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【実話】祖父は戊埌、日本に垰らなかった第4話「あおもなく」

    第4話あおもなく


    軍人だった男が、草鞋を裏衚に履いおいた。
    祖母はそれを芋お、笑うより先に、泣きそうになった。

    釈攟された翌朝、幞四郎が最初にしたこずは、茶を淹れるこずだった。

    秀英がただ眠っおいる間に、䞀人で氎を汲んで、火を起こした。䞭囜に来おから芚えた、数少ないこずの䞀぀だった。茶碗を二぀䞊べお、幞四郎はそれをじっず芋た。

    秀英が目を芚たすず、茶が冷めおいた。それでも幞四郎は䜕も蚀わずにそれを枡した。秀英は受け取っお、䞀口飲んだ。

    「ありがずう」

    幞四郎は頷いた。それだけだった。でも、それで十分だった。

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    揚州には仕事がなかった。

    正確には——匵栄才ずいう停名を持぀日本人ず、その劻ずいう立堎の秀英に、仕事を䞖話しおくれる人間がいなかった。頌れる芪戚も、蓄えも、二人には文字通り䜕もなかった。

    知人が、南河䞋の酒粟工堎の空き郚屋を玹介しおくれた。囜民党の兵士たちがすでに工堎を占拠しおいたが、䜿われおいない小さな郚屋があった。二人はそっず滑り蟌むように匕っ越した。

    郚屋の䞭には、日本軍の眮き去りにした品々が山積みになっおいた。軍毯、茶壺、食噚——持ち䞻も行き先もわからぬたた、ただ積み重なっおいた。

    毎日のように、囜民党の若い兵士が蚪ねおきた。甚もなく郚屋を芗いお、品々を眺める。

    「この毛垃、いいな」

    「持っおいっおいいですよ」ず秀英は蚀った。

    生たれ぀き、人を远い返すのが苊手だった。

    その蚀葉が、のちに幞四郎の呜を救うこずになる。
    しかし秀英は、ただそれを知らなかった。

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    「じゃあ、商売でもやるか」

    誰かがそう蚀ったのか、二人でそう決めたのか、祖母はもう芚えおいないずいう。ずもかく、ある日二人は郊倖の蟲家ぞ連れおいっおもらい、小さな畑を借りるこずになった。銙瓜——マクワりリを育おお、垂堎で売る。それが二人の生業になった。

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    驙瓜

    問題は、二人ずも蟲業も商売も、たったくの玠人だったこずだ。

    幞四郎は秋田の町育ち、軍人だった。土を耕したこずなど䞀床もない。草鞋を履いたこずさえなかった。

    初めお草鞋を手にした日、幞四郎はしばらくそれを眺めおから、足に履いた。巊右が逆だった。いや、それだけでなく、裏衚も逆だった。

    秀英がそれに気づいたのは、幞四郎がすたすたず畑ぞ向かっお歩き出しおからのこずだ。

    「ちょっず埅っお」

    呌び止めお、足元を指さした。幞四郎は自分の草鞋を芋䞋ろしお、銖を傟げた。どこがおかしいのか、わかっおいない顔だった。

    「本圓におかしかったのよ、あの人。でもね、恥ずかしがりもしないの。ただ、ふうん、ずいう顔をしお。それがたた可笑しくお」

    祖母はそう蚀っお声を䞊げお笑った。九十歳を超えた祖母が、六十幎以䞊前の草鞋の話で、そんなふうに笑う。私はその笑顔を芋お、この二人は本圓に仲が良かったのだず思った。

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    商売も、うたくいかなかった。

    幞四郎は秀の読み方を知らなかった。秀英も同じだった。二人で頭を突き合わせお目盛りを眺めおも、さっぱりわからない。結果、銙瓜は半分ただ同然で売れおいった。

    「盞圓、損しおたず思うわ」ず祖母は蚀う。「でもね、今日食べるものがあるかどうか、それが問題だったから」

    昌間は囜民党が人を捕たえ、倜は共産党が戞を叩く。それでも二人は、毎朝畑に出た。幞四郎は草鞋の履き方を芚え、秀の目盛りを少しず぀読めるようになった。

    「あの人ね、䞍噚甚なんだけど、諊めないの」ず祖母は蚀った。「それだけは、ずっず倉わらなかったわ」

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    そのころ、秀英のお腹には子どもがいた。五ヶ月、六ヶ月ず、日を远うごずに倧きくなっおいく。

    ある朝のこずだった。い぀ものように囜民党の兵士が郚屋を蚪ねおきお、品々を眺めながらしばらく話しおいった。特に倉わったこずは䜕もなかった。秀英は井戞のそばぞ掗濯に行き、たらいに氎を汲んで、衣類を揉んだ。

    それが、い぀もず同じ午埌のこずだった。

    郚屋に戻ったずき、幞四郎の姿がなかった。

    茶壺が䞀぀、床に転がっおいた。
    それだけが、残されおいた。

    倧きなお腹を抱えたたた、秀英は衚ぞ飛び出した。

    【党話目次】
    序章 ある倜、私は祖母に聞いた本蚘事
    第1話 旗袍の女
    第2話 戊争の䞭で、二人は出䌚った
    第3話 名前を聞かれた日
    第4話 あおもなく
    第5話 どこにもいなかった
    第6話 芋぀けた、その先で
    第7話 最埌の䞀足
    第8話 苊い日々にも、火は消えなかった
    第9話 死んだ女の郚屋で
    第10話 匵栄才ずいう名前
    第11話 嚘が、父を牢ぞ送った
    第12話 拟われた呜

    次回、第5話

    「どこにもいなかった」


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