
母、旅に出る。 第22話最終回
〜最後のミッション〜
黒部峡谷トロッコ列車を満喫したあと、
私たちは立山アルペン村で昼食をとった。
そして最後のお土産タイム。
「もう充分買った」と思っていたのに、
売り場を見ると吸い込まれる。
旅先の購買意欲は底なしだ。
私は帰りのバス用にワッフルアイスまで購入した。
どんな時も、小さな楽しみは
必要なのである。
そして、いよいよ帰路へ。
少し寂しい。
でもまだ終わってほしくない。
サンダーバードで金沢駅へ向かい、
有名なモニュメント前で素早く記念撮影。
そのまま新幹線用の駅弁を買い込む。
最後まで食への情熱だけはブレない。
新幹線に乗り込み、席に座った瞬間、
ようやくホッとした。
「ああ、終わるんだなぁ」
そう思いながら食べる駅弁は、やっぱり美味しい。旅先のご飯は最後まで本気を出してくる。
すると添乗員さんが静かに告げた。
「この新幹線、遅れが出ています」
……出た。
最後まで平和に終わらない。この旅らしい。
車内の空気が一気に変わる。
「え、乗り換え大丈夫?」
「別ルートある?」
「間に合う?」
さっきまで思い出話で盛り上がっていた人たちが、一斉にスマホを握りしめる。
完全に脱出映画のラストシーンである。
しかも参加者たちは、
新大阪に全国各地から集まった猛者たち。
それぞれ帰る場所が違う。
つまり最後に残されたミッションは——
“各自で帰還せよ”。
急にサバイバル感が増した。
でも、こういうハプニング込みで
旅は記憶になるのだと思う。
全部予定通りだったら、
きっとここまで印象に残らない。
私たちも途中で別の新幹線へ乗り換え、
なんとか無事帰還。
こうして黒部アルペンルートの旅は
終わった。
絶景を見て、
ソフトクリームを食べ、
カメムシに怯え、
エコバッグは最後までパンパンだった。
振り返れば、全部ちゃんと旅だった。
またいつか、荷物を増やしながら、
どこかへ向かうのだと思う。
人生は、まだ途中だから……。
おしまい