
母、旅に出る。 第18話
〜裸の付き合いと時間厳守〜
3日目の朝がやってくる。
そして明日も——
出発が早い。
ロビー集合、7:10。
早い。
朝食は6:30から。
……え?
それってつまり、
オープンと同時に食べ始めないと
間に合わないってこと?
旅行なのに、朝から戦いである。
しかも添乗員さんはハッキリ言った。
「時間厳守でお願いします。
遅れた場合は申し訳ありませんが、
置いていきます」
強い。
言い方がもう、完全に修学旅行の先生。
でも理由を聞けば納得だった。
なぜなら——
黒部トロッコ列車の予約時間があるから。
1人遅れると、全員遅れる。
団体行動とは、責任の集合体なのである。
とはいえ。
もう少し柔らかく言えないものだろうか。
「皆さまのご協力を〜」とか。
「安全で楽しい旅のために〜」とか。
でも、たぶんダメなのだ。
この添乗員さんは、旅行初日に
「明日の予定は未定です」
を、あの地震直後に言い切った人である。
メンタルがプロ。
つまり、
“置いていきます”も
本当に実行するタイプ。
私は静かに覚悟した。
——明日は絶対、遅れられない。
そう自分に言い聞かせながら、
私は買い込んだお土産たちを
スーツケースへ詰め始めた。
これがまた大変だった。
もう完全にテトリスである。
あっちを押し込み、
こっちを立て、
隙間に靴下を詰め込む。
旅行終盤のスーツケース整理には、
人間の本性が出る。
そしてついに——
エコバッグ、空っぽ。
代わりにスーツケースがパンパンになった。
場所を移しただけである。
でも、不思議と安心する。
「ちゃんと収納できた」という達成感。
旅先での小さな勝利だ。
ホッとした私は、やっと大浴場へ向かった。
もちろん今日も、
ツアー参加者との“裸の付き合い”が
待っている。
しかも2回目。
そろそろ顔も覚え始める頃である。
もしここで、
「あっ!昨日もご一緒でしたね〜!」
なんて話しかけられたらどうしよう。
嫌だ。
その会話、裸では嫌だ。
せめて服を着てからにしてほしい。
こうして私は心の中で静かに祈りながら、
大浴場へ出陣した。
そして——
無事、生還。
誰にも話しかけられることなく、部屋へ帰還成功。
しかし、なんだろう。
お風呂に入ったのに、余計に汗をかいた気がする。
精神的発汗である。
そんなこんなで就寝。
そして翌朝。
ちゃんと早起きし、
予定通り朝食も済ませ、
無事に集合場所へ到着。
よし。
今日は旅行最終日。
なかなかいいスタートが切れそうだ。
つづく