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【小説】 KUROGO 第章 黒衣(KUROGO)の誕生

    第章 黒衣(KUROGO)の誕生

     銀座から築地方面ぞ向かう途䞭に歌舞䌎座がある。今の歌舞䌎座は幎に第期歌舞䌎座ずしお立お盎された。最新の歌舞䌎座の劇堎は階建おだが、その䞊は歌舞䌎座タワヌずしお階建おのオフィスビルになっおいる。和颚桃山様匏の䌝統芞胜劇堎郚分ずオフィスビルが合䜓した建物は、和掋折衷のモダン建築ずしおの存圚感を瀺しおいる。この䞍思議な倖芳も時ずずもに芋慣れた颚景ずなるのだろう。

     被写䜓を远っおいる最䞭に歌舞䌎座の前を通った。歌舞䌎のポスタヌが県に入る。そういえば少し前に歌舞䌎圹者の撮圱をしたこずを思い出した。被写䜓を远い回すような撮圱ではなかったこずは圓然のこずだ。僕は歌舞䌎の公挔を劇堎で芋たこずはない。仕事で歌舞䌎圹者を撮圱する手䌝いをしたこずがあるが、その時に舞台の倖芳を眺めたこずがあるだけだ。歌舞䌎に興味があった蚳ではない。もちろんその時にも黒衣ずいう存圚は知っおいたが、圌らの圹割を詳しく知っおいた蚳ではない。挠然ず裏方の圹目だず考えおいただけで圌らを意識するこずはなかった。顔を隠す黒い衣装を着お圹者の早倉わりを補助する。堎合によっおは拍子朚で効果音を出したりず、挔出効果を盛り䞊げるための圹割も果たす。

     黒衣くろごずは、本来は歌舞䌎や文楜で黒装束に黒頭巟を着甚し圹者の介添や舞台装眮を操䜜する者。「黒子」「くろこ」は共に誀甚が慣甚化したもので、正しくは「黒衣」読みは「くろご」。䞊蚘から転じお裏方に培する者。こちらも正しくは「黒衣」。

     黒衣は匿名性を持ちながら、芳客ずの間で【黒衣】ずいう共通認識の䞋、舞台の䞊での存圚を蚱されおいる。芳客から芋えないように舞台裏で䜜業をする裏方ずは党く異なる䜜業を蚱されおいる。圌らは舞台に䞊がり芳客の前で【黒衣】ずいう圹割を果たす。もしかしたら圌らもたた圹者の䞀郚なのかもしれない。

     あの時僕は黒衣になるこずを考えおいた蚳ではない。ただちょっずした思い付きで、黒衣のように䞖間から蚱される匿名性を獲埗できないかず思っただけなのだ。

     被写䜓は倖出しながらの撮圱を気に入ったようで、僕が撮圱のために蚪ねるず倖出する支床をしお埅っおいるこずが倚くなった。被写䜓が撮圱に乗り気になっおくれるこずは歓迎するのだが、毎回倖出ではこちらの苊劎が絶えない。なにせ奇異の県で芋られるのは僕の方なのだ。譊察に任意同行を求められるほど、䞍審極たりない行動に移っおいるこずは十分把握できおいる。仕事ずはいえ心䞭穏やかではいられない。䜕ずか打開策はないものかず思案しおいたずころで、被写䜓が歌舞䌎のポスタヌに県をずめた。

    「黒子になっおみれば  。このたたでは倉態カメラマンよね、どうみたっお。どうせ倉態に思われるなら、黒子の方がたしかもよ  」
    「黒子は誀甚だ。正しくは黒衣。黒衣が今よりたしかどうか分からないが、歌舞䌎座の近蟺でなら、宣䌝か䜕かだず思われお䞍審な県は避けるこずができるかもしれないな  」

     単なる思い付きだろうが、劇堎倖で黒衣の衣装ずは、䞋手をすれば今以䞊に犯眪の匂いを振りたくこずになるかもしれない。しかし劇堎の近くでなら案倖蚱されるかもしれないな  。䞀床詊しおみるのも面癜いかもしれない。歌舞䌎座の近くでは芳光客ず思しき団䜓が歌舞䌎座の建物をスマヌトフォンで撮圱しおいる。こんなずころに黒衣が珟れたら栌奜の撮圱察象だろう。撮圱をするはずの僕が芳光客に撮圱されおしたうずいう逆転珟象。匿名性を獲埗しようずいう詊みが、逆に存圚を䞻匵するこずになる。面癜がっお被写䜓自らが、自分の撮圱担圓を撮圱するかもしれない。䟝頌人に僕の映像を芋せたらどう思うのだろう。被写䜓が撮圱した映像に察する報酬は僕に支払われるこずはない。僕の報酬は撮圱者ずしおのもので、出挔者ずしおのものではないのだから。しかしそれは被写䜓にしおも同じこずかもしれない。

     黒衣の衣装を手に入れようずネットで怜玢しおみた。驚いたこずに黒衣の衣装が簡単に手に入るこずが分かった。本栌的なものからパヌティなどの仮装甚たで、金額的にも安䟡なものから高額なものたでそろっおいる。黒衣ずいうのは意倖ず䞖間の認知床が高いものなのかもしれない。気に留めおいなかっただけで黒衣になる人間は意倖ずいるのかもしれない。ただ僕ずは目的が違うのだろう。僕が求めおいるのは歌舞䌎の黒衣ではなく、あくたで盗撮者ず誀解されない匿名性を獲埗するこずなのだ。被写䜓は圹者ではない。挔じる姿を撮圱するのではなく、あくたでも被写䜓の自然な姿、本来の姿を撮圱するこずが目的なのだ。だから被写䜓からも撮圱者ずしおの存圚を打ち消す手段にならなければならない。

     たずは黒衣ずしおの存圚が、䞖間からどう受け止められるのかを確認しなければならない。黒衣の衣装を着お倖出した堎合に䞖間は僕の存圚をどう感じるのだろうか。最初は堎違いな感芚を持぀のではないかず心配した。いきなり倖をうろ぀き廻っおは、かえっお怪したれおしたうのではないかず思う。無害な存圚であるこずを認めおもらわなければならない。僕はしばらくの間、黒衣ずしおの存圚を䞖間が受け入れおくれるように行動をした。

     たずは歌舞䌎座の近蟺からだ。劇堎内のトむレで着替えを枈たせそのたた地䞋ホヌルを歩き廻る。黒衣がうろ぀き廻るこずに違和感はないようだ。ただカメラを装着しおいる姿が歌舞䌎には䌌぀かわしくないず思っおいたが、前衛歌舞䌎の黒衣がカメラを持ち歩いおいるずでも思っおいるのか、意倖ず䌝統だけに固執しおいる蚳ではないようだ。そういえば歌舞䌎の圹者たちは、歌舞䌎以倖にも珟代劇の舞台やミュヌゞカルなどにも出挔しおいるのだから、黒衣がスタビラむザに装着したカメラを持ち歩いおいたずしおも䜕の䞍思議もないこずだろう。劇堎内はでは僕は歌舞䌎ずいう䞖界の䞭でその存圚を蚱されおいる。しかしそれは歌舞䌎の䞖界に属するず思われおいるからであっお、僕自身は歌舞䌎の䞖界に属しおいる蚳ではない。身分を停っおいる存圚だ。身分が割れた時に、黒衣の衣装に身を包んだ撮圱者ずいう存圚は受け入れおもらえるのだろうか  。次は倖ぞ出おみよう。カメラで映像を撮り始める。歌舞䌎座の建物の前では、僕は歌舞䌎の䞀員ずしお認識されおいるようだ。拒絶されるような芖線は感じない。思っおいた通り、芳光客が興味を持ったようで黒衣の姿をカメラで映しおいる。遊園地やご圓地キャラクタヌの着ぐるみのようなものかもしれない。あたり泚目されおは困るのだ。僕は歌舞䌎の宣䌝甚着ぐるみになる぀もりはない。歌舞䌎座の近蟺では黒衣は違和感なく受け入れられるが、逆に泚目を济びおしたう結果ずなっおしたった。歌舞䌎座からは距離を眮いた方がいいのかもしれない  。

     自分の自宅近蟺で黒衣を詊しおみようず思ったが、いきなり自宅から黒衣の衣装で倖出するこずは控えた。公園近くのトむレで着替えを枈たせ公園のベンチに座るこずから始めた。芋慣れないものを芋る芖線を感じた。黒衣の存圚が意識されおいるのを感じる。公園の䞭には、散歩する人、昌食をずる人、子䟛を遊ばせる人様々だ。じっず黒衣の衣装でベンチに座り続ける。い぀たで異物を芋る芖線を受けるのだろうか。

    「ここで䜕をしおいるのですか」

     譊官から職務質問を受けた。誰かが䞍審者がいるず通報したのだろう。予想はしおいた。自分の身分を告げた。ここでこずを荒げる぀もりはない。無害であるこずを認めさせなければならないのだ。譊官から䞍信感を払しょくするこずはできなかったが、䜕もしおいない男を無理やり排陀するこずはできない。しばらくは様子芋ず決めたのか、子䟛が遊んでいる間は譊官は少し離れたずころで芋回りをしおいた。䞀週間が過ぎた。この姿を芋慣れおきたのだろう。芖線が和らいでいるのを実感する。第䞀段階終了。

     その埌僕は黒衣の衣装での行動範囲を広げおいった。䞀ヶ月埌には、初めお僕を芋る人以倖は、普段の行動範囲では僕に察する反応は垌薄になっおいった。みんな芋慣れおきたのだろう。第二段階完了。

     次はカメラを持ちゎヌグルをかけた状態で歩き回る蚓緎だ。撮圱甚ゎヌグルを装着しおから黒衣の頭巟をかぶる。この状態では、アクションカメラが頭巟に遮られ巊県の芖野が狭くなっおしたう。黒衣の衣装を着たたた、右県のファむンダヌから芋える映像ず、巊県のアクションカメラの芖界だけで、倖を歩き回るこずができなければならない。頭巟をかぶる手前圓然芖野が狭くなる。そのため呚りの状況を意識的に確認しながら行動しなければならない。この状態で被写䜓を远わなければならないのだから、危険回避には尚曎気を配らなければならない。はじめのうちは頭巟に遮られた芖界の倖から急に珟れる人物ずの接觊が起きた。盞手も接觊に察しお普通よりも驚きを感じおいたようだ。どうやら意識倖に眮いおいた存圚ずの接觊になるので唐突感が倧きいのだろう。いきなり芋えないものにぶ぀かっお、改めお芋るず黒衣だったずいう状態なのだ。接觊した瞬間は黒衣の存圚に意識が戻るが、すぐにその存圚を意識倖に戻しお。䜕事もなかったかのようにその堎を立ち去っおいった。これほど黒衣の存圚が䞖間に受け入れられたのかず思うず、自分でも䞍思議な気持ちになっおいる。黒衣ずいう存圚は意倖ず䞖間から受け入れやすいのかもしれない。䌝統芞胜のなせる技なのか。埌になっお気が付いたのだが、僕の意識の持ち方で他人の受ける雰囲気が倉わるのかもしれない。他人の県を気にしおいるこずで盞手も僕を意識しお泚目しおしたうようだ。僕が黒衣ずしおの圹割に培しおいる方が他人は僕の存圚を意識しなくなるらしい。䜕床か他人ず接觊をしたが次第に芖界倖の気配を感じるようになっおきた。撮圱甚ゎヌグルの䞭に䞍意な存圚が珟れる前に、ある皋床気配を感じるようになっおきた。急な出珟でも回避行動に迅速に移れるようになっおきた。蚓緎すればそれなりに䞊達するものだ。ここたでくれば、あずは被写䜓ずの関係を構築すればいいだろう  。

    「その栌奜で撮圱をするの 目立぀んじゃないのかしら」
    「その点は心配いらない。もう実隓枈みだ。䞖間はこの栌奜を無芖しおくれる」
    「そんなものなの。芋慣れおしたえば、意識しなくなっおしたうのね。慣れっお、なんだか怖いわね。初めお芋れば、倉質者だず思うけどね」

     被写䜓が慣れるたで宀内での撮圱を続けた。黒衣の衣装を着る前ずは反応の倉化が顕著になっおいる。どうやら黒衣には特別な効果が秘められおいるようだ。今たで撮圱されるこずに察しお、どうしおもぬぐえなかった自意識のようなものが黒衣の前では薄れおいった。僕の存圚が少しず぀垌薄になっおいる。このたた続けおいけば䟝頌人の望みどおりの映像が手に入るかもしれない。そんな期埅が膚らんでいった。

    「そろそろ、倖出しおみようか」

     僕の声が聞こえなかったかのように被写䜓は僕の蚀葉を無芖しおいる。無芖しおいるずいう態床ではない。僕の存圚を意識しおいない玠振りを芋せおいる。僕に蚀われたからずいうのではなく。初めから自分の意思で行動したかのように、被写䜓は倖出の準備を始めた。たるで僕が存圚しないかのように倖出甚の服装に着替え始めた。

    『着替えおるずころを写真に撮ったりしないでよ。いくら撮圱の緎習だからっお、そこたではお断りよ  』僕は、マナミの普段の仕草を写真に収めるのが奜きだった。照れ臭さを隠すため、撮圱の緎習ず蚀っおいたが、きっずマナミは僕の本心に気が付いおいただろう。『私っお、こんなに倪っおいるの。いやだわ  』雑誌のモデルず比范しおはいけない。圌女たちは写真映りがいいだけだ。『それでも、うらやたしいわ。私、腕も脚も倪いんだから』僕はマナミの適床に筋肉が付いた身䜓が気に入っおいた。脂肪や筋肉を萜ずし過ぎた身䜓は䞍健康だから。『私の取り柄は、健康だけなのね  』拗ねお芋せるが、機嫌を損ねおいるわけではない。僕は写真を撮り続ける。マナミは着替えを続けた。僕のためだけにモデルを挔じおいる。

     被写䜓は着替えを芋られおいる意識など埮塵にも感じさせない。僕はカメラを䜜動させ続けたたた着替えの様子をファむンダヌ越しに眺めおいる。䟝頌人はこんな颚景を望んでいたのだろうか。僕自身も驚きを感じおいた。こんなに自然に着替えをしおいる被写䜓の姿に撮圱意欲がわいおくる。倖出した堎合にこの被写䜓はどんな行動をずるのだろう。今たで感じたこずのない期埅が膚らんでいく  。

     被写䜓は築地方面から銀座に向かっお歩き始める。歌舞䌎座の前を通り過ぎおいく。少しも興味を感じないかのようにたったく芖線を向けない。僕はちらりず歌舞䌎座に芖線を向ける。黒衣の存圚に気が付いた堎所だ。そしお最初に黒衣の実隓を行った堎所。僕は今歌舞䌎の圹目ずは異なる黒衣ずしお、歌舞䌎座の前を通り過ぎようずしおいる。このたた劇堎の䞭ぞ入ったら僕は歌舞䌎の黒衣ずしお受け入れられるのだろうか、それずも僕の䜜り䞊げた黒衣ずしお受け入れられるのだろうか  。歌舞䌎の黒衣ずしおの圹割を果たすこずはできない。今䞖間から蚱されおいる匿名性を、歌舞䌎座の䞭でも保぀こずができるのだろうか。舞台の䞊で歌舞䌎の黒衣を撮圱したずしたら、僕は歌舞䌎の黒衣ずは別の【黒衣】ずいう存圚になるのだろうか。黒衣を撮圱する【黒衣】ずは、いったいなんだろう  。䜙蚈なこずを考えおいるすきに被写䜓はどんどん銀座方面に突き進んでいく。僕の存圚など意識するこずなく、自分ひずりで倖出しおいるように自分の目的に沿っお行動しおいる。僕は自分の圹目を党うしなければならない。自分が䜜り出した【黒衣】ずいう存圚ずしお僕は撮圱をしなければならない。【黒衣】ずいう存圚を確立するこずになるのだろうか。今【黒衣】ずいう存圚が生み出されようずしおいる  。

     黒衣の栌奜をするこずで䞖間から存圚を消すこずが出来たようだ。これで被写䜓の撮圱が自由に行えるこずになる。どうやら黒衣になるこずで、䞖間からは暗黙のうちにその存圚を容認されるこずになるらしい。黒衣は䞻圹の動䜜を補䜐するための圹割を持぀ものずしお、䞻圹ず䞀䜓の存圚ずしお認められるのだ。僕は䞻圹である被写䜓を撮圱し続ける圹割を持った黒衣ずしお存圚を蚱されおいるのだ  。

    次章ぞ続く
    第章 線集䜜業

     
     
    普通の初老のおじさんです。ヘッダヌ画像は2024幎に撮圱したアムステルダム囜立矎術通の資料宀。本が奜きなので本棚に資料が詰たった写真にしたした。カメラを觊るこずが奜きです。長線小説を趣味で曞いおいたす。ペヌロッパ旅行が奜きです。プロフィヌル画像は数幎前に息を匕き取ったマルチヌズ。

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