
【中学受験】「2月7日(学校には行きたくない日)」 石田家の10日間 episode:14

朝
「翔ちゃん、起きて。今日は学校に行く日よ。」
翔平がなかなか起きてこないので、奥さんが声をかけます。
「学校になんか、行きたくないよ。」
「試験どうだった?って、みんなに聞かれるのがイヤだよ。」
いつもは学校大好きの翔平が渋っています。
「昨日の夜もそう言ってたけど。ほら、ちゃんと起きなさい!」
(翔平の気持ちはわかるけど・・・)
(オレだって、会社でどうでした?と聞かれるの、目に見えてるからな。)
朝食を食べながら、石田さんも同じ気持ちです。
「翔ちゃん、男らしく、堂々と学校に行きなさい!」
「学校まで、ついて行ってあげるわよ。」
奥さんが最後に無理やり起こしました。
受験の日と同じように、二人で家を出ていきます。
学校が近づくと、翔平が言いました。
「もういいよ。ひとりで行くから。」
「大丈夫? 翔ちゃん、負けちゃだめよ。がんばってね。」
奥さんもそう言って、翔平を見送りました。
翔平は、入り口付近で突然駆け出しました。
奥さんには、翔平の後ろ姿しか見えません。
翔平が遠くへ走っていきます。
入学の時に買った紺のランドセルが、小さく揺れながら、消えていきました。
そして、奥さんも家に猛スピードで帰ってきました。
この一週間、受験のために家の中も散らかったままでした。
「ヨシッ!やるか。」
自分に気合を入れて、家中の掃除を始めました。
掃除が終わると、次は洗濯。
家事に没頭していると、時間もまた、ドンドン過ぎていきます。
夕方
翔平が普段通りに、学校から帰ってきました。
ニコニコしているのが、意外でした。
「あれぇ。翔ちゃん、どうしたの?受験のこと、聞かれたでしょ。」
「うん、聞かれたよ。」
「なんて言ったの?」
「受験したとこ、ぜーんぶ落ちちゃったって言ったよ。」
「それで?」
「みんなが、いくつ受験したの?って聞くから、4つだというと、
みんなすごいって驚いてた。クラスの最高記録だって。」
「エッ? どうしてすごいことになるの?」
「みんな、二つか三つしか受けてないから。
雄大くんも三つとも落ちていたよ。」
「・・・」
「落ちた数では、ボクが一番だって。昼休みに拍手されたよ。」
「その時、先生は教室にいたの?」
「うん。教室にいて笑ってた。そしてその後、
みんなでサッカーして思い切り遊んだ。」
「気持ちは大丈夫なの?」
「最初は言うのが怖かったけど・・・
もうメソメソしても仕方ないことだって、先生にも言われた。」
「そうね。そしたらママももうクヨクヨしないわ。
翔ちゃんが一番頑張ったことは、誰よりもママが知っているからね。」
翔平も奥さんも、少しずつ普段に戻ってきたようでした。
「ボク、今日学校に行ってよかったよ。」
(翔ちゃんがそう言うんだから、もう受験のことは忘れよう。)
奥さんは目の前がぼやけてきましたが、台所に向かって顔を伏せました。
石田さんが帰ってきて夕食が始まります。
「あなた、会社で何か聞かれた?」
「いや、何も。みんな関心がないみたいだった・・・」
(受験は終わったんだ。もう拘ることはやめよう。)
石田さんも奥さんと同じ思いでした。
「翔ちゃん、明日の学校の準備は大丈夫?」
「まあね。」
受験前の会話が戻ってきたようです。
石田さんには、玄関のサッカーボールがスマイルしたように見えました。
(episode15:「2月8日(こんな日が来るなんて!)」に続きます)
◆記事一覧◆
episode:1「合格したよ、と言いたかった夜」
episode:2「あの塾でよかったのか」
episode:3「塾を間違ったのか?」
episode:4「明日が来るのが、少し怖い夜」
episode:5「できたといった初日、残る違和感」
episode:6「できてるというけど、どこか違う」
episode:7「ぬぐえぬ不安」
episode:8「いよいよ合格発表」
episode:9「帰り道で…」
episode:10「2月3日(今日こそは)」
episode:11「2月4日(休息日のはずが)」
episode:12「2月5日(終わったと思った日)」
episode:13「2月6日(最後に、自分で決めた一日)」
episode:14「2月7日(学校には行きたくない日)」
episode:15「2月8日(こんな日が来るなんて!)」
episode:16「入学式ーーー次の春へ」