
母、旅に出る。 第1話
〜迫り来る老いから、
軽やかに逃げてみた〜
4月、初めて黒部アルペンルートの旅に出た。
きっかけは、彼からのひとことだった。
「行ってみない?」
軽い。
誘いが、びっくりするくらい軽い。
でもその軽さが、ちょうどよかった。
一度は行ってみたいと思っていた場所。
まさかこのタイミングで来るとは思っていなくて、少し驚いたけれどーー
元気なうちに、行きたい場所へ行く。
やりたいことはやる。
そう思った瞬間、私は決めた。
行く。
50代になってからというもの、
なぜか若い頃より“挑戦する力”が
増している気がする。
……いや、たぶんあれだ。
「老い」が、背後からじわじわ追いかけてきてる。
「今やっとかないと、そのうちやらなくなるよ?」
みたいな顔で。
定年してからゆっくり行こう、
なんて思っていたらーーー
きっとその頃には、
「膝がね」
「荷物がね」
「そもそも疲れるのよ」
って、言っちゃってる自分を想像した。
さらに言えば、
親の介護があるかもしれないし、
自分が病院と仲良くなっている可能性だってある。
……いや、急に現実。
こうして人は、
“行かない理由”だけは一丁前に揃えていくのだ。
そして気づけば、
脳内はすっかり“慎重派の老人会”。
絶対イヤだーーー!
心の中から聞こえる叫びに反発した結果
勢いで行く!
やる!
楽しむ!
これを選んだ人の、勝ちである。
たとえ、失敗だらけでも
むしろ結果はーーー
面白い!。
つづく