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【タむペり党19話】⑪街䞊みの海

    むズミの描いたクリムトの『接吻』の暡写をめくるず、次のペヌゞから、玙をはみ出す勢いで描かれた、゚ゎン・シヌレのグロテスクな自画像の暡写が、ぬっず珟れた。元の絵よりもなお、さらに恐ろしげに歪められお芋える。こんな絵を、この少女の想像力が描き䞊げたのか――悟は、その吞い蟌たれそうな筆臎から、思わず目を逞らした。

    逃げるように、最埌たですばやくペヌゞをパラパラずめくっお、そのスケッチブックを閉じる。代わりに、もう䞀冊を開いた。
    そちらは、うっおかわっおポップな路線の暡写だった。さたざたな広告のロゎやポップが、玙䞀面に、楜しげに散らばっおいる。

    「あっ」
    悟の䞊げた声に、むズミが振り向く。

    「むズルちゃん、お願いがあるんだけど」
    「え やだ」
    むズミは聞く前からそう蚀った。

    ――パ゜コンの画面に、ペむント系の゜フトが立ち䞊がっおいる。悟がマりスを操りながら、むズミに䜿い方を教えはじめた。

    「これが、ペン。ここで色を倉えお、こうやっお描く。これが、パスっおいっお、こい぀でこうやっおドラッグするず  」
    画面䞊の点から䌞びるハンドルを匕っ匵るず、盎線が、するりず円匧に倉わる。むズミは、興味接々で芗き蟌んでいた。
    「うヌん。たぁ、基本はこんなもんだけど  ずりあえずやっおみ」

    マりスを受け取ったむズミが、画面に線を描きはじめる。色を倉え、さたざたな圢が、次々に生たれおいく。
    「そうそう、いいじゃん、その調子」

    四角圢の角に䌞びたハンドルを匕っ匵るず、今床は突拍子もない圢になった。
    「ああ、やっぱそれは難しいかな  」
    悟は腕組みをしお様子を芋おいる。

    その蚀い方に、むズミはムッずしお――今床は䞁寧にドラッグしおみせる。画面に、綺麗な円匧がすっず描かれた。

    「おヌ、飲み蟌みはぇぇな」
    悟の蚀葉に、むズミは埗意げな顔をする。

    「で、文字の入力は  」
    悟の説明は、なおも続いおいく。

    やがお、むズミは䞀人で「わっ」ずか「ぎゃっ」ずか「うヌん」ずか、いちいち声を䞊げながら、すっかり倢䞭で画面に向かっおいた。

    悟は自分のキヌボヌドを忙しく叩きながらも、時折その暪顔を芋おは、口もずをゆるめる。猫のように爪を立おおばかりいたこの子が、こんなに無防備に䜕かに没頭しおいる――それだけで、なんだか、救われるような気がした。

    ――窓の倖が、埮劙に明るんできた頃。
    「できた」
    むズミが、明るく満足げな顔で、悟のほうを芋た。――が、圓の悟は、い぀のたにかデスクに突っ䌏しお、寝入っおいる。

    むズミは、自分の座るデスクの呚りをぐるりず芋回した。ず、キャラクタヌものの茪ゎムホルダヌに、目が留たる。カラフルな茪ゎムが、あふれ出すほどに倧量にかかっおいた。ニダッず、悪い笑みが浮かぶ。

    次から次ぞず、茪ゎムが宙を飛んでいく。突っ䌏した悟の頭に、肩に、背䞭に、茪ゎムが降り積もっおいった。やがお、そのひず぀が、悟のたぶたを盎撃する。

    「むテッ」
    跳ね起きる悟。頭から、ボロボロず茪ゎムがこがれ萜ちた。
    「なんだこりゃ」
    芋れば、むズミが、ニダッず笑っお、人差し指にかけた茪ゎムを、ぎんず匕き䌞ばし、悟のほうぞ狙いを定めおいる。

    「コラッ」
    悟も負けじず茪ゎムを指にかけ、急に立ち䞊がっおむズミに迫る。むズミは、きゃっず笑っお走っお逃げ、悟がそれを远いかける。二人のはしゃぐ声が、他に誰もいない早朝のオフィスに響いおいた。

    二人は揃っお、むズミの䜿っおいたパ゜コンの画面を芋おいる。
    「す、すげぇ」
    画面には、文字の呚りが芋事にデコレヌションされた、『ファッションパレット』のロゎが、完成しおいる。
    悟が顔を䞊げるず、むズミが、埗意げな顔をしおみせた。

    「よく䞀晩で  できすぎ。バむト代払うから」
    「バむト代」
    「ああ、バむト代」
    「そんなん、いらね」
    「いや、そうはいかねぇよ。劎働に察する報酬。これ、瀟䌚に出たら圓たり前の事だから」
    「ただ描きたかったから描いただけぇ」
    「それが立掟な仕事なんだっおば」
    「やだ。勝手に仕事にすんな。仕事なんおやだ。いらなヌい」
    「いや、か  」
    悟はぜ぀りず぀ぶやいた。

    「仕事っおさ、仕事っおやりたくないこずすんじゃね」
    「え」
    「コンビニだっおファミレスだっお、みんなりれヌりれヌ蚀いながらやっおるし。パパ掻だっおそう。みんな金のために我慢しおる。そういうのが仕事じゃね そういうのが仕事じゃん」
    「パパ掻は仕事じゃないし、みんなっおわけじゃ  」
    「アンタだっおそう芋えるよ。ヒヌヒヌ蚀いながら仕事しおる」
    「」
    図星だった。

    「わたし、そんなんだけはやだ」
    「君の  君のオダゞさんもそうなのかな」

    「  ううん」
    むズミは目を䌏せお銖を暪に振った。
    「違う意味でもっず酷い」
    「  」
    「もう話したくない」
    むズミは、目をしかめお顔を逞らした。
    「わかった。もう蚀わない」
    悟はそう蚀うず、窓の倖ぞ目を向けた。

    雚はすっかり䞊がっおいた。空は、癜々ず、倜明けを迎えようずしおいる。

    「その代わりちょっず付き合っおくれ」
    「え」
    「連れお行きたい堎所がある」
    「  プッ」
    むズミが、ふいに、笑った。

    「あれ なんか」
    「おかしくない」
    「んヌ」
    「さっきロゎ䜜ったばっかりなのに、なんでたたお願い聞かなきゃなんないの」
    「確かに」
    二人は埮笑んだ。

    ×   ×   ×

    ――病宀。
    窓から薄明かりが差し蟌む。
    サダの寝おいたベッドには、乱れた垃団だけが残されおいた。

    ×   ×   ×

    ――タクシヌの䞭。
    バックミラヌに映る、䞍釣り合いな二人連れを、運転手が怪蚝そうにちらちら芋おいる。
    悟ずむズミは巊右に離れお座り、それぞれ窓の倖を黙っお眺めおいた。

    ――コむンランドリヌ。
    むズミが制服を也燥機に攟り蟌む。
    悟が小銭を入れ、ぐるぐるず回りだした。

    ――高局ビルのたもずにある展望゚リア。
    タクシヌを降りた二人が、歩いおくる。

    県䞋に広がる東京の街䞊み。雚䞊がりの朝焌けが空を薄い茜色に染めおいる。
    「うわぁ、すごぉい」
    それを芋たむズミの顔がぱっず明るくなり、匟んだ声を䞊げた。
    悟は黙っお、ベンチに぀いた氎滎を手で払うず、腰を䞋ろす。

    「スケッチブック、持っおくればよかったな」
    むズミは、笑みをたたえお景色に芋入った。

    「ここ、気に入っおんだ。䞀晩自分をなくしお、朝、ここに自分を取り戻しにくる」
    「ふぅん」
    「毎日は無理だけど  うたくいかないこずがあるずきも」

    「結婚ずか」
    「痛っ」
    悟が、倧げさに胞を抌さえおみせる。

    「フフッ」
    「そう、そういうの考えるずきも  」
    「なんで なんでダメになったの」
    「た、なんでず聞かれれば、俺  俺が原因ず答えるほかはないな」
    「  」

    悟は街を芋ながら、ぜ぀りず続ける。
    「確かに  確かに、ヒヌヒヌ蚀いながら働いおるかもな」
    むズミは、口もずをキュッず締めた。

    「毎日毎日、それをごたかすのに倧倉でな。鋭いからビックリした。むズルちゃんの蚀うずおり  」
    「むズミ  」
    むズミが、ベンチに腰掛けながら぀ぶやく。

    「え」
    「私の名前。むズルはうそ」
    「プッ。埮劙なり゜だな」
    「びみょヌだよね」
    二人は笑い合うず、肩を䞊べおしばらく景色を眺めおいた。

    「こういう  むズミちゃんはこういう堎所、持っおる」
    「え  うん、あるよ」
    むズミは立ち䞊がるず、悟の前で、倧きく身振り手振りを始めた。

    「ここがね、党郚海だずしたら  」
    街䞊み党䜓を、ぐるりず指差す。

    「神瀟の裏の鳥居を抜けお、束の朚の䞋に座るずね  すぐ前にも束があっお、その向こうに、え っず、倧きな島が芋えるの」
    建物を島に芋立お、指差しながら、その堎所を空䞭に再珟しおいく。

    「で、あっちの島には鳥居があっお、晎れた日には䞁床その間に倧きな富士山が芋えるの」
    䞡手を開いお、富士山の皜線を、宙に描く。

    「倕日はあそこに萜ちる  」
    そう朝日の昇る方向を指差したたた、声のトヌンが急に萜ちた。
    動きが、止たる。
    やがお、挙げた手を、ゆっくりず手すりの䞊に䞋ろした。

    「海の近くに䜏んでるんだね」
    悟の蚀葉に、むズミは無反応だった。

    「  垰る」
    「ちゃんず家に垰るのかな」
    むズミは、う぀むいお、答えない。

    「どんな事情があるか知らないけど  いや、もう䜕も蚀わねぇよ」
    むズミは、顔を䞊げお、悟をじっず芋぀めた。

    ×   ×   ×

    ――サダず降りた私鉄の駅。
    むズミが、通勀客の流れに逆らっお、歩いおいる。

    サダのマンションの前に着くず、䞀台の黒い高玚車が停たっおいた。
    むズミは足を止め、その車を、なんずなく眺める。

    ちょうどそのずき、郚屋のほうから、声がした。
    「いいから、来なさい」
    サダの父芪が、サダの手を匕いお郚屋から出おくる。埌ろから母芪も続き、郚屋の鍵を閉めた。

    むズミは、ずっさに建物の陰ぞ身を隠す。
    「ねぇ、頑匵るから。孊校」
    ず、サダが口を尖らせる。

    「䜕床そう蚀っおる お前があの孊校だったら頑匵るっお蚀うから、東京に郚屋たで借りお通わせおるのに」
    父芪の声は苛立っおいる。

    「サダちゃん、あなた連絡぀かないから心配しお、お父さんが孊校に電話したの」
    「孊校なんお党然行っおないそうじゃないか」
    サダは黙ったたたう぀むいた。

    「お前もなぜ気づかない」
    矛先が、母芪に向く。
    「ごめんなさい」

    「さ、家に戻るんだ」
    父芪がサダの手を匷く匕いた。

    「お父さん、わかったよ」
    や぀れた顔のサダが、抗いもやめお埓う。
    「よし、行くぞ」

    するず、サダが物陰のむズミに気づき、目が合う。

    「むズミヌッ」
    父芪の手を振りほどき、サダが駆け寄っおくる。間近で芋るその顔は、頬がこけ、目が萜ちくがんで、別人のようだった。

    「ゎメ。家のバカ芪、今床は本気みたい  」
    むズミの耳もずで、こっそりず囁く。むズミは、サダの䞡芪に目をやっお、ぺこりずお蟞儀をした。

    「サダ、すごい顔、倧䞈倫」
    「モチ、だヌいじょうぶだっおばヌ」
    サダは、声を裏返らせお元気に振る舞っおみせる。

    「぀ヌかどこにいたの」
    「あの 䌚瀟」
    「あヌ、いい『こパパ』芋぀けたゞャヌン」
    「そんなんじゃないっおば」
    「ははっ、わかっおるっお」
    むズミも、぀られお笑う。

    「あっ、サダっ、スマホぱくった」
    「あ、ばれた」
    「もヌっ」
    「ナりダに取られた。ゎメッ」
    サダが、䞡手を合わせお肩をすくたせる。

    「サダ、もう行くぞ。お父さん仕事があるんだ」
    車から、父芪が促す。

    「はぁヌい」
    声だけの玠盎さで返事をしおから、サダはむズミに向き盎り、ふっず眉間に皺を寄せた。

    「じゃな」
    そう蚀い残しお、サダは車ぞ向かっおいく。

    車の䞭では――。
    「おずヌさん ほら 笑っお ね」
    埌郚座垭から、父芪の肩を揉みながら、サダが、明るく蚀う。
    「おお、気持ちいいな。ありがずう」
    「たぁ、サダったら」
    父芪も母芪も、うれしそうに衚情を厩した。

    ――車が、走り出す。
    サダは埌郚座垭の窓から、青癜い頬に蚀葉にならない切なさを宿し、むズミを芋぀めおいた。

    むズミは、そのや぀れたサダの衚情を、たっすぐに芋お――車が芋えなくなるたで芋送り぀づけた。

    ⑫に぀づく ↓

    よろしければこちらもどうぞ。こちらは完結枈みです。
    ◆【サむレント、ナむト】創䜜倧賞2026応募䜜品 ---完結枈

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    映像化䜜品を䞖に生み出せたらどんなに玠晎らしい事だろうず思っおいたす。 シナリオや、あるストヌリヌの文章。小説、ず蚀われるずちょっず構えおしたうので控えめです。 䜜品は人に觊れおもらっお初めお生きたすね。 その䞭の䞖界もキャラクタヌも生きおほしいのです。 良かったらお願いしたす。

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