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母、旅に出る。 第5話

    〜芸術とビールは
       たぶん両立する〜


    美術館では、ガレの作品がたくさん展示されていた。

    説明書きにこうある。

    ——もし芸術家にならなければ、植物学者になっていただろう。

    スケールがでかい。


    どっちに転んでも“何者かになる人”である。
    人生の保険のかけ方が違う。

    そんなことを思いながら作品を見る。

    ガラスの花器。
    そこに、さりげなく付いているカタツムリ。

    「センスあるなぁ」

    思わずつぶやく。

    自然モチーフがとにかく多い。
    植物、花、葉っぱ、そしてカタツムリ。

    もうほぼ“ガラス界の自然”。

    さっきまで方向すら見失っていた私たちが、
    急に芸術を語り出しているのだから不思議である。

    人は場所によってそれっぽくなる。

    一通り見終えて、美術館を出る。

    外の空気を吸った瞬間、ちょっと現実に戻る。

    「……お腹すいたね」


    芸術の余韻、即終了。


    夕食まで少し時間があったので、
    今度こそ歩いて帰ることにした。

    ツアーで夕食がついているのはありがたい。
    ありがたいのだが…。

    もしこれがなかったら。

    いい感じのお店にふらっと入って、
    「地元のおすすめとかあります?」なんて言いながら、
    夜の富山を満喫していたかもしれない。

    そんな“もう一つの未来”を想像しながら歩く。

    ふと目に入る、気になる純喫茶。

    ああ、いい雰囲気。
    絶対コーヒー美味しいやつ。

    ……でも。

    そんな時間がない。

    コーヒー一杯の余裕もない。

    旅って、自由そうで意外と時間に縛られている。

    未練を残しつつ、足早に通過。

    こうして“小さな後悔”を一つ回収して、
    ホテルへ戻る。

    ホテルに着くと、すでに多くの人が席についていた。

    その光景を見た瞬間、急にお腹が空く。

    さっきまで芸術だったのに、今は完全に胃袋である。

    そして、ペロリ。

    見事なまでの完食。

    食事中、彼と話す。

    「せっかくだし、夜の富山行く?」
    「いいね、一杯飲みに行こうか」

    さっきの“行けなかった未来”を、
    ここで回収する流れ。

    完璧である。


    一度部屋に戻り、ベッドに腰掛けた、その瞬間。

    身体が言う。


    「風呂だろ」

    圧倒的、風呂優先。

    さっきまでの“夜の街で一杯”はどこへ。

    人間、正直すぎる。

    ということで、大浴場へ。

    風呂道具を持ち、男湯と女湯に分かれる。

    「それじゃあ、あとでねー」

    軽く別れる。

    髪を洗いながらふと考える。

    さっきまでほぼ会話もしていないツアーの人たちと、
    今、同じ空間で裸で過ごしているという事実。

    早い。


    距離の詰まり方が早い。

    これが“裸の付き合い”か。

    ちょっと面白くなって、ひとりニヤける。

    明日はこの人たちと立山連峰に行く。


    関係性の進み方が、イベント型すぎる。

    ちなみに、
    昼間ならお風呂から立山連峰が見えたらしい。

    夜はもちろん見えない。

    代わりに見えるのはーー

    参加者の“完全オフの顔”。

    これはこれで貴重である。

    つづく



    #創作大賞2026
    #コミックエッセイ部門

     
     

    SANBA

     
     
    人生はSANBAの如く、笑って揺れてたのしくあーれ♪ 明るさ自前、ソウルナンバー33を携えた50代。 日々の気づきや体験をエッセイや小説風に綴っています。 サクッと読めて、くすっと笑えて、少し余韻も。 いただいた質問は少しお時間をいただくことがあります。

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