
母、旅に出る。 第4話
〜乗らなくてよかった
乗り物に乗る日〜
次に向かうのは、ガラスの美術館。
ここで私は思った。
ーー路面電車、乗ってみたい。
観光地あるあるの“ちょっとした非日常欲”が顔を出す。
しかも手元には、ホテルからいただいた
割引チケットまである。
これはもう、「使いなさい」という天の声だ!
……が。
ここからすべてがスムーズにいかない。
「駅どっち?」
「あっちじゃない?」
「いや、こっちでしょ」
「え、さっきの何?」
開始3分、迷子。
方向感覚に若干の難を抱えた50代カップル、
GoogleとともにGoogleグルグル右往左往。
それでもなんとか乗車成功。
ーーここで第2ステージ突入。
「これ、ちゃんと目的地の西町行けるかな?」
と彼と会話しながら不安とともに座る2人。
さぁて、次は支払い問題だ!
「一万円札とか無理だよな?」
「小銭ある?」
「1円と5円入れたら足りそう」
「それ…使える?」
「でもお金じゃん」
「確かに……だけども……。」
「ICカード持ってくればよかった💦」
ーーほんとそれ。
旅あるあるランキング上位、
“持ってくればよかった”。
……最近はアプリに連結していれば
スマホで決済もできてしまうというが、
そういうの難しく感じてしまうお年頃。
そして、さらに追い問題
「100円玉、両替できるのかな?」
……いや、待って。
そもそも。
両替って、いつやるの?
降りる駅すらあやふやな状態で、
“両替タイミング”という
新ミッションをぶっ込むのは、
難易度設定が強気すぎる。
もはやこれは観光ではない。
軽めの試練である。
そんな中、ふと窓の外を見ると——
見覚えのある建物。
……ホテル。
今夜泊まるホテル。
「え、ちょっと待って」
「どうした?」
「あれ、ホテルじゃない?」
「うそでしょ」
ガチでホテル。
つまり——
めっちゃホテルから近かったやん。
そう。
私たちは今、
“本来歩けた距離”を、
わざわざ電車に乗って、
華麗に通過している。
しかも、一度富山駅まで行き、リターンしてきたのだ。
はい、出ました。
本日のハイライト。
“乗らなくてよかった乗り物に乗る”。
路面電車内でちょっと笑いそうになった。
いや、だいぶ笑っている。
でも不思議と、嫌じゃない。
こういう無駄、実に旅っぽい。
むしろ、ちょっと正解。
旅の思い出になってるから。
そんなわけで。
遠回りという名の思い出をしっかり積み上げつつ、
体感達成率70%。
まあ…そのくらいでいいや精神でーー
無事、美術館に到着。
結果オーライ。
たぶんこれが、「旅の正解」ということにしておこう。
つづく