくったときに α の係数が 1 になるようにするのは今までと同じです。また A と B の入れ替えも入ります。
➅ (β α γα β γ) のとき
α を β に、β を α に、γ は変化させないと
A====α+ωβ+ω2γ↓↓↓β+ωα+ω2γ1ω3β+ωα+ω2γω(ω2β+α+ωγ)ω(α+ω2β+ωγ)=ωB
B=====α+ω2β+ωγ↓↓↓β+ω2α+ωγ1ω3β+ω2α+1ω3⋅ωγω3β+ω2α+ω4γω2(ωβ+α+ω2γ)ω2(α+ωβ+ω2γ)=ω2A
⑥の置換では A は ωB に、B は ω2A に変化します。
ω3=1 を使い、A では最後に ω でくくって ωB を、B では最後に ω2 でくくってω2A を導いています。先ほどと同様に α の係数を 1 にします。またここでも A と B の入れ替えが入ります。
以上をまとめると
➀(ααββγγ)ではAB⟶A⟶B②(αγβαγβ)ではAB⟶ωA⟶ω2B③(αββγγα)ではAB⟶ω2A⟶ωB④(ααβγγβ)ではAB⟶B⟶A➄(αγββγα)ではAB⟶ω2B⟶ωA➅(αββαγγ)ではAB⟶ωB⟶ω2A
すると、ラグランジュ・リゾルベントを変化させない、対称性を保つ置換は恒等置換➀のみです。恒等置換以外の②~➅ではラグランジュ・リゾルベントは変化し、対称性が壊れています。
次にラグランジュ・リゾルベントの3乗 A3, B3 について、3次置換➀~➅による変化をみていきます。それには先ほどやった A, B の置換結果をそのまま利用すればいいでしょう。なお ω について、下記の性質を再び公式として利用します。 ω とは3乗して 1 になる数のうち、虚数であるものでした。
ω3ω6=1=(ω3)2=12=1
さて、A3 とB3 の偶置換による行き先は
➀(α β γα β γ)では A3→A3B3→B3②(γ α βα β γ)では A3→==B3→===(ωA)3ω3A31⋅A3=A3(ω2B)3(ω2)3B3ω6B31⋅B3=B3③(β γ αα β γ)では A3→===B3→==(ω2A)3(ω2)3A3ω6A31⋅A3=A3(ωB)3ω3B31⋅B3=B3④(α γ βα β γ)では A3→B3B3→A3➄(γ β αα β γ)では A3→===B3→==(ω2B)3(ω2)3B3ω6B31⋅B3=B3(ωA)3ω3A31⋅A3=A3⑥(β α γα β γ)では A3→==B3→===(ωB)3ω3B31⋅B3=B3(ω2A)3(ω2)3A3ω6A31⋅A3=A3
まとめると、A3, B3 の行き先は、①~③の偶置換では式は変化せず、対称性を保っています。しかし④~➅の奇置換では式が変化し、対称性が壊れています。
偶置換では
➀(ααββγγ)②(αγβαγβ)③(αββγγα)⎭⎬⎫ではA3⟶A3B3⟶B3変化しない
奇置換では
④(ααβγγβ)➄(αγββγα)➅(αββαγγ)⎭⎬⎫ではA3⟶B3B3⟶A3変化する
以上より、A, B は偶置換で対称性が壊れています。対称性を保つのは恒等置換のみだからです。一方、A3, B3 は偶置換でのみ対称性を保ちます。奇置換では変化するので対称式ではありません。ここで先ほどの「条件Ⅱ」を確認してみます。
条件Ⅱ
『Y はある偶置換で変化するが、Y3 はすべての偶置換で変化しない(ただし対称式ではない)』
言い換えると
『Y は偶置換で対称性が壊れているが、Y3 は偶置換で対称性が保たれている(ただし対称式ではない)』
この Y に A, B を当てはめてみますと
『A, B はある偶置換で変化するが(恒等置換では変化しないが、それ以外では変化する)、A3, B3 はすべての偶置換で変化しない(ただし対称式ではない)』
言い換えると
『A, B は偶置換で対称性が壊れているが(恒等置換では対称性を保つが、それ以外では壊れている)、A3, B3 は偶置換で対称性が保たれている(ただし対称式ではない)』
となり、まさに A, B は「条件Ⅱ」を満たすことがわかります。
そこで『添加』を考えます。集合 Q に (X3)2 を添加した集合 Q((X3)2) に、ラグランジュ・リゾルベント A=α+ωβ+ω2γ の3乗の3乗根
3A3=327{−2q+(2q)2+(3p)3}
を、加減乗除のできる式として新たに添加します。この添加で3乗根を使えるようになることがポイントです。

3乗根 3A3 は、これまでの使える数 p, q と平方根 (2q)2+(3p)3 の加減乗除では表せない式です。ちなみに「3乗」は3回掛ければ掛け算で表すことはできますが、「3乗根」は累乗 3 を取る操作なので、p, q と (2q)2+(3p)3 の加減乗除で表すことはできません。よって、新たに 3A3 を Q((X3)2) に添加して使える式の集合を拡大し、この拡大された式の集合を Q((X3)2, 3A3) とおきます。すると
3A3=A, ωA, ω2A
より(注3)、3A3 の添加によって A(下線部)も添加されるので、3A3 の添加された式の集合 Q((X3)2, 3A3) では
A=α+ωβ+ω2γ
と同じ対称性をもつ、すなわち恒等置換でのみ対称性を保つラグランジュ・リゾルベント A, B を構成できるようになり、さらにそのラグランジュ・リゾルベント同士の連立方程式を解くことによって解の式 α, β, γ も構成できるようになります。後で述べますが、先ほどの(ポイント2)です(⇒ 具体的な計算は本シリーズ (7))。

あらかじめ ω を添加しておくこと
なお正確には、1 の3乗根のうち虚数である ω は p, q の加減乗除では表せないので、あらかじめ集合 Q の中に ω を加えておくことにします。ω は
ω=2−1+3i または 2−1−3i
という定数、つまり決まった数なので、常に p, q で表せないということです。そこで Q にω を加えた式の集合を新たに Q(ω) と定義します。そして Q(ω) に (X3)2 を添加した式の集合を Q(ω, (X3)2)、さらにその集合に 3A3 を添加した式の集合を Q(ω, (X3)2, 3A3) と定義し直します。そうすることによって、加減乗除で使える式が拡大されていく中で虚数 ω を自由に使えます。それを踏まえて正確な包含関係は以下のようになります。

単に A を添加してもよいこと
「ところで森田君、3A3 を添加すると言ったけど、単に A を添加するのと違いはあるかな」
「同じになります。その理由は、先ほどやった
3A3=A, ωA, ω2A
より、3A3 は A そのものか、それに ω を掛けた ωA または ω2A です。 ω を1回掛ければ ωA、2回掛ければ ω2A です。先ほど ω を集合 Q にあらかじめ加えておいたので、ω は加減乗除の計算に自由に使えます。つまり、3A3 の添加によって自動的に A(下線部)も添加され、逆に A の添加によって ωA と ω2A は構成できるので、 A を添加すれば 3A3 を添加したことと同じになります。
3A3 の添加 ⟶ A の添加
A の添加 ⟶ ωA と ω2A は構成可能
⟶ 3A3 の添加
すなわち
『3A3 を添加するのと A を添加するのは同じ』
こととなり、Q(ω, (X3)2, 3A3) と、3A3 の代わりに A を添加した Q(ω, (X3)2, A) は、集合として同じ範囲となります。
Q(ω, (X3)2, 3A3)=Q(ω, (X3)2, A)
図示すると次のような包含関係になります。

よって、3A3 ではなく A を添加しても問題ありません。実は先ほど「条件Ⅱ」で提示したのは A の添加でした。ここでは3乗根という操作を強調したいため 3A3 を採用しました。
単に差積を添加してもよいこと
さらに
『(X3)2 を添加するのと X3 を添加するのは同じ』
ことも既にやったので(⇒ 詳しくは本シリーズ (12))、集合として
Q(ω, (X3)2, 3A3)=Q(ω, X3, A)
が成り立つことにより、次のように図示することもできます。

上図のように差積 X3 さらにラグランジュ・リゾルベント A と次々と添加することによって、最終的に対称性を保つ置換を恒等置換のみへと絞り込む、いわば対称性を恒等置換にまで崩していくことができました。
①(α β γα β γ)②④(α γ βα β γ)⑤①(α β γα β γ)②①(γ α βα β γ)➂(γ α βα β γ)(γ β αα β γ)➅(β α γα β γ)↓ ⇐X3の添加(γ α βα β γ)➂(β γ αα β γ)↓ ⇐Aの添加(α β γα β γ)
この対称性が崩れていく過程は、下図のように使える式の拡大に対応しています。対称性を保つ置換が絞られていくにつれて、使える式の集合は大きくなります。
Q(ω)↓ ⇐ X3の添加Q(ω, X3)↓ ⇐ Aの添加Q(ω, X3, A)
そして最後の集合 Q(ω, X3, A) 内で、恒等置換でしか対称性を保つことのできない解の式 α, β, γ を、p, q, X3, A の加減乗除だけで構成できるようになるわけです」
「なるほど」と竹村。それではともう一つ確認してみることにした。
「では森田君。3A3 を添加すると言ったけど、3B3 の方も合わせて添加する必要は無いのかな?」
「ありません。以前の授業で A, B は次の式を満たすことを勉強しました。(⇒ 証明は本シリーズ (7))
AB=−3p(定数)
この両辺を A で割ると
B=A−3p
となり、B を p が求まります。つまり 3A3 の添加、ひいては A の添加されている集合内では、 B は p と A の加減乗除で表せるということです。
AB=−3p
の関係式により、A があれば B(=A−3p) も加減乗除で構成でき、逆に B があれば A(=B−3p) も加減乗除で構成できます。つまり、A と B はどちらか一方を添加すればよく、さらに A のときと同じように B の添加は 3B3 の添加と同じ。よって 3A3 と 3B3 は両方を添加する必要はなく、どちらか一方を添加すればいいわけです。
A と B はどちらか一方を添加すればよい
⟷ 3A3 と 3B3 はどちらか一方を添加すればよい。
ここではアルファベットの若い 3A3 の方を添加しました」
ここも森田君はクリアーに答えた。
「さて、これで準備は整いました。解の公式を導くための土壌が整備されたことになります。後はラグランジュ・リゾルベント A, B そのものを導く必要がありますが、計算は簡単です。ラグランジュ・リゾルベントの3乗
A3B3=27{−2q+(2q)2+(3p)3}=27{−2q−(2q)2+(3p)3}
の3乗根をとればいいわけです。ただし、さきほど出てきた
AB=−3p(定数)
が成り立つように、つまり A と B の積がどの組み合わせでも同じ値となるように A, B を決定する必要があります。具体的にラグランジュリゾルベント
A=α+ωβ+ω2γ
B=α+ω2β+ωγ
は、次のように3組の値で決定しました。
(case1)
⎩⎨⎧α+ωβ+ω2γ=33−2q+(2q)2+(3p)3α+ω2β+ωγ=33−2q−(2q)2+(3p)3
(case2)
⎩⎨⎧α+ωβ+ω2γ=3ω3−2q+(2q)2+(3p)3α+ω2β+ωγ=3ω23−2q−(2q)2+(3p)3
(case3)
⎩⎨⎧α+ωβ+ω2γ=3ω23−2q+(2q)2+(3p)3α+ω2β+ωγ=3ω3−2q−(2q)2+(3p)3
ただし
pq=−31(ab)2+ac=272(ab)3−31(ab)(ac)+ad
(case1) は3乗根に ω が掛けられていない組み合わせ、(case2) と (case3) は3乗根に ω と ω2 が掛けられ、その掛けている組み合わせが互いに逆になっています。ω と ω2 の積は
ω×ω2=1
より 1 となるので、どの組み合わせでも A と B の積は同じ値になることがわかります(⇒ 詳しくは本シリーズ (7))。
ここからが先に述べた(ポイント2)です。
(ポイント2)解の公式の導出をラグランジュ・リゾルベントの連立に帰着できる
上記のようにラグランジュ・リゾルベント A, B が求まれば、後は以下の連立方程式を解きます。
⎩⎨⎧α+β+γ=0α+ωβ+ω2γ=⋯⋯α+ω2β+ωγ=⋯⋯①②③
①は、3次方程式 y3+pv+q=0 に対する解と係数の関係から得られる既知の値で 0 になります(⇒ 詳しくは本シリーズ (12))。
②、③ の ⋯⋯ のところは、上で得られた (case1) ~ (case3) のそれぞれの値が入ります。具体的に書いてみますと、次のように3組の連立方程式が得られます。
(case1) のとき
⎩⎨⎧α+β+γ=0α+ωβ+ω2γ=33−2q+(2q)2+(3p)3α+ω2β+ωγ=33−2q−(2q)2+(3p)3①②③
(case2) のとき
⎩⎨⎧α+β+γ=0α+ωβ+ω2γ=3ω3−2q+(2q)2+(3p)3α+ω2β+ωγ=3ω23−2q−(2q)2+(3p)3①②③
(case3) のとき
⎩⎨⎧α+β+γ=0α+ωβ+ω2γ=3ω23−2q+(2q)2+(3p)3α+ω2β+ωγ=3ω3−2q−(2q)2+(3p)3①②③
α+β+γ(=0) を含め、ラグランジュ・リゾルベント A, B は恒等式でのみ対称性を保つ式でした。後はこの連立方程式を加減乗除だけで解いて、解の式 α, β, γ を求めます。すると恒等式でのみ対称性を保つ式の加減乗除だけで導かれる式は、必ず恒等式でのみ対称性を保つ式となります。よってこの連立方程式を解くことによって、恒等置換でのみ対称性を保つ解の式 α, β, γ を構成することができ、それそのものが3次方程式の解の公式となります。具体的には次のよう①~③を連立して α, β, γ を求めます。すべて加減乗除だけの計算で構成されています。
αββ=3①+②+③=3①+ω2⋅②+ω⋅③=3①+ω⋅②+ω2⋅③
具体的には次のようになります。
αβγ=3(α+β+γ0・リゾルベントラグランジュ)+(α+ωβ+ω2γA・リゾルベントラグランジュ)+(α+ω2β+ωγB・リゾルベントラグランジュ)=3(α+β+γ)+ω2(α+ωβ+ω2γ)+ω(α+ω2β+ωγ)=3(α+β+γ)+ω(α+ωβ+ω2γ)+ω2(α+ω2β+ωγ)
これは α, β, γ についての恒等式です。後はこれに (case1) ~ (case3) を代入して α, β, γ が決定します。既に勉強したように、(case1) ~ (case3) のどの組み合わせにおいても同じ結論、次の3次方程式の解の公式が導き出されます。以上が3次方程式の解の公式の導出の流れです(⇒ 証明は本シリーズ (7))。
<3次方程式の解の公式>
3次方程式 ax3+bx2+cx+d=0 の解は
x=⎩⎨⎧−3ab+3−2q+(2q)2+(3p)3+3−2q−(2q)2+(3p)3−3ab+ω3−2q+(2q)2+(3p)3+ω23−2q−(2q)2+(3p)3−3ab+ω23−2q+ (2q)2+(3p)3+ω3−2q−(2q)2+(3p)3
ただし
pq=−31(ab)2+ac=272(ab)3−31(ab)(ac)+ad
6. 3乗根を取ることによって生じる不定性の利用
ここで改めて解の公式をみてみます。3乗根 3 の前の係数に着目します。すると、ラグランジュ・リゾルベントの3乗 A3, B3 の3乗根を取ると、次のように 1 の3乗根 1, ω, ω2 が必然的に現れます。
3A3=A, ωA, ω2A
3B3=B, ωB, ω2B
すると、その 1, ω, ω2 の入れ替えと、3次方程式の解の入れ替えが1対1で対応していることがわかります。
具体的には、1番上の式は 1 と 1 の組み合わせです。 1 は表立っては現れていません。2番目は ω と ω2 の組み合わせ、3番目は2番目とは逆の ω2 と ω の組み合わせになっています(下線部)。
x=⎩⎨⎧−3ab+3−2q+(2q)2+(3p)3+3−2q−(2q)2+(3p)3−3ab+ω3−2q+(2q)2+(3p)3+ω23−2q−(2q)2+(3p)3−3ab+ω23−2q+ (2q)2+(3p)3+ω3−2q−(2q)2+(3p)3
2次方程式では、平方根をとることによって生じる不定性を利用する(復習)
2次方程式の解の公式では、平方根をとることによって必然的に生じる 1 の平方恨 +1, −1 の不定性、つまりプラスとマイナスの不定性を利用して α, β の2つの解をプラスマイナスの入れ替えで導き出しました(⇒ 詳しくは本シリーズ (11))。
解の入れ替えα=2a−b+b2−4bc↕↕± の入れ替えβ=2a−b−b2−4bc
それと同じように、3次方程式の解の公式では、3乗根を取ることによって必然的に生じる 1 の3乗根 1, ω, ω2 の不定性を利用して、α, β. γ の3つの解を 1, ω, ω2 の入れ替えで導き出したのです。
7. まとめ
以上まとめとして、3次方程式に解の公式が存在する理由として、2乗恨、3乗根と累乗根の添加によって、最終的にラグランジュ・リゾルベント
A=α+ωβ+ω2γ
B=α+ω2β+ωγ
が、3次方程式の係数 p, q とその累乗根を用いて表せたことにあります。
まずは差積の2乗の平方根
(X3)2={(α−β)(β−γ)(γ−α)}2
の添加、または差積そのもの
X3=(α−β)(β−γ)(γ−α)
の添加によって、ラグランジュ・リゾルベントの3乗
A3=(α+ωβ+ω2γ)3
B3=(α+ω2β+ωγ)3
を、平方根を用いて次のように表すことができました。
(α+ωβ+ω2γ)3(α+ω2β+ωγ)3=27{−2q+(2q)2+(3p)3}=27{−2q−(2q)2+(3p)3}
次に3乗根 3A3 の添加、または A の添加によって、ラグランジュ・リゾルベント
A=α+ωβ+ω2γ
B=α+ω2β+ωγ
を、3乗根を用いて次のように3通りの組み合わせで決定できました。
(case1)
⎩⎨⎧α+ωβ+ω2γ=33−2q+(2q)2+(3p)3α+ω2β+ωγ=33−2q−(2q)2+(3p)3
(case2)
⎩⎨⎧α+ωβ+ω2γ=3ω3−2q+(2q)2+(3p)3α+ω2β+ωγ=3ω23−2q−(2q)2+(3p)3
(case3)
⎩⎨⎧α+ωβ+ω2γ=3ω23−2q+(2q)2+(3p)3α+ω2β+ωγ=3ω3−2q−(2q)2+(3p)3
ラグランジュ・リゾルベント A, B を平方根、3乗恨と、次々と累乗根を用いて決定できれば、後はそれらの加減乗除による連立で、解の公式を導き出すことができるのです」
「なるほど、しっかり勉強できてるね」と竹村は何度もうなずいた。もう外は暗くなっていた。暖かいご飯の香りが漂ってきた。
「今日の授業はこれで終わりにしよう。次がいよいよ5次以上の方程式に解の公式が存在しないことの証明だね」
「はい。いよいよ次のゼミではその証明にチャレンジしようと思います。ただ、これまでの2次方程式、3次方程式では解の公式が存在することの証明でした。存在することの証明なので、具体的に式変形で導き出せばいいのです。しかし5次以上の方程式では存在しないことの証明です。存在しないことの証明なので、これまでやってきた対称性や置換といった、構造的な面をもっと掘り下げる必要がありそうです」
「ところで森田君、証明はできているの?」
森田君は首を傾げて黙り込んだ。
「うーん・・・、実はまだできてません」
竹村はもう証明しているのかと思っていた。
「3次方程式では、3次置換で対称性を保つ解の差積の2乗を考え、その平方根を取って対称性を保つ置換を3次置換から偶置換まで絞り込み、最終的に恒等置換にまで絞り込んで解の公式を導き出しました。5次方程式に解の公式が存在するとすれば、3次方程式のときと同じように、まず5次置換で対称性を保つ解の差積の2乗を考え、その平方根を取って対称性を保つ置換を5次置換から偶置換まで絞り込み・・・、最終的に対称性を保つ置換を恒等置換にまで絞り込めれば解の公式は存在する、ということになるのですが、5次以上の方程式では解の公式が存在しないことはすでにわかっているので、どこかで必ず破綻するはずなのです。まだ証明できていないので次の授業まで考えてみます」
竹村はほっとした。このまま一気に証明までいくかと思ったが、流石に難しいであろう。アーベルでさえ22歳でこの証明を書き上げた。
竹村は帰路についた。
「次は証明の本丸。いくらなんでも小学5年生には難しいので、次の授業ではうまく誘導してあげよう」
つまずきそうなところをあらかじめ予習をし、わかりやすい「竹村ゼミ」にしようと、竹村は夜中までやっている図書館へと向かった。
(了)
(注1)
2乗の平方根をとると、プラスマイナスが現れます。形式的には
x2=±x
という計算です。例えば中学数学だと
x2=2 の解は x=±2
という場面で現れます。解 x は 2 のみではなく、2, −2 と必然的にプラスマイナス(+1 倍と −1 倍)の2つが現れます。
この2乗の平方根を取ることによって必然的に生じるプラスマイナスの不定性(プラスかマイナスか決まらない性質)を利用して、プラスマイナスの変換を A3, B3 の変換へと1対1で対応させることができました(⇒ 詳しくは本シリーズ (12))。
A3A3 と B3 の入れ替え↕B3=27{−2q+(2q)2+(3p)3}↕± の入れ替え=27{−2q−(2q)2+(3p)3}
(注2)
α−β=±(a1)2−4a2
の等式より、α−β の添加によって (a1)2−4a2 も自動的に添加され、逆に (a1)2−4a2 の添加によって、それに −1 を掛けると −(a1)2−4a2 も構成できるので、(a1)2−4a2 を添加することと α−β を添加することは同じになります。
α−β の添加⟶(a1)2−4a2 の添加(a1)2−4a2 の添加⟶−(a1)2−4a2 が構成可能⟶α−β の添加
なお3次方程式の解の公式の証明では、差積の2乗の平方根
(X3)2={(α−β)(β−γ)(γ−α)}2
を添加しましたが、2次方程式の解の公式の証明でも、差積の2乗の平方根
(X2)2=(α−β)2
を添加することも可能です。
(X2)2=(α−β)2=±(α−β)
より
(X2)2 の添加⟶α−β の添加α−β の添加⟶−(α−β) が構成可能⟶(X2)2 の添加
がいえるので、(X2)2 の添加は α−β の添加と同じになるからです。最終的に解の公式が得られさえすれば、添加する式には自由度があります。
(注3)
3乗の3乗根をとると、1, ω, ω2 が現れます。形式的には
3x3=1x, ωx, ω2x
という計算です(1 は表立っては現れません)。例えば高校数学の範囲ですが
x3=2 の解は x=32, ω32, ω232
という場面で現れます。解 x は 32 のみではなく、32, ω32, ω232 と必然的に 1 倍、ω 倍、ω2 倍の3つの解が現れます。なお ω は 1 の3乗根、つまり3乗して 1 になる数のうち 1 以外の数、すなわち虚数
ω=2−1+3i または 2−1−3i
を表します。
この3乗の平方根を取ることによって必然的に生じる 1, ω, ω2 の不定性(1, ω, ω2 の決まらない性質)を利用して、1, ω, ω2 の組み合わせの変換を、3次方程式の解 α, β, γ の変換へと1対1で対応させることができ、それが3次方程式の解の公式となります。
(コメント)
本シリーズは、3次方程式の場合と同じアイデアを5次方程式でやろうとすると矛盾が起き、よって5次以上の方程式に解の公式が存在しない、という流れになります。これは「アーベルの証明」(アーベル・ルフィニの定理)で、それを解説してから「群」という新しい概念を用いてより核心に迫った「ガロアの証明」へと続きます。
ただ今後は図やグラフを多用したいので、図形やグラフが描けるようnote運営部にリクエストしてみようかと思います(図やグラフを描けないと他で作って画像として貼り付けることになるので、かなり面倒です)。座標に任意の数式のグラフが描けるようになればと思います。
なるべく当時の素朴な知識だけで、現代数学の専門的なことは使わないで書いていきます。とはいえアーベルやガロアの原論文そのものだと、(当時の数学的な道具立てが未整理だったか?)日本語訳をみても非常に分かりにくいので、その急所のアイデアを忠実に守りながらも、高校数学だけで分かるように柔らかく書いていきます。
(参考)
各テーマの内容
(1)「2次方程式の解の公式」を式変形で導出
・平方完成
(2)「3次方程式の解の公式」を導出するための準備
・1 の3乗根 ω
(3)「3次方程式の解の公式」を式変形で導出
・チルンハウス変換
(4)「解と係数の関係」と「対称式」の解説
(5)「対称式」を用いた「2次方程式の解の公式」の導出
(6)「解の置換」と「ラグランジュ・リゾルベント」の解説
(7)「ラグランジュ・リゾルベント」による「3次方程式の解の公式」の導出
(8)「偶置換」と「奇置換」の解説(ここから「アーベルの証明」の準備)
(9)「差積の2乗」が対称式となることを解説
(10)「平方根」「3乗根」と次々と累乗根を加えていくアイデア
(11)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「2次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(添加する式について加筆予定)
(12)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(前編)。「差積の2乗の平方根」を用いて対称性を保つ置換を「偶置換」にまで絞り込む。
(13)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(後編)。「ラグランジュ・リゾルベント」を用いて対称性を保つ置換を「恒等置換」にまで絞り込む。⟶ 3次方程式の解の公式の完成