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【小説】 KUROGO 第章 倱業䞭

    【抂芁】

     あるカメラマンのもずに、奇劙な撮圱䟝頌が舞い蟌んできた。ある女性の動画を撮圱するずいう䟝頌だが、その撮圱に察する条件ずは、被写䜓ずの察面は垞にファむンダヌ越しであるこず。そしお、被写䜓の本質を撮圱するこず、ずいうものだった。
     被写䜓は玠人の女子倧生であり、カメラを意識するあたり、自然な姿を撮圱するこずができなかった。打開策を思案しおいたカメラマンは、歌舞䌎の黒衣くろごをヒントに、被写䜓に察しお黒装束で撮圱に臚むこずにした。その効果で、被写䜓は撮圱されるこずを意識しなくなっおいった。
     カメラマンは、被写䜓がファむンダヌの䞭で、芋知らぬ姿ぞず倉貌しおいく様に匕き蟌たれるようになっおいった。そしお芋慣れおいた䞖界が、芋慣れない䞖界ぞず倉貌しおいくようになった。芋慣れないファむンダヌの䞭の䞖界の狭間で、カメラマンは、自分の䞖界を芋倱っおいく。

    第章 倱業䞭

     今僕は倱業䞭だ。䟝頌人が消えおしたった。ずいうよりは、芋限られたずいった方がいいのかもしれない。きっず別の担圓者を雇ったのだろう。マンションは蛻もぬけの殻からだ。匕っ越し先も分からない。いったい僕の䜕が䞍満だったのだろうか。姿を隠しおたで僕ず瞁を切りたかったのだろうか。その理由が分からない。それずも䞍満だったのは僕に察しおではなく、僕を雇った人間の方だったのだろうか  。ちょっず混乱しおいる。正確に話そう。消えおしたったのは䟝頌人ではなく、䟝頌人から指定された察象者だ。僕は䟝頌人から頌たれお、その察象者に付き添っおいた。ずいぶんず芁求に応えおきたはずなのに、䜕が䞍満だずいうのだろう。盞談しおくれれば察凊の方法はいくらでもあったはずだ。やっぱり暪やりが入ったのだろうか。䟝頌人が介入しおいるのかもしれない。圌はどこか信甚のおけないずころがあった。いったい䜕のために僕を雇ったのだろう。芁求通りに報告だっおしおいたじゃないか。報酬に芋合う仕事はしおきたはずだ。そこのずころは䞍満を蚀われおも論砎できる自信はある。むしろ䟝頌人の方に䞍郜合があるんじゃないかな。そうさ、だから䟝頌人は僕を遠ざけようずしおいるに違いない。あのむくんだ䞞顔。どこずなくモグラの様な印象を受ける顔。その䞭に埋もれたよどんだ県。い぀も人を窺うような䞊県遣いをしおいた  。

     誰もいない郚屋の䞭で僕は新しい䟝頌人が珟れるのを埅っおいる。カヌテンの隙間から朝の光が挏れおくる。どうやら倜が明けたようだ。䟝頌人が匕き払った郚屋は、家財道具が䞀切合切なくなっおいるずいう蚳ではない。倧事なものだけを持ち出しお、新居では䞍芁な物をそのたた残しおいったずいうずころだろうか。きっずこのカヌテンでは新居に合わないのだろう。窓のサむズも壁玙の柄も、この郚屋ずは違っおいるのだろう。カヌテンの色が日に日に色耪せおいくようだ。僕自身の存圚も薄れおいるのだろうか。自分の意識もあやふやな状態が続いおいるような気がする。䜕日たっただろうか、そろそろ倱業保険の継続手続きに行かなければならない時期ではないだろうか。自分の口座にいくら残っおいるのかも把握できおいない。今日が䜕月䜕日かも分からなくなっおいる。なんだかハロヌワヌクぞ出かけおいく気力がない。䜓力が萜ちおきたせいだろうか。食事も最埌に摂ったのがい぀だったか忘れおしたった。自分の郚屋にも戻っおいない。そういえばシャワヌも济びおない気がする。自分ではもう分からなくなっおいるが、䜓臭もき぀くなっおいるかもしれない。これでは新しい䟝頌人が決たる蚳はない。いくら特殊な仕事だずは蚀っおも枅朔感は必芁だろう。それでも、なんだか、ここを動く気がしない  。

    『䟝頌人募集』ずいう看板を暪に眮いたたた、僕はただここに座り蟌んでいる。残されおいた荷物はい぀の間にか撀去されおいた。なぜ気が付かなかったのだろう。業者には興味がないからかもしれない。䟝頌人候補が珟れなければ、僕の意識は掻性化しないのかもしれない。この間斡旋業者に案内され、この郚屋を芋に来た女性は、『䟝頌人募集』の看板を芋お䞀瞬興味を抱いた玠振りを芋せた。斡旋業者は僕の存圚を黙認しおいるが、ロむアリティがないものに察しお斡旋しおも䜕のメリットもない。たったくの無芖を決め蟌んでいる。亀枉は盎接しおくれずいうこずだ。しかし郚屋を芋孊に来た女性は、なぜか党く無芖を決め蟌んだように僕の存圚を認めようずしなかった。それが僕の本来の圹目なのだから仕方がないが、条件の確認ぐらいしおくれおもよさそうなものだ。僕の䞀䜓䜕が気に入らないずいうのだろう。雇っおくれたらきっずお気に召す仕事ぶりを発揮する自信はあるんだ。なにせこの仕事を思い぀いたのは僕が最初なのだから。僕ほどの経隓を持った者など、ほずんど存圚しおいないはずだ。それずもこの仕事に察する䞖間の理解が䞍十分だからだろうか。きっずそうかもしれない。僕の仕事を暡倣する人間も珟れ、䟝頌人ずのトラブルも発生しおいるずころを芋るず、この仕事に察する誀解が䞖間に広たり぀぀あるのかもしれない。なんお迷惑な話じゃないか。資栌制床でも䜜ればよかったのかもしれないが、そこたで思い぀かなかった。もし資栌制床をうたく運甚できれば、今頃は巊団扇ひだりうちわで暮らすこずができたかもしれない。僕にはそういった才芚に欠けるずころがあるようだ。しかし蚀い蚳じゃあないが、そんな巊団扇の生掻は僕の性に合わないかもしれない。僕は経営者ずいうよりも職人肌だから、珟堎で䜜業する方が向いおいる  。

     どちらにしおも今倱業しおいるこずには倉わりない。なんずか次の䟝頌人を芋぀けたいずころだが、ここしばらくは候補が珟れない状態になっおいる。もしかしお誰かが手をたわしお、僕の仕事を劚害しようずしおいるのかもしれないず疑っおみる。邪魔するずしたらいったい誰だ。それなら圌しか思い぀かない。僕の最初の䟝頌人だ。僕を雇ったのも、倱業させたのも、圌だからね。きっず圌が手をたわしおいるのだろう。察象者が消えたのも圌の仕業じゃないかず疑っおいる。だっお察象者ずはうたくいっおいたのだから。少なくずも察象者は僕に察しお䞍満を蚀うこずはなかった。最初の頃は確かに䞍満を持っおいただろう。それは仕事のやり方を改善するこずで、いい関係を䜜り䞊げおきたず自負しおいる。僕だっお銬鹿じゃないから、改善のための努力はしおきたよ。だから突然前觊れもなく察象者が消えおしたうなんお、予想もしおいなかった。どう考えたっお誰かの差し金じゃあないかず疑うね。だから䟝頌人が手をたわしたんだず思っおいる。もう䞀床圌ず話をしなければならないかもしれない。でも圌は䌚うこずを拒吊するだろ。僕には分かっおいる。圌は僕に察しお嫉劬しおいるっおこずをね。僕が察象者ずうたく仕事をしおいるこずに嫉劬を芚えおいたはずさ。だから圌は邪魔をしようずした。自分で雇っおおきながら邪魔するなんお圌は歪んでいるよ。思慮に欠けおいるんだ。圌に䌚うためには䜜戊を緎らなければならない。圌の行動パタヌンを調べお、油断しおいるずころを抑えなければならない。圌は僕を譊戒しおいるはずだから、おいそれずは接觊する機䌚を䜜らないだろう。だからこそ僕も慎重にならなければならないんだ。圌が僕から逃れられないようにするためにね。圌が僕を避けおいるこずを臭わせる兆候は、あの時から感じおいたんだ  。

    「君に䟝頌した仕事は、もう継続はできない」
    「どういうこずですか 圌女はいったいどこぞ行ったんですか」
    「それは、こっちが聞きたいずころだ。君こそ知らないのかね」
    「心圓たりなんおありたせんよ。いきなり連絡が取れなくなったんですから」
    「そうなのかね  」

     䟝頌人は、疑い深い県で僕を芋おいた。僕は逆にあなたのせいで圌女が逃げ出したんじゃないのですか、ずでも蚀い出しそうになるのをぐっず堪えおいた。

    「ずにかく、圌女がいなくなっおしたったからには、もう君にお願いするこずがなくなっおしたった。仕事はこれで打ち切りだよ。ただ、君も急に収入がなくなっちゃあ困るだろう。たあ、か月分は保蚌するから、そのあいだに次の仕事でも探しおくれたたえ。か月分だっお、出るだけありがたいず思っおくれたたえ。出さなくおも、こっちには、そんな矩務なんおないんだからね  」

     それが、䟝頌人からの最埌通牒だった。あの時は気が付かなかったが、圌はテヌブルの䞊に眮いおあった来客甚のキャンディヌを続けざたに口に入れおいた。䜕か疚しいこずがあっお、話を早く打ち切りたいずいった気持ちが出るのを無意識に抑えようず、ふだん口にしないものを攟り蟌んでいたような気がする  。

    『あなたっお、分かりやすいのね  』僕はマナミが買っおきた玠焌きのアヌモンドを口に攟り蟌む。『郜合が悪くなるず、い぀もそうなんだから  』味など分からないのに、ただ噛みしめる。『い぀たで黙っおいる぀もりなの  』飲み蟌む前に次の粒を攟り蟌む。蚀い蚳は終わりのない始たり。息を殺しお感芚をマヒさせる。『もういいわよ。私垰るわね  』黙っお埌姿を芋送る。ほっずするず同時に埌ろめたさを感じる。䟝頌䞻も同じだろうか。あの時もう少し远求しおおけば、展開が倉わったのではないかず埌悔しおいる  。

     䟝頌人から倱職を蚀い枡された埌、倱業保険の手続きに行った。蚘入甚玙には前職に぀いお蚘入する欄があった。前職ずいっおも、どう曞いたらいいのか迷っおしたった。正匏な職皮名などないのだ。仕方がないので、黒衣くろごず蚘入した。

    「黒衣っお、黒子ずは違うのですか  。歌舞䌎関連のお仕事ですよね」
    「ええ、そうですね」

     説明に困ったが、本圓のこずを説明したら、かえっお胡散臭がられるので、ずいあえず歌舞䌎関連の仕事で抌し通すこずにした。

    「舞台関係のお仕事をご垌望ですか」
    「できれば、そうしたいのですが、この業界も苊しい状況ですからね。垌望は持っおいたすが、拘らないようにしようかず思っおいたす」

     ずにかく倱業保険をもらうこずが目的なので、本心にないこずを話しおいた。受付の職員も、申請者個人々々に興味がある蚳ではなく、事務的な凊理を決め蟌んでいる。芪身なふりを装っおも、質問は事務的に行っおいる。ルヌティンワヌクにしなければ、こなすこずができないぐらいの倱業者が垞に存圚しおいる。倱業ず非正芏雇甚を䜕床も埀埩する劎働者が増え続けおいくこずは、受け付ける偎も感じ取っおいる。政府や圹所が、景気回埩をいくら謳っおも、それを鵜呑みにする者などいない。栌差は確実に広がっおいる。郜合が悪くなれば、政府だっお話を逞らすか沈黙を決め蟌む。珟堎は自分たちの負担を増やすたいず、䞀人あたりの察応時間を自ら削枛し始めおいる。

     前職に぀いお『黒衣』ず蚘茉したが、これは歌舞䌎の黒衣ずは違った新皮の職業だ。僕は新皮の職業を生み出しおしたった。それが軌道に乗りかけたずころでの倱職だ。蚈画的な起業ではなかったため、準備䞍足だったこずは吊めない。やむに已たれず始めたこずが、意倖な効果を生むこずになっただけなのだが、うたく掚し進めれば、ニッチではあっおも固定客が付きそうな感觊はある。新皮の仕事に察する䞖間の理解は簡単には進たない。新たな仕事を生み出すずいうこずは、単にアむディアを出すだけではなく、䞖間の垞識すら倉えおいかなければならないものかもしれない。そこには偏芋も差別も存圚する。もし既埗暩を奪われるず思われたら、培底的に劚害されるだろう。政府が、いかに新事業創蚭を謳ったずころで、圹所がそれを認めおはくれないものさ。圹人を玍埗させるには、圌らの利益たで考慮に入れおやらなければならない。だから、個人事業䞻にずっおは、新しい仕事を創蚭するためには、こっそりず初めお、ある皋床軌道に乗ったずころで、圹人を取り蟌む察策を考えなければならない。その点、僕の堎合は、ただそこたでの準備ができおいなかった。急に倱職しおしたったのだから、同じ仕事に就こうずしおも、求人広告など出おいるはずもなく、自分から、お客を探さなければならないのだからね。サヌビス内容を説明するのも䞀苊劎だ。䜕が顧客のメリットになるのか、ただ僕にも分かっおいないのだから。どちらかずいうず、趣味の䞖界なのかもしれないし  。

     僕の䟝頌人だった男にしたっお、かなり胡散臭い奎だ。本職は医者だずいうが、たずもに患者を蚺おいるのだろうか。僕が患者だったら、ちょっず二の足を螏んでしたう。あの胡散臭い県で、䜕を芋おいるのだろうか。絶察に倉態趣味を持っおいるに違いない。医者だろうが、教垫だろうか、はたたた聖職者だろうが、その䞭にも倉態は存圚するだろう。職業ず嗜奜性は独立したものだ。犯眪にたで発展しなければ、人に咎められるこずはない。ひっそりず、自分の䞭だけで凊理できる間は、䜕を考えようずかたいはしない。ただし、他人に知られないようにする必芁はあるが  。知られさえしなければ蚱されるこずだ。心の䞭たで、ずやかく蚀われおも、そこたで干枉するなず蚀いたくなるだろうね。たあ、気が匕けるずころはあるかもしれないが、それもたた、その時代の瀟䌚性に巊右されるこずがあるから、時代が倉われば、蚱されるこずかもしれないが  。

    『黒衣』がどんな職業かっお。それは、おいおい説明するこずにしよう。僕は、盞倉わらずこの郚屋で、新しい䟝頌人が珟れるのを埅っおいる。元䟝頌人には頌めないし、信甚もできないから。盎接察象者ずなる人に、䟝頌人になっおもらうしかない。金銭的に負担になるずいうのなら、かなりの割匕をしたっお構わない。なんなら、しばらくは無料でも構わないよ。倱業保険で食い぀なげる間はね  。僕はずにかく仕事がしたいだけなんだ。この仕事は僕にずっお、どうやらかけがえのない仕事のようなんだ。だから、詊しでもいいから、僕を雇っおみおよ。解玄料だっお取らないし、君たちの負担になるこずはないず思うんだ。ただ、䞀床に耇数人の䟝頌人は持おないよ。そこは、譲れないずころだ。耇数人の察象者をさばけるほど、簡単な仕事じゃないんだ。だっお、四六時䞭぀きっきりでないずできない仕事だからね。僕らは、パヌトナヌずしお行動を共にしなければならないんだ。誀解しないでくれ、決しお性的な関係を匷芁するような仕事ではないのだから。仕事ずしおのけじめは぀けられるさ。ただし、そちらから求めおきた堎合は、その察応は前向きに考慮させおもらうけどね。僕だっお、生身の人間なのだから  。

     おや、新しい䟝頌人の候補が珟れたようだ。斡旋業者に先導されお郚屋に入っおきた。僕をアピヌルするチャンスだ。『黒衣』の内容に぀いおはたた埌で。就職掻動に、しばらく専念させおくれないか  。

    次章に続く
    第章 䟝頌

    目次

    第章 倱業䞭
    第章 䟝頌
    第章 撮圱開始
    第章 スチル撮圱
    第章 最初の報告
    第章 盗撮犯
    第章 黒衣(KUROGO)の誕生
    第章 線集䜜業
    第章 芋慣れた䞖界
    第章 二回目の報告
    第章 芋慣れない䞖界
    第章 実隓
    第章 倉貌
    第章 黒衣の増殖
    第章 䞉回目の報告
    第章 瞄匵り争い
    第章 芋慣れた䞖界の喪倱
    第章 実隓䞭断
    第章 倱職
    第章 消えた被写䜓
    第章 黒衣の墓堎
    第章 芋るものず芋られるもの
    第章 結末

     
     
     
    普通の初老のおじさんです。ヘッダヌ画像は2024幎に撮圱したアムステルダム囜立矎術通の資料宀。本が奜きなので本棚に資料が詰たった写真にしたした。カメラを觊るこずが奜きです。長線小説を趣味で曞いおいたす。ペヌロッパ旅行が奜きです。プロフィヌル画像は数幎前に息を匕き取ったマルチヌズ。

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