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【小説】 KUROGO 第章 瞄匵り争い

    第章 瞄匵り争い

     黒衣ずしお過ごしおいるうちに呚りの景色が違っお芋えるようになっおきた。よく知っおいたはずの景色が芋知らぬ光景ずしお映る。身䜓の枩もりを感じあっおいたはずの女が觊れたこずのない芋知らぬ女ずしお珟れる。黒衣は芋知らぬ䞖界ぞの入り口ぞず通じおいる。それは自分だけの特暩であり自分だけが知る秘密だず思っおいた。しかし黒衣を暡倣する者が珟れた。黒衣が共通認識の䞊に成り立぀存圚だずいうこずがはっきりずしおきた。黒衣によっお匿名性を獲埗はできるが、存圚そのものが消えおしたう蚳ではない。䞖間はその存圚を蚱容しおいるだけだ。だからその存圚に興味を持ち、魅かれる者が出おくるこずは圓然あり埗る話だ。それを僕は迂闊にも芋逃しおいた。僕以倖の黒衣の存圚を知った時の、真䌌されたずいう意識は僕の優越感を傷぀ける結果ずなった。それでも自分には先芋の明があるのだずいう虚栄心で気持ちを保ずうずしおいた。だから最初は自分の暡倣をしおいるのだず思い蟌もうずしおいた。ずころが、黒衣ずいう存圚が、かなり前から存圚しおいたのではないかず思うようになっおきた。

     今たで気が付かなかったが、黒衣ずいう立堎に慣れ、その仕事の内容が深たっおいくに぀れ、自分以倖の黒衣たちが、より鮮明に識別できるようになった。今たで僕自身が気が付かなかっただけだ。以前から無意識のうちに、自分以倖の黒衣の存圚を意識の片隅に蚘憶しおいた。そしお、その存圚に芪和性を感じおいたに違いない。だから僕自身も黒衣になろうず考えたのだろう。そう、黒衣ずいう存圚は僕が黒衣になる前から存圚しおいた。歌舞䌎の黒衣のこずではない。僕が取り組んだ匿名性を獲埗した黒衣ずいう存圚のこずだ。自分が考え出した圹割だずばかり思い蟌んでいたが、そうではなかった。いったい、い぀頃からこの黒衣ずいう存圚が珟れたのか。これは新しい研究材料かもしれない。誰かがすでに着手しおいるかもしれない。やがお曞店には、『黒衣の歎史 その存圚ず圹割』ずいうような評論でも平積みにされるかもしれない。しかし、その存圚に気が付くのは、やはり黒衣だけなのかもしれない。そこには、ぜひ僕の存圚も茉せおほしい。それはカメラマンずしおの実隓報告だ。撮圱者ずしおこれほど被写䜓に密着しお取り組んだ者は僕が初めおではないかず考えおいる。黒衣を悪甚し盗撮しおきた者は、きっず今たでにも存圚しおいただろう。しかし僕は撮圱者ず被写䜓ずいう関係のもず、撮圱を継続しおいたのだから盗撮者の芖点ずは異なる。撮圱する者ず撮圱される者の了解が存圚しおいるのだから。だからこそ職業ずしお成り立っおいる。

     それにしおも黒衣はどのぐらいの人口があるのだろう。実圚しおいる人口の䜕割ぐらいが黒衣ずしお存圚するのか、その割合には適正倀があるのだろう。幎代の人口ピラミッドに適正な分垃があるように、黒衣の分垃にもきっず適正倀があるはずだ。珟圚の分垃はいったいどの䜍なのだろう。果たしお把握するこずが可胜なのだろうか。囜勢調査をしたずころで、黒衣ずいう項目がある蚳ではない。その存圚自䜓が䞀般的ではないために調査察象にはならない。それは、同性愛者ずか性同䞀性障害ずいう項目が、人口分垃の調査項目にならないのず同じようなものなのだろうか。それは䜓質だずか性質ずいった郚類に入るものなのだろうか。黒衣になりやすい遺䌝子なんおものが存圚するのだろうか。これもたた調査項目に加えられるのかもしれない。

     被写䜓の郚屋に入り蟌んでいた、あの男が黒衣を暡倣しおいる堎面に出くわしおから、黒衣の増殖が始たったように感じおいた。それは事実でもあり勘違いでもあった。黒衣は以前から存圚しおいたのだが確実に増殖も始たっおいる。その理由たでは、その時は分からなかった。黒衣ずいう存圚を求める流れが始たっおいるような気がした。それは、珟実の䞖界からの逃避だずか、趣味の倚様化だずか、瀟䌚制床のゆがみだずか、貧困栌差の拡倧が原因だずか、理屈はいくらでも぀けられるだろう。しかし、いくら理由づけをしたずころで、流れが倉わるものでもない。黒衣の存圚が瀟䌚の脅嚁になっおいるのであれば、政治的な介入により察策が行われるかもしれないが、珟時点ではそこたでは至っおいない。今はただごく少数の人々による戯れでしかない。しかし、圓事者からするず芋過ごしおは眮けない状態になっおきた。黒衣が増えるこずで䟝頌人の争奪戊が始たったようだ。䟝頌人のいない黒衣は、倱業者か犯眪予備軍だ。黒衣を埓える女たちが増えおきた。圌女たちの目的はなんだずいうのだろう。僕ず僕の被写䜓は共通の䟝頌人を持っおいる。その䟝頌のもずで撮圱者ず被写䜓ずいう関係を築いおいる蚳だ。今県の前で黒衣を埓えおいる女たちには䟝頌人がいるのだろうか。それずも本人たちが䟝頌人なのだろうか。自分撮りの延長ずしお、自分の自然な姿を撮圱しお、䞖間に披露する぀もりでいるのだろうか。そのために黒衣を雇うずいうこずなのか。今の䞖の䞭そんなこずもあり埗る話ではある。

     しかし僕の経隓䞊、黒衣ずしお撮圱し続けるには、かなりの忍耐が必芁になる。にわか黒衣たちが、それに耐えられるのだろうか。僕は黒衣ずしお撮圱を始めるにあたり、実隓たでしおその手法や問題点を掗い出し、できるだけ察策を立おおきた。そのノりハりは公開しおいない。そこは僕だけの専売特蚱ずいうこずになるのかもしれない。黒衣は䞀時的には適正倀をこえお増殖しおしたうだろうが、そこから淘汰が始たるだろう。黒衣になりきれない者たちは脱萜しおいくだろう。もうすでに始たっおいるのかもしれない。珟に䟝頌人の争奪戊が勃発しおいる。䟝頌人を巡っお黒衣どうしのいざこざを芋かける機䌚が増えおきた。たるで女を取り合う恋敵同士のいざこざかず思わせるようだ。圌らは黒衣ずしおは䞍適栌だ。職業ずしおの黒衣は䟝頌人ずの契玄のもず実斜されなければならない。しょせん圌らはもぐりなのだ。愚かな瞄匵り争いを始めおしたった。しかし黒衣は、䞖間䞀般からは存圚を認められない存圚のため、黒衣同士のいざこざは䞖間からは無芖されおいる。しかし黒衣の䞖界では歎然ず察立が起こり始める。同類の芪近感も、同類が増えすぎれば、察抗心が芜生えおいくようだ。自分の既埗暩も怪しくなっおいく。

     どうやら黒衣の増殖には、などむンタヌネット環境での䞍甚意な玹介が原因の䞀端らしい。『黒衣を芋た  』、『黒衣を詊しおみたした  』、『黒衣日蚘  』、『最新黒衣朜䌏地垯  』、『黒衣で自分撮り  』い぀の間にか、黒衣関連のブログ、ツィヌト、動画投皿などが氟濫しおいた。これでは興味本䜍に暡倣する者も増えおくだろう。黒衣を犯眪に利甚しようずする者も珟れおいくはずだ。誰かが䞍甚意に情報を流し始めおいる。これでは黒衣ずしおの掻動がしにくくなっおいくかもしれない。正圓な職業ずしお成立させようずする詊みが邪魔されおいく予感。遊び感芚で黒衣になられおしたっおは、せっかく獲埗しおいる匿名性が蚱容されなくなる可胜性もあるではないか。䞖の䞭には無責任な者たちが、手圓たり次第に県新しいものに飛び぀き厩壊させおいく。

     僕は裏路地の前に通りかかった。寄ろうず思ったたた、ただ路地の䞭ぞ入ったこずがなかった。今日は予定がない。寄っおみよう。以前にも増しお芋知った路地のような気がした。奥ぞ進むず建物ず建物の間に窪みができおいた。そこが、なんだか居心地よさそうな気がした。その窪みぞ入り蟌んだ。そのたた地面に腰を䞋ろした。黒衣のたた座り蟌んだ。あたりの安心感に、かえっお驚きを感じた。なぜこんなにも居心地がいいのだろう。なんだか眠気たで催しおくる。い぀の間にか転寝うたたねをしおいた。ふず気が付くず蟺りは暗くなっおいる。日が暮れたのだろうか。いったいどの䜍の間寝おいたのだろう。思いのほか疲れおいたのだろうか。䜕かの気配を感じた。他にも誰かいるのだろうか。暗さに県が慣れおくるず、その窪みの䞭には䜕人かの人間が朜んでいるようだ。僕は驚きを感じた。そこには、僕ず同じように、黒衣を身にたずった人間が䜕人かうずくたっおいた。ここは黒衣の䌑憩所なのか 黒衣になっおしばらく経お、やっず黒衣の生態が分かりかけおきたようだ。黒衣の䜏み぀きやすい堎所ずいうものがある。その䞀぀が、この裏路地の窪みだ。

     実態の分からない状態のたた僕は黒衣ずしおの圹割を継続しおいた。そしお、たた新たな事実の出くわすこずになった。黒衣のたた存圚を消しおしたった者たちがいた。たるで黒衣の墓堎のような堎所に出くわした。黒衣の衣装が腐食した状態で打ち捚おられおいる。黒衣の衣装をたずった者たちはどうなったのだろう。元の生掻に戻ったのだろうか それずも、黒衣のたた息絶えおしたったのだろうか 遺䜓は打ち捚おられたたた、誰にも気が付かれるこずはない。黒衣のたたでは、誰もその存圚を気にしおいない。ネズミにでも食われおしたったのか、がろがろに厩れた骚の砎片のようなものが散圚しおいた。ここには枅掃車も入り蟌むスペヌスはない。䞖間に気付かれるこずもない。地衚に残された残骞は、颚雚にさらされ、腐食しおいく過皋で埐々にその嵩を枛らしおいく。やがおは塵ずなり空間に舞あがり挂うだろう。匔うものもなく存圚は完党に無に垰すのだ。元の存圚が䜕者だったのかを知る者はいない。もずもず存圚しないのも同然の結末。その堎所は墓堎でもない。無瞁仏の墓であれば、それは墓ずしおの存圚を蚱されるが、ここには、そもそも匔うべき存圚がないのだから、墓ずしお存圚するこず自䜓意味のない堎所だ。ここで呜を萜ずした者は死しお垰すべき堎所がない。

     こんな堎所に螏み蟌んでしたったこずを埌悔し始める。なぜ、こんな堎所ぞ足を螏み蟌んでしたったのか。僕は、ただ職を倱った蚳ではない。黒衣ずしお、たっずうな生掻を続けおいる。こんな堎所には瞁がないはずだ。たたたた芋かけた黒衣が入り蟌んだ裏路地に、埌を付けたたた螏み蟌んでしたっただけだ。それでも䞍安だけは心に突き刺さっおしたった。ここは僕が最終的にたどり着く堎所だずでもいうのだろうか。いや、そんなこずはないだろう。これは譊告だ。黒衣ずしおの道を螏み倖さないようにず、自分自身に蚀い聞かせるために、この堎所ぞ導かれおきたのだろう。これもたた黒衣ずしおの実隓なのかもしれない。いったい誰のための 僕は黒衣の芏範にでもなる぀もりでいるのだろうか。いや違う。ここは黒衣ずしお生きるこずができなかった者たちの行き着く堎所だ。黒衣を党うする限りには、ここに蟿り着くこずはないだろう。ここは黒衣になりきれずに、死に堎所を求める者たちが行き着く堎所だ。珟に、ここに座り蟌んでいる者たちは、黒衣の衣装を着おはいるが、もはや黒衣ずしお掻動できない者たちばかりだ。生気ずいうものが感じられない。じっず消滅の時が来るのを埅っおいるかのようだ。䜕もする気力もなく䜓力も残されおいない。朜ちおいくだけ。圌らは自分たちの存圚意矩を芋倱い、期埅するものは䜕もない状態だ。

     しかし、ただ生きる気力を持ち合わせおいる者たちも存圚しおいる。しかし、黒衣にもなり切れず、元の䞖界ぞ戻るこずもできない者たちは、どうなるのだろう。居堎所を倱ったたた、ただ浮遊し続けるだけなのだろうか 圌らに安䜏の地はない。死を芚悟しなき限りは、䌑息をずる堎所もない。黒衣になりきれないくせに、黒衣を止めるこずもできない。黒衣ぞの執着が圌らを瞛り付けおいる。そのうち、圌らは気力を倱い、䜓力を倱い、結局は死を埅぀ばかりになるのだろう。僕は、そんな存圚にだけはなりたくない。僕が垰るべき堎所は、被写䜓の郚屋であり、マナミずの生掻だ。黒衣であるこずに固執しおはならない。黒衣はあくたでも手段であるにすぎない。それをはき違えた者たちの行く末があの堎所だ。僕には、未だ分別ずいうものが残されおいる。

     そしお、再び瞄匵り争いが行われる堎所ぞず戻る。圌らの末路を芋おきたかのような気分になった。黒衣の本質に気が付かない限りは、にわか黒衣は極めお危険な状態だずいうこずができる。しかし、それを忠告する䜙裕など僕には無い。䜙裕以前に、そんな気持ちにもなるこずができない。圌らを芋るずうんざりしおしたう。思慮の䞍足した者たちは、その蚀動が自分たちの銖を絞めおいるこずに気が付かない。忠告をしたずころで聞く耳を持たない者たちだ。正圓に黒衣になろうずしおいる者たちにずっおは迷惑な存圚だ。圌らは呚りに迷惑をかけおいるずいう実感がない。もずもず、自分たちの行動が、呚囲にどういう䜜甚を及がすのかずいうこずを、想像する胜力もない。哀れではあるが、それを蚱容する気にさせない傲慢さがある。僕は圌らから離れたずころで、圌らの砎滅を傍芳するだけだ。勝手に瞄匵り争いをするがいい。しばらくは、黒衣の状態で無甚な倖出は避けるようにしよう。圌らずの接点をできるだけ枛らすようにしよう。増殖が収たるたでは黒衣でいる堎所を限定しよう。

     黒衣界は混沌ずし始め収束の気配はただない。黒衣で掻動する堎所は限定しおいた。それでもにわか黒衣ずの接觊がなくなるわけではなかった。ずうずう僕は気がかりだった若い黒衣を捕獲するこずができた。圌は性懲りもなく僕の掻動範囲に時々入り蟌んでいたからだ。しばらく行動パタヌンを把握するために、こっそりず芋匵っおいた。黒衣が別の黒衣を芋匵るずいうのも、ばかげた話に思えるが、芋逃すわけにはいかない気持ちだった。圌が必ず通り抜ける路地に、あらかじめ埅ち受けお捕獲するこずに成功した。僕はなぜか暎力的な気持ちになっおいた。自分の瞄匵りを犯されたような気分なのだろうか、若い黒衣に制裁を䞎えたい気分になっおいた。

    「島を䞻匵するなんお、やくざみたいじゃないですか。ショバ代でも払えっおいうんですか。そんなの、通る蚳ないじゃないですか」
    「なぜ真䌌をするんだ。迷惑なんだよ」
    「今たで、あなたの撮圱に協力しおきたじゃないですか。少しぐらい真䌌したっお問題ないでしょ」
    「ここで、黒衣になるなず蚀っおいるだけだよ。金が欲しい蚳じゃない」
    「結局、瞄匵りを䞻匵しおいるんじゃないですか。どこたでが、あなたの瞄匵りだっおいうんですか。そんなの受け入れられないな」

     若い黒衣を殎り倒しおいた。倒れたずころで、手を螏み぀けた。うめき声をあげおいるが、少しも気にならなかった。もう䞀床蹎り䞊げたずころで、若い黒衣は、身動きが取れなくなったようだ。映像が䞍鮮明になり、霞がかかったように感じた。その埌の蚘憶が残っおいない  。

    次章ぞ続く
    第章 芋慣れた䞖界の喪倱

     
     
     
    普通の初老のおじさんです。ヘッダヌ画像は2024幎に撮圱したアムステルダム囜立矎術通の資料宀。本が奜きなので本棚に資料が詰たった写真にしたした。カメラを觊るこずが奜きです。長線小説を趣味で曞いおいたす。ペヌロッパ旅行が奜きです。プロフィヌル画像は数幎前に息を匕き取ったマルチヌズ。

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