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Photo bykamei_kana1223

母、旅に出る。 第21話


    〜浮かれた材料たち〜


    宇奈月駅から猫又駅までは、片道およそ50分。

    昔はもっと長い距離を走っていたそうだが、
    現在は猫又駅で20分ほど滞在し、
    写真撮影やトイレ休憩をして折り返すコースらしい。

    新緑の季節。

    天気も最高。

    そして私たちもーー

    カメムシ問題以外は、最高だった。

    このトロッコ列車には窓付き車両もあり、
    数百円追加すればそちらへ乗ることもできた。

    でも私は思う。

    やっぱり“窓なし”を選んで正解だった。

    カメムシ以外は。


    ダウンコートを着ていたので、
    少し冷たい風もむしろ気持ちいい。

    横から吹き込む風が、
    黒部峡谷の空気を全身へ運んでくる。


    ……しかし。

    私の視界の端には、ずっといる。

    カメムシ。

    完全に心の安全を握られている。

    自然を満喫しながら、
    同時に虫の動向を監視する50代。

    なかなか忙しい。

    そんな車内に流れていたのは、
    黒部峡谷を案内する室井滋さんの声だった。

    どうやらこちらのご出身らしい。

    室井滋さん。

    その名前を聞いて、私はふと思い出した。

    昔好きだったTV番組。

    「やっぱり猫が好き」


    そして今回の目的地は——

    猫又駅。

    猫である。


    しかも“又”まで付いている。

    猫好きには、かなり強めの駅名だ。

    なんだろう。

    偶然なんだけど、妙に猫が集まってくる旅である。

    途中、「ねずみ返し」と呼ばれる
    巨大な岩壁が見えてきた。

    名前の通り、

    ネズミが登ろうとしても反り返りすぎて
    落ちてしまう岩壁らしい。

    さらに。

    そのネズミを追いかけた猫まで、
    勢い余ってひっくり返る。

    だからーー

    猫もまたひっくり返る。


    “猫又”。


    昔の人、ネーミングが急に雑で好きである。

    トロッコ列車が停車した。

    単線なので、下り列車とすれ違うためだ。


    段々と近づいてくる下り列車。

    乗客たちがこちらへ手を振っている。

    私たちも振り返す。

    知らない人同士なのに、ちょっと嬉しい。


    旅っていい。


    こういう“たった数秒の交流”だけで、
    心が少し豊かになる。



    そして再び出発。

    ガタンゴトンと進むトロッコ列車。

    ふと思う。

    かつてこの列車は、
    黒部ダム建設のための資材を運んでいたらしい。


    まさか数十年後、

    観光客を乗せて、

    「わぁ〜綺麗〜!」

    とか言われながら走る日が来るなんて
    思ってもいなかっただろう。

    ……いや。

    待てよ。

    今の私たちも、ある意味では

    当時の資材と同じなのではないか。


    ギュウギュウに詰め込まれ、

    運ばれ、

    写真を撮り、

    ソフトクリームを食べ、

    お土産を増やしながら進んでいく。

    そう。

    私たちはーー

    浮かれた材料たちなのである。


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    トロッコ内の浮かれた材料たち



    つづく


    #創作大賞2026
    #コミックエッセイ部門

     
     

    SANBA

     
     
    人生はSANBAの如く、笑って揺れてたのしくあーれ♪ 明るさ自前、ソウルナンバー33を携えた50代。 日々の気づきや体験をエッセイや小説風に綴っています。 サクッと読めて、くすっと笑えて、少し余韻も。 いただいた質問は少しお時間をいただくことがあります。

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