
【中学受験】「2月6日(最後に、自分で決めた一日)」 石田家の10日間 episode:13

前日 夜
インターネットで不合格を確認した後、
石田家の夕食が始まりました。
「・・・」
誰も話をせずに、黙って食べていました。
「ねぇ、明日どこか受けれるかなぁ?」
翔平が、突然口を開きます。
「えっつ!」
石田さんと奥さんが同時に声を出しました。
「翔ちゃん、今 なんて言ったの?」
奥さんが問いかけます。
「明日、どこか受けてもいいよ。」
翔平が静かに答えます。
「そんなこと言ったって、今さら申し込めるところなんてないよなぁ。」
石田さんが遮るように呟きます。
「そうだよね・・・」
「もう一回、やれたら何とかなるかもしれない・・」
翔平が力なく答えました。
その時、奥さんが話しました。
「実はね、昨日 K学院の申込に行ったときに、今日の分のついでに、
明日の分も申し込んでおいたの。」
「えっつ? 本当か?」
石田さんも驚いて尋ねます。
「えぇ、できたら無駄になってほしいと思いながら、念のためと思って。」
奥さんが少し誇らしげに説明します。
「翔平、どうする。本当に受けたいのか?」
「うん。最後にもう一回やってみようかなと思った。」
(今日で終わりのつもりだったが・・・)
(翔平ももう限界だと思うけれど・・・)
(翔平がそう言っているのなら、最後の最後でやらせてみるか。)
石田さんはしばらく目を閉じて考えていました。
「よっし、やってみようか!」
「翔平、これが最後の最後だよ。」
「ありがとう。パパ、ママ。」
白かった翔平の顔に、少し赤みがさしてきました。
気のせいか、食卓にも少しだけ灯りがともったようでした。
当日
翔平と奥さんは、前日と同じようにK学院の試験に臨みました。
石田さんは、この日の受験は奥さんに任せて、
普段通り会社に出かけていきました。
石田さんは、仕事中は受験のことがほとんど気になりませんでした。
前日までと違って、自分でも不思議な気持ちでした。
(慣れたのかな?)
苦笑いしながら、独り言をつぶやいていました。
その日、石田さんが帰宅したのは普段通りの六時半です。
大急ぎで風呂に入り、七時の合格発表に備えます。
昨日のように、パソコンの操作であわてることもありません。
パソコンの前で粛々とその時を待っています。
七時ちょうどになりました。
K学院のサイトに入るのに少し待ちましたが、アクセスすると
すぐに合格発表ページにたどり着きました。
石田さんがパソコンの前で大きく深呼吸します。
祈るように、手をたたきます。
石田さんの視線が合格者一覧を追いかけます。
合格者一覧は、思ったより短くなっていました。
石田さんは、パソコンにぐっと近づきました。
翔平の番号は・・・
1回目は、素早く。
2回目は、じっくりと。
3回目は、もっともっとじっくりと。
何回も何回も見つめましたが、みつかりませんでした。
石田さんは、しばらく画面の前で動くことができませんでした。
そして、静かにパソコンの電源を切りました。
後ろから見ていた翔平も奥さんも、黙って立ち去りました。
その後の夕食の時、翔平はうつむいたままで顔を上げません。
「翔ちゃん、元気出して。よく頑張ったじゃない。」
奥さんが明るく声をかけますが、翔平はシクシク泣き始めました。
翔平の好きなオムライスなのに、手をつけません。
「合格したかったよ・・・」
誰も何も言えず、時間だけが過ぎていきました。
(受験させて良かったのだろうか・・・)
いつの間にか、石田さんだけが残っていました。
食卓には、ビールと、答えのない問いだけが残っていました。。
(episode14:「2月7日(学校には行きたくない日)」に続きます)
◆記事一覧◆
episode:1「合格したよ、と言いたかった夜」
episode:2「あの塾でよかったのか」
episode:3「塾を間違ったのか?」
episode:4「明日が来るのが、少し怖い夜」
episode:5「できたといった初日、残る違和感」
episode:6「できてるというけど、どこか違う」
episode:7「ぬぐえぬ不安」
episode:8「いよいよ合格発表」
episode:9「帰り道で…」
episode:10「2月3日(今日こそは)」
episode:11「2月4日(休息日のはずが)」
episode:12「2月5日(終わったと思った日)」
episode:13「2月6日(最後に、自分で決めた一日)」
episode:14「2月7日(学校には行きたくない日)」
episode:15「2月8日(こんな日が来るなんて!)
episode:16「入学式ーーー次の春へ」