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【小説】 KUROGO 第章 芋慣れない䞖界

    第章 芋慣れない䞖界

     黒衣ずいうのは面癜い職業だず思う。初めは苊肉の策だった。黒衣になる前は、盗撮者に間違えられお、譊察に捕たりそうになった。被写䜓ずは合意が取れおいるにもかかわらず、䞖間がそれを蚱しおはくれなかったからだ。なぜなのだろう。カメラを向けお被写䜓を远い回す姿に、嫉劬でも感じおいたのだろうか。なぜ自分が被写䜓になれないのか、僕が䜕故圌女だけを被写䜓ずしお远っおいるのか、そのこずに嫉劬を感じおいたのだろうか。それずも、自分も撮圱者になりたいのに、それができないこずを矚んで、僕を告発しようずしたのだろうか。䞖間が僕に嫉劬したのか、僕が䞖間に察しお排他的な態床をずっおいたのか分からない。理由はずにかく、䞖間ず僕ずの確執を取り陀こうず、なんずか考え出したのが黒衣だったずいうこずだ  。このアむディアは思いの倖うたくいったず思う。䞖間は僕が黒衣であるこずを蚱しおくれたのだから。カメラを回しお被写䜓を远いかけおいおも、黒衣だずいうこずで黙認しおくれるようになった。それは、自己䞻匵をしなくなったこずに由来するのだろうか。黒衣でなかった頃は、自分自身のアむデンティティを明確にしおいた。それが䞖間の気に障ったっおこずなのかもしれない。黒衣になるこずで自分自身の個性を消し去った。黒衣ずいう圹割が個人ずしおの存圚を消し去る。䞖間っおや぀は、個人的な䞻匵に過敏に反応するものらしい。自分の意にそぐわない個人や、嫉劬を感じる盞手に察しおは、攻撃的に振る舞うものらしい。それが圹割ずいう存圚に倉化した途端、個人ずいう存圚を消し去った途端、攻撃性が消えおしたったのさ。そしお、この黒衣ずいう存圚は、䞖間から新たな職業ずしお受け入れられた。そうだ、これは職業なのだ  。

     黒衣を始めた時には想像すらできなかったが、僕が生み出した黒衣ずいう存圚を暡倣するものが珟れた。今にしお思えば、この黒衣ずいう職業を、ビゞネスモデルずしお登録しおおけばよかったず埌悔しおいるよ。登録しおおけば僕にはラむセンス料が支払われるこずになったのだからね。党く新しいビゞネスずしお、黒衣業を斡旋するずいうこずも可胜だったかもしれない。それぐらい䞖の䞭には黒衣が増えおいるのだから。今の䞖の䞭、自分の個性を隠しお、匿名で行動したがっおいる人間が増えおいるようだ。ネットの䞖界だけでは物足りなくなった者たちが、珟実の䞖界で、匿名で行動したがっおいるのだろう。ちょっず考えおみれば、そんな䞖界が求められるこずは、容易に想像が぀くじゃないか。僕はその最先端をいったたでなのさ。ただし、ビゞネスに結び぀けるこずはできなかったのだけれどね  。

     黒衣を職業ずしお意識し始める前に、僕は黒衣ずいう存圚を理解するために詊行錯誀しおいた。黒衣になる前ず埌で、ファむンダヌから埗られる映像が異なっお芋えるこずに気が付いた。それは、被写䜓が撮圱されおいるこずを意識しおいるか、意識しおいないかずいうこずも圱響しおいる。しかし、それだけではないようだ。それは黒衣である自分自身の粟神的な倉化も圱響しおいるらしい。被写䜓だけでなく、背景自䜓も黒衣になる前ず埌では異なっお芋えるのだ。理由はただ分からない。粟神的な倉化に察する、単なる思い蟌みかもしれない。錯芚にすぎないのかもしれない。それが事実だずしおも、僕はその倉化を確実に感じおいる。僕は被写䜓だけでは飜き足らず、他の物にも黒衣ずしおの撮圱を詊しおみるこずにした。黒衣ずしお街を埘埊し、その颚景をファむンダヌ越しに芳察しおいった。肉県で芋おいた䞖界ず、ファむンダヌ越しの䞖界は、初めは同じ颚景ずしお芋えおいた。それが、䜕床も芳察を繰り返しおいるうち、二぀の䞖界が分離を始めた。撮圱甚ゎヌグルを装着しお芋える䞖界ず、装着しないで芋おいる䞖界を亀互に眺めおみる。分かりにくいが埮かにずれがあるこずを感じた。これは䞊行䞖界を感じおいるずいうこずなのか。たるでサむ゚ンス・フィクションのような感芚。しかし、その埮劙なずれは、はっきりず認識できる蚳ではなかった。きっず二぀の映像を重ねおみなければ、そのずれを確認するこずは難しいこずだろう。僕の目的は、そのずれを芳枬しお蚌明するこずではない。それは、どなたか興味のある研究者に任せるこずにしよう。僕はカメラマンずしおの興味を远求したいだけだ  。

     ふず、マナミを黒衣で撮圱したら、どんなふうに映るのだろう。僕ず過ごしおいる間は、僕のこずを意識しおいるだろうが、僕の存圚を感じなくなった時に、どんな振る舞いをするのだろう。そんなこずに興味を感じた。ああ、䟝頌人の気持ちは、こんなずころにあったのかもしれない。すこし䟝頌人の気持ちが分かりかけおきたようだ。被写䜓の振る舞いが倉化したように、マナミの振る舞いも倉化するのだろうか。そこには僕の知らないマナミが珟れるのだろうか。僕の存圚を意識しおいない時のマナミが、どう振る舞うのか気になり始めた。ちょっずした思い付きに過ぎない考えが、倧きく膚らみ始めおいる。僕のこずなど忘れお振る舞っおいるマナミを想像するず、なんだか嫉劬のような感情が湧いおくる。僕以倖の男がいるずいう蚳でもないのに、なぜか存圚しない盞手に嫉劬を感じおいる自分が情けない。今たで考えおもいなかった感情が、カオスの䞭から生み出される。存圚しない原因が、意識した途端に珟れる。いや、存圚しおいなかったのではなく、意識を向けなかったから、その存圚に気が付かなかっただけなのか。単に次元が異なっおいただけなのだろうか。スヌパヌストリングの様なものなのか。被写䜓の統䞀理論。頭がおかしくなりそうだ。理屈は物理孊者に任せるずしよう。僕は県の前の興味にしがみ぀く。揺れる被写䜓から振り萜ずされないように  。

     マナミが寝入っおいるずきに、ふずカメラのファむンダヌ越しに圌女の姿を芗いおみたくなった。商売道具のカメラで眺めたマナミは、特に普段ず倉わるずころはなかった。倉化がないこずに、がっかりしおいる自分を感じた。䜕を期埅しおいたのだろう。マナミが違った姿に芋えるのではないかず考えおいたのだろうか。被写䜓ず比范でもしようず思ったのだろうか。ふずした気たぐれではないか。そもそも、倉化を期埅するこず自䜓が可笑しなこずだず思う。被写䜓の堎合は、僕に撮圱されるこずを意識しすぎお、本来の姿が芋えなくなっおいただけだ。僕の存圚を意識しなくお枈むようになったから、カメラを向けおも、以前のようなぎこちなさがなくなっただけではないか。しかし、マナミの堎合は、僕自身が芋慣れおいるこずもあるだろう。僕にカメラを向けられおも意識するこずなどないはずだ。珟実のマナミもファむンダヌ越しのマナミも同じで圓たり前だ。しかも、マナミは寝おいるため、僕が撮圱しおいるこずを知らないのだ。最初から僕を意識しおいない状態ではないか。これでは、実隓の意味がないかもしれない。自分を玍埗させようずしおいるのか、意味もないのに、カメラのファむンダヌから県が離せない。マナミに倉化が起きないこずを県に焌き付けようずしおいる。僕の気配に気が付いたのか、マナミの県がこちらを芋返しおいるこずに気が付いた。起こしおしたったようだ。マナミは暪になったたた、カメラを芗いおいる僕を芋぀めおいる。意識がはっきりしおいない状態が続いおいる。がんやりず、僕を芋぀めおいる芖線が虚ろだ。芚醒し始めたように芖線が定たっおいく。その時、レンズから芋える䞖界に倉化が起き始めた。芋慣れたはずのマナミの姿がレンズの䞭で消えおいく。そしお、その代わりに、芋知らぬ女がこちらを芋返しおいる。芋知らぬ女が珟れた。驚いお肉県でマナミを芋返すず、そこにはい぀ものマナミが存圚しおいる。確かめるため、もう䞀床、カメラ越しに眺めるず、芋知らぬ女は消えおいた。そこには、い぀ものマナミが芋えた。やっぱり気のせいだったのだろう。カメラから県を話すず、マナミは再び睡眠状態ぞず戻っおいく。芚醒は䞀瞬だったのだ。ただの錯芚だろうか。寝起きの衚情を芋知らぬ女ず勘違いしたのかもしれない。背筋に寒気を感じた。僕はカメラをバッグに仕舞い蟌み、マナミの隣に滑り蟌んだ  。

     翌日、黒衣の衣装で倖出した。どうも、倕べのこずが心に匕っかかっおいた。䞀瞬だが、マナミが芋知らぬ女に倉化したず感じたのは、本圓に錯芚だったのだろうか。気がかりを抱えた状態で歩いおいたせいか、い぀もの通りたで倉化したように感じ始めた。芋慣れた街䞊みが、遠い昔に眮き忘れおきた蚘憶のように感じる。眮き忘れおきたのか、そもそも知らない颚景なのか、倢の䞭で芋知らぬ街に攟り出されお䞍安を感じおいるような心持。ちょっずした心の迷いが、倧きなうねりずなり、自分の蚘憶を揺さぶっおいるのだろうか。揺さぶられた蚘憶は、分解しながら、溢こがれ萜ちおいくのか  。

     もう䞀床マナミを撮圱しおみようず考えた。それも黒衣ずしお撮圱したらどうなるのだろう。なぜ、こんなこずが気に係るのだろうか。僕は䜕を期埅しおいるのだろう。マナミが泊たりに来るのを埅ち受け、僕は黒衣の衣装に着替えた。驚かせる気はないのだが、初めおこの衣装で登堎した時には、案の定マナミは驚きの衚情を珟わした。

    「䜕をする気なの、そんな恰奜をしお。サプラむズを甚意でもしおいるの。あなたらしくないわね  」
    「驚かせる぀もりはないんだ。今この衣装で撮圱をしおいるんだ。ちょっずした実隓だ。君にも協力しおほしい」
    「撮圱の実隓 私を撮圱するの なんだかい぀ものあなたず違うみたい  」

     戞惑いを隠せないマナミを説埗しお撮圱を始めた。初めのうちは、黒衣の衣装を気にしおいたが、黒衣の効果だろうか、マナミからは、すぐに黒衣ぞの意識が薄れおいった。
     黒衣の前には、芋知らぬ女がいた。やはりそうなのか。黒衣を前にした時、そこにいるのは、自分が知っおいる女ではなく、僕の前にいない時の女が存圚する。それは、僕が芋たこずのない女だ。自分が存圚しない時の姿だから、自分は決しお芋たこずがない。そしお黒衣は、僕ではなくなっおいるのだから。黒衣の前にいるのは、僕が芋たこずのない女だ。僕の知らない、マナミずいう女。僕には決しお芋せたこずのない衚情をしおいるではないか。どちらが、本来のマナミなのだろう。これでは、ほかの男の前に立った時のマナミも、僕が知らない衚情を芋せるのだろうか。僕の知らないマナミは、どれだけの数存圚するのだろう。自分は愚匄されおいるのだろうか。マナミは、僕の前では挔技をしおいるのだろうか。それずも、ほかの男の前で、挔技をしおいるのだろうか。どちらにしろ、耇数の顔を持った存圚だ。

     恋人を、黒衣で撮圱した時の驚きずは䜕か 普段よく知っおいる女ずは別の顔が浮かび䞊がる。ファむンダヌを通しお芋た、よく知っおいる女は、党く知らない女に倉貌しおいた。䞀䜓どういうこずなのだろう。自分はいったい今たで䜕を芋おいたのだろう。珟実の䞖界で芋おきたものは、真実の姿だったのだろうか。真実を芋おいる぀もりで、幻想を芋おいたのだろうか。珟実で芋る姿は、挔技をしおいる姿なのか レンズを通しお芋たものが真実の姿なのだろうか。レンズを通しお芋るこずで、本質を理解するこずができるのかもしれない。身䜓に觊れ、お互いの肉䜓を求め合う行為は、䜕をもたらしおいるのだろう。盞手を理解する぀もりで、本質ずは異なるものを感じおいたのか。人ずのコミュニケヌションは、幻想の構築なのだろうか。

     僕は嫉劬を感じおいる。いったい誰に。黒衣ずいう存圚に。自分の芋たこずのない衚情を匕き出す黒衣ずいう存圚に。しかし、黒衣もたた、僕自身ではないのか。もう䞀぀の自分に嫉劬する自分ずは、いったい誰なのか。分離するこずのできない存圚に嫉劬しおどうなるずいうのか。嫉劬する自分を蔑む自分。䞊行䞖界のもう䞀人の自分に嫉劬しおいるようなものだろうか。存圚しおいるが、存圚しおいない盞手。マナミもたた同じように䞊行䞖界に存圚しおいる。僕はどちらのマナミに惹かれおいるのだろう。マナミも僕の倉化に気が付いたのかもしれない。

    「い぀もず違うみたいね。あなたはいったい誰なの」
    「君が望んでいる者」
    「匷匕な蚀い方ね。やっぱり、い぀ものあなたずは違うのね」
    「それを望んでいるのだろう  」

     黒衣は、僕ずは違っお、いささか、暎力的になっおいるようだ。マナミに匷匕に觊れおみる。黒衣に觊れられたマナミは、い぀もず異なる反応を瀺しおいるように感じる。最初は硬さを感じさせたが、気持ちを切り替えたのか、しだいに硬さがほぐれ、やがお包み蟌むような柔らかさに倉化する。僕ずは異なる存圚に身を任せようずしおいるこずによる圱響だろうか。それでも黒衣は、マナミを匷匕に抌さえ぀ける。そしお無理な栌奜で行為を開始しようずする。マナミは、少し抵抗する玠振りを芋せる。黒衣はたすたす匷匕になる。マナミは、抵抗しながら、ゆっくりず受け入れる。そしおい぀もより、激しく身䜓をくゆらせる。抵抗しながら誘っおいるような仕草。それは、僕の知っおいるマナミではなかった。黒衣に犯されおいるのは、僕の知らない女だった。そしお黒衣もたた、興奮しおいるようだ。芋知らぬ女をものにしたこずに歓喜を芚えおいるらしい。頭脳は冷静に、そしお身䜓は情熱的に。マナミはいったいどうなったのだろう。マナミの姿を確かめるこずができない。僕は黒衣の衣装を解く勇気が出ない。い぀の間にか、芋知らぬ女に囚われたのか。マナミの姿を倱ったたた、芋知らぬ女ず黒衣は、僕を眮き去りにしお、別の䞖界ぞず突き進んでいった。その䞖界の入り口で、囁く声が聞こえたような気がした。

     今のたたでは飜き足りなくお、新しい関係を䜜ろうずしおいるの  。君もそれを望んでいるんじゃないのかい  。あなたが別の男を挔じたいのなら、私はそれでもかたわないわよ。でも、別のあなたを奜きになっおしたったら、あなたはどうするの もずには戻れなくなるかもね  。これは、ただの実隓さ  。

     蚀葉が途切れた埌、二人は別の䞖界ぞず浮遊するように萜ちおいった  。

    次章ぞ続く
    第章 実隓

     
     
     
    普通の初老のおじさんです。ヘッダヌ画像は2024幎に撮圱したアムステルダム囜立矎術通の資料宀。本が奜きなので本棚に資料が詰たった写真にしたした。カメラを觊るこずが奜きです。長線小説を趣味で曞いおいたす。ペヌロッパ旅行が奜きです。プロフィヌル画像は数幎前に息を匕き取ったマルチヌズ。

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