「必要十分条件」と「対偶」について簡単に解説します。中学でも分かる⑰『固有値』の補足欄でも解説しましたが、数学を学ぶ上で非常に重要な考え方なので、いくつかの例題、および命題と論理の歴史を新たに加え、単独記事として再投稿します。詳しくは高校1年の数学で習います。
命題の真と偽、反例
2つの条件 p, q に対して「p ならば q」という命題を考えます。これは「ならば」を意味する記号 → や ⇒ を用いて
p→q
または
p⇒q
と表します。このとき、p をこの命題の仮定、q を結論といいます。
例えば「x=1 ならば x2=1」という命題は
x=1→x2=1
と表せます。このとき x=1 は仮定で、x2=1 は結論です。
また、命題が正しいとき、その命題は真であるといい、正しくないとき、その命題は偽であるといいいます。
例えば、
x=1 ならば x2=1
という命題は真です。x=1 を x2=1 に代入すれば成り立ちます。
一方、その命題の仮定と結論を入れ換えた
x2=1 ならば x=1
という命題は、正しくないので偽です。
ある命題が偽であることを示すには、その命題が成り立たない例を一つあげます、そのような例を反例といいます。反例とは、仮定を満たすが結論を満たさない例のことです。
すると、先ほどの「x2=1 ならば x=1」の反例は x=−1 となります。x=−1 は、仮定 x2=1 を満たしますが、結論 x=1 を満たしません。
必要条件と十分条件
一般に、2つの条件 p, q に対して、命題 p→q が真であるとき、
p は q であるための十分条件
q は p であるための必要条件
という。
十分条件p→必要条件q
***
「必要」や「十分」という日常語の意味から理解しようとすると、多くの場合はかえって混乱するので、上記のように機械的に覚えればよいでしょう。
<覚え方>
「~は」の主語だけに着目して、
・「~は」が矢印の根元にあれば十分条件
・「~は」が矢印の先端にあれば必要条件
と覚えます。下図のように、矢印の根元は「十」と書けるので十分条件、矢印の先端は「必」とかけるので必要条件、と覚えれば分かりやすいでしょう。

例えば、先ほどの「x=1 ならば x2=1」という命題を考えます。
x=1→x2=1
この命題は真です。このとき、
x=1 は x2=1 であるための十分条件
であり
x2=1 は x=1 であるための必要条件
となります。
十分条件x=1→必要条件x2=1

十分条件や必要条件は、2つの条件の間の論理的な関係を表す言葉なので、なにかある1つの条件だけを取り出して「~は十分条件である」というような言い方は、論理的には適切ではありません。
ただし、文脈から「何のための条件か」がはっきりしているときには、「p は十分条件である」「q は必要条件である」のように、「~であるための」を省略していうこともよくあります。
例 x=1 は十分条件、x2=1 は必要条件である。
次に、この命題の仮定と結論を入れ換えた「x2=1 ならば x=1」という命題を考えます。
x2=1→x=1
この命題は偽でした(反例は x=−1)。
なお、十分条件や必要条件といえるのは、その命題「p→q」が真である場合だけです。命題が偽である場合には、必要条件や十分条件という枠組みは適用できません。
例題
次の条件 p, q について、p は q であるための十分条件か、必要条件か、必要十分条件か、必要条件でも十分条件でもないか、最も適するものを1つ選びなさい。なお、文字はすべて実数を表すものとする。
(1) p:x=3 q:x2=9
(2) p:ac=bc q:a=b
(3) p:x2−3x+2=0 q:x=1, 2
(4) p:x>1 q:xy>1
指針
p→q(p ならば q)と p←q(q ならば p)のそれぞれの真偽を調べます。このとき、主語である p を、つねに右側に置いた方が分かりやすいです。ならば(→)の向きは逆(←)になりますが、「p は q であるための〇〇条件」という文の主語である p を右側に固定して考えることで、判断しやすくなります。
p→q だけが真であれば、p は q であるための十分条件。
p←q だけが真であれば、p は q であるための必要条件。
p→q と p←q の両方が真であれば、p は q であるための必要十分条件。
p→q と p←q の両方が偽であれば、p は q であるための必要条件でも十分条件でもない。
となります。
解説
(1) 「x=3→x2=9」について
x=3 を x2=9 に代入すると、9=9 となり成り立つので、この命題は真である。
「x=3←x2=9」について
x2=9 を解くと x=±3 となるが、x=−3 のときは、仮定 x2=9 は成り立つが結論 x=3 は成り立たない(−3=3 なので)。
よって、反例として x=−3 が存在するので、この命題は偽である。
x=3 〇× x2=9反例 x=−3
以上より、「x=3p→x2=9q」の方だけが真であるので、p は q であるための十分条件である。
(ポイント)
以上のように、主語 x=3 の方を右側において、
x=3→x2=9
および、「ならば」の矢印の向きを変えた
x=3←x2=9
の真偽を調べます。
(2) 「ac=bc→a=b」について
例えば a=1, b=3, c=0 のとき、仮定 ac=bc は成り立つが、結論 a=b は成り立たない(1=3 なので)。
よって、反例 a=1, b=3, c=0 が存在するので、この命題は偽である。
「ac=bc←a=b」について
a=b の両辺に c を掛けると ac=bc が得られるので、この命題は真である。
ac=bc 反例 a=1,b=3,c=0×〇 a=b
以上より、「ac=bcp←a=bq」の方だけが真であるので、p は q であるための必要条件である。
(3) 「x2−3x+2=0→x=1, 2」について
x2−3x+2=0 を因数分解する。
足して −3、掛けて +2 になる2つの数は −1 と −2なので
x2−3x+2=(x−1)(x−2)
よって (x−1)(x−2)=0 から
x−1=0 または x−2=0
すなわち x=1 または x=2 が得られるので、この命題は真である。
「x2−3x+2=0←x=1,2」について
x=1 を x2−3x+2=0 に代入すると 0=0 となり成り立つ。
x=2 を x2−3x+2=0 に代入すると 0=0 となり成り立つ。
よって、この命題は真である。
x2−3x+2=0 〇〇 x=1, 2
以上より、2つの命題はともに真であるので、p は q であるための必要十分条件である。
(4) 「x>1→xy>1」について
仮定 x>1 を満たす x として、例えば x=5 を考える。
このとき、y=−1 とすると xy=5⋅(−1)=−5 となり、結論 xy>1 は成り立たない(−5<1 なので)。
よって、反例として x=5, y=−1 が存在するので、この命題は偽である。
「x>1←xy>1」について
仮定 xy>1 を満たす x,y として、例えば x=−3, y=−2 を考える。
このとき、結論 x>1 は成り立たない(−3<1 なので)。
よって、反例として x=−3, y=−2 が存在するので、この命題も偽である。
x>1 反例 x=5, y=−1×× xy>1反例 x=−3, y=−2
以上より、2つの命題はともに偽であるので、p は q であるための必要条件でも十分条件でもない。
■
必要十分条件
「p ならば q」と「q ならば p」の両方の命題を、両向きの「ならば」を意味する記号 ⇄ や ↔ や ⇔ を用いて
p⇄q
または
p↔q
または
p⇔q
と表す。
「p ならば q」と「q ならば p」がともに真であるとき、すなわち p↔q が成り立つとき、
p は q であるための必要十分条件
という。この場合、
q は p であるための必要十分条件
でもある。
条件必要十分p↔条件必要十分q
またこのとき、
p と q は同値である
という。
***
例えば、「x=0 ならば x2=0」という命題を考えます。
x=0→x2=0
この命題は真です。x=0 を x2=0 に代入すると成り立ちます。
次に、この命題の仮定を結論を入れ換えた「x2=0 ならば x=0」という命題を考えます。
x2=0→x=0
すると、この命題も真です。x2=0 を満たす x は、x=0 のみだからです。よって、
x=0 は x2=0 であるための必要十分条件
であり、
x2=0 は x=0 であるための必要十分条件
です。
条件必要十分x=0↔条件必要十分x2=0
つまり、
x2=0 と x=0 は同値
となります。
逆・裏・対偶
p→q という命題について、仮定 p と結論 q を入れ換えた命題
q→p
を逆という。
また、仮定 p と結論 q の両方を否定にした「p でないならば q でない」という命題
p→q
を裏という。条件 p に対して、「p でない」という条件を p の否定といい、条件の記号の上に横棒をつけた p という記号で表す。
さらに、この裏を逆にした
p→q
を対偶という。
***
以上のことを、まとめておきます。
<逆・裏・対偶>
命題 p→q について、
逆は「q→p」
裏は「p→q」
対偶は「p→q」
***
逆と裏は互いに対偶の関係にあり、逆の対偶は裏、裏の対偶は逆です。また、対偶の対偶はもとの命題になります。
以上を図式化すると次のようになります。

例えば、先に述べた「x=1 ならば x2=1」という命題について
逆は「x2=1 ならば x=1」
裏は「x=1 ならば x2=1」
対偶は「x2=1 ならば x=1」
となります。
ここで、次のような重要な定理があります。
「命題とその対偶の真偽は一致する。」
「x=1 ならば x2=1」という命題について、この命題は真です。この命題の逆、裏、対偶の真偽は次のようになります。
命題「x=1 ならば x2=1」は真
逆「x2=1 ならば x=1」は偽
裏「x=1 ならば x2=1」は偽
対偶「x2=1 ならば x=1」は真
すると、元の命題と対偶はどちらも真であり、同じく対偶の関係にある逆と裏はどちらも偽であり、「もとの命題とその対偶の真偽は一致する」ことが分かります。
対偶による証明
ある命題を証明するとき、その命題を直接証明するよりも、その対偶を証明するほうが簡単な場合があります。そのようなときは、対偶を証明します。
例題
ある整数 n について、次の命題を証明しなさい。
「n2 が偶数であるとき、n は偶数である。」
証明
この命題の対偶をとると
「n は偶数でないとき、n2 は偶数ではない。」
偶数ではない数は奇数なので、さらに次のように表せる。
「n は奇数のとき、n2 は奇数である。」
まず、n は奇数なので、k を整数 (⋯,−2,−1, 0, 1, 2,⋯) として
n=2k+1 ⋯(∗)
とおける。ここで展開公式
(a+b)2=a2+2ab+b2
を用いると
n2=(2k+1)2=(2k)2+2⋅2k⋅1+12=4k2+4k+1=2(2k2+2k)+1=2l+1(ただし l=2k2+2k とおいた)
すると、k は整数なので、l(=2k2+2k) も整数となり 2l+1 は奇数。よって、n2 は奇数となる。
■
(∗) 例えば、奇数 −5,−3,−1, 1, 3, 5, ⋯ は
−5=2×(−3)+1
−3=2×(−2)+1
−1=2×(−1)+1
1=2×0+1
3=2×1+1
5=2×2+1
⋮
より、2k+1(k は整数)の形で書けます。
なお、確認として、2 で割り切れる整数を偶数といいます。また、2 で割り切れない整数を奇数といいます。よって、偶数ではない数は奇数です。
一般に、偶数と奇数は負の場合も含まれます。例えば −4 は偶数、−3 は奇数です。また 0 は 2 で割り切れるので偶数です。
命題と論理の歴史
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「三段論法」という形で、世界で初めて本格的に論理学をまとめました。
たとえば「すべての人間は死ぬ」「ソクラテスは人間である」という二つの前提から、「だからソクラテスは死ぬ」という結論を引き出す推論のしかたを分析し、前提と結論の結びつきをはっきりさせたのです。
Aristotelēs(BC384 - BC322) その後、長いあいだ論理学は三段論法を中心に発展してきましたが、十九世紀になると、数学の発展のスピードに追いつかなくなっていきました。
そこで、ドイツの数学者であり論理学者でもあったゴットロープ・フレーゲが、「記号論理学」という新しい学問を作り上げました。
これは、日常の言葉で書かれた「〜なら〜である」「〜かつ〜である」「〜または〜である」といった条件の言い回しにくわえて、「すべての(任意の)〜について成り立つ」「〜であるものが少なくとも1つは存在する」といった言い回しを、特別な記号と式を使って厳密に表し、その正しさを機械的な手続きで調べようとする学問です。
Friedrich Ludwig Gottlob Frege(1848 -1925) この記号論理のおかげで、「必要条件」「十分条件」「対偶」といった条件どうしの関係を、はっきりと形式的に扱えるようになりました。
二十世紀のはじめには、イギリスの数学者であり論理学者であり哲学者でもあったバートランド・ラッセルとアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドは、『プリンキピア・マテマティカ』という大著によって、「すべての数学を論理から組み立てる」ことを目指しました。
Bertrand Arthur William Russell(1872 - 1970)
Alfred North Whitehead(1861 - 1947) この本では、フレーゲの記号論理をさらに発展させて、数の定義や集合の扱い、数学の証明の仕組みなどを、論理の観点から徹底的に分析しました。
こうした試みは、「数学を定義や、ごく基本的な前提である公理から演繹し、論理のルールによって厳密に組み立てていく」という、二十世紀以降広く受け入れられている数学の考え方に、大きな影響を与えたのです。
高校で学ぶ「命題」「必要十分条件」「対偶」などは、こうした長い歴史の流れを、高校レベルに合わせて整理し直したものだと言えます。
バックナンバー
理数系小説『シュレーディンガーの Φ』