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創䜜倧賞2026【AI小説】『最埌ノ爪㉑』第21話゚ピロヌグ

    画像

     それから、しばらくしお。

     怜奈は、実家の玄関で靎を履いおいた。
     朝いちばんに声を出すず、ただ少しだけ掠れる。医者にも母にも、しばらく無理をしないようにず蚀われおいた。

     台所から、湯気の匂いがした。

    「持っおいきなさい」
     母が、小さな氎筒を差し出した。

    「いらない」

    「いいから」

     荷物になる。怜奈は、そう蚀い返そうずしおやめた。

    「子どもじゃないんだけど」

    「子どもじゃない人は、閉じ蟌められたりしたせん」

    「それは関係ないず思う」

    「ありたす」

     母はきっぱり蚀った。

     怜奈はマフラヌを巻き盎した。玄関の鏡に、少し疲れた自分の顔が映っおいる。頬の色は戻っおいた。けれど、どこかがただ、あの暗い堎所に残っおいるような顔だった。

    「今日は、䜕をしに行くの」
     母が聞いた。

    「少し、話を聞かれるだけ」

    「昚日のニュヌスのや぀」

     怜奈は靎ひもを結ぶ手を少し止めた。

    「たぶん、その続き」

    「じゃあ、なおさら無理しない」 
     母はそう蚀っお、怜奈の襟元を盎した。

     怜奈は、されるたたにしおいた。

    「行っおきたす」

    「行っおらっしゃい」

     怜奈はそれを聞いおから、家を出た。

         

     䌚議宀の扉の暪には、癜い玙が䞀枚貌られおいた。

    『第回 情報基盀斜蚭等安党管理実態調査 関係機関連絡䌚』

     怜奈は、その長い文字を䞀床だけ読んでから、郚屋に入った。

     庁舎の䞀宀に、譊察の人間だけではない顔が䞊んでいた。蚭備管理の担圓者、劎務関係の担圓者、行政偎の職員、委蚗䌚瀟の代衚。名刺は配られたが、怜奈には半分も芚えられなかった。

     怜奈の垭には、倖郚協力者、ず曞かれた玙が眮かれおいた。
     薄い肩曞きだず思った。けれど、そこに名前があるだけ、ただよいのだずも思った。

     篠宮は、端末の前に座っおいた。矢代は壁際に立っおいる。桐野係長は、郚屋の端で資料をめくっおいた。誰よりも目立たない堎所にいるのに、郚屋の空気は桐野の方を向いおいる。

     画面には、いく぀かの斜蚭名ず、照䌚状況が映っおいた。

     確認枈み。照䌚䞭。未確認。その䞉぀の蚀葉が、衚の䞭に䞊んでいる。

     怜奈は、未確認の欄を芋た。
     以前なら、そこを埋めたくなったかもしれないが、いたは違った。

     篠宮が、䞀぀の行にカヌ゜ルを眮いた。

    「この件に぀いおは、死亡確認は出おいたせん。未確認です」

     䌚議宀のどこかで、玙が小さく鳎った。

    「倖兞では、そう読める圢になっおいたしたが、珟時点でも、根拠は確認されおおりたせん。退職凊理ず連絡䞍胜蚘録ず、蚭備偎の異垞履歎が混ざっおいたす」

    「未確認のたた残す、ずいうこずですか」
     行政偎の䞀人が聞いた。

    「はい、未確認ですから」
     篠宮は短く答えた。

     矢代が、壁際で少しだけ目を䌏せた。
     桐野は䜕も蚀わなかった。ただ、資料の端に小さく印を付けた。

         

     䌚議が終わるず、怜奈は庁舎の倖に出た。

     空は薄く晎れおいた。颚は冷たい。だが、以前のように喉を刺す感じはなかった。

     正面玄関の暪に、矢代が立っおいた。猶コヌヒヌを䞀本、手に持っおいる。

    「お疲れさたでした」

    「矢代さんも」

    「今日は、あたり出番がありたせんでした」

    「それがいいんじゃないですか」

    「そうですね」

     矢代は少し笑った。

     矢代は、人の嘘を芋る刑事だった。人の沈黙を芋る刑事だった。怜奈は、蚀葉の継ぎ目を芋るだけだず思っおいた。けれど、あの珟堎のあずで、矢代は蚘録の沈黙も芋るようになっおいた。

     芋えるものが増えるこずは、楜になるこずではない。
     怜奈はそれを知っおいた。

    「黒沢さんは」
     怜奈は聞いた。

    「募留䞭です」
     矢代は答えた。

    「ただ、すぐに䞀぀の眪名で終わる話ではありたせん」

     矢代は猶を握り盎した。

    「桐野係長が、嫌な顔で曞類を増やしおいたす」

    「想像できたす」

    「でしょう」

     二人は少しだけ笑った。
     笑えるこずに、怜奈は少し遅れお気づいた。

     そのずき、背埌から声がした。

    「二人で䜕を和んでるんですか」

     篠宮だった。
     手には玙袋を持っおいる。

    「捜査犬たちは」
     矢代が聞いた。

    「元気ですよ」

    「䌑たせないんですか」

    「犬じゃありたせんから」
     篠宮は平然ず蚀った。

     怜奈は、少しだけ笑った。

         

     䞉人は、庁舎近くの喫茶店に入った。

     昌を少し過ぎおいお、店内は空いおいた。窓際の垭に座るず、泚文甚の小さな端末が眮かれおいる。

     画面には、今日のおすすめず、泚文履歎ず、䌚蚈ボタンが䞊んでいた。

     怜奈は、指で画面に觊れる前に、少しだけ止たった。

    「どうしたした」
     篠宮が聞いた。

     篠宮は端末を匕き寄せた。
    「これは倧䞈倫です。ケヌキは人を消したせん」

    「今のずころは」
     矢代が蚀った。

    「倉なこずを蚀わないでください」
     篠宮がすぐに返した。

     怜奈は、久しぶりに声を出しお笑った。

    「仕事の話、したす」

    「しない遞択肢は」

    「ありたすけど、どうせしたす」

     篠宮はファむルを開いた。

     そこには、さきほどの䌚議で芋たものより少し薄い資料が入っおいた。人の名前はほずんどない。斜蚭名も䌏せられおいる。残っおいるのは、照䌚すべき堎所ず、ただ觊れおはいけない欄だった。

    「個別の照䌚は、埌任チヌムに移りたした」
     篠宮は蚀った。

    「終わったんですか」

    「いいえ。やっず、人を増やせる圢になっただけです」

     怜奈は、資料の䜙癜を芋た。

    「ルヌトさんは」 怜奈が聞いた。

     篠宮の手が止たった。

    「保留です」

    「それず、もう䞀぀」

     篠宮は、ファむルの端に挟んであった薄いコピヌを抜いた。

     叀い䜜業蚘録だった。玙の端は黒く朰れ、ずころどころ読み取れない。だが、確認者の欄だけは残っおいた。

     黒沢玲䞀。

     その䞋に、別の筆跡で、小さく名前がある。

     根元。

    「東北の空冷型センタヌです」 篠宮は蚀った。

    「勝手口の写真が残っおいた件ですね」

     怜奈は、根元健䞀の母芪の家を思い出した。

    「黒沢さん、あそこにいたんですか」

    「少なくずも、蚘録䞊は」

     篠宮はコピヌを少しだけ持ち䞊げた。

    「根元が誰なのかは、ただ芋えおいたせん。健䞀さん本人かもしれないし、別の人かもしれない」

    「ルヌトさんず関係があるんですか」

    「分かりたせん」

     篠宮はコピヌをファむルに戻した。

    「だから、ここも同じ棚に眮きたす」

     怜奈は頷いた。

         

     垰り道、怜奈は駅たで䞀人で歩いた。

     篠宮は科捜研ぞ戻り、矢代は桐野に呌ばれお庁舎ぞ戻った。二人ずも、ただ終わっおいない堎所ぞ垰っおいく。

     駅前では、叀いビルが壊されおいた。

     癜い囲いの向こうで、重機の腕がゆっくり動いおいる。貌られた看板には、次に建぀建物の完成予想図があった。ガラスの壁。緑の怍え蟌み。小さな人圱。きれいに描かれた未来。

     どこかで、次のデヌタセンタヌが䜜られおいる。
     それをすべお止めるこずはできないけれど、芋に行くこずはできる。

     怜奈は、改札ぞ向かった。
     ホヌムに立぀ず、颚が線路の向こうから吹いおきた。

     遠くに、建蚭䞭のビルの骚組みが芋える。クレヌンがゆっくり動いおいる。街は、䜕も知らない顔で、次の朝を準備しおいた。

     怜奈は、喫茶店で芋たコピヌのこずを思い出した。

     黒沢玲䞀。
     その䞋に、小さく残っおいた、根元ずいう文字。

     それが名前なのか、ただの蚘入者なのか、ただ分からない。けれど、あの玙だけが、ただ閉じられおいないように思えた。

     怜奈は、氎筒を取り出した。癜湯はただ少し枩かかった。
     ひず口飲むず、喉の奥に残っおいた硬さが、少しだけほどけた。

     牧野修叞は、物語を残したのではなかった。
     ここにいる、ず蚀うための、最埌の爪だった。

     ホヌムに入っおきた電車の颚が怜奈の髪を揺らした。

     圌は未来から来たのではなかった。

     ただ、誰よりも早く、未来に殺されただけだった。


    第1話垃状廃棄物
    第2話也いた預蚀者
    第3話正芏入通蚘録
    第4話最埌の爪
    第5話実家
    第6話勝手口
    第7話飛び火
    第8話槜の底
    第9話バディ
    第10話衆目ヌ衚
    第11話衆目ヌ裏
    第12話遺族リスト
    第13話倖兞ヌ衚
    第14話倖兞ヌ裏
    第15話捜査犬
    第16話攟棄区画
    第17話十䞉番目の者
    第18話远尋
    第19話任意城収
    第20話名前返還


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