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創䜜倧賞2026【AI小説】『最埌ノ爪⑚』第話バディ

    画像

     怜奈が家に着いたのは倜だった。

    「ただいた」

    「おかえり」

     怜奈が靎を脱いで家の䞭を芋るず、台所から顔だけ芗かせた母ず目が合った。

    「䜕」

    「䜕でもない」
     母は、それだけ蚀っおほほ笑むず、顔を匕っ蟌めた。

     東京から戻っおきた日の怜奈は、廊䞋の途䞭で声を萜ずしおしたうようなずころがあった。けれども今倜は、玄関たで声が残っおいた。

         

     居間の䜎いテヌブルには、母が倕方に畳んだ掗濯物が残っおいた。怜奈はその端に座り、出された湯呑みを䞡手で包んだ。

    「遅かったのね」

    「うん」

    「東京」

    「ううん、海のほう」

     湯呑みの湯気が、怜奈の顔の前で现く揺れおいる。
     母は、怜奈の手の甲に目をやるず、䞊着の袖で擊れたのか、手銖の傷に血が滲んでいる。

    「倧䞈倫」
     母はテレビの䞋の薬箱に手を䌞ばした。

    「刑事さんず䞀緒だったの」
     母はそう聞くず、叀い塗り薬をテヌブルに眮いた。

    「どうしお」

    「顔に曞いおある」

     怜奈は少しだけ眉を寄せた。

     母は、その顔を芋お、少しだけ目元を緩めた。
    「悪い人じゃなさそうね」

    「䞀床しか䌚っおないでしょ」

    「䞀床でわかるこずもあるわよ」

    「はいはい」

     母は湯呑みに茶を足した。

    「でも、あなたをちゃんず芋おくれおるんでしょう」

     怜奈は湯呑みの䞭を芋た。

    「芋すぎ」

    「あら」
     母は笑った。怜奈も、ほんの少しだけ口元を緩めた。

     湯呑みの䞭で、茶葉の小さなかけらが沈んでいた。

    「母さん」

    「䜕」

    「芋おくれる人がいるのは、少し怖いね」

     母は少しだけ手を止めた。そしお、い぀ものように茶碗を拭き始めた。

    「でも、芋られないよりはいいわ」

     怜奈は、湯呑みを芋たたた小さく頷いた。

         

     翌朝、怜奈はい぀もより早く目を芚たした。
     窓の倖はただ薄暗かった。川沿いの道を新聞配達のバむクが通り過ぎ、遠くで犬が䞀床だけ吠えた。

     台所ぞ行くず、母はもう起きお、味噌汁の支床をしおいた。

    「今日は出かけるの」
     母が背䞭を向けたたた聞いた。

    「ただ、わからない」

    「そう」

     返事をしながら、母は怀を二぀䞊べた。

     そのずき、怜奈のスマヌトフォンが震えた。

    「冷める前に食べちゃいなさい」

     母は䜕も聞かずに、二぀目の怀に味噌汁をよそい、怜奈の前ぞ眮いた。

         

    〈匿名アカりントの投皿を掗い盎しおいたす〉

     矢代からだった。続けお、もう䞀通。

    〈匕甚に、芏則性がありたす〉

     矢代は、譊芖庁の資料宀にいた。
     窓のない小さな郚屋だった。叀い事件蚘録ず、䜿われなくなった玙の地図ず、点怜埅ちのプリンタヌが壁際に積たれおいる。蛍光灯の癜さだけが、朝か倜かを曖昧にしおいた。

     矢代は、机の䞊に䞊べた匿名アカりントの投皿を芋比べおいた。

    『預蚀者。垃。門。盗人。井戞。底。』

     矢代は、赀いペンで投皿の暪に小さく印を぀けおいた。
     実圚の匕甚。改倉された匕甚。匕甚に芋えるだけの蚀葉。

     最初は、ただの煜りだず思っおいた。次に、内郚告発だず思った。
     いたは、そのどちらずも蚀い切れなかった。

     このアカりントの口調は、読む者に䜕かを急かしおいる。
     扉を芋ろ。門を芋ろ。底を芋ろ。そしお、遅かったず告げる。

     そこぞ、怜奈から返信が来た。
    〈向かいたす〉

     その次に、少し間があった。
    〈味噌汁を飲んでから〉

     矢代は画面を芋お、ほんの少しだけ衚情を緩めた。

         

     怜奈が資料宀に着いたのは、午前十時を少し回ったころだった。

     案内された郚屋の前で、矢代が埅っおいた。

    「すみたせん。朝から」

     鞄を肩からおろしながら怜奈は、少し笑顔を芋せた。

    「お味噌汁は」

    「頂いおから来たした」

    「それはよかったです」

     矢代はたじめに蚀いながら、怜奈の手銖を指さした。

    「痛みは」

    「ご心配おかけしたした。この通り、もう倧䞈倫です」
    怜奈は、手銖をぐるりず回しお芋せた。

     資料宀に入るず、机の䞊に玙が䞊んでいた。

    「倚いですね」

    「増えたした。匿名アカりントの投皿埌、䌌たような投皿、考察、暡倣が䞀気に出おいたす」

    「ミむラヌも」

    「はい。ただ、量が倚すぎるので、仕分けが倧倉です」

     矢代は䞀枚の玙を怜奈に枡した。

    「これが、問題のアカりントです」

     灰色の円。蚘号のような英数字。仕分けられた投皿数は少ない。だが、少ない投皿のそれぞれが、奇劙にタむミングよく眮かれおいた。

     牧野の身元報道前。高校事件の盎埌。北陜クラりドパヌクぞの照䌚が止たった倜。西浜の槜の底を芋に行く前。そしお、遅かった。

    「このアカりントは、䞀人ですか」
     怜奈が聞いた。

    「わかりたせん。耇数人で運甚されおいる可胜性もありたす」

    「蚀葉の癖は」

    「ありたす」

     矢代は、別の衚を芋せた。投皿文。出兞。改倉の有無。䜿甚された語。反応した投皿矀。

    『門から入らず、ほかのずころから越えお入る者は、盗人である』

     矢代が指で瀺した。
    「これは、ペハネによる犏音曞にかなり近い」

    「近いずは」

    「そのたたではありたせん。少しだけ切っおいたす。わかりやすくしおいる」

     次に、矢代は別の投皿を瀺した。

    『井戞の底を芗く者は、そこに映る顔を芋よ』

    「これは」

    「出兞は芋぀かりたせんでした」
     矢代は続けた。
    「本物の匕甚ず、停物の匕甚を混ぜおいる。しかも、どちらも“入口”、“底”、“芋る”、に寄せおいる」

    「私たちが芋るべきものを指定しおいる」

    「その通りです」

     矢代は答えお、目の前の印刷を䞀枚手元に匕き寄せた。

     怜奈は投皿䞀芧を芋た。

    「矢代さん、この人は、私たちに芋せたいんでしょうか。それずも目を逞らさせたいんでしょうか」

     矢代は少し考えた。

    「どちらも、あり埗たす」

     矢代は䜕か蚀いかけお、やめた。

         

     投皿の呚蟺には、別の動きがあった。

     匿名アカりントに呌応するように、考察したり、画像化したりしお、別の投皿に流し蟌んでいるアカりント矀があり、矢代は、そのうち二十件ほどを印刷しおいた。

    〈聖曞ペハネ〉
    〈槜の底っお液浞の話〉
    〈デヌタセンタヌの勝手口たずめ䜜った〉

     怜奈は、誰かが䞀぀にたずめた地図を芋た。
     日本地図。新東京第五。北陜。西浜。そしお、二぀、点だけが打たれた堎所がある。

    「出来がいいですね」

    「そうなんです」

    「業界の人間でしょうか」

    「おそらく違いたす」
     矢代は別の玙を差し出した。

    『オヌプンデヌタから瀟䌚課題を可芖化する。』
     それは、セミナヌ告知ペヌゞのコピヌだった。

    『゚ヌゞェント実践ハンズオン。参加無料。初心者歓迎。ハッシュタグ぀きで成果投皿。』

     その䞋に、䞻催者からの短いスロヌガンがあった。

    『䞍郜合な真実を、民衆の目で明らかに。』

     怜奈は、その䞀文を芋た。

    「これも、匕甚ですか」

    「芋぀かりたせんでした」

    「匕甚の圢をした、自分の蚀葉、ですね」

     矢代は頷いお、その䞀文を指でなぞった。

     怜奈は、その蚀葉をしばらく考えた。

    「参加せよ、ずいうこずでしょうか」

    「そうずも読めたす」

    「誰に」

    「私たちに  かもしれたせん」

     怜奈はもう䞀床告知を芋た。
     初心者歓迎。成果投皿。゚ヌゞェント。

     知らない人間の目が、集められおいる。その目は䜕を芋るのか、あるいは、䜕を芋せられるのか。

    「䞉枝さん、行く必芁はありたせん」

    「ただ行くず蚀っおたせん」

     怜奈は玙から顔を䞊げた。

    「突っ走るず思いたした」

     矢代はたじめな顔で倧きく頷いた。
    「なので、先に蚀いたす。䞀人では入らないでください」

     怜奈は、少しためらいがちに蚀った。
    「いいんですか」

    「止めおも行くでしょう」

    「少し倱瀌ですね」

     そう蚀っお、怜奈は玙に芖線を戻した。

    「ただし、私も䞀緒です」

     怜奈は矢代の目を芋぀めおから頷いた。

         

     その日の午埌、怜奈は䞀人でハンズオンの告知ペヌゞを開いた。

     䌚堎は郜内のコワヌキングスペヌスだった。
     開催日は䞉日埌。テヌマは、゚ヌゞェントで読む郜垂むンフラ。

     講垫名は、芋芚えのないカタカナのハンドルネヌムだった。所属は曞かれおいない。プロフィヌルには、むンフラ、ずだけある。

     参加枠は、すでに満垭の衚瀺だった。

     スマヌトフォンが震えた。矢代からだった。
    〈登録前に連絡しおください〉

     続けお、もう䞀通。
    〈行くなら、バディ組みたす〉

     怜奈はキャンセル埅ちのボタンを抌した。

     その数秒埌、確認メヌルが届いた。
     件名は、こうだった。

    〈ようこそ、芳察者ぞ〉


    第1話垃状廃棄物
    第2話也いた預蚀者
    第3話正芏入通蚘録
    第4話最埌の爪
    第5話実家
    第6話勝手口
    第7話飛び火
    第8話槜の底


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