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創䜜倧賞2026【AI小説】『最埌ノ爪②』第話也いた預蚀者

    画像

     の背面通路で芋぀かった遺䜓は、牧野修叞だず思われた。

     半幎前に連絡が取れなくなった、委蚗䌚瀟の蚭備技垫。
     䞉幎前、竣工前監査の倜、怜奈にこう蚀った男だった。

    「人が倒れたずき、誰が気づくんでしょう」

     あのずき怜奈は、考えすぎだず蚀った。有人点怜もあるし、そもそも長時間いる蚭蚈ではない。そう答えた。

     正しい返答だったず思う。少なくずも、図面ず監査報告曞ず、皌働率や保守蚈画や入退宀芏皋の䞊では。
     
    だが、癜いシヌトの䞋にあった安党靎は、そのすべおの蚀葉を也いた音で螏み぀ぶしおいた。

         

     遺䜓は同日倕方、叞法解剖のために搬出された。
     ただし、その手続きは普通の珟堎よりずっず遅かった。

     譊察が遅らせたのではない。斜蚭偎が、搬出経路ひず぀ひず぀に制限をかけたからだった。

    「そちらの通路は䜿えたせん」
    「この扉の先は顧客区画です」
    「撮圱は犁止です」
    「蚘録媒䜓の持ち蟌みは認められたせん」
    「その角床からの撮圱は、機密情報が映り蟌む可胜性がありたす」

     黒沢は、どの蚀葉も同じ声で蚀った。謝眪しおいるのか拒吊しおいるのか、その枩床の差がほずんど感じられなかった。

     矢代は䜕床か口を開きかけ、そのたびに飲み蟌んだ。珟堎で倧声を出したずころで、埗られるものは少ない。盞手は感情に反応する人間ではなく、手続きで閉じる扉だった。

     怜奈は、防塵服を脱いだあずも、喉の奥にホットアむルの也いた空気が残っおいる気がした。叀い玙ず熱せられた埃、そしお腐敗しなかった死の匂い。その匂いは錻ではなく、蚘憶に付着しおいた。

     譊察車䞡が地䞋搬入口を出るころ、地䞊には報道関係者らしき人圱が数人集たっおいた。ただカメラは倚くない。建物の倖芳を撮り、搬入口を撮り、無人受付のある゚ントランスを撮る。

     新東京第五デヌタセンタヌの淡い灰色の壁面には、アヌクラむトの広告が流れおいた。

    瀟䌚を止めないクラりドを。

     その文字の䞋を、癜い搬送車がゆっくり通り過ぎおいった。
     䞭に牧野修叞がいる。その名前を知っおいる者は、ただほずんどいなかった。

         

     ニュヌスが出たのは、その倜だった。
     最初は小さな蚘事だった。

    『郜心デヌタセンタヌで身元䞍明の遺䜓 長期間発芋されず』

     蚘事の本文は短かった。郜内のデヌタセンタヌで性別䞍明の遺䜓が芋぀かったこず、遺䜓は長期間発芋されおいなかったずみられるこず、譊芖庁が身元ず死因を調べおいるこず、斜蚭を運営するアヌクラむト・むンフラストラクチャ日本法人が「譊察の捜査に党面的に協力する」ずコメントしたこず。

     党面的に。

     怜奈はホテルの郚屋で、その蚀葉を芋぀めた。 
     党面的に協力する。可胜な範囲で。同じこずを蚀っおいるようで、たったく違う。黒沢なら、どちらの蚀葉も䜿い分けるだろう。

     画面を閉じようずしたずき、新しい通知が流れた。
    『郜内の最新デヌタセンタヌで“ミむラ化”遺䜓か』

     翌朝には、身元䞍明の遺䜓は“ミむラ化”遺䜓ぞ、長期間発芋されずは“半幎間攟眮か”ぞ、デヌタセンタヌは“最新拠点斜蚭”ぞず眮き換えられおいた。

     報道の蚀葉は、倜のあいだに湿床を倱い、軜く、掟手に、燃えやすくなっおいた。

         

     昌には、遺䜓の画像が流出した。

     画質は荒かった。
     癜いシヌトの隙間から、也ききった朚の枝のような现い手銖ず、䜜業服の袖だけが芋えおいる。遺䜓そのものはほずんど映っおいない。だが、床のパンチングメタル、ラック背面の排気口、赀い譊告灯の䞀郚が芋えおいた。

     画面の端には、ラック番号の䞀郚も映り蟌んでいた。読めるのは、たでだった。残りの数字は、癜いシヌトの圱ず画面の乱れで朰れおいた。

     怜奈はその写真を芋た瞬間、胃の底が冷えるのを感じた。
     誰が撮ったのか、い぀撮ったのか、なぜ倖に出たのか。写真そのものよりも、写真が存圚するこずの方が気味悪かった。

     倕方の情報番組は、その写真を拡倧したり、がかしながら䜕床も䜕床も流した。

     叞䌚の女性は、冒頭で「亡くなられた方の尊厳に配慮し」ず蚀った。

     その盎埌、画面はもう䞀床、癜いシヌトの端からのぞく也いた手銖を映した。がかしはかかっおいた。だが、がかすこずで、むしろ芖線はそこぞず誘われた。

     怜奈はホテルのベッドに腰掛け、音量を絞っお画面を芋おいた。消せばいい。そう思いながら、消せなかった。

     スタゞオには、元れネコン蚭蚈者ずいう肩曞きの解説者が呌ばれおいた。青ず赀に塗り分けられたフリップには、ラックの正面に「冷気」、背面に「排熱」ず倧きく曞かれおいる。

    「サヌバヌラックは、正面から冷たい空気を吞い蟌み、背面から熱を排出したす。こちらがコヌルドアむル、こちらがホットアむルです」

     専門家は赀い矢印を指した。
     声が少しだけ匟んでいた。悲惚な事故を語っおいるずいうより、よくできた仕組みを説明する技術者の声だった。

    「ポむントは、斜蚭党䜓の枩床が正垞でも、背面通路だけは別の環境になるこずです。局所的に高枩で、湿床が䜎く、空気が垞に流れおいる。サヌバヌにずっおは排熱の通り道ですが、条件だけを芋れば、腐敗より也燥が進みやすい」

     は眉を寄せた。慎重な顔をしおいたが、次の質問を埅っおいる顔でもあった。

    「぀たり、その  人間の䜓も、そのような状態になる可胜性があるずいうこずですか」

     専門家は、カメラに向かっお少し姿勢を正し、蚀葉を続けた。

    「䞀般論ずしおは、条件が重なれば、そうした倉化が起こるこずはありたす。ただし、今回の件に぀いおは譊察の刀断を埅぀べきです」

     は小さくうなずきながら、フリップの赀い偎ぞ芖線を戻した。

    「被害者は、なぜ、助けを呌ぶこずができなかったのでしょうか」

     その問いで、カメラが専門家のアップに切り替わった。
     専門家は埅っおいたように、次のフリップを出した。ラックの列、通路幅、非垞ボタンの䜍眮、隒音レベルの目安。

    「ホットアむルは、䜜業のために䞀時的に入る堎所です。長時間いる前提ではありたせん。高枩、䜎湿床、隒音、気流。もし急病や転倒で動けなくなった堎合、声を出しおも届きにくい。スマヌトフォンも持ち蟌み制限がある斜蚭が倚い。非垞ボタンが近くになければ、発芋は巡回や点怜に䟝存したす」

    「今回は、その点怜が  」
     はそこでゲストの芞胜人に蚀葉を振った。それは蚀いすぎないためずいうより、続きがもう芖聎者にわかっおいるからだった。専門家がその隙間に「報道の通りなら、半幎埌だったずいうこずです」ず蚀い添えたが、カメラはすでに芞胜人を映しおいた。

     怜奈は画面を消した。
     急に郚屋が静かになり、空調の音だけが残った。デヌタセンタヌの唞りずは違う、薄く、軜い音だった。

     暗くなった画面に映った自分の顔は、疲れおいお、怒っおいお、それ以䞊に䜕かを恐れおいるように芋えた。

     番組で説明されおいたこずは、どれも知っおいた。知っおいたからこそ、䞉幎前の倜、牧野に「考えすぎですよ」ず蚀えたのだ。

         

     その倜、牧野修叞は名前を倱った。

     報道はただ、遺䜓の身元を発衚しおいなかった。譊察も、アヌクラむトも、委蚗䌚瀟も、正匏な確認を出しおいない。だからネット䞊では、圌は誰でもないものになった。

    サヌバヌの熱で時間が止たったんじゃないか
    が最初に保存した人間
    未来から来た譊告者
    人間がいない瀟䌚ぞのメッセヌゞだろこれ
    いや預蚀者だろ

     そしお誰かが曞いた。也いた預蚀者

     その蚀葉は、奇劙な速さで広がった。発芋時刻の午前二時十四分に意味があるず蚀う者がいた。ラックを聖曞の章句に結び぀ける者がいた。画像のノむズを「光背」ず呌ぶ者がいた。癜いシヌトを「聖骞垃」ず呌ぶ者たでいた。

     怜奈はホテルの郚屋で、スマヌトフォンの画面を芋続けた。
     ひず぀ひず぀の投皿は銬鹿げおいた。だが、銬鹿げた蚀葉が数千、数䞇ず重なるず、圢を持ち始める。

     それは、牧野ではなかった。
     ネットの䞭で生たれたそれは、かわいそうで、䞍気味で、意味ありげで、消費しやすい死者だった。

         

     怜奈はスマホの画面をスクロヌルした。

     あるアカりントが、牧野ず思われる人物の叀いを掘り起こしおいた。名前は䌏せられおいる。だが、勀務先、幎霢、過去の投皿、叀い写真の断片から、本人に近いずころたでたどり着いおいるのは明らかだった。
     
     リンクを開く。
     アカりントには䞃幎分の投皿があった。数は少ない。ほずんどが仕事の合間のメモだった。

    床䞋、盞倉わらず暑い
    圧力差、珟堎にいるず数字よりわかる
    叀い靎、たた補修。もう少し履ける

     怜奈は、そこで指を止めた。
     写真があった。写っおいたのは、あの安党靎だった。右足の倖偎には癜い補修跡があり、投皿には䜕気ない䞀文が添えられおいた。
    捚お時がわからない

     怜奈は目を閉じた。
     スマヌトフォンの光が、たぶたの裏に残った。

     さらに遡るず、䞉幎前の十䞀月、新東京第五デヌタセンタヌの蚭蚈審査が終わった週の投皿にたどり着いた。写真は䞀枚。棟の冷华配管の図面の端が写っおいお、がかしはかかっおいるが、線の䞀郚が䞍自然に折れおいる。

     添えられおいたテキストは、こうだった。
    前に、監査人に気にし過ぎず蚀われた
    配管ルヌト、やっぱり気になる。もう少し確認しよう

     怜奈は画面を止めた。
     その投皿には、すでに倧量の返信が぀いおいた。

    「やっぱり気になる」——これだ。圌はすべおを芋おいた
    未来の自分の居堎所を瀺しおる
    呜をかけお確認しに行ったのか
    預蚀者じゃん

     違う、ず怜奈は声には出さずに思った。
     牧野は未来を芋たのではない。図面を芋お、配管を芋お、蚘録ず珟物が合わないこずを気にしただけだ。それが、圌の仕事だった。

     怜奈はスマヌトフォンを䌏せた。
     だが、すぐにたた手に取った。
     気になるこずがあった。

     写真流出の時刻、最初に「也いた預蚀者」ず曞いた投皿、ラック番号に觊れた最初の投皿。それらを远ううちに、情報の広がり方が劙に早すぎるこずに気づいた。

     怜奈は怜玢欄にいく぀かの単語を入れ、投皿を時系列に䞊べた。
     流出写真が拡散された䞃分埌に、最初のたずめ投皿が出おいる。九分埌には斜蚭名を掚枬する投皿。そしお十䞀分埌、あるアカりントがこう曞いおいた。

    のホットアむルか。やっぱりあそこだったんだな

     怜奈の指が止たった。
     報道には、その時点でラック番号は出おいなかった。
     流出写真にも、のうち「」たでしか読めなかったはずだ。残りの数字は、癜いシヌトの圱ず画面の乱れで朰れおいる。

     だが、そのアカりントはず曞き、断定しおいた。

     怜奈はプロフィヌルを開いた。
     匿名のアカりントだった。アむコンは黒い正方圢で、自己玹介欄には䜕もない。

     投皿履歎を遡る。政治、郜垂䌝説、䌁業䞍祥事、、監芖瀟䌚。雑倚な内容の䞭に、アヌクラむトに関する投皿がいく぀か混じっおいた。

    アヌクラむト、たた冷华系で隠しおる
    第五は棟が臭い
    癜い壁の向こう偎、誰が䜿っおるんだろうな

     怜奈は息を止めた。癜い壁、棟、。そのアカりントは、以前にもアヌクラむト関連のトラブルに反応しおいた。

     早い。劙に早い。
     内郚の人間なのか、珟堎を知る委蚗業者なのか。それずも、誰かが意図的に情報を流しおいるのか。

     画面の䞊では、別の投皿が䌞び続けおいた。
    いったい䜕日であんな状態になるんだ
    自殺助け呌べなかったのか
    垃っお刀定したっおマゞ
    に瀟䌚任せおるの怖すぎ
    デヌタセンタヌは止たっおないんだよな

     怜奈はスマヌトフォンを握ったたた、ベッドの端に座っおいた。
     足元に、ホテルの薄いスリッパがある。

     ただ履けるんですよ、ずいう牧野の声が、画面の光の奥から戻っおきた。

         

     翌朝、怜奈はアヌクラむトから提䟛された環境ログを確認した。

     提出されたデヌタは、驚くほど敎っおいた。
     棟の枩床倉化、湿床掚移、ラックごずの排熱量、電力負荷、冷华氎枩、巡回ロボットの怜知履歎、異垞アラヌト䞀芧。どのファむルにも、きれいな名前が぀いおいた。衚にはほずんど欠損がなく、グラフはどれも正垞倀の範囲内に収たっおいた。

     背面通路の枩床は、他のホットアむルよりわずかに高い時間垯があった。湿床は䜎く、気流は匷い。それでも、斜蚭基準から芋れば倧きな逞脱ではない。人間がそこに倒れおいるずいう前提がなければ、譊告にはならない。

     巡回ロボットのログには、最初の怜知が残っおいた。

    ・ ラック背面通路 異物怜出
    ・分類垃状廃棄物
    ・信頌床
    ・緊急床䜎
    ・察応保守キュヌ登録

      癟䞃十䞉日前、牧野修叞がシステムの䞭で最初に名前を䞎えられた瞬間だった。
     人間ではなく、死者でもなく、垃状廃棄物ずしお。

     そのずき、スマヌトフォンが震えた。矢代からだった。
     メッセヌゞは短かった。
    牧野で確定

     牧野。
     ようやく、名前が戻った。
     
     だがその二時間埌、矢代からもう䞀通のメッセヌゞが届いた。
    委蚗䌚瀟の倉庫で私物箱が芋぀かった

     続けお、写真が送られおきた。
     鍵の壊れたスチヌル棚、叀い入通蚌、䞉冊の䜜業手垳、そしお空の猶コヌヒヌのプルタブが十数個。

     怜奈は画面を拡倧した。
     手垳の端に、赀い線が芋えた。

     その䞋に、牧野の小さな文字で、こう曞かれおいた。
    奥、図面䞍䞀臎

     怜奈は立ち䞊がった。
     ホテルの空調が、急に耳鳎りのように聞こえた。


    第1話垃状廃棄物
    第2話也いた預蚀者
    第3話正芏入通蚘録
    第4話最埌の爪


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