
【中学受験】「塾を間違ったのか?」 石田家の10日間 episode:3
2月6日(月)夜(タタカイの後でーーーその3)

その日の寝室で②
「あのとき、塾を間違えたのかもしれないね」
石田さんが、ぽつりとつぶやきます。
奥さんも同じ思いです。
「塾をどこにするか、でずいぶん悩んだわね。
大手塾にするか、小さい塾のほうがよいのか、
個別指導や家庭教師も考えたけど―――
SAFIXで失敗してたから、今度こそ失敗できないって、
脅迫観念みたいなものもあったし。」
「大手塾はひととおり当たったけど、これはというところがなかったね。」
「この駅前にある小さい塾も、ほとんど教室へ行って、調べたわ。」
「大手は、どこも一長一短に思えたね。
ただ、SAFIXとちがって
テキストが一応しっかりしているので、
安心感はあったけどね。」
「結局、翔ちゃんには大手塾は雰囲気があわなかったのよ。
だから、親身になってくれる近くの小さな塾にしたんだったわね。」
「アルファ塾か―――。
良かったのかね、結果が出なかったけど。」
「アルファの先生は、塾長先生はじめ、
皆さんとっても親切だったわ。」
「だけど、生徒数が少なく、
翔平のライバルもあんまりいなくて、
正直なところ、ちょっと物足りなかったな。」
「あら、あなた。
アルファの若い女の先生、そう、高村先生っていう方、
お気に入りだったじゃない?」
「いや、まあ、それはそうだけど・・・」
あらぬ方向の話になって、石田さん、また分が悪そう。
奥さん、強し。
「ま、いいけど。―――
ねえ、今更だけど、翔ちゃんには、どの塾が一番良かったのかしらね。」
「どの塾って言ったって、
比べようがないじゃないか。
それぞれ特徴があるんだから。」
「だけど、あと三年したら、
今度は美咲の受験が来るのよ。
翔ちゃんには悪いけど、翔ちゃんにあった塾へ通わせてたら、
それなりの中学に合格できてたんじゃないかと思うのね。
美咲のときも、今回と同じように、
また手探りで塾を選ぶしか出来ないんじゃあ、
美咲も結果が期待できないわ。」
「美咲は、今、ピアノとバレーに夢中だろ。
中学受験なんて、もうちょっと先の話だよ。」
「あなた、三年なんて、すぐ来るわよ。
五年生から塾へ通わすとしたら、
あと一年しかないのよ、塾を決めるまでに――
最近は、四年生から通うのが普通みたいよ。
それに、中学受験は、女の子の方が大変だって、
お友達のお母さん方みんな言ってるわ。時間ないわよ。」
「・・・」
「ねえ、この際だから、塾の力について、調べてみない?」
「塾の力?」
「そう、中学受験の学習塾が、子供をどれだけ合格させているか、よ。」
「そんなの、受験が終わってしばらくしたら、
新聞や入塾案内に、〇〇中学何人、△△学園何人―――
とか、出てるじゃないか。」
「そうね、でもあれじゃ、参考にならないと思わない?」
「参考にならない?」
「ええ、たとえば、開成中学100人合格とあっても、
みんながみんな開成中学を受けるわけじゃないのよ。
開成は、あくまで、一部の、それこそ超トップの子供だけよ。」
「そうだけど・・・」
「それより、普通のレベルの子供の合格実績のほうが、
ウチみたいな家には大事な情報よ。
開成中学に何人入ったかということよりは、
偏差値50前後の学校には、どの塾が強いのか、
というほうが私は知りたいわ。」
「そりゃ、ウチにはそのほうが必要な情報だな。だけど、どうやって?」
「そこをあなたに調べて欲しいのよ。
ねえ、今、仕事もひと段落してヒマだって、
この前言ってたじゃない。」
石田さんは、そんなにヒマじゃないけど・・・
と言いたかったのですが、言えませんでした。
しかし、奥さんと話しているうちに、
石田さんの頭の中で、
「塾の力」という言葉が動き出してきました。
「塾の力か。ちょっと調べてみるかな。」
そう言いながら、石田さんは、
中学受験本番のこの一週間を振り返りはじめました。
(episode:4「受験前夜」に続きます。)
◆記事一覧◆
episode:1「合格したよ、と言いたかった夜」
episode:2「あの塾でよかったのか」
episode:3「塾を間違ったのか?」
episode:4「明日が来るのが、少し怖い夜」
episode:5「できたといった初日、残る違和感」
episode:6「できてるというけど、どこか違う」
episode:7「ぬぐえぬ不安」
episode:8「いよいよ合格発表」
episode:9「帰り道で…」
episode:10「2月3日(今日こそは)」
episode:11「2月4日(休息日のはずが)」
episode:12「2月5日(終わったと思った日)」
episode:13「2月6日(最後に、自分で決めた一日)」