行列の導入は前回の、中学でも分かる⑬「行列」でやりました。ここでは、実数の逆数に相当する「逆行列」について解説します。
なお、本文中の行列の演算方法や、単位行列、正方行列などの用語は前回の記事、中学でも分かる⑬「行列」で取り上げているので、初めての方はそちらの記事からご覧ください。
逆行列
まずは、逆数について復習します。
逆数とは
ある数にかけると結果が 1 になる数のことを逆数といいます。すなわち、0 でない実数 a について、a の逆数 x とは、次の関係を満たす x のことです。
ax=xa=1
この x を、a1 や a−1 と表記します。つまり、a の逆数は
a1=a−1
となります。
例 2⋅21=21⋅2=1 より、2 の逆数は
21=2−1
行列についても、実数の逆数に相当する逆行列というものを考えることができます。
逆行列とは
E を単位行列とします。正方行列 A に対して、等式
AX=XA=E
を満たす正方行列 X が存在するならば、 X を A の逆行列といい、A−1 と表す。
***
例えば、A=(7231) に対して、X=(1−2−37) とすると
AX=(7231)(1−2−37)=(7⋅1+3⋅(−2)2⋅1+1⋅(−2)7⋅(−3)+3⋅72⋅(−3)+1⋅7)=(7−62−2−21+21−6+7)=(1001)=E
かつ
XA=(1−2−37)(7231)=(1⋅7+(−3)⋅2−2⋅7+7⋅21⋅3+(−3)⋅1−2⋅3+7⋅1)=(7−6−14+143−3−6+7)=(1001)=E
より、AX=XA=E が成り立つので、X=(1−2−37) は A=(7231) の逆行列となります。つまり
A−1=(1−2−37)
逆行列の一般式を求める
一般に、X=(prqs) が A=(acbd) の逆行列であるとき、逆行列 X を a, b, c, d を用いて表すことを考えよう。
まず、逆行列の条件式 AX=E より
AX=(acbd)(prqs)=(ap+brcp+draq+bscq+ds)=(1001)
対応する成分同士は等しいので
⎩⎨⎧ap+br=1 ⋯(∗1)aq+bs=0 ⋯(∗2)cp+dr=0 ⋯(∗3)cq+ds=1 ⋯(∗4)
この連立方程式を解いて p, q, r, s を求めます。
(∗1) と (∗3) は p, r についての式、(∗2) と (∗4) は q, s についての式となっています。
まず、p, r を求めるために、(∗1) と (∗3) の連立方程式を考えます。中学2年で習う「消去法」を用います。
{ap+br=1 ⋯(∗1)cp+dr=0 ⋯(∗3)
(∗1)×d−(∗3)×b より、r を消去して
adp+bdr−) bcp+bdradp−bcpp(ad−bc)=d ⋯(∗1)×d=0 ⋯(∗3)×b=d=d ⋯(∗5)
(∗1)×c−(∗3)×a より、p を消去して
acp+bcr−) acp+adrbcr−adr−adr+bcradr−bcrr(ab−bc)=c ⋯(∗1)×c=0 ⋯(∗3)×a=c=c=−c=−c ⋯(∗6)
次に、q, s を求めるために、(∗2) と (∗4) の連立方程式を考えます。
{aq+bs=0 ⋯(∗2)cq+ds=1 ⋯(∗4)
(∗2)×d−(∗4)×b より、s を消去して
adq+bds−) bcq+bdsadq−bcqq(ad−bc)=0 ⋯(∗2)×d=b ⋯(∗4)×b=−b=−b ⋯(∗7)
(∗2)×c−(∗4)×a より、q を消去して
acq+bcs−) acq+adsbcs−ads−ads+bcsads−bcss(ab−bc)=0 ⋯(∗2)×c=a ⋯(∗4)×a=−a=−a=a=a ⋯(∗8)
以上より
⎩⎨⎧p(ad−bc)=d ⋯(∗5)q(ad−bc)=−b ⋯(∗7)r(ab−bc)=−c ⋯(∗6)s(ab−bc)=a ⋯(∗8)
ここで、次のように場合分けをします。
(case1) ab−bc=0 のとき
(case2) ab−bc=0 のとき
(case1) ab−bc=0 のとき
(∗5), (∗7), (∗6), (∗8) の両辺を ad−bc(=0) で割って
⎩⎨⎧p=ab−bcdq=ab−bc−br=ab−bc−cs=ab−bca
よって
X=(prqs)=ad−bcdad−bc−cad−bc−bad−bca=ad−bc1(d−c−ba)
(case2) ab−bc=0 のとき
(∗5), (∗7), (∗6), (∗8) より
⎩⎨⎧p⋅0=dq⋅0=−br⋅0=−cs⋅0=a
⎩⎨⎧0=d0=−c0=−b0=a
よって
a=b=c=d=0
このとき、最初の連立方程式
⎩⎨⎧ap+br=1 ⋯(∗1)aq+bs=0 ⋯(∗2)cp+dr=0 ⋯(∗3)cq+ds=1 ⋯(∗4)
をみると、(∗1) と (∗4) は 0=1 となり矛盾します。詳しくいうと、
a=b=0
を (∗1) に代入すると
0⋅p+0⋅r=1
より 0=1 となり矛盾します。(∗4) も、c=d=0 より 0=1 となり矛盾します。つまり、ad−bc=0 のときは、AX=E という式を満たさないので、AX=E を満たす行列 X は存在しません。
以上より、 AX=E を満たす X は、ab−bc=0 のときに存在して
X=ad−bc1(d−c−ba)
次に、この X が XA=E を満たすかどうかを確認します。逆行列となるための条件は AX=XA=E なので、AX=E だけでなく、XA=E も満たす必要があります。すると
XA=ad−bc1(d−c−ba)(acbd)=ad−bc1(da−bc−ca+acdb−bd−cb+ad)=ad−bc1(ad−bc−ac+acbd−bdad−bc)=ad−bc1(ad−bc00ad−bc)=ad−bc1⋅ad−bcad−bc1⋅0ad−bc1⋅0ad−bc1⋅ad−bc=(1001)=E
以上により、AX=E と XA=E の両方を満たすので、ad−bc=0 のとき
X=ad−bc1(d−c−ba)
は A の逆行列となります。
行列式
上記の ad−bc を ∣A∣ という記号で表すこともあります。つまり
∣A∣=ad−bc
より
X=∣A∣1(d−c−ba)
この ∣A∣ を行列式といい、行列式 A と読みます。計算として、ad から bc を引くことに注意しましょう。

例 A=(35−1−4) の行列式は
∣A∣=3⋅(−4)−(−1)⋅5=−12−(−5)=−12+5=−7
なお、行列式を det(A) と表記する場合もあります。
∣A∣=det(A)
”det” は、determinant(行列式)の略語です。∣A∣ は表記が簡単ですが、絶対値と混同する懸念があるため、専門書などでは det(A) がよく使われます。
改めて、逆行列の定義を与えます。
<逆行列の定義>
行列 A=(acbd) について
∣A∣=ad−bc=0 のとき、A の逆行列 A−1 は存在して
A−1=ad−bc1(d−c−ba)
∣A∣=ad−bc=0 のときは、A の逆行列は存在しない。
***
また、AA−1=A−1A=E であるから、A−1 の逆行列は A となります。すなわち
(A−1)−1=A
であり、A と A−1 は互いに他の逆行列となります。
対角成分
正方行列における左上から右下までの対角線上にある成分を対角成分といいます。つまり、行列 (acbd) の対角成分は a, d です。
行列 (acbd) の逆行列を作るときは、文字の入れ替えが起きるのは対角成分 a, d で、右上から左下の成分 b, c は、入れ替えが起きずに −1 倍になります(つまり符号が入れ替わります)。慣れないうちはこの操作を逆にしがちなので注意しましょう。

例 A=(2−1−53) の行列式は
∣A∣=2⋅3−(−5)⋅(−1)=6−5=1
よって、A には逆行列が存在して、その逆行列は
A−1=(2−1−53)−1=∣A∣1(3152)=11(3152)=(3152)
例題1
次の行列は逆行列をもつか。もつ場合はその逆行列を求めなさい。
(1) A=(2324)
(2) B=(1326)
指針
行列 A=(acbd) について、逆行列があるかどうかは、行列式
∣A∣=ad−bc
の値を調べます。∣A∣=0 のときは逆行列は存在し、∣A∣=0 のときは逆行列は存在しません。
解答
(1) ∣A∣=2⋅4−2⋅3=2=0 より、逆行列は存在し
A−1=(2324)−1=21(4−3−22)=21⋅421⋅(−3)21⋅(−2)21⋅2=2−23−11 ⋯(答)
(2) ∣B∣=1⋅6−2⋅3=0 より、B の逆行列は存在しない。
■
例題2
次の行列 について、逆行列をもたないときの k の値を求めなさい。
(1) A=(k+1k−234)
(2) B=(k+43−2k−1)
指針
(1) 行列式 ∣A∣=(k+1)⋅4−3⋅(k−2)=0 を解いて k の値を求めます。
(2) 行列式 ∣B∣=(k+4)⋅(k−1)−(−2)⋅3=0 を解いて k の値を求めます。
解答
(1)
∣A∣=(k+1)⋅4−3⋅(k−2)=0
左辺を展開して整理して
4k+4−3k+6k+10k=0=0=−10 ⋯(答)
(2)
∣B∣=(k+4)⋅(k−1)−(−2)⋅3=0
左辺を展開して整理して
k2+(4−1)k+4⋅(−1)−(−6)=0k2+3k−4+6=0k2+3k+2=0
たして 3、かけて 2 になる2つの数は 1 と 2 なので、この式を因数分解して
(k+1)(k+2)=0
k+1=0 または k+2=0 より
k=−1, −2 ⋯(答)
■
解答の中で、中学3年で習う展開公式
(x+a)(x+b)=x2+(a+b)x+ab
例 (k+4)(k−1)=k2+(4−1)x+4⋅(−1)=k2+3k−4
と、因数分解公式
x2+(a+b)x+ab=(x+a)(x+b)
例 k2+3k+2=k2+(1+2)k+1⋅2=(k+1)(k+2)
を用いています(詳しくは中学3年の教科書参照)。例であげたのが、その公式を用いた部分です。
例題3
A=(2513)、B=(−122−3) とする。
(1) AX=B のとき、行列 X を求めなさい。
(2) YA=B のとき、行列 Y を求めなさい。
指針
(1) 左辺の A を消すために、「左」から A−1 をかけて
左からA−1AX=左からA−1B
A−1 は A の逆行列なので、A−1A=E より
EX=A−1B
E は単位行列より、かけても変わらないので(中学でもわかる⑬「行列」)
X=A−1B
この右辺を計算して X を求めます。
(2) 左辺の A を消すために、「右」から A−1 をかけて
YA右からA−1=B右からA−1
A−1 は A の逆行列なので、 AA−1=E より
XE=BA−1
E は単位行列より、かけても変わらないので
X=BA−1
この右辺を計算して X を求めます。
(1) と (2) で、かける方向が異なっていることに注意。「左」からかけるか、「右」からかけるかに注意します。
解答
∣A∣=2⋅3−1⋅5=6−5=1=0 であるから、A の逆行列 A−1 は存在して
A−1=(2513)−1=11(3−5−12)=(3−5−12)
(1) AX=B の両辺に、左から A−1 をかけて
左からA−1AX=左からA−1B
A−1A=E より
EX=A−1B
E は単位行列より
X=A−1B
右辺を計算して
X=A−1B=(3−5−12)(−122−3)=(3⋅(−1)+(−1)⋅2(−5)⋅(−1)+2⋅23⋅2+(−1)⋅(−3)(−5)⋅2+2⋅(−3))=(−3−25+46+3−10−6)=(−599−16) ⋯(答)
(2) XA=B の両辺に右から A−1 をかけて
YA右からA−1=B右からA−1
AA−1=E より
EX=BA−1
E は単位行列より
X=BA−1
右辺を計算して
X=BA−1=(−122−3)(3−5−12)=((−1)⋅3+2⋅(−5)2⋅3+(−3)⋅(−5)(−1)⋅(−1)+2⋅22⋅(−1)+(−3)⋅2)=(−3−106+151+4−2−6)=(−13215−8) ⋯(答)
■
注意
行列の積は交換法則が成り立たないので、A−1 のかける方向は統一するようにしましょう。
(1) について、AX=B の両辺に A−1 をかけるにあたって
左からA−1AX=B右からA−1 ←間違い例
としないように。これだと、左辺については「左」から、右辺については「右」から A−1 をかけています。行列は交換法則が成り立たないので、一般には A−1B と BA−1 は異なります。よって、左からかけるときは常に左から、右からかけるときは常に右からと、かける方向を統一するようにしましょう。
これについて、次のようにまとめておきます。
AX=B と XA=B の解 X
行列 A の逆行列 A−1 が存在するとき
AX=B ならば X=A−1B
XA=B ならば X=BA−1
***
逆行列の利用
連立方程式を解く
逆行列の応用の1つとして、連立方程式の解法があります。まずは、一般的な連立方程式の解法を紹介し(中学2年で習う代入法と加減法)、同じ問題を、今度は逆行列を用いて解いてみます。
例題4
次の連立方程式を解きなさい。
{2x+3y=7 ⋯(∗9)x−y=1 ⋯(∗10)
解法1 代入法
(∗10) を x について解くと
x=y+1
これを (∗9) に代入して(代入法)
2(y+1)+3y=7
展開して整理すると
2y+2+3y5y+25y5y=7=7=7−2=5
両辺を 5 で割って
y=1
これを x=y+1 に代入して
x=1+1=2
以上より
{x=2y=1 ⋯(答)
■
解法2 消去法
{2x+3y=7 ⋯(∗9)x−y=1 ⋯(∗10)
(∗9)+(∗10)×3 より、文字 y を消去して(消去法)
2x+3y+) 3x−3y5x=7 ⋯(∗9)=3 ⋯(∗10)×3=10
両辺を 5 で割って
x=2
これを x−y=1 に代入して
2−y−y−yy=1=1−2=−1=1
以上より
{x=2y=1 ⋯(答)
■
解法3 逆行列を使う方法
{2x+3y=7 ⋯(∗9)x−y=1 ⋯(∗10)
について、この連立方程式を、次のように行列で表すことができます。
(213−1)(xy)=(71)
確認として、これを計算すると
(2x+3yx−y)=(71)
より、対応する成分同士が等しいので、(∗9), (∗10) の連立方程式が得られます。
ここで、簡単のため A=(213−1) とおくと
A(xy)=(71)
この両辺に、左から A の逆行列 A−1 をかけて
A−1A(xy)=A−1(71)
A−1A=E より
E(xy)=A−1(71)
E は単位行列なので
(xy)=A−1(71)
すると
∣A∣=2⋅(−1)−3⋅1=−2−3=−5=0
より、A は逆行列をもつので
A−1=(213−1)−1=−51(−1−1−32)=−51(−1−1−32)=51(113−2)
よって
(xy)=A−1(71)=51(113−2)(71)=51(1⋅7+3⋅11⋅7+(−2)⋅1)=51(7+37−2)=51(105)=51⋅1051⋅5=(21)
対応する成分同士は等しいので
{x=2y=1 ⋯(答)
■
この解法3について、次のようにまとめておきます。
逆行列における連立方程式の解法
A=(acbd)、X=(xy)、P=(pq)、ad−bc=0 のとき
AX=P の解 X は X=A−1P
***
例題5
次の連立方程式を、行列を用いて解きなさい。
{5x+3y=72x+y=3
解答
この連立方程式は、行列を用いて次のように表せます。
(5231)(xy)=(73)
A=(5231) とすると
A(xy)=(73)
∣A∣=5⋅1−3⋅2=5−6=−1=0
より、A は逆行列 A−1 をもつので
A−1=(5231)−1=−11(1−2−35)=−(1−2−35)=(−123−5)
よって
(xy)=A−1(73)=(−123−5)(73)=(−1⋅7+3⋅32⋅7+(−5)⋅3)=(−7+914−15)=(2−1)
対応する成分同士は等しいので
{x=2y=−1 ⋯(答)